予想以上に捗ったので更新します。
今回はヒロインの彼女が出ます。
それにしても八幡らしさを出すのはなかなか難しいですね。渡航先生は本当に凄いと思います。
そういえば昨日はプログレッシブの5巻が発売しましたね。早く買いに行かねば!
※2016.7.9
感想よりハチマンとキリトのレベルを下方補正しました。
キリトとパーティーを組む事になってから約1ヶ月が経過した。キリトに戦闘のいろはから街の細々とした作りまでいろいろな事を教わった。パーティーを組んですぐにキリトが受けていたクエストを手伝っていたが、まさかMPKを受けるとは思ってもいなかった。まあステルスヒッキーを使ったら余裕でたおせたが。その時キリトが「目を持たない植物系モンスターに隠蔽スキルは聞かないはずなのになんでバレないんだ」と呟いていたがそんなの知らん。まあそのおかげでいまのレベルは17まで上がった。パーティーを組んでいたキリトにも経験値が入りキリトのレベルは15らしい。
「この世界に来てもう1ヶ月か、早いな」
「ベータでの進行スピードから計算しても2年はかかるんだ。1ヶ月なんてまだまだだよ」
「しかしこれは予想外だ」
デスゲームが始まって1ヶ月、まだ第1層すら攻略されていなかった。
「でも今日アレあるんだろ?」
「ああ、トルバーナで開くらしい」
アレとは第1層攻略会議である。キリト紹介の情報屋、鼠から買ったんだが、どこぞのパーティーがボス部屋を発見したらしい。キリト曰くここまで時間がかかったのはベータの時と迷宮区の作りが変わっており、ベータテスターが自分の持つ知識で余裕綽々と進んだ結果、死者が続出したためらしい。
「んじゃここいらで今日の探索は終わりにするか」
「そうだな、安全マージンは充分だし会議までゆっくりするか
「……ああ」
ハチ兄、いつの間にか俺はキリトにそう呼ばれていた。キリトに聞いたら
「ハチマンってなんか面倒見良さそうだし、現実では妹もいるんだろ?それに俺に兄貴がいたらハチマンみたいな兄貴だったらいいって思ってさ」
弟か、小町って妹がいればいいと思っていたが案外弟ってのもいいもんかもしれんな。あの川、川…越?口?まあ川なんとかさんの気持ちがわからんでもないな。ブラコンに目覚めそうになりつつもポップするモンスターへの警戒は解かず出口を目指した。迷宮区の安全地帯を少し過ぎたところで1人のプレイヤーがモンスターと戦闘していた。ローブを装備しているため顔は判断されました出来ないが、体格からして女であると判断できた。対峙しているのはコボルト・トルーパー、第1層の迷宮区の上位モンスターで攻撃を3回連続で躱すと大きくよろけ隙が出来る。ローブの少女はふらふらとした足取りながらもコボルトの攻撃を3回連続で躱し隙だらけの首元へ細剣単発スキルのリニアーを繰り出した。細剣がコボルトの首を正確に突き刺しコボルトをポリゴンとなり爆散した。その姿はまるで流れ星のようだった。ライトエフェクトが一筋の流れ星となってコボルトへと落ちた、そんな感じだった。ローブの少女は爆散するポリゴンに押し返されるようにあとさずり壁にぶつかるとずるずると崩れ落ちた。呼吸が荒く長時間戦闘を繰り返していたことが推測された。キリトがローブの少女に近付いて今の戦闘について説明していた。話を聞く限り少女はこの手のゲームをやった事がないらしく、キリトの話をあまり理解出来ていないようだった。
「そいつが言ってることを粉々に噛み砕くと数学のテストで暗算で出来る計算を筆算して時間を無駄にするようなもんだ」
「ゾンビ!?」
「ブフッ!」
ローブの少女は後ろに下がろうとしたが壁にもたれかかっていることに気付き、ぶるぶる震えながら来ないでとつぶやいている。なにこれめっちゃ傷付くんだけど、おいキリト何笑ってんだぶっ殺すぞ。
「あー、俺はゾンビじゃねぇ、プレイヤーだ。だからそんなに怯えなくていい」
「あ、えっと、ごめん…なさい」
「あーあハチ兄女の子泣かせギャッ!」
「ちょっとキリト黙ってろ」
ダメージの入らないギリギリの強さでキリトを殴る。
「…兄弟なんですか?」
「いやこいつが勝手に言ってるだけだ」
「まんざらでもないくギャッ!」
「マジで黙ってろ」
「フフッ!」
俺とキリトの馬鹿馬鹿しいやり取りが面白かったのか、ローブの少女は笑みをこぼした。
「ごめんなさい、少し面白くって」
「いや気にしなくていい。ところでなんでそんな状態になるまで迷宮区に篭ってるんだ?」
「…私が私であるためよ」
先程の朗らかな雰囲気とは一変し、達観したような諦めたような口調だ。
「こんなことに巻き込まれて私は周りの人達に置いていかれちゃう。1ヶ月も経ったのにまだ1%もクリア出来てないんだもの。この世界から出た時、私は元の生活には戻れない、だったら例え現実ではなくても、私のままで終わりたい」
少女の話を聞いて黒髪の少女を思い出した。彼女も家族に縛られ、怯え、自分の意思などなく、ただ引かれたレールを歩くだけの彼女を。大事な存在になりつつあったがそれは幻想だった。俺を否定し、遠ざけた。
「なああんた」
俺は他人なんかどうでもいい。自分と近しい人がいればそれでいい。あいつみたいにみんな仲良くなんて思わないし思えない。
「1つ聞きたいんだが」
だからこれは気の迷いとか、出来心とか、そんな曖昧で不確かで俺のキャラじゃないのは充分承知のうえなんだが。
「あんたは本当にこの世界で死にたいと思っているのか?」
少女の返事は待たず言葉を続けた。
「自分のままで終わりたいとか言ってたがこのままじゃあんたは何者でもなくただ野垂れ死ぬだけだ」
頭でかんがえる前に口が動く、言葉を発する。
「現実からじゃこっちのことはまったく分からない。あんたを知る人たちはただあんたが死んだとしか分からない。それにさっきみたいに無理無茶無謀を繰り返して死んでもそれはあんたの自己満足であってあんたであり続けた証明にはならない。証明出来る奴がいないからな」
少女は苛立ちを込めて声を張り上げる。
「じゃあ…私はどうしたらいいんですか!あなたに!私を知らないあなたに!何が分かるって言うんですか、どうしろって言うんですか!」
少女を知らない俺に言えるのは1つ。
「生きろ」
少女が少女でいるための証明を残すために俺が考え付く最善な事。
「どうゆう…ことですか」
「この世界はゲームだ。ゲームである以上データ内にログが残る。あんたが生きて、足掻いて、努力して、この世界にあんたという存在を刻み付ければいい。それは誰が見ていなくても確かに残るあんたがあんたであった証だ」
少女は無言で俯いていた。自分のやろうとしていた事を否定されたんだから無理もない。まあ否定したのは俺なんだけど。キリトを見ると俺達の会話に飽きたのか少し遠いところでモンスターを狩っていた。おいちょっと待て、俺を1人にするなよ。通報されちゃうだろ。数秒の沈黙のあと少女が口を開いた。
「私は、この手のゲームで遊んだことがありません。親から言われたことしかしてこなかったから。専門的な事を言われても理解出来ません。だから死んでしまうのも時間の問題だと思ってました。でも、ただ死んでしまうのでは悔しくて、がむしゃらにモンスターを倒しました。何かをやって死ぬなら何も出来ずに死ぬよりましだったから」
「あんたは死にたいのか?」
「どうせ死んでしまうんですからいつ死んでも同じですよ」
「そんな事を聞いてるんじゃない」
俺はそんなことを聞きたいわけじゃない。それは結果だ。俺が聞きたいのは前提だ。
「あんたは死にたいのか、生きたくはないのかと聞いているんだ」
どんなアニメでも小説でも死にたがりはろくな末路を迎えない。あるのは空虚な自己満足と残された者達の後悔だ。
「…そんなの、生きたいに…決まってるじゃないですか!」
少女は吐き出すことの出来なかった思いを吐き出した。
「ほんの出来心でやったゲームに閉じ込められて、HPが全損したら現実の私も死ぬ?そんなこと言われても認められません!まだ私はあの世界でやりたい事が沢山ある!友達と喋って、好きなことをして、私を想ってくれる人を見つけて幸せになりたかった!それなのに、それなのにどうしてこんなことに…」
少女の慟哭は歳相応のものであり、人として当たり前のことだった。茅場晶彦、お前はこの少女の慟哭を聞いているか?お前はお前の自己満足にこんな少女を巻き込んだ。ナーヴァギアを被ったの彼女の責任かもしれないがこんなことに巻き込むのはまちがっている。
「だったら、こんなところで自暴自棄になるのはだめだ。考える事を放棄したらそこで終わりだ」
少女には才能がある。さっきのソードスキルもそうだが、上に立つものの品格と言ったらいいのか、凡人とは違う何かを感じる。こんなところで終わらせるわけには行かない。
「じゃあ…私はこれからどうやって生きていけばいいんですか?1人じゃ何もできません。ゲームなんてわかりません」
確かに少女1人では何も出来ないだろう。少女だけでなく人間は1人では何一つ成すことは出来ない。ならばどうするか、それは簡単だ。
「あいつを使えばいい」
1人で出来ないなら誰かを
「あいつはベータテスター、正式サービスが開始される前からこのゲームをプレイしているからそこいらのプレイヤーより多くの情報を持ってる。俺もそこに目をつけてあいつとつるんでるわけだが」
「つまり、彼にゲームを、この世界について学べって言ってるんですか?」
「そうだ。それが今できる最善だ」
「…あなたはどうしてそんなに私に良くしてくれるんですか?」
良くしてくれる…か。
「別に特別何かあるわけじゃない。ただあるとすれば強いプレイヤーが増えれば俺が楽できると思っただけだ」
「…素直じゃないんですね」
「うっせ」
本当の事を言ったのに歪曲して伝わってしまった。まあ、否定もしないが。
「それで最初に私は何をしたらいいんでしょうか?」
「そうだな…とりあえず俺達のパーティーに加われ。それからあいつからいろいろ聞くといい」
そう言って少女にパーティー申請を出す。
「俺達ということはあなたも一緒なんですよね?」
「そうだが、いやか?」
「いえそうではなく、ただの確認です」
少女がOKボタンを押すと左上にもう一つHPバーが追加された。
「そういえばまだ名前を言ってませんでした」
少女はローブのフードを取る。栗色の髪がふわりと流れ、10人いれば10人が振り返るであろう笑顔で言った。
「私はアスナです。これからよろしくお願いします」
いかがだったでしょうか?
メインとなるキャラはもう1人、次回出す予定です。
ステルスヒッキーがチートなシステム外スキルになってしまったのはご了承ください。
それでまた次の更新で。