「湊、ピンチだわ」
期末テストに向けて、風莉さんに対して寝る前に勉強を教えている時の事だった。
額から汗を流しながら、風莉さんが緊急事態を訴えてきた。
「も、漏れそうっ」
「またですかっ! いい加減にペットボトルは止めてくださいっ!」
「湊、残念ながらペットボトルには入らないわ」
「何でですかっ!」
「今回は大の方だから」
「ちょっ! 風莉さんっ!」
この人、何を言ってるの!?
「そんなの漏らされたら同室で暮らしている僕まで困りますっ! 少しぐらいは我慢してくださいっ!」
「もう無理。駄目。お尻のところにまで来てる」
なんでそんな、ギリギリまで我慢してるの!?
風莉さん、人間の限界にでも挑戦してるの!?
「部屋でうんちを漏らす風莉さんなんて嫌いになりますからねっ! ボクが支えますから。意地でも一階にあるトイレまで耐えてください」
「湊……部屋が臭くなるのが駄目なら、部屋の外なら良い?」
「絶対にダメですっ!」
ここで良いなんて言ったら最後、部屋の前でするのが目に見えている。
僕は風莉さんに肩を貸して、すぐに移動を開始。何とか無事に一階のトイレの前に到達する。
「湊のお陰よ。ギリギリだったけれど、何とか持ちそうよ」
「お礼何て要らないですから。今は早くトイレに入って下さいっ!」
風莉さんをトイレの方に押す。今回は何とかなってよかった。
なんて結論は早計だった。
風莉さんがトイレのドアノブを回すが、ドアは開かない。
「湊、どうしましょう。トイレに鍵が掛かってるわ。誰か入ってるみたい」
「こんな時に!? すいませんっ! 風莉さんがピンチなんです。早く出てくださいっ!」
ドアを何度もノックする僕。
「くっくっく、お姉様よ。残念ながらひなたは入ったばかりなのだ。もう少しだけ待って欲しいのだ」
「ひなたさん、申し訳ありませんが、一刻も早くお願いしますよっ! 風莉さん、もう少しだけ待って……って」
横に立っていた筈の風莉さんの姿はなかった。
玄関のドアが開き、すっきりとした顔で家の中に入って来る風莉さん。
「湊、ピンチだったから外でしてきたわ」
「野グソですかっ! ホント、何をやってるんですかっ!」
「大丈夫。お尻はティッシペーパーを持っていって、きちんと拭いたわ」
「ああ、もうっ! そういう問題じゃありませんっ! 普通の人は野グソなんてしませんからねっ! 勉強や理事長の仕事が大変なのは分かりますけど、これからはもっと早くにトイレに行くようにしてくださいっ!」
僕は心の底から怒ったつもりだったのに……風莉さんは飄々としていた。
「湊、残念ながら人は生理現象には勝てないのよ」
「普通の人はもう少しは我慢できるんですっ!」
某月某日、天気、晴れ。
ひなたさんがトイレを出た後で、割り箸とビニール袋を使って風莉さんが寮の外にある茂みに致したものを後片付けをした僕。
今更ながら、風莉さんのお世話をするのは大変だと思い知らされた日の出来事だった。