∞→0・ストラトス   作:さんばがらす

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難産です。忙しかったのもありますが、お待たせいたしました(コイツいつも言い訳してるな)
というか、最近始めたデレステに脳内を浸食されているのが大きいかもしれません。
しかし、浸食分は別のSS(未投稿)や活動報告や友人に発散しているので、当SSには漏れ出てないと思います。あしからず。


戦うための強さ、強さのための戦い(She is stronger than I)

威勢のいいことを言っていたハルだったが、戦闘は回避が中心であった。多数の生徒が同時に使う関係上、アリーナでは銃砲弾に近接信管や時限信管を用いることが原則禁止されているのを逆手に取り、砲弾がかするかどうかというスレスレの回避運動をやってのけた。

 

「ははは。まるでハエ叩きだ。」

 

「……弱い犬ほどよく吠える、か」

 

「何だと!?」

 

「本当のことを言って何が悪い? 」

 

――お前は弱い。

 

あからさまにそう言われ、ラウラは怒り狂いながらも、ハルの強さを頭のどこかで冷静に分析していた。

その気になれば砲弾を斬って回避が出来るにも拘らず、機動力の高さを見せつけるかのように空を舞い続けている。

 

そもそも、砲弾を『弾く』のではなく『斬る』というのが埒外なのだ。

携行火器ならいざ知らず、『シュヴァルツェア・レーゲン』ほどの大口径砲では、その砲弾は表層こそ完全被甲弾だが中身は火薬の塊であり、生半可な斬り方では誘爆をもろに食らってしまう。

 

一年前、ドイツでゼロが砲弾を斬って見せたときもそうであったが、ハルとゼロは斬った砲弾を誘爆させなかった。つまり信管を適切に焼き切っているのである。

 

「セシリアん時もそうだったけど、アイツって意外と口悪い?」

 

邪魔にならなそうな場所で二人の暴言の応酬を聞いていた鈴音がセシリアに問いかけた。

 

「人の怒らせ方、というよりは扱い方が絶妙なのですわ。ほら、最初はボーデヴィッヒさんがハルさんを煽る形だったのに、逆転していますでしょう?」

 

「それで、あの絶妙なあしらい……」

 

おそらくラウラは大口径砲を撃ちながらAIC力場で捉えようと画策しているのだろうが、その企みは空振り続けていた。『シュヴァルツェア・レーゲン』の武装であるワイヤーブレードを使わないのは、ラウラがハルVSセシリアの戦いの映像データを見ており、トーナメントを間近に控えた今、武装を破壊された場合今後の戦闘に支障が出るのを警戒したからであった。

 

「ハルさん本人はとても心根の優しい方なのですが……」

 

「博愛主義者じゃないってのは見りゃわかるわよ」

 

傍でなされていたのんきな会話の裏で、ハルは少しずつ攻め始めていた。

 

レールカノンは実弾兵器、しかも強力な磁場をかける関係から飛翔体に信管と爆薬を付けることは出来ず、純粋な運動エネルギー(KE)ダメージを与える武装であり、AICとの相性は最悪である。

故にエネルギーブレード『轟雷』による光波が最も有力なダメージソースになる。

 

そう考えたハルは、踊るような空戦機動の中に攻撃動作を混ぜ、ラウラに向かって三日月型の光波を放つ。

 

「……チッ」

 

光波の攻撃密度自体は大したことがないため、ラウラは簡単な移動で回避できるが、その間は攻撃精度が落ちた。

その落ちた攻撃精度に付け入るようにして、ハルは飛ばす光波の数を少しずつ増やしていき、いつの間にかラウラは防戦一方になっていた。すでに大口径砲も光波迎撃に回されており、ハルへの砲撃は散発的なものになっている。

 

「どうした? 息が上がっているようだが……」

 

「うるさいっ!!」

 

ラウラは大口径砲で捌き切れなかった光波をプラズマ手刀で切り払い、ハルのいる空へと上がった。

 

――このままでは埒が明かない。

 

そう考えての行動であったが、空戦機動ではハルに分があり、悪手であることがラウラも分かっていた。

しかし、攻撃回避の幅という見方で言えば、空中戦は悪手ではない。地面という壁がない分自由な回避行動が取れるからだ。

 

そして、ラウラは対ゼロのために用意していた秘策をここで使うことにした。

 

――砲声

 

「……ッ!?」

 

ハルは先ほどまでと同様に砲弾を避けようとして、故に(・・)それをもろに食らってしまった。

 

……榴散弾か!

 

ハルは驚愕した。本来なら、時限信管や近接信管が使えないルール内で榴散弾を満足に運用することは不可能だからだ。

『打鉄隼式』は機動力と引き換えに装甲を大分削っているため被弾に弱く、飛行姿勢を著しく乱され地上へ墜落した。

 

――シールドエネルギー、30%減、飛行能力50%喪失。

 

とっさに庇ったセンサー類と武装が無傷なのが不幸中の幸いだな、とハルはラウラの追撃を躱しながら思った。

先ほどは不覚を取ったが、要は散弾銃とほぼ同じであり、飛行能力が低下していてもほんの少しのマニューバで回避することができた。

 

「どうした? 自慢の空戦はもうしないのか?」

 

「本当の強者とは、場所を選ばないものだと思うが」

 

飛ぶのではなく跳ぶことによって、上空から降ってくる榴散弾を躱す。

それは、水平方向の高速移動と、垂直方向の跳躍移動を組み合わせた機動であった。

 

「お前……その動きは!」

 

「奇遇だな、私もこのマニューバには覚えがある。実に不愉快だが、これが最適解である以上、仕方あるまい」

 

ゼロの、というラウラの声を遮るようにハルは言い、光波と電磁加速砲を撃った。

 

光波が混ざることによりラウラは回避か迎撃を選択せざるを得なくなる。

 

「小癪な!」

 

ラウラが選んだのは迎撃、カノン砲で光波を撃ち、残りをAICで止めた。砲弾と光波が激突し大きな爆発が起こる。

AICで爆風を防いでいるラウラとは異なり、ハルは衝撃をもろに食らって身動きが取れない可能性が高かった。

故に、その爆風の向こうにいるハル目がけて、ラウラはカノン砲を三連射した。

 

「甘い」

 

しかし、彼女は思い違っていた。

以前、機械の体で戦場を駆けていたハルにとって、その程度の爆風などそよ風同然だということを。

 

三点射で放たれた砲弾と合わせるように三度、光刃が振るわれた。

その三閃は砲弾を誘爆させることなく両断し、今まで途切れることのなかった『シュヴァルツェア・レーゲン』の砲弾幕に一瞬の、しかし致命的な穴を開けた。

 

――瞬時加速(イグニッションブースト)

 

まるで狩りをする猛禽類のように、ラウラという獲物へと急接近したハル。

一足遅れてそれを認識したラウラは、後手に回りながらもハルの動線上にAICの停止結界を張り、適切に対処しようとした。

 

「貴様がやたらアテにしているそれだが……そんなオモチャでは、私は止められない」

 

彼女は素早く、しかし素っ頓狂なタイミングで光刃を振るった。光波を出すには近く、切っ先を届かせるには遠い、そんな間合い。

故に、彼女は何もない虚空を斬ったはずだった。

 

「っ!!?」

 

停止結界が、斬れた。

エネルギー兵器同士が干渉するときのような怪音を響かせ、ハルの剣閃はAIC力場を退けた。

原則的に不可能ではないが、斬るとすれば停止結界には先に腕が引っかかるはずなのだ。

 

ハルはその後、まるきり常識はずれな現象に驚愕するラウラに肉薄し、嵐のような連撃を喰らわせた。瞬く間に『シュヴァルツェア・レーゲン』のシールドエネルギーは底をつき、ISが解除された。

 

・・・・・・・・・・・

 

俺は、『斬る』という行為の一つの極致を見た。

 

ハルの剣捌きはおそらく、エネルギーブレードやバイブレーションソードのような、斬るのに『引き』も『押し』も『重さ』もいらない剣に特化したものだ。

これらの特殊な剣は、ISの台頭によって急速に開発が進んだ武装だ。

ここまで考えて、俺は少しの違和感を覚える。

 

――ISの台頭から今までの、数年というごく短期間で、あそこまで練磨された剣術が生まれるだろうか?

 

「あの握り、振り、足運びはどれも既存の剣術にはないぞ。千冬さんのIS剣術と違って」

 

俺と同じ疑問を持ったであろう箒が言う。彼女は専用機持ちではないが、その近接戦闘能力の高さから今回の練習に呼ばれていた。

 

「やっぱりそうだよな」

 

千冬姉の剣には篠ノ之流をはじめとする多くの剣術流派の所作の名残が確認できるのに対し、ハルの光剣術とも言える剣の所作にはありていに言って――人間味がなかった。

 

――飛翔することが前提の踏込み。

 

――地に足を付けずに二刀を切り返す体捌き。

 

――ISの縦横無尽の高速移動に全く遅れない知覚。

 

特に最後の『知覚』の部分が、人間味を感じさせない大きな原因になっていた。

 

「一番近いのは得物が似ているゼロ先生だが、ゼロ先生の剣は速さと精密さが振り切れているだけで、動き自体は単純なものが多い」

 

ハルは二刀である分、ゼロ先生と比べて手数も多く複雑な動きが必要であるにもかかわらず、それらを完璧に使いこなしていた。

 

「……面白いな。箒」

 

「ああ、まだまだ世界は広い。だから面白い……学年別トーナメントが楽しみだな」

 

俺は、何の気なしに箒を見る。

箒は未だ残心を解かぬハルを食い入るように見つめ、先ほど彼女が見せた未知の動きを頭の中で反芻しているようだった。

 

最近、避けられたり、意味もなく暴力を振るわれたりで箒のことがよく分からなくなりかけていたが、こういう負けず嫌いなところは昔から変わらないことが分かって、俺は少しうれしくなった。

 

・・・・・・・・・

 

「……AICを近接信管の代わりに使ったか、あれはいい攻撃だった」

 

勝負がつき、損傷の具合を確かめるためにピットへ戻るハルが、去り際に言った。

 

「お前こそ、何が2.5世代(出来損ない)だ。『視えて』いるんだろ、AIC力場が」

 

「フン、どうだかな。当たらずとも遠からず、と言っておこうか。一応、隼式は日本の開発中IS(重要機密)だからな」

 

ラウラのかけたカマには引っかからなかったが、ラウラは確信を持っていた。

原則として、IS学園に所属する生徒やそのISの情報は各国で共有されているが、開発中の武装に関してはその限りではなく、情報の秘匿が可能なのだ。

故に、ハルのISの第三世代たる所以はレールガンなどではなく、先ほど一夏たちが疑問視した『人間離れした動き』を可能にするセンシングユニットにあり、そのユニットはAICの不可視の停止結界すらも視認し得るというポテンシャルを秘めていた。

 

「……お前は、なぜ強い」

 

かつて、ラウラはドイツでゼロにした問いを、まるで条件反射のようにハルに投げかけていた。

ハルはピットへ戻る足を止め、踵を返してラウラをまっすぐに見つめる。

 

「強い、に理由はいらない。強さとは、勝った負けたの積算でしかない……かつて最も強くて偉大な英雄さえ、自分を強いとは思っていなかったぐらいだ。そもそも強いか否かも重要じゃない。何のために戦うのか、それこそが肝要だ」

 

――戦う理由があれば『強い』か否かは関係が無い。と、かつてゼロは言った。

 

「お前も、ゼロと似たようなことを言うのだな」

 

ラウラの胸の内で、ふつふつと一度は収まった怒りがこみ上げてくる。彼女には、ハルのその答えが自分への嘲笑のように感じられたのだった。

 

「それは不本意だが、光栄だな……ッ!!?」

 

――アイツの戦士としての在り方だけは認めている。

 

という言葉はラウラの行動によって遮られた。

 

「ふざけるなよ山田ハル……それは、『最初から強い奴』の理屈だ」

 

彼女が最後まで使わなかった武装、ワイヤーブレードでハルを拘束した。

ハルはとっさにISこそ展開できたものの、避けることは適わなかった。

 

ラウラは思っていた。

ハルやゼロの言った理屈は『強さ』の使い道の話でしかなく、強くなること自体の理由にはならない、正真正銘『強者の理屈』である、と。

 

こちらが強く、お前が弱いから、お前は勝てないのだと。

『強さ』に理由を求めるようなお前など、どう頑張っても弱いままなのだと。

暗にそう言われているようにしか考えられなかった。

 

ラウラの怒りに呼応し、ワイヤーブレードの拘束が強まる。

 

「グッ……」

 

「……私は強い……弱くなんかないんだぁッ!!」

 

そして、ラウラはトドメと言わんばかりに肩部カノン砲を発射した。




ラウラは今荒れていますが別にアンチヘイト、というわけではありません。
あと、信管云々の話は独自設定です。あしからず。


では、じわまで気長にお待ちください。

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