お気に入りが100人を突破しました。読んでくれている皆様ありがとうございます。評価で8を付けて頂いたキラ@さん、9を付けて頂いたナインハルトさんありがとうございます。
《地を這う虫は空を望む》をできる限り長く続けていきたいと思います。
一晩明けて俺達はまたあの広場に集まった。
「今日はついにボス戦だ!迷宮区に向かう前にボスについておさらいしておく!」
ディアベルはポーチから一冊の本を取り出し話し出す。表紙にネズミのマークが入ったこの本は情報屋アルゴが編集して道具屋に置いている。しかも無料で。俺の時は500コルも出したのに…
「この本によれば第一層のボスの名前はイルファング・ザ・コボルトロード、そして取り巻きにルインコボルト・センチネルが3体。今回のボス戦の特徴は2つ。一つはボスのゲージが1本減る事にセンチネルが3体ポップすること、もう一つはゲージが最後の1本がレッドゾーンになると武器をタルワールに変える」
俺達の役割はあいつらがゲージを1本削り切る前にセンチネルを倒しておくこと。いくら取り巻きといえど放置しておくとロードとの戦闘に支障が出る。そして1番注意しなければいけない事。
「そしてこの本の最後の1文『これはベータテスト時の情報であり、変更点がある可能性大』これは未確認情報だが心に留めて置くように」
そう、この情報が絶対ではないという事。実際今までたくさんの変更点が確認されている。ボス戦が変更されていないなんてありえない。
「ちょっと待ってや、ディアベルはん!」
ちっ、またこいつか。
「本当にその情報が合ってるかワイは信用できへん!」
キバオウ、こいつが何をしたいのかさっぱり分からない。
「そもそもアルゴっちゅうやつはベータテスターのはずや、そんなやつの情報に頼るのはワイには出来へん!」
今更こんなことをいうなんて、またボコボコ(舌戦的な意味で)してやろうか。
「お「待ってくれ!」
あ?
「キバオウさん、あなたの言い分は分かる。だけど今は『みんな仲良く』するべきだ。こんなところで躓くわけにはいかないだろう?」
「ハヤトはん、そう言うてもな」
「僕達は確かに、右も左も分からない状況で死にかけた事もあった。だけど戦える人が減ればそれは僕達の危険にも繋がる。だから僕達は協力し合わなければならないんだ」
「…分かった、ここは大人しく引き下がったる」
ハヤト、この発言はどっち付かずの発言に見えて実際はニュービーに偏った発言だと気付いているのか?そんな事をしているといずれコウモリ野郎なんて呼ばれるぞ。
「ハヤト君ありがとう、キバオウさんあなたの想いは分かった。しかしこれのお陰で偵察戦をせずに済んだんだ。そしてボスを倒して一層の皆に希望を与えなきゃいけないんだ」
ディアベルは全体を見渡し、満足げに語る。
「これからボスを攻略法しに行く。今日皆が集まってくれてスゲー嬉しい!だから1人も死んで欲しく無い!全員生きて攻略する!いくぞ!」
ディアベルの言葉を最後に俺達は迷宮区へと向かった。
「ねぇハチマンさん、他のゲームでもこんな感じだったの?」
「こんな感じって?」
「遠足みたいにみんなで話しながら歩いて行く感じ、なんかこれから戦いに行くって感じがしないわ」
「こうゆうのはキリトに聞いた方がいいな。キリト、どうなんだ?」
「んー、他のMMOはこうはいかないな、ほかのゲームでもボイスチャットを使えば会話は出来るけどだいたいは通常のチャットを使うから戦闘中なんかは会話する余裕なんてないかな」
他愛ない会話をしながら迷宮区を進む。モンスターは戦闘の奴らが狩りまくってるからほとんどポップしない。
「俺もモンスター狩りたいなぁ、ハチ兄行ってきていい?」
「だめだ、モヤっとボールがうるさいからな」
「モヤっとボールって誰?」
「キバオウの事だ、あの頭そっくりだろ?」
「モヤっとボールがなんだか分からないわ」
「まじで?あの六角形クイズ番組知らないの?」
「?知らないわ」
「まあもう放送してないし、10年以上前の番組だし、しょうがないと言えばしょうがないか」
「…ハチ兄、そろそろだぜ」
キリトに声をかけられ先頭の方を見ると周囲の造りとは一線を画す威圧感のある巨大な扉が見えた。扉の前にまで来るとさらに大きく感じる。
ディアベルがトびらの前に立ち振り返る。
「みんな最後に一言だけ、勝とうぜ!」
士気が高まる一方、これから始まる惨劇をまだ誰も知らない。
全員が部屋に入ると壁に設置された松明が灯る。扉の奥はかなり広かった。ざっと奥行100m、幅30mってとこか。部屋の最奥には大きな玉座が鎮座している。ディアベルの指示の元編成が組まれ、崩さないように奥へと進んでいく。玉座との距離が50mを切ったところで変化が起きた。玉座にポリゴンが集まり形を形成していく。2mを軽く超える体躯に紅く輝く瞳、右手には体躯に見合う斧、左手にはバックラーを携え、腰にはタルワールと思しき物を差している。頭上にHPバーが4段ありその上に《イルファング・ザ・コボルトロード》間違いなく第一層のフロアボスである。完全に形を形成するとロードは俺達の前まで跳躍し、威嚇するかの如く吠える。それと同時に取り巻きのルインコボルト・センチネルもポップする。
「戦闘開始!」
ディアベルの合図によりソードアート・オンライン、第一層のボス戦が開始された。
「ハチ兄、アスナ手順は迷宮区のコボルトと同じだけど」
「首を狙えばいいんでしょ?」
「その通り!」
キリトとアスナがセンチネル目掛けて駆け出した。二人とも簡単に言うけどよ、センチネル鎧着てんのよ?首ってどんだけ狭いと思ってんの?そう思ってるそばからキリトがセンチネルの攻撃をパリーしスイッチしてアスナが喉元目掛けて寸分の狂いなくリニアーを叩き込む。あれ?これ俺いらなく無い?
「「ハチ兄(ハチマン君)スイッチ!」」
されどセンチネルはボスの取り巻き、アスナの一撃がクリティカルでも削り切ることはできないようだ。ここは兄貴分として弟、妹分の為に頑張りますか。短剣を構えセンチネルへと走る。
「なあ、キリト」
「どうしたんだハチ兄?」
「ちょっと聞きたいんだけどよ」
センチネルにトドメにさし、余裕ができたところで戦闘が始まってからずっと気になっていた事をキリトに聞いた。
「ロードが腰にさしているのは
センチネルのポップ数もポップスピードもロードの攻撃パターンも情報通り、あと変更できる点があるとすればボスの装備変更。
「そんなのタルワールに決まっ!?」
「キリトどうした?」
「あれ、タルワールじゃなくて野太刀だ!」
野太刀、つまり刀か。
「キリト、刀スキルってのはあんのか?」
「あるよ。でもあれはもっと上の層ででるはずなのに!」
「それが変更点か…キリト、アスナと2人でセンチネルは問題無いな?」
「大丈夫だけどハチ兄はどうするんだ?」
「ちょっとディアベルんとこ行ってくる」
キリトに告げて隠蔽スキルを発動させてその場を離れた。
「キリト君、ハチマンさんはどこに行ったの?」
「ディアベルのところに変更点を伝えに行った。でもなんで隠蔽スキルを使ったんだ?」
「それはキバオウさんのせいじゃない?」
「キバオウ?」
「ええ、だってハチマンさんが普通に近付いてもキバオウさんあたりに追い返されそうだもの」
ディアベルは1番後で指揮を取っていた。俺はディアベルの背後に立つと隠蔽スキルを解除して話しかけた。
「おいディアベル」
「っ!?なんだ、ハチマン君か。センチネルはどうしたんだい?」
「2人に任せてきた。それより伝えたい事がある。ロードが腰に差しているのはタルワールじゃ無くて野太刀だ。1度撤退して作戦を立て直すべきだ」
「っ!?確かにあれはタルワールじゃない、でも、ここで引くわけにはいかないんだ!」
「お前は刀スキルを知ってるのか?」
「…知ってる。だから大丈夫だ」
「そうか、ほかの奴らにはちゃんと説明しろよ。俺はどうなっても知らんぞ」
「分かってる!」
「おい、そこの腐り目!そこで何しとんのや!」
ディアベルと会話はしていたらキバオウに気付かれた。面倒臭いのが来たな。
「気付きたことを伝えに来ただけだ」
「ベータテスターとつるんでる奴のことなんか信じられるかいな!」
「ベータテスター?誰の事だ」
「しらばっくれんな!あのキリトっちゅうガキや!」
…こいつはキリトがテスターであることを知っている。キリトがテスターだと知っているのは俺、アスナ、クラインという男。あとは
「キバオウ、お前テスターだな?」
「なっ!ワイはニュービーやっちゅうに!」
「テスターだと知るものは本人と本人に聞いたやつ、そしてテスターだ。キリトはプレイヤーネームを変えてない。俺はキリトとあの日からずっと一緒にいるキリトがお前に教えることはできない、つまりお前はテスターだ」
「違う!ワイは情報屋アルゴに大金積んで聞いたんや!」
「キリトただ1人の確証を得るためにか?随分とキリトを怪しんだな、会話のひとつもしていないのに。それともお前は全テスターの名前を聞いたのか?それならまだ納得出来る。しかし400人近くのテスターの名前を聞くためにいくら積んだんだ?随分と金持ちなんだな」
それに
「アルゴは確かにテスターだがテスターがテスターを陥れて何の意味がある?アイテム狙いと言えば終わりだがアルゴは情報屋だ、テスターは貴重な情報源だから吊るし上げるようなことは絶対にしない」
キバオウはこちらを睨みつけて来るが反論はしない。否、できない、なぜなら
「キバオウ、さっさとお前の後ろにいる奴を吐け。さもないとお前をテスターとして吊るし上げてやる」
「ワ、ワイは…」
「そこまでにしてくれるかなハチマンさん」
ようやくお出ましか。
「やっぱりお前か、ディアベル」
いかがでしょう?
次でボス戦は終わらせるつもりです。
それでは次の更新で。