ひぐらしのなく頃に 骨   作:つぶあん仔

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夕暮れ

日が傾き、少しずつ空が少しずつ赤みが増してくる頃。

作業着を着た男たちはある少女が神社に行くのを見て後をつけてきた。薄い灰色、鼠色とも言うべき上下を着た彼らは「東京」に所属する特殊工作部隊、「山狗」の隊員である。

少女、古手梨花が古手神社に来ることは別に珍しくもおかしくもなかった。古手神社を所有する古手家の現当主が参拝することはおかしいが、彼女はまだ子供である。子供が神に祈ることは年齢を考えればそこまで違和感というものを感じない。

しかし、今日は違った。彼女がなにか祈ったあと、瞬きをする一瞬の間に「それ」はそこにいた。いた……という表現はおかしい。「それ」は何もない空間からいきなり現れたというべきだろう。

「それ」は闇それ自体を纏うような漆黒のローブを被り、頭部の側面から巨大なルビーのような赤く球状の宝石を貫きながら飛び出ている巨大な角を生やし、7つの金色の蛇が各々の宝石を咥え絡み合った杖を持っている。そしてその杖を持つ手は学校の骨格標本のような骨であり、富豪が付けるような指輪を薬指を除くすべての指に着けている。そして「それ」の顔は髑髏――但し人の骨かどうかは定かではない――であり、その目のある窪みには意思を持つ地獄の業火のような真紅の光が仄かに灯っていた。

もし手に持つ7つの金色の蛇の杖が長鎌なら西洋のお伽話に出てくるような死神を連想しただろう。

しかしながら神道の神を祀る場である神社の、しかもお賽銭箱のその奥にいることに歪な、奇妙な感覚を感じた。

 

 

「あれは……なんだ……!」

 

 

一人の隊員が小声で、しかしながら語尾は上がった言葉を発した。

その言葉に返った言葉は無言であった。

あれが何なのかわかる隊員は一人もいなかった。

いや、それが何か分かる人間はいる訳がない。それはユグドラシルにおいてスケルトン・メイジの最高種族、<死の支配者/オーバーロード>であるからだ。

しかしそんなことは知らないある隊員は言った。

 

 

「こ、骨格標本を誰かが服を着せて置いたんじゃ……ないか……」

 

 

語尾が尻すぼみになるのも無理はない。あんな豪華なものを骨格標本に着せる奴はいないし、そもそもいきなり現れたからだ。そしてあんな大きな角と漫画のキャラクターのような尖った顎を持つ骨格の人型の生物なんてこの地球上には存在しない。

しかし理性がそう分析しても感情はそれを拒否してしまう。

ただ、理性が感情を上回った人物がここにはいた。

それはこの場で最も位の高い人物だった。

 

 

「みんな静かに。『あれ』にバレないように極力気配を消すんだ」

 

 

この集団におけるリーダー格の人物がそう発した。

リーダー格の人物がそう発したからか、他の隊員も幾ばくか冷静を取り戻し、気配をできるだけ「あれ」に気付かれないようにした。

古手梨花と何か話をしているためこちらに気が向くことはないと思うが……。

しかしこちらの気配に気付いたのか現れたときと同じようにいきなり「それ」は忽然と姿を消した。

そしてそれを見届けたからか古手梨花は神社の境内を降りてきた。

作業着を着た男たちは神社から離れるように退散した。

それはよくあることではあるが「それ」がもたらした恐怖からか多少もたついて退散した。

 

 

(しかし古手梨花と「それ」は繋がっているのか……?)

 

 

リーダー格の人物は「それ」と古手梨花との関係が気になっていた。梨花が「それ」を見たとき、怯えているように見えたがもしかしたらそれは自分達を欺く演技だったのかもしれない。

 

 

色々と思案したが、結局リーダー格の人物は納得の行く答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木生い茂る道を通り、アインズは古手梨花が昔住んでいた家に着いた。その家は昔教科書で見た一般的な日本家屋そのものだった。屋根は瓦で扉は横開きの扉の木造建築物。ただ、そこまで手入れされていないためか所々古びていた。

梨花が戸を開け「どうぞ」と言ってきた。

「お邪魔します」と言いながらアインズは中に入る。少し埃が積もっているが住もうといえば普通に住める綺麗さだ。いや、アインズが現実世界で住んでいたところに比べれば確実にこちらの方がいい。

 

 

「ここで靴を脱ぐのよ」

 

 

梨花は玄関の段差になっている部分を手で指しながら丁寧に言ってきた。そのことについて何も言わずに靴を脱いぐ。外国の人(?)という設定だから知っていても変だろうと思って。

廊下を歩きながらアインズはさっきまで自分に掛けていた魔法を解除する。

 

 

《インヴィジビリティ/透明化》

 

 

この魔法は梨花以外の人間に見られると非常に目立つから使った魔法だ。アインズは骸骨の身体にこの時代では不似合いの装備を着ており、明らかに『怪しい』格好だ。一応装備としてスーツのようなものはあるがしかし骸骨の顔はどうやっても隠せない。

そして羽入も不可視の状態であり、その状態を見れる梨花がいるから自分が透明化を使っても見えると思ったからだ。

アインズの予想通り梨花は透明化したアインズのことが見えた。

《インヴィジビリティ/透明化》はアインズにとって低位の魔法。使用し続けても魔力はそこまで消費しない。

 

 

「どうしたの?」

 

 

思考に割り込むように梨花が問いかけてきた。

 

 

「いや、なんでもない。ただ、梨花が私の透明化の魔法が見えてたことに驚いただけだ」

 

 

そこまで驚いてないようにアインズは言う。

 

 

「まあいいわ。私は沙都子のことがあるし、一度住んでいるとこに戻るわ。代わりと言ってはなんだけど、羽入を置いてくわ」

 

 

梨花は羽入に怪しいことをしないように監視しろというような視線を送る。それを理解したかしてないのか、羽入はわかりました〜と言った。

 

 

その夜、アインズは羽入から雛見沢のこと――そしてオヤシロ様のことについて聞いた。その時のアインズは他者からの目線では真剣に聞いているように見えただろう。しかし彼の顔面は完全な骨である。表情筋によって形作られる表情が彼の顔に出ないのも至極当然だろう。内心ではアインズは嬉しそうに笑っていた。本当に嬉しそうに――。


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