この物語は夢オチです。
人間の身体とは、とても不思議なものである。
どんな劣悪な環境であろうと、対応するように出来ている。
倒れたお婆ちゃんを介護する為に、飛鳥湊の身体はすくすくと成長。
身長百八十を超え、体重百キロのマッスルボディを手に入れた。
これはそんな、北斗のケンシロ○のような肉体となった、飛鳥湊の物語。
唯一の肉親であるお婆ちゃんが死んで、どうしようかと悩んでいた僕の元に現れた風莉お嬢様。
彼女は自分の学園に来るなら、無料の寮と、学費を免除してくれると言ってくれて、僕はありがたくその申し出を受け入れる事にしたまでは良かったんだけど。
何週間の時が流れ、風莉お嬢様が経営する学園の前までやって来て。
この学園の制服に身を包んでいる僕の姿は、どう見ても不審者にしか見えなかったんだと思う。
「あー、だりぃ。お前が飛鳥湊…………」
僕の姿を見た瞬間、学生よりも年齢が少し高い大人の女性は硬直した。
彼女は素早くスマートフォンを取り出して、電話を掛ける。
「もしもし、あたしだ。那波七海だ。今、校門のところに不審者がいる。大至急来てほしい」
いきなり、警備員を呼ばれてしまった。
わざわざ髪型だって整えたけれど、やっぱり無理だったっ!
いや、でも。ここで逃げたら、住む場所も通う学園もなくなってしまう。
「すみません。ボクが飛鳥湊です。実はボディービルダーを目指しています」
と、自己紹介した。
この体型では、そう口にするしかなかった。
「…………理事長が呼んでいるから、行くか」
色々と面倒になったのだろう。
遠い目をして、そう口にする彼女。
これ以上の言い訳は必要ないと思い、僕は大人しく彼女の後を付いていった。
理事長室で風莉お嬢様と再会し、案内してくれた人が部屋を退室した後で、なんで女子の制服何ですかっ!
と、怒る僕。お嬢様は当然と言った反応で、女子高だものなんて答えられてしまった。
問題だった。湊なんて女でも通る名前だけど、僕は男だったから。
それにあっさりと同意する彼女。
「問題ありまくりだわ。スカートを履いていても、全く女の子に見えないもの」
なんて言われてしまった。
せっかくドロワーズまで履いてきたのに……。
僕のスカートの下が気になったんだろう。
いきなりスカートを捲って来る、風莉お嬢様。
「スカートの下にドロワーズをしても、無駄な抵抗よ。第一印象で男の子にしか見えないもの」
などと、追い打ちを掛けて始末。
この時点で僕は諦めた。
「やっぱり、無理ですよね。大人しく帰ります」
「いえ、意地でも女の子として通すから、飛鳥さんは安心して良いわ。大丈夫、ここは私の学園だもの。私が白と言えば、黒いものでも白になるのよ」
「権力の横暴!?」
「使えるものを使うだけよ。飛鳥湊さんの編入を許可します」
放課後、転入生として教室で紹介された。
見渡すばかり女の子ばっかりで、ざわつく女の子達。
彼女達の反応は様々だったが、おおむね否定的だった。
「なんか、キタ」
「あれ、本当に女の子?」
「私、頭痛くなってきた」
と、散々な有様である。
終いには自己紹介で、『ボク』なんて口にしてしまい、男だと大騒ぎされ、風莉さんが強引に女の子だと言って押し通す状況。
こんなので、まともな学園生活が送れるとは思わなかった。
僕は心の底から思った。
どうして僕は、女の子っぽい身体じゃないんだぁぁぁぁぁ!
って。
「っ!!!」
なんて――変な夢を見た。
時刻は深夜。場所は寮の部屋で、風莉さんは隣で就寝中。
僕は思わず自分の身体を見下ろして、マッスルボディではなく、胸と股間を除けば女の子らしい自分の身体に安堵する。
「いや、男で女の子らしいって喜ぶべきなんだろうか」
少しもやっとしたけれど、この学園に通えるのは女の子らしいからであり、良かったと思う事にした。
僕は飛鳥湊。
女の子らしい、男の子である。