一週目ではパラメーターの関係で選ぶことが出来ない選択肢も、二週目ならば選ぶことが出来るのがゲームの醍醐味である。
実際には違うゲームのネタを組み合わせてますけどね。
オトメ*ドメインにはそんな仕様はないので、あしからず。
臭い。異臭がする。鼻が曲がる。臭いだけでも昇天しそうだ。
毒物を仕込んだ鍋を持って、近づいてくる柚子さん。
既に風莉お嬢様とひなたさんはノックダウンした。
向こうでえろえろげろげろと、吐いている最中である。
「湊さーん。食べれば分かりますよ。美味しいですよー」
混沌とした鍋を持って、じりじりと近づいてくる柚子さん。
一週目は、食べようとしてもそこまでの勇気はなかった。
命の危険が迫る気がするが、今ならギリギリで食べられそうな気がする。
僕は覚悟を決めた。
「分かりました。食べますっ」
見た目がアレだし、臭いも世紀末だけど……柚子さんは平気なのだ。もしかすれば本当に、食べてみれば美味しいかもしれない。
百万分の一ぐらいの確率で。
「湊さんっ!」
食べると口にしたのがよっぽど嬉しかったに違いない。
顔を輝かせる柚子さん。
「どーんと行ってください」
皿に取り分ける事無く、僕が座った席の前に鍋が丸ごと置かれる。中身が闇の色をした鍋が。
闇の鍋の中に長く浸かった為にロブスターが変色して、真黒に変色している。
焦げている訳ではないのに、どうしてこんな真っ黒になるのだろう。醤油やソースを無意味にドバドバと投入しているのかもしれない。
これは色々ときつい。
近づけば近づいた分だけ異臭が増し、その匂いで体がやられ、動けくなりつつある。
完全に動かなくなってからでは、食べられない。
「湊さん、スープに凝ってみたんですっ! 最初はスープからお願いしますね」
柚子さんに言われて、スプーンでスープをすくう。
今にも呻き声が聞こえて来て、新しい生命体が生まれてきそうなスープである。
意を決して口に運ぶと、ビックバンが起こった。
僕の意識は問答無用で無残に散るのである。
貴船柚子、毒物を盛った疑いで、緊急逮捕。
「あんまりです。酷いですっ!」
と言っていたが、問答無用で職員室に連行されていった。
被害者は一名。飛鳥湊。彼は十分に勤めを果たしたのである。
「湊、あなたの雄姿は、白鈴女子学園で長く語り継がれる事になるわ。伝説として」
数日後、校内新聞において飛鳥湊が第一寮でも話題にする事さえ禁忌とされている貴船柚子の料理を食べた事が記されていた。
彼の偉業とその名は、瞬く間に白鈴女子学園に知れ渡ったのである。
三日間の食中毒と引き換えに。
あれ程まで漲っていた勇気は、一気に『なくはない』まで下落。
その後、命を大事にするようになった湊は、決して勇気が上昇しなくなった。
慎重に過ごすようになりましたとさ。
二週目で、色々と経験して強くなった飛鳥湊。
ただし、勇気があれば決して良い結果に繋がる訳ではないのが現実である。
今日の教訓 食べられないモノは、食べられない。