ひぐらしのなく頃に 骨   作:つぶあん仔

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木曜書きたかったけどやる気が出なかった……


北条鉄平─1

「それではお買い物に行ってきますわ、梨花」

 

 

 

 

「行ってらっしゃいなのです」

 

 

 

 

梨花は親友の北条沙都子を笑顔で送り出す。

穏やかな日々は過ぎていく。綿流しの祭りの日まであと一週間と迫ってきていた。全ては順調に行っていると梨花は信じて疑わなかった。

しかし───

 

 

 

 

 

 

「まだかしら、沙都子」

遅いわね。そうぼんやりと梨花は沙都子を待っていた。

沙都子は半額セールを狙って帰りが遅くなることは珍しくもない。時計の長針が真上を向き、小針が真下に向いているこの黄昏───古く誰そ彼時と言われるこの時間に心配することもないかもしれないが、梨花は今日このときに限って異常なまでに気にかけていた。

 

 

 

 

 

(何か嫌な予感がする………)

 

 

 

 

 

その時、普通ではない寒気が彼女の体を駆け巡った。古手神社の巫女として何かを感じたのかもしれない。

 

 

 

 

「羽入いる!?沙都子を探して!!」

 

 

 

 

梨花以外いない室内で声はこだまのように反射し、そして静寂が戻ってくる。

反射的に声を荒げたが羽入は今はアインズのもとにいるはずである。

古手梨花の本家のほうに行こうと思ったが、しかし今日はアインズが自然を見たいと行って出かけているはずだ。

アインズがこの時間でもまだどこかに行っている可能性は大いにある、そしてまた本家の家はまだあまり近づきたくはなかった。

 

 

 

 

(商店街に行こう!きっと沙都子はそこにいる!)

 

 

 

 

梨花は商店街に駆けて行く。

程よく走ったところで商店街に着く。

雛見沢の東部で畑を耕しているおばあさんんがいた。

雛見沢分校に通う男の子のお母さんと話しているところだ。

こちらに気付いたのか、あらぁと言って話しかけてくる。

 

 

 

 

「今、沙都子を見なかったのですか?」

 

 

 

 

おばあさんの話を遮って梨花は沙都子の居場所を聞く。走って来たからか、声は荒く心臓の鼓動は鳴り止まない。

 

 

 

 

 

「沙都子ちゃんは見てないねぇ」

 

 

 

 

 

おっとりとした声でおばあさんが言う。

 

 

 

 

 

「そういえば、角のお惣菜屋さんが夕方に売れ残りを安く売るからそこにいるかもねぇ………」

 

 

 

 

隣のお母さんのほうがそう教えてくれた。

梨花はそう聞くやいなや、全力でお惣菜屋さんの方に走った。しかしそこにも沙都子はいなかった。

 

 

 

 

(沙都子………!!)

 

 

 

 

(どこに行ったの………?)

 

 

 

 

そう思いながら村の商店街を駆け巡ると誰かに話しかけられた。

 

 

 

 

「あ、梨花ちゃん」

 

 

 

 

「レ、レナ!」

 

 

 

 

竜宮レナだ!もしかしたらレナなら沙都子の行方を知っているんじゃないか?

 

 

 

 

 

「沙都子を見なかったですか!?」

 

 

 

 

「沙都子ちゃん?」

 

 

 

 

こくこくと梨花は頭を上下に振る。もしかしたら知っているかもしれないという淡い希望を抱いたがその希望はたやすく打ち砕かれた。

 

 

 

 

「………ううーん、わからないなぁ。今日は山文の特売日だったから沙都子ちゃんが買い物するなら絶対にいるはず。でもレナも山文にいたけど見なかったよ」

 

 

 

 

今日は山文の特売日で、そうだったら沙都子は絶対に来る?それで、それで会わなかった………?

 

 

 

 

(まさか………!?)

 

 

 

 

梨花の中に嫌な予感が当たったのではないかと邪推してしまう。勿論まだ分からない。どこかに散歩しに行っただけということもないわけではない。しかし順調に日々が進んでいると楽観視していたちょっと前の自分が憎たらしい。

 

 

 

 

「何かあったの、梨花ちゃん?」

 

 

 

 

レナが訝しげに問いかけてくる。当たり前だ。今の自分は傍から見たら異常に違いない。

 

 

 

 

「レナ………、沙都子が帰って………」

 

 

 

そこまで口から出て言うのを止める。

沙都子が帰ってこない。

沙都子が急にいなくなるような気がする。

嫌な予感がする。

いや、全て梨花の勘がそう告げているだけであり、実際にそう起ったわけでもそうなるわけでもない。

ただ、そんな気がする。

それだけで。

妄想や妄言だけでは人は動かない。

レナに沙都子のことを告げようとしたのを止めたのもその理由があったからだ。

もう何百回もループしたからこそ他の人よりより分かる。

レナは心配したように何があったのか聞いてきた。

だけどこんな妄言は言えない。

 

 

 

 

だけど───

 

 

 

そう、だけど分かる。理解できる。梨花だけには分かる、いや、梨花だけにしか分からない。

沙都子が突然いなくなってしまう、そんな世界があることを───。

あの男、北条鉄平が帰ってくる世界があることを───。

 

 

 

 

「さようならっ!」

 

 

 

レナに別れを告げて沙都子の住む家に向かう。後ろから声が聞こえたがそれを無視して沙都子の家へと駆ける。

 

 

 

 

 

「そんなバカな!」

 

 

 

 

恨み言のような声が梨花の口から出る。

 

 

 

 

 

(何もかも上手くいっている世界だったじゃないか………!あの男が帰って来るなんて………。そんなハズはない!)

 

 

 

 

元々北条鉄平が帰って来る確率はとても低い。なぜこの世界に限って、この幸運に恵まれた世界で帰って来るのか。

実は幸運な世界でも何でもなかった世界なのではないんじゃないだろうか………。

 

 

 

 

(神様どうか、どうかお願いします。今まで私に恵んでくださった幸運をもう一度だけ恵んでください………!!)

 

 

 

 

梨花は祈る。その姿は古手家の巫女ではなく、ただ一人の年端も行かない少女だった。

 

 

 

 

(神様………!!)

 

 

 

 

 

どれくらい走っただろうか?

分からない。

商店街から沙都子の家までそこまで遠くはないが、梨花にとっては永遠に走っているような、そんな気がした。

沙都子の家に到着した梨花は沙都子を目にする。

しかし梨花が目にした沙都子はさっき、家から出るときに見た沙都子とは違っていた。

頬には殴られたような赤いあざがあり、虚ろな、生気を宿していないような瞳が虚空を見つめていた。

 

 

 

 

「沙都子………!」

 

 

 

 

大丈夫なの?そう声をかけようとしたが、横からの怒りが込められたようなドスの利いた声にかき消された。

 

 

 

 

「ゴラァ!沙都子ぉ!!何ぐずぐずしとるん!さっさと風呂の支度をせんかい!」

 

 

 

 

「も………申し訳ございませんですわ」

 

 

 

 

梨花の不安は的中した。北条鉄平が帰ってきたのだ。

北条鉄平───下品で粗暴な沙都子の叔父に当たる男。

3年前、両親を失った沙都子は兄である悟史と共に叔父の北条鉄平夫婦に引き取られた。

しかしながら叔父夫婦は人の愛情など持ち合わせていなかった。

人を育てたことすらない叔父夫婦は悟史と沙都子をいじめ抜いた。

沙都子にとっては身も心もボロボロにされる日々だったそうだ。

叔父夫婦による沙都子と悟史の虐待は昨年叔母が撲殺され悟史が失踪し、北条鉄平が興宮に引き上げるまで続いた。

───あいつといたらまた沙都子はボロボロにされてしまう。

梨花がその結論に至るのはごく自然なものだろう。

梨花のいるところに向かってきた沙都子に梨花は話しかける。

 

 

 

 

「沙都子」

 

 

 

 

「………!梨花………?」

 

 

 

 

「こんなところにいないでお家へ早く帰りましょうなのです!」

 

 

 

 

そう言って梨花は沙都子の手首をぎゅっと掴む。

一緒に帰ろう。そういう意味を込めて引っ張ったが沙都子は抵抗した。

 

 

 

 

 

「あの……梨花………。今日からこっちの家で暮らそうと思いますの。私(わたくし)の叔父さんが帰ってきて一緒に暮らそうって話に……なりまして………」

 

 

 

 

沙都子の声はだんだんと尻すぼみになる。

梨花は理解できなかった。あんな性格最悪な叔父と一緒に暮らそうとすることに。

いや、分かる。沙都子が叔父と暮らす理由は。しかし頭で理解できても感情はそれを理解しようとはしなかった。

気付いたら梨花は叫んでいた。

 

 

 

 

「ど………どうしてなのですか!意地悪な叔父さんなんかと一緒にいたって楽しくないですよ!!だって、そのほっぺは………」

 

 

 

 

梨花のその指摘に沙都子はばっと手を頬に当てた。

 

 

 

 

 

「ちょっとぶつけただけですのよ」

 

 

 

 

少し笑いながら沙都子は言う。その笑いは梨花を誤魔化すためか、もしくは自分を誤魔化す笑いか。

 

 

 

 

「………ですからお引き取り願いませ。梨花と一緒にいたら迷惑がかかってしまいますわ」

 

 

 

 

果たして彼女は本当に沙都子なのだろうか。明るくいたずらっ子だった彼女は影を潜め、人形のような少女がそこにいる。

しかし梨花はそんな沙都子を見たことがある。一年前、昭和57年の叔父夫婦による虐待で身も心もズタズタにされた沙都子そのものだった。

 

 

 

 

(なんてこと………。私が一年もの歳月をかけて癒やし、慈しみ、手当をして、ようやく取り戻した沙都子の笑顔なのに………)

 

 

 

 

一年は梨花にとって、いや小学生である少女にとってはあまりにも長い時間だ。

 

 

 

 

 

(それをこんなにもあっさりと───)

 

 

 

 

油を売っている沙都子を怒鳴りに来た北条鉄平を梨花は見る。

 

 

 

 

(こんな下品な男に打ち砕かれるなんて───)

 

 

 

 

北条鉄平は梨花を見て、それから沙都子に言う。

 

 

 

 

「んああ?なんじゃいおどれは」

 

 

 

 

「な………なんでもありませんのよ。私のお友達が来てて───」

 

 

 

 

「すったらどうでもええねん!それよか風呂桶磨かんかい!!わしゃあ風呂にはいりたいんじゃあボケぇ!!」

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

 

 

沙都子は涙目になりながら風呂場に向かって走った。

梨花は自分の無力さに口を強く噛みしめる。

北条鉄平はそんな梨花に話しかけてきた。

 

 

 

 

「遊びの約束だったかい?スマンのおぉ、ちょいっと沙都子は家の片付けで忙しいんよ」

 

 

 

 

にたりと北条鉄平は笑う。心底気持ち悪かった。

梨花が北条鉄平に抗議しても後で沙都子が余計に酷い目に遭うだけだ。

そう思った梨花は汚いものから逃れるように北条鉄平から逃げ出した。

後ろからあの男の笑い声が聞こえるが梨花はとにかくこの場から離れたかった。

 

 

 

 

(神様はなんて残酷なんだ。北条鉄平は愛人の間宮律子が殺された場合だけ沙都子のところにやってくる。それはとても低い確率だと言うのに………)

(私の努力の及ばない、この偶発的な運命がこんな世界に決まるなんてあんまりだ………!!)

(このままでは………。この世界は!沙都子はボロ雑巾のようにずたずたにされてしまう!)

(沙都子がいなきゃ………、私は幸せになれないのに………)

 

 

 

いつしか梨花の瞳には涙がたまり、そしてこぼれ落ちた。それは数百年も───繰り返した人生ではあるが長い時間を生きた魔女ではなく、一人の少女のようだった。

 

 

 

 

(………昨日まで、あんなに最高の世界だったのに………!!)

(もう終わりだ!もう終わり………)

 

 

 

 

………いや、まだやりようがある。古手梨花は無力だが、今までの世界とは違う、強運にも似たようなものがこの世界ではあった。

梨花はそれに賭けてみようと思うのであった。

 

 

 

 

(まだ終わりじゃない!何か手はあるはず!私はまだ諦めない!)

 

 

 

 

梨花は考える。梨花一人ではこのことは解決しないが、他の人ならば何か打開案が見つかるかもしれない。

警視庁の警察官である赤坂。

鷹野三四の部隊、山狗。

そして謎多き者、アインズ。

彼らならどうにか出来るかもしれない。

彼女は駆けるのだった。親友の沙都子のために。





アインズ様まさかの空気!
原作があまりに良すぎてアインズ様入れる余地がなかったです。。。
次回冒頭アインズ様ですので許してください。。。
久しぶりにひぐらしみると話の構成があまりに神がかっていることに気付く
長いのも原作が良すぎたせいだから!自分は悪くない!
次回もこれぐらいの量書いて投稿したいなぁ

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