∞→0・ストラトス   作:さんばがらす

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……気付いたら一年以上更新してませんね。

読んでくださる方がいらっしゃるかはわかりませんが、じわです。あしからず。


弾雨の後/ゼロ・シノノノ

理由は不明だが、俺は箒と鈴とセシリアに散々追い掛け回された後、箒に後でゼロ先生の部屋の前で集まることを約束し、一旦自室に戻った。

 

――ガチャリ

 

「あっ」

 

「あっ!」

 

部屋に入った途端、タオル一枚で風呂場から出てくるシャルルとばったり出くわしてしまった。

いつもきっちり着替えてから出るシャルルがなぜこんなことになっているかというと、俺が切れていたシャンプーを詰め替え忘れたからだ。

その証拠にシャルルの手にはシャンプーの空の容器が握られている。

 

「ええっと……シャンプーって、どこ……だっけ?」

 

「お、おおぅ!? ……俺が持ってくから風呂ん中入っとけ。湯冷めするぞ」

 

お互いに全くの予想外の事態に大きく動揺している。俺も声が半オクターブぐらい上ずっているのがわかった。

 

「う、うん。じゃあお願い」

 

シャルルが空のシャンプー容器を俺によこしてバスルームに引っ込んだ。

 

「…………今のは何だ?」

 

シャルルに胸があったぞ?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど、わからん。

一体全体何が起こってるんだ。

とりあえずシャンプーを詰め替えて脱衣所に置いてきた。

 

まずは……冷静になって考えてみよう。

 

1.俺の見間違い。

これが一番有力だ。というか、そうであって欲しい。箒の「男女七歳にして同衾せず」ではないが、幼馴染でもない女子と同じ部屋などというのは道徳的に大変よろしくない。それに、シャルルは男、という触れ込みで転校しているため、それが嘘偽りだった場合、背後にきな臭い事情が見えて来てしまう。

 

2、シャルルはおっぱいの付いたイケメンである。

これも、俺の『シャルルは男であって欲しい』という願望が生み出した希望的観測に過ぎないが、クラインフェなんとか症候群のように、男女両方の形質を持って産まれていて、本人の気持ち的には男なのかもしれないということがないとは言い切れない。

 

3、シャルルは女、現実は非常である。

もはや語るまい。読んで字のごとく也。

 

 

……やっぱり3だ。悲しいけど思春期男子のエロ視力が見間違いなどあるわけがないのだ。

よくよく考えれば、シャルルの反応といい、仕草といい、肯定材料として十分すぎる。

そう考え始めたら、風呂場の方からのシャワー音が途端になまめかしい物に脳内変換される……いかんいかん、俺は由緒正しい日本男児、色欲などに屈したりはせん。

ただでさえ、ISの台頭で男の形見が狭くなっているのだ。俺が下半身でものを考えるような最低な男に成り下がった暁には、世の男はそれこそ蛇蝎のごとく嫌われてしまうだろう。

 

……ガチャリ。

 

シャワールームのドアが開き、シャルルが恐る恐るといった様子で出てくる。

 

 

――気をしっかり持て、一夏。これからのお前の行動には、男の未来がかかっているんだ!!

 

と自分に言い聞かせ、男子高校生であれば、どうしようもなく迸ってしまうサムシングを鎮め、これからの事態に臨んだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

結果的に火サスの犯人顔負けの自供をしたシャルルだったが、一夏の機転で、彼女はIS学園卒業までに、産業スパイとして自身を学園に送り込んだデュノア社との関係を何とかする。という方向で話が纏まった。

 

途中、箒が一夏を呼びに来たが、シャルルが体調不良で目が離せないということにして、ゼロ先生の話は後で箒から聞く、ということになった。

 

 

…………

 

「全く、一夏の奴ときたら……」

 

せっかく二人きりになれるチャンスだったというのに、と箒は思う。

彼女は、同性のルームメイトの看病など他の女子に任せて、幼馴染みである自分を優先して欲しかったが、一夏の誰にでも分け隔てない優しさも彼の魅力の一つであるために一夏に何も言い返せず、一人廊下を歩く箒はやり場のない苛立ちを覚えていた。

 

――誰にでも優しい彼だけど、私を誰よりも大切にして欲しい。

 

彼女が、最近購読した雑誌の特集『男に敬遠される女子の名言二十選』の一説が頭をよぎる。

 

……わ、私は、重い女でも、めんどくさい女でもないっ!

恋する女の子が意中の男にそう願って何が悪いのか。いや、悪くない。

では、悪いのは誰だ。

私の気持ちに気付かぬ一夏が悪い。

 

よし、戻ったら一発ぶん殴ろう。

 

と、苛立ちの矛先を、一夏の預かり知らぬところで一夏に向ける箒であった。

 

――女から男への暴力は基本合法。

 

という、同特集の別の一説は、彼女の頭から完全に抜け落ちていた。

 

頑張れ一夏、負けるな一夏、これにあり。

 

 

…………………

 

そんなこんなで箒は千冬の部屋にたどり着き、少し緊張した面持ちでゼロとの話し合いに臨んだ。

 

「来たか、まずは座れ」

 

最初は千冬が口を開く。

 

「いろいろ聞きたいことはあるだろうがまず言っておく、ゼロはお前たち篠ノ之家とは血のつながりはない。故にお前の両親はこの件に一切関与していない」

 

「それは……」

 

もう調べがついている。箒は時間があったので両親に確認済みだった。

 

「念のためだ、一応、一夏にはそれだけでも伝えてくれ、アレはいつも余計な勘繰りばかりするからな……では、本題に入ろう」

 

一夏が来ないことは、事前に千冬に連絡していた。

そして、簡易キッチンから茶を淹れてきたゼロが戻ってくると、本来の話し合いが行われた。

 

「……オレはある目的のためにタバネと協力関係にある。その目的については話せないが、タバネには話してある。シノノノ、という性はこの学園でもっとも行動しやすいということで借りている状態だ」

 

以前、箒が問うた何者か、という問いに答えるような形でゼロが単刀直入に言った。

 

「あの人が、誰かと協力するとは思えない」

 

「それは私も思った。だが、現にこんな状況になっている。そんなに気になるなら、お前の姉に確認してみるがいい」

 

千冬がそう提案したが、実は箒は姉にも連絡済だった。その電話口で束は、

 

……ゼロの言うことがきっと真実だよ。

 

と、いつもの調子から一転、真剣な声色で言ったのだった。

しかも、名前を覚えるのが苦手な姉がきちんと名付きで呼んでいることを見るに、姉の眼鏡にはかなったのだということが理解でき、これ以上の追求は憚られた。

 

だが、束的には、ISの名前と同じような感じで機械的に覚えて呼んでいるに過ぎず、『名前』として憶えている訳ではないのだが。

 

「いえ、必要ありません。それで、ゼロ先生はいつまでこの学園にいて、『篠ノ之』を名乗るつもりなんですか?」

 

「……目的が達成されれば、オレはここを去る。コセキ等もおそらくタバネがすべて消し去るだろう」

 

「去る、とはどういう意味ですか」

 

箒が少しばかり語気を強めた。本当に学園から去るだけで篠ノ之の影響力から逃れることができると思っているのか、知りたかった。

 

「……タダのゼロとして、元いた場所に帰る」

 

「それでは甘いんです!! 貴方は『篠ノ之』姓が世界に与える影響を何もわかっていない」

 

『篠ノ之』を名乗った時点で、世界中に注目され、記録され、利用されてしまう。

『元いた場所』がそうではなくなってしまう。

 

姉さんもそうだ。あの人は孤高だから人の恐ろしさを知らないのだ。

戸籍を消したところで、人の記憶からは消せない。とても優秀な篠ノ之のIS乗りがいて、途中でいなくなったとなれば、人相書きを作った諜報員によって地の果てまでも探されてしまう。

それこそ政府の要人保護プログラムか、人の文明圏と隔絶された場所に行かない限り、追っ手は撒けない。

 

箒は、ゼロは目的達成後に本名を名乗ってどこぞの本当の所属先に戻るか、このまま教師として赴任するものだと思っていた。

もう一つ、死による逃避という方法はあったが、それは考慮に値しなかった。

 

「それについては問題ない。ゼロは、おそらく束にしかわからないような辺鄙なところから来ている。学歴等も偽造で、そこから追っ手が付くということはない」

 

「……おそらくはタバネも、足はつくまいと踏んで、この経歴と苗字を付けたはずだ」

 

「……」

 

二人の言っていることがすべて本当であるなら、何も問題はない。だが、一対一、もしくは二対二等のフェアな戦闘を重視する学園ではあまり身につかない一対多戦闘(アンフェア・バトル)のエキスパート、おそらく千冬ですらその分野では及ばないだろう人材を野に放つのはいささか危険すぎると各国が判断しないとも限らない。足はつかなくとも、関わった人間に執拗な取り調べがあることは容易に想像できる。

 

――なるほど、そのための『篠ノ之』か。

 

箒は姉の考えの片鱗を理解した。

篠ノ之一家は政府の要人保護でがちがちに監視されており、ゼロのゼの字も知らない状態だ。取り調べても何か出てくるはずがなく、残る束は消息不明であるために取り調べようがない。故に、各国はゼロの追跡を断念せざるを得なくなる。

 

「……他に、説明しておくべきことはあるか」

 

「いいえ。ありません。本日はありがとうございました」

 

そういって、箒は席を立つ。本来ならゼロの正体や本当の経歴を聞こうと思っていたのだが、前述の理由から、深く知ることが悪手になるということが分かったのでこれ以上の詮索は辞めた。

 

「部屋まで送ろう。もう消灯時間ぎりぎりだからな。生徒一人歩かせては不審がられる」

 

ゼロもそれに続こうとしたが、二人も教師がいてはまるで連行だ、と千冬に諌められたために、一人部屋に残った。

 

……………………

 

「織斑先生は、どこまで知っているんですか?」

 

自室への道すがら、箒は千冬に聞いた。この話し合いに千冬が参加していたのが不思議だったからだ。

 

「一応、アイツの目的や正体を知っている程度だ。まぁ、あまり気分の良い話ではない。ゼロとはドイツで知り合った」

 

……しかし、ドイツに属しているわけでもなかったがな。と千冬は続けた。

 

深く詮索すまいと思っていた箒はこれ以上聞くことはせず、二人はしばし無言で歩く。

すると千冬が、少し躊躇しながら口を開く。

 

「篠ノ之は……人間と機械の違いについて考えたことはあるか?」

 

ISには、人格の様なものがあると、一般的に言われていたのを箒は思い出した。

 

「さぁ……考えたこともありません」

 

「……そうか。つまらないことを聞いた。忘れてくれ」

 

仮に、人格があったとしても、それはただの『人格のある機械』で、それ以上でもそれ以下でもないのではないだろうか、と箒は漠然とだが思い、そこで思考停止した。箒は姉と違い、悲しいほどに凡人だった。

 

「着いたな。明日も早い、しっかり寝て寝坊などせんように」

 

「はい。見送りありがとうございました。おやすみなさい」

 

そういって箒は部屋に帰って行った。

 

教員寮へ戻りながら、千冬は箒の物分かりの良さに感謝していた。彼女はゼロの正体や本当の出自については何も触れてこなかったからだ。

もし触れていたなら、事前にゼロから説明されていた経歴を話さなくてはならなかった。

 

その経歴というのは、束とエックスが笑い転げながら作った波乱万丈かつコメディタッチのものであるというのは、言うまでもないだろう。




読んでいただきありがとうございます。

(以下、読み飛ばし推奨な御託)
私のポリシーとして、「自分が読みたかったけど、誰も書いてくれていない」SSを書く。というものが根底にありまして、ある意味私のすべての作品は自己満足の一環なのです(まぁ、二次SSなんて平たく言えばみんなそうなのかもしれませんが)、故に、私が書いて、私が読んだ段階で目的の9割以上は達成できていると言っても過言ではありません。
つまり何が言いたいのかというと、誰も読んでくれなくてもきっと、じわ投稿はやめないだろうということです。それこそ、リアルの状況が忙しかったり、続きが思いつかなかったり(書きたいことはいっぱいあるけど肉付けと繋ぎに頭を使う今日この頃)したらまぁ、短編に逃げたりしますけど。

自己満足といっても、皆様の感想、評価コメント等は私の励みになっております。あしからず。


では、じわまで気長にお待ちください。

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