ひぐらしのなく頃に 骨   作:つぶあん仔

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アインズ様出ます


北条鉄平-2

「《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》」

 

 

 

 

アインズは魔法によって足置きのある高価そうな椅子を創造した。

この椅子はアインズが鈴木悟だった頃、自室でユグドラシルをプレイする際に使用した椅子だ。鈴木悟が持つ物の中で上位に位置するほど高価だったかもしれない。

これでほとんどの魔法は問題なく使用できることが確認できた。いや、攻撃魔法の人間に対する殺傷能力や超位魔法は流石に試してはいない。しかし他の魔法がユグドラシルと同様の効果だったことを考えるとそれらのことも変わってはいないだろうと結論を下す。

〈スキル/特殊技術〉も同様に実験したかったが、アンデッド創造や相手に恐怖から即死まで様々な効果を与える絶望のオーラ、そして一度使うと100時間も使用不可になるアインズの大技、〈The goal of all life is death/あらゆる生あるものの目指すところは死である〉など使っただけで多くの被害が出そうなものを使うのは流石に躊躇われた。

勿論、羽入に全ての手の内を明かすことを嫌ったのもある。

アインズは羽入のことがいまいち信じられなかった。

神だと言うが別にアインズをここに呼んだわけでもないらしい。この過去世界、しかもアインズが知らないものもあるこの世界に異世界転移とも言うべきか、それが出来るのは神以外にはいないだろうと思っていた。が、そうではないならばなぜアインズはここにいるのか。そしてなぜユグドラシルの法則も適用されているのか。そういうことも相まって羽入のことがイマイチ信用ができないのだ。

それともうひとつ───

 

 

 

 

「すごいです!魔法ってなんでも出来るのですね!ボクの分も作ってくださいなのです!」

 

 

 

 

「う、うむ。わ、わかった。《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》」

 

 

 

 

これがいまいち信用できない理由のひとつである。なんというか、いまいち掴み所がないというか、本当にこの子神?みたいなことをアインズは思う。

今も「この椅子はいいですね~。梨花に自慢ができます!」みたいなことを言ってはしゃいでおり、神などではなくただの小学生の少女にしか見えない。

しかしじっくりみると明らかに人とは違う部分、頭部に付いている下を向いた角を見るとやはり人ではないことは確かだろう。

 

 

 

 

(しかしあの角はなんだ?悪魔ではないだろうし………。鬼?鬼なのか?左角が少し欠けているのも気になるが………)

 

 

 

 

まあユグドラシルではないのだからその考察は邪推というものか。

 

 

 

 

(そういえば………)

 

 

 

 

ふとアインズは思い出す。そういえばここに来てから一度も風呂を入ってないような………。

自分の手を見てみるがそこには肉も骨もない………もとい肉も皮もない白い骨が見えるだけだった。汚れはついているようには見えないし、新陳代謝もないため垢などが溜まるわけではない。しかし一度気になり始めると付いてないかもしれないが風呂に入って洗いたくなるというもの。

 

 

 

 

「そういえばこの家も風呂がある………よな………?」

 

 

 

 

「ありますよ~。あっちにあります!」

 

 

 

 

そういって指を壁に向かって指す。

いや、それだと分からない。

その方向に進んでいけば風呂があるかもしれないが、古手家の家は非常に広い。それはアインズが鈴木悟だった頃に住んでいた自室が小さかったことを考えないとしても広い方だ。アインズは気付いたら道に迷う自信がある。

道を案内する魔法があるが、それは専らダンジョンのボス部屋誘導などであり風呂場に案内してくれるかは自信がない。

しかし羽入に頼むというのも気が引けるため、仕方なしにアインズは魔法を発動する。

 

 

 

 

「《ブレス・オブ・ティターニア/妖精女王の祝福》」

 

 

 

 

この魔法は目的地に最短で案内してくれる魔法だ。しかしながら罠などは考慮されないため、罠などを避けて道案内してくれる魔法、《リード・オブ・ヤタガラス/三足烏の先導》と併用されることが多い。また発動時間が決して長くないため、魔法系統の〈スキル/特殊技術〉の一つ《エクステンドマジック/魔法持続時間延長化》によって効果時間の増加させることが多いが流石に今回は不要だろう。

魔法によって現れた王冠を被った小指サイズの妖精は、小さな蝶々の羽をパタパタと羽ばたかせると、光を纏いながらアインズの前に出た。

 

 

 

 

「それはなんですか?」

 

 

 

 

「道案内の魔法だ。カーナビみたいなものだ」

 

 

 

 

「かーなび………?」

 

 

 

 

「いや、なんでもない。こちらの話だ」

 

 

 

 

そういえばこの時代はカーナビはなかったか。いや、もしかしたら都市から隔絶していて、ただ単に知らないだけかもしれない。

 

 

 

 

「道案内ならボクがしますよ」

 

 

 

 

そういう展開になるなら別に使う必要はなかった。女に子に風呂場を聞くということは失礼だと思ったから使ったまでだ。本人が案内するならそれに従うとしよう。

ま、まあ実験も兼ねて使用しただけだから道案内の魔法も無駄ではない。

 

 

 

 

「な、ならお願いする」

 

 

 

 

少し声が上擦る。鈴木悟は童貞だったから女性に対する免疫が少ないから仕方がないよね!

羽入は「すごいです~」と言いながら妖精にちょっかいを出して妖精はそれを躱している。

「あうあうぅ………」としょんぼりする羽入を見てやっぱ女性というより子供だよなあとアインズは思う。

羽入と当たり前ではあるが同じ方向に向かう妖精の案内で程なくして着いた風呂場は檜風呂と言うのだろうか、木製の浴室に和の雰囲気がてんこ盛りの風呂場だった。地方の高級旅館を夢想するその風呂場は古手家が雛三沢の御三家だということを嫌でも思い起こすだろう。

アインズはそういえばナザリック地下大墳墓の大浴場”スパリゾートナザリック”に檜風呂のような浴場があったかなどとどうでも良いことを思う。

今はもうナザリック地下大墳墓はないのだ。考えても仕方がないというもの。

 

 

 

 

「案内ありがとう。そういえば風呂を沸かすのは………」

 

 

 

 

「あ、ボクがするので待っててください」

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

幾ばくかの時間を経て風呂が沸く。風呂の準備をした羽入は既にここにはいない。

アインズは〈ゴッズアイテム/神器級アイテム〉であるグレート・モモンガ・ローブなどを脱ぎながら自分の身体を見つめる。

胸骨があり、助骨の隙間からは背骨が見える。前から背骨を触ってみると酷い違和感に襲われる。

本来、鈴木悟だった頃は人間であるから無論肉も皮もある。前から背骨を触ることはできない。

しかしながらこの身体ではそれを可能にしている。人とスケルトン、その差こそがアインズが抱く違和感の正体だ。

胸骨と骨盤の間には赤黒く脈動する球体が浮遊している。その球体はアインズが動いた時、身体と同じように移動する。物理的に非常にありえない。しかしユグドラシルのように装備判定があるからそうなるのだろう。

アインズはその〈ワールドアイテム/世界級アイテム〉を仕舞おうと手を伸ばしたところで止める。

〈ワールドアイテム/世界級アイテム〉はアインズにとっての切り札のひとつ。アイテムボックスに入れたところでバフである”ワールド”が無くなることはないが、やはり持っておくべきだろう。

念には念をというやつだ。

浴場に入ってみると自然の、それも木の匂いが鼻孔をくすぐる。勿論鼻はないはずだが。

熱湯から湧き出る煙によって視界は不明瞭だ。しかしそれが逆に心地よくもある。

これほど本格的な風呂に入るのはいつぶりだろうか。鈴木悟だった頃はシャワーがほとんどだったし、その上風呂場はここほど広くもない。

湯船に浸かりたい気持ちを抑えながら、アインズは身体を洗い始める。

いざ身体を洗い始めるとその骨の多さで普通に洗うよりも数倍の時間を要してしまった。

 

 

 

 

 

(………ようやく湯船に浸かれる)

 

 

 

 

身体からボディソープの泡を流していざ湯船に浸からんとしようとしたところでいきなり浴室の扉が豪快に開けられた。

 

 

 

 

「ボクもお風呂にはいるのですー」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

入ってきたのは一糸まとわぬ姿をした羽入だった。

白磁のように白い肌、小ぶりながら可愛らしい胸、あまりくびれがない腰回り。未発達ながら非常に艶やかな身体であった。

アインズの欲望に少し炎が宿るが、すぐに鎮火する。女性に対する免疫のないアインズではあるが、女性というより少女の、それも父性を感じさせるようなその身体に興奮するほどの異常性癖はなかった。

もしギルドのメンバーのひとりであるペロロンチーノがいたならばいろんな意味で危なかっただろう。

いなくてよかったと思う反面、寂寥感がアインズの体を駆け巡る。

そんなこともつゆほども知らない羽入は話しかける。

 

 

 

 

「ボクもあまり入ってないのですから久々に入りたいのです!」

 

 

 

なぜアインズが入っているときに入ろうと思ったのか。

疑問ではあったが骨の身体であるから何も思わないだけかもしれない。

 

 

 

 

「そ、そうか。わかった。しかし………」

 

 

 

 

しかしこれは大丈夫な状態なのか?犯罪じゃないか?

アインズはたっち・みーに御用される所か浮かんで少しくすっとした。

まあいいか。

アインズには子供はいなかったがさっきから父性本能な刺激される。

 

 

 

「背中を洗おうか?」

 

 

 

 

よくドラマや映画で父親が娘に対してよく言う………気がする。

いや漫画かもしれない。

どうでもいい気がする。

羽入が少しボォを赤らめたような気がしたがここは温度が高いからそう見えただけかもしれない。

小さな口が動く。

 

 

 

 

「い、いいですよ」

 

 

 

 

そのコトバが肯定なのか否定なのか分からなかったが父性本能が刺激されたアインズは肯定だと捉え、風呂場の黄色い桶に座らせた。

アカスリにたっぷりボディソープを付けてきめ細やかな白い背中を擦る。

垢が出るのか、そもそも新陳代謝などはするのか分からないが、汚いのはやはり女の子は嫌だろう。

 

 

 

 

「あうあうあうぅ」

 

 

 

 

羽入の背中を擦るアインズは父親になった気分だった。

ギルドメンバーに娘がいる人が幾人がいたが、彼らが娘を溺愛する気持ちが少しばかりアインズにも理解できた。

羽入の艷やかな背をあらかた洗い終わったアインズは流石に前を洗うのは危ないと思い羽入にアカスリを手渡す。

 

 

 

 

「では私は先に浴槽に入る」

 

 

 

「わかりました〜」

 

 

 

 

梨花の返答を聞きアインズはヒノキで出来た浴槽に入る。

淡緑色の湯が身体の隅々まで浸透するような感覚が訪れる。

その感覚は人であったときには得られなかった、身体が骨であるからそう感じたのであろう。

身体の全面を洗い終わった羽入が浴槽に入ってきた。

女の子と一緒に風呂に入るというのにドギマギする。

 

 

 

 

「膝の上に………座るか?」

 

 

 

 

あ、俺、変なこと言った。

肉体を持つ羽入が骨の膝に座ったところで痛そうだ。

しかし羽入はそのことに気にも止めないのか、こう返答する。

 

 

 

 

「いいのですか………?」

 

 

 

こうして二人は仲良く湯船に浸かるのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

梨花は赤坂衞に電話を掛けた。彼は本来なら過去に梨花と出会って以降出会うことはなかった人物である。

しかしながらこの世界では違った。

本来なら来ないはずの人物であるから、そして彼は警察官であるから梨花は助けを求めようと思ったのだが………。

電話を掛けて出たのは地元の警察官、大石蔵人だった。

彼曰く赤坂は石川の能登半島の温泉に行っているらしい。

帰ってくるのは綿流しの日。

それでは遅すぎる。

次に梨花は入江京介と鷹野三四に助けを求めた。

彼らの組織に山狗という特殊部隊がある。もし山狗なら問題を解決───北条鉄平を殺せるかもしれない。

しかしその願いは叶わなかった。

北条鉄平は警察にマークされていた。

彼の愛人───間宮律子が殺害されたため、北条鉄平は重要参考人として警察官にマークされているのだ。

山狗は鷹野三四の組織によって秘匿された部隊であり、警察にもその存在は知られてはいけない。

鷹野三四曰く、

 

 

 

 

「今の警察の監視下では気づかれずに北条鉄平を消すことは不可能」

 

 

 

 

だそうだ。

そしてこうも言った。

 

 

 

 

「ここは正攻法で解決するのが筋だと思うわ」

 

 

 

 

しかし梨花は過去を思い出す。

正攻法ではどうにもならなかった。沙都子が良くなったのは北条鉄平がいなくなったからだ。

故に古手梨花は最後の手段に出る。

アインズ・ウール・ゴウン、「死」を具現化したかの存在に。

北条鉄平を殺してもらおうと。

沙都子のためなら命を賭けても構わない。

梨花はアインズが今住んでいる古手家の本家に向かう。

既に日は落ち、月が空を照らしていた。




割りと忙しくてなかなか書けなかった・・・
次回アインズvs鉄平!(たぶん)
追記:誤字直しました。

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