白鈴女子学園に編入して、早三カ月。
僕の地位は盤石なものになりつつある。
白鈴女子学園のお姉様。
下級生に同級生、果ては上級生まで。
学園内において、熱い視線を送って来る女の子達の多い事。
風莉さんの手伝いなどで色々とやっていたら、僕はとても有名になってしまった。
中間テストは学園で一位だった。運動神経抜群な事も知れ渡り、最近では指導してくださいと運動部からのオファーも多く来る。
同性(?)から慕われているだけではない。
知名度は学園内だけでは留まらなかった。
近場の学園の男子生徒が校門の所に待ち構えている事もあって、告白されたりと非常に困った事になっている。
寮の自室。
寝る前に風莉さんに失礼な事を言われた。
「湊、私達と付き合わないと思ったら、男の人が告白して来るのでも待っていたの?」
だなんて。
確かに僕は、未だに誰とも付き合っていないけれど。
「どーしてそうなるんですかっ! これはSSですから、誰とも付き合っていない未来の方が都合が良いんです」
大人の事情と言う奴である。
溜息を吐く風莉さん。
「残念ながら、湊にそんな未来はないわ。湊は絶対に三択から選ぶことになってるもの」
「妙なぶっちゃけたっ! メタ発言は止めてくださいっ!」
「でも、普通なら強制的にルートに入る筈だわ」
確かにその通りだけども。
「女の子が周りにたくさん居る状況で、女の子と付き合わないなんて湊はおかしいわ」
いや、言いたいことは凄く分かるけれども。
「あの、ボクの状況覚えてますかっ! 男の子だって事を隠さなければならない状況で、女の子と付き合ってバレる可能性が上げる訳にはいかないでしょうが」
性欲とかムラムラする事はあるけれど、トイレやお風呂などで、頑張って自分一人で処理してきたのだ。
「大体、女子学園に来て女の子と付き合ったら、女の子を落とす為に入り込んだと思われるじゃないですかっ!」
最悪、これが僕一人の問題なら、まだ良い。
僕が問題を起こした場合は、僕を校内に招き入れた風莉さんにも迷惑が掛かるのだ。
そんな状況下で、おいそれと女の子と付き合える訳がない。
「ここに、湊の状況を分かっている女の子がいるわ」
「あ、風莉さんには幻滅しましたから」
「うっ」
流石にペットボトルで小をする風莉さんとは付き合いたいと思わない。
生温かいペットボトルの中身を処分していれば、百年の恋も冷めるものである。
「湊が幸せなら私は良いの。柚子やひなたと付き合っても構わないわ」
「柚子さんは部屋と料理を見て、命の危険を感じました。ひなたさんとも……一緒に遊ぶのは良いんですが、付き合うのはなんか違います」
「湊は贅沢だわ」
贅沢と言われても、僕の回りに居る三人はとても残念なお嬢様だと思う。
失礼だけど、恋愛対象にはなりえない。
「湊の事が心配よ。このままだと、湊のクラスメイトの男友達辺りに、『僕達、ずっと友達だよね』なんて言われる友達エンドに突入してしまうわよ」
「クラスに男子、いないじゃないですかっ!」
「私は知らないけれど、こうして湊が女子学園に居るんだもの。性別を隠して学園に通っている生徒の一人や二人、三人、四人、五人ぐらい居るかもしれないわ」
「多過ぎですっ! そんなに一杯居たら、嫌じゃないですかっ!」
「むしろ、湊が気づいていないだけで、この学園に通っているのは全員男子かもしれない」
「アニメのスレイヤー○に、そんな話ありましたよねっ!」
「往年の名作ね。ひなたがハマっていて、強制的にアニメ、全部を数日で見せられたわ」
全部合わせれば結構な話数があるだろうに。
かなり、大変だっただろう。お気の毒に。
「ねえ、真面目な話、湊は女の子が嫌いなの?」
「ボクはノーマルだから、女の子が好きですってっ!」
僕は普通に女の子が好きな、男の子だ。
ごくごく普通の男子だ。
「自分で言うのも何だけど、私、容姿はそこそこ良い方だと思うの」
風莉さんが売り込んでくるけれど、彼女と付き合うつもりはない。
大事な事なので、はっきり言おう。
「ボクは普通だからこそ、こんな女の子の恰好をしている時に、女の子と付き合いたいと思う訳ないじゃないですかっ!」
女装して女の子と付き合うだなんて、どんな罰ゲームだろう。
風莉さんはがっかりとした表情を浮かべる。
「湊は、エロゲーの主人公失格よ」
とか言ってきたけれど、別に良いと思う事にした。
僕は変態ではないから、女の子と付き合うなら男の子の姿に戻ってからである。
だから、何と言われようと平気だ。
例えゲイとかホモとか言われても、耐えてみせる。
今は、誰とも付き合う気はないのだから。
「湊はコレ、幻滅したと言うけれど、湊もしてみれば分かるわ。この快感に抗う事は出来ないって」
ペットボトルを手にして、近づいてくる風莉さん。
ああ、全く。
叫びたかったけれど、叫ぶと寝ているかもしれないひなたさん達に迷惑が掛かるかもしれないと思って、心の中で叫んでおいた。
もう少しだけ、普通の女の子が周りに欲しい。