アインズはスクロールを取り出し魔法を発動する。
現れたのは顔に3つの窪みがある───目のある部分に2つ、口のある部分に1つ───いわゆるグレイ型の宇宙人のようなモンスターだ。このモンスターの名は〈ドッペルゲンガー/二重の影〉。
その数は4体。
変身能力を持つモンスターを召喚したのは、梨花からの話から北条鉄平が警察からマークされているからである。
また、北条鉄平を誘き寄せる餌という役目もある。
さて、計画を始めよう。
アインズは邪悪に笑った。勿論その骨で出来た顔は特に何も変わらなかったが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「クソっ!酒が切れた」
北条鉄平は沙都子を呼ぼうとしたが沙都子はいない。
今日は平日。沙都子は学校に行っている。
流石に鉄平も学校に行かせないようにするのは難しい。そんなことをしたならせっかくの沙都子も児童相談所に引き取られるだろう。
仕方がなしに鉄平は酒を買いに行く。
酒屋に行く途中に沙都子がいた。より正確に言えば沙都子を見かけたという方が適切か。
その時むしゃくしゃしていた鉄平は沙都子を叱り───正確には八つ当たりである───に沙都子の方へ向かう。
もしこの時、沙都子の状態が異常なことに気づくか、もしくは沙都子のいた場所が森の中だということに異変を感じたか、そのどちらかでも気づいたなら未来は変わっていたただろ。
しかしそれに気づかなかった鉄平は沙都子を追って森の中に入るのだった。
森の中をかき分ける鉄平は逃げる沙都子に苛立つ。
(とっ捕まえたらボコボコに殴ってやるわぃ)
そう思う内に沙都子を見失う。光を遮る木々は鉄平を嘲笑うかのように乱立している。
「クソっ!どこに言ったんだあいつわぁ」
周りを見渡すとどこから現れたのか、漆黒のローブを纏ったいかにもな怪しい人がいた。
この怪しい男に沙都子の行方を聞こうと発破をかけながら話しかける。
「おいそこのオメェ!!金髪のちびを見なかったかァ?」
「いや、見てないですね」
そこで鉄平は異常に気づく。なぜ話しかけるまで気づかなかったのだろうか。
彼の顔には皮膚がなく、ローブの隙間から髑髏が覗かせていた───
※※※※※※※※※※
北条鉄平から話しかけられたアインズの第一印象はうわなにこの人怖いだった。
服装を見ると謎のアロハシャツを着ている。
(なんでこういう人はアロハシャツなんて着ているんだ?ビーチでもないのに)
アインズの疑問が解消されることもなく、北条鉄平は話しかける。
「お前のその顔はなんじゃい!?仮面でも被ってんのかワレぇ!!」
「ふむ」
アインズは自分の顔を手で撫で回す。アインズはあまりおかしいとは思わないが、やはりこの世界の人間はおかしいと思うらしい。
「そうだな。別に仮面など被っていない。この顔は私の素顔だよ。それより、沙都子という少女を虐めているらしいな」
「なんじゃいそりゃ!そんな話誰が信じるんじゃい」
やはりというか、どうやら北条鉄平は信じなかった。
「沙都子の話を出すということはお前は児童相談所のものか!沙都子の親権はワシにあるんじゃ!余所のモンは口出すんじゃないわい!」
「いや、私は児童相談所のものじゃない。ある人物からの依頼で貴様に死を告げに来たのだ」
「なによう分からんこと言ってんじゃボケェ!ぶち殺すぞ!!」
北条鉄平はそう言って拳を握りしめ、アインズの腹に向かって殴りつける。
しかしアインズは躱さなかった。勿論、アインズはその攻撃があまりに早すぎて動けなかったわけではない。
むしろ遅く感じられた。
ただアインズは確かめたいことがあっただけだ。だから動かない。
「うぎぃ!?」
そう声を上げたのは殴られたアインズではない。むしろ殴りつけた鉄平のほうが声を上げたのだ。
鉄平の拳から血が滲み出る。なにか硬い───鉄のような鉱物か何か───を殴った感触が鉄平には感じられた。
少なくとも人の、肉を殴った感触ではなかった。
「やはり上位物理無効化Ⅲは機能しているか。いや、本来の物理耐性か?」
しかしアインズはスケルトンの弱点である殴打武器脆弱があるのだからやはり上位物理無効化Ⅲが発動したのだろう。
「鉄板かなんかでもその服の下に仕込んでるのかァ!?クソッ!!」
鉄平の負傷していない方の拳をアインズの頭に殴ろうとする。
しかしその拳はアインズに掴まれる。
「うぐゥ!!」
鉄平はすぐさま手を引き離す。何か強烈な痛みを感じたからだ。
「な、何をしたんじゃ!!」
「ああ、ただ単に〈ネガティブ・タッチ/負の接触〉を使用して負のエネルギーを流し込んだだけなんだが………。そんなに痛かったか?」
「な、何なんじゃオメェ………」
「そういえば名を名乗っていなかったな。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。まあ、もうすぐ死ぬお前には名乗ることもないんだがな」
風が漆黒のローブをなびき、顔の全容が露わになる。すべてを飲み込むような漆黒の眼窩からは赤い炎のような光が灯っていた。
その外見は異形。ただそれだけだった。
「ば、化け物ッ!!!」
「最初に言ったときに言ったよな?この顔は仮面でも何でもない、と」
「クッ!やってられるかッ!!」
鉄平はアインズから逃げるように駆け出す。
「逃さんよ」
後ろからそんな声が聞こえる。そう思ったと同時に鉄平は何か壁にぶつかる。
「いてェ!クソッ!!何だいったい!!」
「私だよ」
アインズから逃げたはずがその逃げた張本人に当っていた。何がなんだか分からない。鉄平は混乱する。その謎の化け物の動かないはずの骨の顎が開く。
「やはり《タイム・ストップ/時間停止》は使用できたか」
鉄平には理解できない単語がアインズからの口が出てくる。
わけがわからなかった。手の痛みはまだ引いていない。
「クッソォ!!なんじゃアイツはッ!!」
もう一度鉄平はアインズから逃げる。今度はどうやら追ってこないようだ。しかしまた後ろからの声が鉄平の耳に届く。
「《マジック・アロー/魔法の矢》」
その声とともに、鉄平の背に衝撃が走る。
───その衝撃の数は、十
骨が砕かれるような音ともに鉄平の意識はなくなった───
「弱い。………やはり第一位階の魔法程度で死ぬか」
第一位階魔法«マジック・アロー/魔法の矢》。無属性であり、追尾機能を持つ魔法。汎用性が高く、高レベル帯でも位階を十位階まで上げて使われることも多い。
アインズは虚空から〈ワンド/短杖〉を取り出す。
殺すまでは想定以内だ。しかしここからが問題だ。
アインズが取り出したアイテムは<蘇生の短杖/ワンド・オブ・リザレクション>。
効果は相手の蘇生。
果たしで蘇生はこの世界でも使えるのだろうか?
アインズはそれを実験してみたかった。
アインズは《リザレクション/蘇生》を唱える。
それによって北条鉄平は───
───灰になった。
灰が風によってまばらに飛んでいく。
「まさか失敗するとは………。いや、しかし───」
アインズはその時復活系の魔法のことを考える。
復活系の魔法はレベル減少とともに復活する。より高位になれば、もしくはアインズの付ける課金の指輪のならばレベルはほとんど喪失しない。
もしかしたら北条鉄平はレベルの喪失が実際のレベルを上回ったたのかもしれない。
もし北条鉄平以上の存在───例えば羽入とか───がいたならば復活できるのだろうか?
しかしその考えは破棄する。
これ以上の実験は不可能。
結果は手に入ったとアインズは前向きに考える。
「これ以上ここにいても何も得ないだろう。………帰るか。《ゲート/転移門》」
※※※※※※※※※※
梨花はアインズから北条鉄平が死んだことを聞かされた。
あの憎き、沙都子の害にしかならない男の死を知って梨花は何も思わなかった。いあ、むしろ歓喜の念しかわかなかった。
本当にこのまま昭和57年の綿流しの日の後の世界が見れるのかもしれない。
この世界は幸運だ。ダイスの目が良い数字に当たるようだ。
梨花は笑う。その自分の幸運に対して───
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「北条鉄平は重要参考人だ。早く探し出すぞ」
室内に声が響き渡る。警察官である彼は焦っている。
間宮律子の殺害事件の重要参考人である北条鉄平が消えたのだ。
彼は今日のことを思い出す。何か見落としがあるかもしれないからだ。
北条鉄平が出かけたとき、いつものように酒に出かけたと思っていたのだが………。
北条鉄平が酒屋に向かっているときに後をつけていた彼は途中でお婆さんに話しかけられた。
村に見知らぬ人がいたからだろうか。自分のことを尋ねて来た。
ほんのちょっとの会話だった。しかしその間に北条鉄平を見失ったのだ。
その後見つけたのは商店街だ。何も手に持たずに歩いていた彼は、角に曲がったかと思ったら忽然と姿を消していた。
商店街と言ってもここ雛見沢は田舎だ。小さな商店街だ。見失うというのもおかしな話だ。
家にも帰ってはいないそうだ。
彼は最悪な考えが浮かぶ。
「既に感づかれていたか」
北条鉄平は我々、警察に尾行されていることに気付き、どこか遠く、知り合いの家にでも行ったのだろう。
探さなくてはならない。北条鉄平はクロだ。
彼に関係のある者たちを虱潰しにしなくてはならない。これから大変になるだろう。
しかし、警察の必死の捜査にも関わらず、結局北条鉄平は見つかることはなかった。
次回、多分綿流しです!
きっと!
最近忙しかったというかオバロの発売であまり友達と遊ばなかったからそれを取り返すようにしていました
オバロは魅力的だからね!仕方がないね!
次日曜ぐらいに更新したいなー(願望)
追記:そういえばランキングに載っていました!ありがとうございます!