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「ん?」
モモンガは目を開けた。目の前にはモモンガがついさっきまで想像していた自室とは全く異なる光景がそこにはあった。目の前には賽銭箱があり、それの向こうに二人の少女がいた。
モモンガは困惑した。ここは自室ではなければナザリック地下大墳墓第10階層玉座の間ですらない。モモンガが困惑することも無理はないだろう。
「ここはどこだ……?」
モモンガは口にする。ここはもしかしたらゲームの中だろうか?ありえないとは思うが、ユグドラシル2が始まったのかもしれない……。
モモンガに怒りの炎が燻ぶる。気持よく、というより寂寥の中にユグドラシルを終えるつもりだったのにそれすらも許されないのかという運営への憤怒の気持ちだった。
しかし次の瞬間、その感情は霧のように消え失せる。いや、消え失せたのではなかった。怒りの感情はいまだにある。憤怒と呼ばれるような大きな感情が抑圧され、小さな怒りだけが波のように心に残っていた。
その現象に乗るようにモモンガは今の状況をを考える。
ユグドラシルのサーバーが延期されたのかもしれない。しかし延期されたならば告知があるはず。しかしいまだに告知はない。GMコールを使ってみたがとくになにも起きなかった。
モモンガはログアウトしようとコンソールを出そうとする。GMコールが反応しないようにコンソールも反応しなかった。
いろいろ試してみたがシステムは一切反応しなかった。
「どういうことだ!」
つい荒げた声で独り言を言ってしまう。
目の前の少女たちはその声に驚いたようにビクッと体を震わせた。
モモンガは二人の少女に違和感を覚えた。その違和感は何なのだろうかと考えるが焦燥と混乱で頭がざわめく。
しかしふとアインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれた男、ぷにっと萌えさんの言葉を思い出す。
───焦りは失敗の種であり、冷静な論理思考こそ常に必要なもの。心を鎮め、視野を広く、考えに囚われることなく、回転させるべきだよ、モモンガさん。
そのギルドメンバーの一人の言葉でモモンガはいくばくかの冷静さを取り戻す。
モモンガはとりあえず目の前の少女二人に声をかけることにした。
「ここはどこだ?君たちは誰だ?」
慎重になっているからか、低い声がその口から出た。
二人は怯えたように口を開いた。
「ここは雛見沢村の古手神社だわ」
「僕は羽入と申すのです。梨花は古手梨花というのです」
その村のことも二人の名前のことも聞き覚えがなかった。どうするかと考えようとしたところ羽入という少女がモモンガに話しかけた。
「僕達を殺したりするつもりなのですか?」
不安と困惑、その2つの感情を持ちながら羽入は質問した。
「なぜ私が君たちを殺さなくてはならないのだ?」
「殺すつもりがないのなら、そのオーラをやめて欲しいのです!」
どうやら絶望のオーラのことを言ってたらしい。切り忘れたようだ。消そうとコンソールを出そうとする前にそのオーラは掻き消えた。
モモンガは驚愕した。それはゲームの中ではありえないような、そんな出来事だ。モモンガはそこでふと閃いた。この現象と謎の──モモンガの住んでいた世界ではまずお目にかかれないような──村、雛見沢のことで。
それは絶対ありえないような、しかし実際にそうなっていることを。
ユグドラシルのモモンガが現実になったこと、そして異世界に転移したことを。
到底受け入れられないその現実にモモンガは驚くがしかしそれ以外に納得の行く結論にならなかった。
モモンガは二人の少女──古手梨花と羽入──を少なくとも敵ではないと仮定して思い浮かんだ疑問を口にした。