∞→0・ストラトス   作:さんばがらす

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筆が進んだので早めの投稿


圧倒/暗闇を斬る幻影

試合開始直後、先に動いたのはクラリッサだった。

 

「先手必勝!!」

 

威勢よく叫んで、両腕、両肩に大きな砲身をそれぞれ二門ずつ展開、いっせいにゼロに向かって発射した。

『88ミリ砲8門(アハト・アハト・アハト)』

型落ちになった野戦高射砲の砲身をIS用の武装に無理矢理変更したもので、ISを砲台として運用するという、軍部の巨砲主義の暴走の賜物であったが、意表をつくにはこれ以上の装備はなかった。

 

「ッ!!!!」

 

ゼロは迫り来る砲弾から逃げるようにリコイルロッドのチャージ攻撃を地面にあて、高く飛び上がる。

 

「対空砲火!!」

 

八つの砲身が上空を向き、発射タイミングをばらけさせて弾幕を張る。

ゼロは空中でジャンプするような仕草で高度を維持、『クロワール』がゼロの戦闘データを元に生み出したPIC運用術「空円舞(エアジャンプ)」と「飛燕脚(エアダッシュ)」による空中機動で巧みに避ける。

 

普通のISなら、直線に飛ぶところを、ゼロは跳ねるように放物線を描いて飛ぶ。

 

「ええい……ちょこまかと!!」

 

ゼロの特異な機動に、当たらないと確信したクラリッサは砲身をすべてパージ、両手にサブマシンガン、膝にブレードという出で立ちで空に向かう。

 

「……!」

 

それに気付いたゼロはシールドブーメランを投げて牽制、勢いをそごうとする。

 

「当たらなければ、どうということはない!!」

 

クラリッサはバレルロールしてブーメランの軌道上から逃れ、サブマシンガンを打ちながらさらに加速した。

ゼロも、バスターショットで迎撃する。

 

「そんな豆鉄砲!!」

 

クラリッサの言葉の通り、いかんせんチャージしていない射撃は威力が乏しく、クラリッサの接近を許してしまった。

 

だが、接近戦こそゼロの得意分野である。

 

クラリッサのブレード付き膝蹴りをリコイルロッドで受け止め、弾いた。

すかさず反対側の膝がゼロに向かうが、こちらは弾かず、鍔迫り合いのようにする。

弾かれなかったことをいいことに、クラリッサは目いっぱい力を込め、ゼロをその場に釘付けにした。

 

「落ちろ。蚊トンボ!!」

 

そういって、クラリッサが両手のサブマシンガンからフルオートで弾丸をばら撒く。いくら集弾率の低いサブマシンガンといっても、この距離でははずしようがない。

ゼロは、生身なら一瞬で人間をミンチに出来る弾雨を涼しい顔で受けていた。

 

 

本来なら、シュヴァルツェア・ツヴァイクの膝部ブレードは、AICで停止している相手に対して近接攻撃するための武装であったが、AICが未実装の今、異なる運用をされていた。

 

 

「なっ!?」

 

ゼロと鍔迫り合いをしながら弾幕を張ることの夢中になっていたクラリッサだったが、突然、背後からの攻撃を受けた。

 

「……ハァッ!!」

 

シールドブーメランが戻ってきたのである。

クラリッサが仰け反った一瞬の隙に、ゼロはリコイルロッドのチャージ攻撃を当て、真下に向かってぶっ飛ばした。

 

――ズドォォンッ!!!

 

地面にクレーターが出来、周囲に土煙がもうもうと立ちこめて千冬たちの視界をさえぎる。

 

その土煙の中にゼロが光剣を構えて突っ込んでいき、程なくクラリッサのシールドエネルギーがなくなったことを伝えるブザーが鳴った。

 

――勝者、ゼロ

 

ゼロが瞬殺されるだろうと踏んでいた千冬とシュヴァルツェア・ハーゼの隊員たちは、半ば一方的な試合運びと、ゼロの驚異的な戦闘能力に戦慄を覚えた。

 

土煙が晴れ、クレーターの中の二人が現れる。目を回して伸びてしまっているクラリッサに向けて、油断無く光剣を構えているゼロ。

 

「おい。試合は終わった、武装を解除しろ」

 

「……なるほど、シールドエネルギーがなくなると負けなのか」

 

千冬の注意に、ゼロは一瞬『?』を浮かべたが、すぐにISを解除する。

束アイランドではシールドエネルギーがなくなっても無人ISたちは止まらなかったために、ゼロはISとはそういう競技だと勘違いしていた節があった。

 

「ところで、お前のIS教導の話だが……」

 

「……何かまずいところでもあったのか?」

 

千冬が言い澱み、ゼロが聞き返す。

千冬は、意を決して言った。

 

「教導は必要ない。お前には教官をやってもらう」

 

ブリュンヒルデ(世界最強)が彼を認めた瞬間だった。

 

 

 

伏線編~アフターファントム~

ゼロがこの世界に来る十数年前

 

その日、とある日本家屋の一室にて一つの産声が上がった。

 

だが、その子を産んだであろう母親、助産師はあまり喜んではいられなかった。

 

産声が一つしか(・・)上がらなかったからである。

 

――オギャー!!オギャー!……

 

産声を上げたほうの赤ん坊が、助産師の一人に抱えられ、産湯につかるために部屋からいなくなる。

 

残されたのは、祈るように手をすり合わせる両親と、未だ産声を上げぬ赤子を懸命に治療する医師と助産師だった。

 

「………」

 

医師の懸命の治療もむなしく、どんどん体が冷たくなる赤子、隣の部屋から漏れ聞こえるもう一人の赤子の声が、むなしく響いた。

 

時間は無常にも過ぎ、医師は赤子の治療をやめ、

 

「残念ですが……」

 

と切り出した。

 

母親はボロボロと涙をこぼし、父親は血が出るほど口を固く結び、手のひらから血が出るほど拳を握りこみ涙をこらえようとしていたが、涙が彼のほほを伝うのをとめることは出来なかった。

 

「……せめて、一度抱かせていただけませんか?」

 

泣きながら懇願する母、それを一体誰が断れようか。

 

「どうぞ」

 

医師が息をしていない赤子を母の胸に抱かせる。

母は赤子の顔を撫で、「ちゃんと産んで上げられなくてごめんね……」とやさしく声をかけて、赤子を胸に抱く。

 

父親は、見ていられなくなったのか、無言で席を立ち部屋を後にしようとして

 

 

 

 

――ゲホ……オギャー!!!!!

 

できなかった。

 

奇跡が起きた。

 

「おおおっ!!」

 

医師も助産師も声に喜色を交えて言う。

 

それが父や母になろうものなら、喜ばないわけが無かった。

 

母はうれしさのあまりまた涙し、父も今回ばかりはみっともなく男泣きした。

 

男子と女子の双子。何を隠そう、彼らにとって待ち焦がれた、初のややこだったのである。

 

 

その後、すっかりお祝いムードに突入した親戚一同に、父親が代表して名前を告げる。

 

――女の子は、折れず、曲がらず、良く切れる(頭が回る)女性になって欲しい。という願いをこめて

『刀奈(かたな)』

 

――男の子は、二度と、その命のともし火が、幻と消えないように

『玄影(げんえい)』

 

と名づけられた。

 

そして十年ほど月日は流れ……

 

玄影は当主から、つまりは父親から、重大な通達があるとのことで学校を早退し、更識家の門をくぐった。

 

今でこそ、普通の人間(更識玄影)として生活できているファントムだったが、当時の本人の感覚としては、サイバー空間でゼロとの戦いに敗れ、二度目の死を覚悟した途端に人間の赤子になっていたのだから驚きである。

 

幸い、更識家は暗部の家柄、レプリロイド時代に培った技術を披露しても気味悪がられることが無かったのは僥倖といえた。

今、裏の世界での彼は「現代に生きる最後にして最高の忍」と敵からは恐れられ、味方からは一目置かれる、そんな立場になっていた。

 

次期当主に、との声が厚い彼であったが、当主の座になど毛ほどの執着も無く、長男であるために仕方なくといった具合であった。

大広間に向かう廊下の途中で、声をかけられる。

 

「兄さん」

 

「……刀奈か、簪はまだか?」

 

双子の妹の刀奈である。彼女は双子であるにもかかわらず、玄影のことを兄と呼ぶ。

 

「もう広間にいるんじゃないかしら……ほら」

 

広間には、刀奈と似た顔立ちをした少女と、既に集合していた更識家の者がいた。

 

「玄影、刀奈、ただいま参上いたしました」

 

「ご苦労、では、皆に通達がある。今後のことだ」

 

玄影達が最後だったらしく、すぐに報告が始まる。

今後のこと……要するに跡目関係の話だと匂わせたために、更識の部下達は静まり返った。

それだけデリケートな問題なのである。

 

「次期当主(楯無)は……刀奈にする。玄影ではなく、刀奈だ」

 

それから当主は、異論のあるものはいるか? と尋ね。数多くの手が上がる。

 

曰く、

長男がいるのになぜ継がせないのか

長男の方が暗部として優秀なのになぜだ

長男は既に独自の指揮系統を持った忍び衆もいて、指揮能力に問題はないのになぜだ

 

など、玄影を推すものばかりだった。

当主は辟易し、種明かしをした。

 

「お前ら、ISという言葉を知らないわけではないだろ? あの兵器が台頭すれば、女性中心の世になってしまう。『長男が跡目を継ぐべし』なんて古いしきたりは、これを期に変えたほうが更識のためだ。それに、刀奈のIS適正が高く、どうやらロシアのお偉方から専用機をあつらえてもらえるそうだ。いくら『最高の忍』とその軍団『斬影(ざんえい)』とて、ISには勝てまい……連絡は以上だ。解散!!」

 

当主の決定は絶対、これは裏の世界で『更識』が存続するためになくてはならない掟だった。暗部の世界では、巧遅よりも拙速が尊ばれる。実行までのプロセスが早ければ早いほど良いのだ。

 

玄影を推していた者たちは、苦虫を噛み潰したような顔をして退室し、それを皮切りに皆退室し始める。

 

最後に残ったのは刀奈、玄影、簪の更識三兄妹だった。

 

「刀奈、本当によいのか? 当主などになって」

 

「兄さんこそどうなの? 私なんかに当主の座を掠め取られて」

 

「拙者は一向に構わん。人の問答は、苦手だ」

 

玄影は即答する。

どちらかというと、玄影は根っからの暗部、人の前に立つのは向いていない。

その点、後に『人たらし』とよばれる刀奈は、暗部としての能力よりも人心掌握術に長けていた。

 

「拙者がこの家を継がない、ということで、お前を亡き者にしようと刺客を送り込んで来る可能性がある。護衛を手配しよう……」

 

「いい加減にして!!」

 

刀奈の身を案じて、護衛をつけようとした玄影だったが、刀奈本人が声を荒げたことで中断された。

いきなりどうしたのかと不思議がる玄影と、いきなりの姉の怒声に縮み上がった簪

 

「私はもう兄さんに守られるだけのお荷物じゃない!! 正式な更識家17代目『楯無』よ!自分の身くらい自分で守れる……バカにしないで」

 

「……ほう、護衛はいらないと、そう申すか」

 

普段めったに怒らない姉の激情に、簪はタジタジだったが、玄影はむしろ面白そうに刀奈を見る。

 

「そうよ。『楯無』なんだからそれぐらい当然でしょ?」

 

「ならば……羽沼(ハヌマ)、倉建(クラタテ)はいるか!!」

 

「……ここに」

 

「何なりとご命令を」

 

片方は忍装束を纏った少女、もう片方も同じく忍装束の壮年の男性がどこからともなく現れる。

 

「ここにおわす『楯無』殿が慢心せぬように、月に数回、折を見て襲撃してやれ。ただし、誰にも見つかってはならぬぞ」

 

「……ハッ」

 

「御意に」

 

「え!? 子音(シイン)ちゃんに鉄駆(テック)おじさん!? 『斬影』の精鋭中の精鋭じゃない!!」

 

「どうした。『楯無』殿?」

 

嗜虐を含んだ、悪い(イイ)笑顔の玄影、

 

17代目更識盾無こと刀奈は、「……努力します」としか返せなかった。

 

だが、彼女は後にこう思う。

これは当時未熟だった楯無のために、護衛をつけつつ特訓をさせる。という兄の愛の鞭だったのではないか、と……




やっちまったぜ!! アフターファントム編

ちなみに、アフターファーブニルもアフターレヴィアタンもアフターハルピュイアも鋭意製作中です。

さらにちなみに、今後玄影の兄貴の出番はほとんどないかもしれません。(未定、出来れば出したい)

隠し設定(?)かもしれませんが、四天王勢は、魂(サイバーエルフ)だけがこちらに来ているので、体は人間になっています。あしからず。

次回:束「戦技教導官……っていうと中の人ネタになっちゃうね」

では、じわまで気長にお待ちください。

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