本当はもう少し話を進める予定でしたが、キリが良かったので投稿しました。あしからず。
俺は全くの無意識に、ISを展開していた。
「やめろおぉおおぉーー!!!!」
零落白夜を使い、アリーナのシールドバリアを切り裂いた。
すかさずイグニッションブースト、対峙するハルとラウラとの距離を詰める。
俺には砲弾を確実に斬る技量はない。仮に受け流せたとしても誘爆は避けられない。でも、そんなことは俺を止める理由にはならなかった。
砲の射線からハルを遮りつつ、雪片弐型を振るった。
だが、斬った手ごたえも、斬れなかったための爆轟も、俺には感じることは出来なかった。
「……ちっ、ゼロか。余計な真似を」
身体が動かなかった。俺は雪片を振り下ろす途中の体勢で砲弾と一緒に止められていた。
口惜しそうな憎まれ口は、いつの間にかワイヤーの拘束を抜け出していたハルのものだった。
『Time stopper』
俺と砲弾を停止させている電磁フィールドのようなものに目を向けると、それの名前と思しき表示が出た。しかしながら、それらの詳細な情報はなく、効果時間と思しき秒数が表示されるだけだった。
この電磁フィールドを発生させたゼロ先生が、発生源の銃口を降ろしてこちらに向かってくる。
タイムストッパーとは書かれていたが、それが解けたら砲弾もまた動き出す、ということはなく、その場に落下し始めたところをゼロ先生が受け止めてから信管を無力化した。
「ハルを殺す気か、ボーデヴィッヒ」
「これで死ぬのであれば、所詮その程度の奴だったということだ」
ゼロの淡白な問いにラウラは悪びれずに言ったが、彼女の瞳は揺れていた。どうやら本人に殺す気はなかったらしい。
この時、俺は彼女を少し理解できたように感じた。
彼女は強さ、あるいは強いということに並々ならぬこだわりがある。
執着、または妄執を言っても良い。
そして、彼女の中にある『強さ』というものの根幹には、ドイツ教官時代の千冬姉がある。
――立てば軍人、座れば侍、歩く姿は装甲戦車。
その姿は、彼女の目にまぶしく映ったに違いない。それこそ、彼女が盲目的に『そうありたい』と思わせるほどに。
だが、憧憬は理解から最も遠い感情であるが故に、彼女は千冬姉の『弱点(強さ)』を理解できないのだ。
――守る故の強さ、守る故の戦い。
弱点があるから弱いのではなく、理由があるから強いのでもない。
ましてや、強いから戦うのでは断じてないのだ。
その点、ハルやゼロ先生はよく理解していたように思う。だが、彼らには彼女の葛藤や妄執は理解できてはいなかった。だから、彼女は憤ったのだ。
……なら、俺のやることは決まっている。
「ラウラ、まだ戦い足りないって言うんだったら、次は俺が相手になるぜ」
「……フン、いいだろう。だが、貴様程度の腕では私に指一本触れることは出来んと思うがな」
「やってみなきゃわからないだろ」
「御託を並べるのなら誰でもできる、さっさと始めろ」
先手は譲ると言わんばかりにクイクイ、と手招きするラウラ、しかし彼女の全武装は、馬鹿正直に突っ込む俺を血祭りにせんと狙っていることだろう。
――瞬時加速(イグニッションブースト)
俺はその見え見えの罠(といっても不可視の停止結界だが)に正面から突っ込む。俺にはその罠を食い破れるだけの勝算があった。
シャルに教わった『銃弾を斬るコツ』、
さっきハルが魅せた『人間離れした剣技』、
『停止結界が斬れる』という事実。
この三つの手がかりから編み出した策は、突き。
しかも、身体を水平にしてなるべく『零落白夜』を薄く広く纏わせた雪片の切っ先に隠しての突きだ。生身では考えられないISの空中機動力をアテにした、付け焼刃未満の技だったが、ラウラは驚いたようだった。
俺が普通に接近すれば、全身を。雪片を正眼に構えて来れば、持ち手を。斬ろうと振りかぶった体勢であれば、小手先を。
それぞれ彼女は停止させる腹積もりだったのだろう。
ハルとシャル(正確にはファーニールさんの話か)に出会う前の俺なら、いずれかを選択して完封されていただろうと思う。
このまま行けば、この切っ先はラウラに届く。そう思った時だった。
「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れるんだ。なぁ、ゼロ?」
俺とラウラの間に何かが割り込み、雪片の切っ先を逸らした。もともと慣れない体勢をさらに大きく崩された俺は受け身も碌にとれずにアリーナの床に激突した。
生兵法は怪我の元、とは誰の言葉だっただろうか。
「……」
この沈黙はゼロ先生のもので、この人はこの人で一瞬でラウラの側面に回って銃を突き付けて牽制していた。
割り込んだ何かとはIS用のブレードを持った千冬姉だった。IS用、とついているのは伊達ではなく、生身の人間に扱えるような重量ではない。だが、千冬姉は生身で問題なく使っている。もはやギャグ漫画の世界だなぁ、などとろくでもないことを地面に埋まった頭で考えていた。
「お前に聞くべきではないな、この手の話は」
「……すまな、」
「謝るな。むしろ私が恥じているんだ」
短いやり取りを終え、千冬姉が俺とラウラに介入の経緯を話す。なんでも、アリーナのシールドを破ったのがマズかったみたいだ。今度から気を付けよう。
そして、トーナメントまでこの対戦の結果はお預けとなった。
「織斑もデュノアも、それでいいな?」
「はい、構いません」
はて、シャルは一体どこにいたのだろう。と思い、起き上がって辺りを見渡す。
すると、アリーナの端、今俺たちがいる位置から最も離れた位置に陣取っていた。
その手には無骨な狙撃砲が握られていた。
後から聞いた話では、AICの狙撃対応能力を見るため、だったそうな。でも結局、発砲はしなかったからできなかったようだ。
でも、面白い物(勝機)が見れた、とも言っていたのだった。
そして、誰かがハルの弔い合戦などしないように、トーナメントまで私闘が一切禁止となった。
短い、ほんとは4000字ぐらいかいてから投稿したかったです。(後の祭り、多分別作品の短編を書いた分だけこっちが短くなってる)
最近、リアルとデレステとシャドバと冒険者ギルド物語2と艦これに注力しております(ヲイ)。
あとは、C91皆勤したり、友人に『お前「姉」が出る作品(ガルパン、ごちうさ等)に異常な執着あるよな』とか言われましたけど私は元気です。あしからず。
では、じわまで気長にお待ちください。