いつかは分からないですけど二話も投稿します
プロデューサー。それは、アイドル達のマネージメントから何から、担当アイドルに関するほぼ全てに責任を持つ役職である。担当アイドルが多いほどそのプロデューサーの腕が高いことの証左となり、その分仕事も増える。……そう、増えるのです。
はてさて、あるプロダクションのビルのなかの、とある一室。
ソコには、実にどんよりとした空気が流れていた。
それもそのはず、その部屋にいる二人とも、仮眠を除けばほぼ丸二日寝ていないからだ。
――――――――――
月月火水木金金。
これが何を示すかお分かりだろうか。
そう、言わずもがな――
今週の俺の一週間だよコンチクショウ!
休みなんて無かった、いいね?
手元のスタドリを一気に煽り、何とか眠気を吹き飛ばす。
「ああ、休日が恋しいです」
「……お疲れ様です。もう少しで一段落しそうですね。何か買ってきましょうか?」
そうボヤいた俺に死んだような瞳で微笑みかけるのは、千川ちひろさん。事務所の先輩であり、一応俺の同僚に当たる人だ。彼女も限界が近そう――もとい通り越しているまである。
ゆっくりと首を振り、力なく笑う。
「……いえ、ちひろさんに……買い物行かせるわけにもいきませんし……自分が行きます」
「えっと……大丈夫ですか? 喋り方が文香さんみたいになっちゃってますけど」
「
「テンションとかその他諸々おかしいですけど本当に大丈夫ですか?」
(大丈夫なわけ)無いです。
一週間丸々、1日の内半分以上をデスクワークにて過ごすと言うのは実に辛いものだ。そろそろ、我が身の勤勉さに皆はひれ伏すべきではありませんですかね。
せめて自分の担当アイドルの現場仕事ならば救いはあるのだ。頑張っている彼女達を見ていると、自分も頑張ろうと言う気になるし、何より彼女達の笑顔は何よりの癒しになる。
でもデスクワークは――
室内にいる俺以外の唯一の人間であるちひろさんに視線を向ける。今週は特に徹夜が増えているせいだろう、目の下に酷いクマを作っていた。
「これだしなぁ」
「なに考えているかは何となく分かりますが。失礼じゃないですか?」
小声で呟いていたのが聞こえていたのか、ちひろさんは底冷えのする笑顔を浮かべた。もちろん、こんな笑顔に癒し要素はありません。あるのは恐怖だけ。
「じゃ、じゃあ俺今日の夜食買ってきますね」
逃げるように顔を背け、席を立つ。長い間座りっぱなしだったせいで腰が痛い。腰を握りこぶしでトントン、と叩きながら急ぎ足で部屋を出た。
最近の日本は便利だ。何処にでもコンビニがある。
この前、50mも離れてない場所に同じ名前のコンビニがあるのを見たときは正気を疑ったが。あれって本当に何でなのかしらん。
コンビニで買ってきた弁当をちひろさんと二人黙々と食す。あれ、おかしいな。美人と一緒にご飯食べているのにちっともそんな雰囲気じゃないぞ?
ちひろさんだから仕方ないね。
少し仮眠を取り、再びデスクワークに戻る。
だが、今日の午後は担当アイドル達のリハーサルへの付き添いだ。デスクワークも後少しで終わることが出来る。そう考えると、頑張れた。……と言うか、このライブのせいでこんなハードワークだってところもあるんだけど。
朝が来た。時計を見ると、七時半。やべぇ仮眠とってから五時間くらい働きづめだぞ。誰か俺に休みを下さい。
「おはようございます! プロデュー……サー……さんって、ええっ!? ど、どうしたんですか!?」
「……ああ……美波か……。今日も絶好調で何よりだ……」
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、俺の担当アイドルの一人である、新田美波。穏和な顔立ちに、柔らかな表情。長い茶髪をツインテールに纏めた、しっかり者の現役大学生である。
美波は机に突っ伏す俺を見て目を見開いた。そう言えば、美波はここ一週間は大事なテストが近いとかで学業に専念するために大事な仕事以外は減らしてたんだっけか。
俺のこの状態を見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「プロデューサーさん、大丈夫ですか……? クマが酷いです。しっかり休まないとダメですよ?」
「あー、うん。分かってる分かってる。大丈夫だって、一応限界はまだ来てない……気がする」
「限界が来てからじゃ遅いんですってば!」
もう、私が居なくてもちゃんと休まなきゃダメなんですから。
そんなことを言いながら、美波は何だかんだ嬉しそうに頬を緩ませる。
「プロデューサーさん、お仕事って何時からでしたっけ」
「あー……っと。午前中は10時半からの美波のグラビア撮影だけかな。昼からは、体調崩しちゃったらしい加蓮の見舞いと……あ、文香のレコーディングもか。あとはリハーサルだけ」
「結構多いんですね……。……じゃあ、9時過ぎまで寝ていて大丈夫ですよ。私が起こしますから」
「……え? いや、まだやることが……」
「ダメです」
有無を言わさない様子で俺を休ませようとする美波。心配してくれているらしい。……まぁ、俺も似たような境遇の人を見たら心配するが。
お言葉に甘えるべきだろうか。室内にいるもう一人の
「ええ、大丈夫ですよ。……ふぁあ。やっと一段落しましたし、私も少し休みましょうかね」
「お疲れ様です」
「いえいえ、プロデューサーさんも。入社してからそう長く経っていないのに、本当に異常なほど頑張らせてしまっちゃってますね。……せめて少しくらいは、休んでください」
ちひろさんも許可してくれたので、俺に断る理由はない。……休みたかったしな、実際。
事務所のソファに寝転がり、目をつぶる。すると、案の定――すぐに強烈な眠気が訪れ、俺はそれに体を委ねた――
「――さん」
「プロ――さん」
「プロデューサーさん、起きてください」
体を小さく揺さぶられ、目が覚めた。どうやら、もう時間らしい。一時間半も寝れた――いや待てその基準はおかしい。
「……っと、時間か」
そう呟くと、美波はもうちょっと寝させてあげられれば良かったんですけど、と苦笑した。
……まあ、俺の体なんかより我が担当アイドル達の仕事の方が大事だから、何の問題もないけどな。
ソファで寝たせいでシワが出来てしまったスーツを着替えた後、俺と美波は事務所を出た。