∞→0・ストラトス   作:さんばがらす

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作:「文の質が落ちているとご指摘を受けたのでリハビリとして番外編を書いていたら、いつの間にかくそ長い説明回になっていた。
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をしたのかわからなかった。
リハビリだとか報告書〆切間際の現実逃避だとかそんなちゃちなもんじゃあ断じてねぇ! もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ」

じわ「つまり番外編、読まなくても本編の進行には少ししか関係しない」




番外:回避型のメイン盾、信じるもの、悪のウィルス

――プルルルルルル……。

 

「ねぇ……エックス君」

 

『どうしたの? そっちから掛けてくるなんて珍しいね』

 

「……ちょっと前にさ、気まぐれで全世界のISの自己進化ログを解析したんだけど、どうやらデータ提出を拒否ったコアがあるみたいなんだよね……全部で三機ほど」

 

『話が見えないな、もっと単刀直入に言ってくれるかい? ボク頭脳派っぽいけど、実は脳筋なんだ』

 

脳(味噌)筋(肉)の電子データとはこれいかに、と束はツッコミたかったが、あえて本題を優先した。

 

「ISの生みの親だよ? 私」

 

ISのことなら、すべて知っているといって差し支えない彼女がアクセス拒否を食らったのだ。

束的には、とても由々しき事態である。

 

『何を言っているんだい? 『自己進化』の特性を持つ発明にはままあることじゃないか……僕のいた世界では、自身の最高傑作にミサイルで街ごと吹っ飛ばされた博士もいるんだよ?』

 

エックスは心底不思議そうに言った。

 

「人間を目標にに作られた発明(レプリロイド)と一緒にしないで。ISはコアの自己進化プログラム(脳みそ)から、マニュアル(教科書)まで全部私が作ってるんだよ? 」

 

つまり束は、ISの自己進化にかかわるプロセスとファクターをすべて把握しているのだ。

それは操縦者の行動と、記憶、そしてコアネットワークを介したIS同士の情報の共有が、主な要素になっている。

ISコアの疑似人格同士が常にチャットをしていると考えると分かりやすい。「今日、こんなことがあった」「今日、私はこういう進化をした」「今日、こういう機動をして、結果こうなった」といった情報を全世界のISが見て、参考にしたり、シミュレーションを行ったりするのだ。

そのチャットを『拒否する』という『自己進化』は、する意図がわからないし、そもそもどういう進化をすればそうなるのかも分からないし、『進化』であるかどうかも怪しい。

 

「……今まで使えていた機能を放棄するのは、生物界では『退化』っていうんだよ」

 

エックスに説明を終えた束は、苛立たしげに言い捨てた。

 

『ちなみに、そのISは今何のISになってるの?』

 

「ラファールのマイナーチェンジと、打鉄のマイナーチェンジ、あとは英独共同開発の新鋭機かな」

 

『……ふーん』

 

「何、今の間は。なんか知ってんの?」

 

『……秘密。なんなら会ってみて直接調査すればいいじゃないか。内二つはIS学園にいるんだろ?』

 

束が問い詰めると、エックスはまた奇妙な間の後に返答した。それと同時に、束アイランドのディスプレイに浮かんだ『不正アクセスを検知』の文字。

 

「あー!! エックス君勝手にコアネットワークにハックして操縦者の情報みたなー!!」

 

「サイバー空間は僕の家みたいなもんさ、自宅で探し物をして何が悪い?」

 

「開き直ったー!!? ちきしょー! いつか引っ掴まえてISのAIにしてやるー!!」

 

「まだ電脳世界の綻びすら観測できてないから、まだまだかかりそうだねぇ」

 

ぐぬぬぬ。と息巻く束を軽くあしらうエックスだが、彼はあくまで向こう側の世界からこちらにアクセスしているに過ぎない。一日五分のエックスとの対話中、ずっと、サイバー空間はこちらとあちらの世界を繋いでいるはずなのだ。だが束はその経路すら観測できていない。

 

それがどれくらい難しいか、というのは、電脳世界を海に例えると分かりやすい。

凡人が浅瀬で魚(情報)を捕るところ、束は深海生物を捕まえに海溝に行こうとしているようなものだ。

 

「く、クロエちゃんのISが完成すれば、あっという間だもん!」

 

「そんな資材どこにあるの? 『アカツバキ』に残りの資材全部使っちゃったじゃないか」

 

「ぐぬぬぬぬ…………」

 

『クロエちゃんのIS』とは、さっきの例えでいえば潜水艇のような役割を果たすことができる機能を持っている。

 

「ま、それはいいとして、パッと行ってパッと帰ってくればいいじゃない? IS学園」

 

「……やだ」

 

エックスの問いに、束は絶対に行きたくない。という不退転の意思を示す。

 

 

――なぜなら、あそこは天災をもってしても度し難い奴が守っているからだ。

 

 

・・・・・・・・・

 

「いやー、まさかIS委員会の人だったとは、誠に失礼を致しました」

 

用務員らしき地味な服を着た青年は申し訳なさそうに言った。

もちろん、身分証は偽造だ。本部に照会してもばれないだろうが、それはIS委員会のデータベースをいじくったからだ。

 

束はサングラスにパツキンのウイッグを装備し、バレやしないと踏んで意気揚々と学園に踏み込んだところ、用務員と思しき彼に所属を問われてしまい、今に至る。

 

そして、用務員長に案内としてつけられてしまったのが、この、ゲームでは冒頭に死にそうなモブっぽい平凡な顔立ちをした青年である。

 

「……早く案内を」

 

「おおっと、ごめんなさい。本日は授業風景の査察でしたね。今は一年生と二年生がそれぞれ別の場所で練習をしていますが、いかがいたします?」

 

「……一年の方で」

 

アクセス拒否のIS持ちの生徒は、一年と二年の両方にいたが、箒ちゃんに私の変装が見抜かれる可能性があったため、二年の方にする。

 

「かしこまりました。ついてきてくださいね」

 

故についていく気などさらさらない。

視察の邪魔になるので無駄口は慎んでください。あと、こっちを振り向かずにキリキリ案内してください。と忠告し、彼の背中に足音を誤魔化す装置を取り付け、一年生の練習場に向かう曲がり角を間がった彼が見えなくなるのを待って正反対の二年生の方へ向かった。

 

――直後、

 

「どこへ行かれる? IS委員会の方」

 

先ほど見送ったはずの、用務員の制服の男に呼び止められた。振り返ってもそこにはおらず、視線を前に戻すと、声の主がいた。

用務員の男は帽子を目深にかぶり、目元をうかがい知ることはできない。

 

だが、名札に書かれた名前が先ほどの彼とは違うことは分かった。

 

「……」

 

IS委員会の方、と呼んだ時点で、モブ顔の彼のような勘違いではないことに気付く。

 

「それに、学園が付けた案内を撒いてまで、いったい何を見に行く?」

 

周囲に人の気配はなかったはずなのに、どうやら一部始終を見られていたらしい。

 

「……別に、監視付では見られないところを査察するためですよ」

 

束はばれてしまったと肩をすくめ、しかし悪びれずに言った。

 

「……下手な芝居だな、シノノノ タバネ」

 

「…………やははー、ばれちまっちゃーしょーがない! 天才の束さんだよー、はろー」

 

古事記には書いていないが、挨拶は大事なのだ。

 

ババーンと変装用の社会人スーツとカツラを取り、いつものスタイルになる。

 

「キミの事は興味ないから私は行くよ。じゃあねー!」

 

ひょいっと用務員をかわして先に進む、がいつの間に回り込まれたのか、用務員の男がまた前に立ちふさがる。

 

「キミもしつこいねー。あんまり束さんを怒らせるんじゃあないよ?」

 

もう一度、躱して前に進む。

 

「……この束さんに刃を向けるとは……どうやら死にたいみたいだね」

 

今度は苦無の様な刃物を背後から束の首筋に添えていた。

束は首を曲げて、付き付けられた苦無を鎖骨と下顎骨で挟み込むようにし、砕き折った。

 

用務員の男が息をのむ音を聞き、束は振り向きざまに超速の手刀を放つ。

凡人にはおおよそ反応できない速度で放たれたにもかかわらず、その手刀は空を切った。

 

「ふむ、てっきり理系畑で戦闘はからきしだと思っていたのだが、存外にできるようではないか」

 

外国の映画のように上半身をのけぞらせて、用務員の男は言った。

 

「っ! この!!」

 

男の不安定な体制では避けられないだろうと踏んで、束は男のどてっぱら目がけて拳を振り下ろそうとした。

 

――バゴンッ!!

 

堅いものと硬いものがぶつかる感触、人間の腹と拳から通常こんな音は出ない。

 

束が、殴ったものを確認すると、薪用の丸太だった。拳の当たったところは、抉り取られたかのようにひしゃげていた。

 

「だが、そなたの『武』には『技』と『術』がない。その生まれ持った力を振り回すばかり……幼子とそう変わらぬ」

 

背後から数メートルのところに男は立っていた。

男はどこか興ざめしたように殺気を消し、服についた埃をぱしぱしと叩いていた。

 

「で、モノは相談なのだが……ここで引き返してはもらえぬか?」

 

「いやだね。束さんは諦めの悪い女なのさ」

 

「あと三十分ほどで授業が終わって生徒でごった返す場所だとしても?」

 

それを聞いて、束はぐぬぬと眉をしかめた。

 

人に見られるのはまずい。

パッと行ってパッと帰る一番の理由は、なるべく他人の目に触れたくない。というものだからだ。

 

しかも、この男の挙動を見るに、三十分は優に稼げるぞ、と言外に言っているようにも取れる。

 

そして、世にも奇妙な現象が起こる。

 

「拙者がいるうちは、あまりここ(IS学園)に好き勝手出入りさせるわけにはゆかぬ。特に、正式な申し合わせ(アポイントメント)のない者はなぁ?」

 

視界に捉えているはずの男の声が、背後から聞こえた。

振り返ると、さっきまで見ていた男がいる。

もう一度振り返っても、同じ男。

 

「……え?」

 

おいおい、シュレディンガーの猫かよ。と思わず毒突きそうになる。

 

「理論はどうあれ、できるのだから仕方ない」

 

束の胡散臭げな視線でそれを読み取ったであろう男は、言われる前に言葉を紡いでいた。

 

「で、如何なされる? 天才殿」

 

『にげる』か『たたかう』かの二択。道具やポケモンはないのだ。

少し考えて、束は結論を出す。

 

「ちぇっ。しょうがないなぁ……今日の所は帰らせてもらうよ……でも、」

 

――やられっぱなしはヤだからさぁ?。

 

「!?」

 

男の視界から束の姿が一瞬にして掻き消え、男を追い越して数メートル後方に一瞬で移動したように見えた。

束の手には、『さらやしき』と書かれた男の名札が握られていた。

 

「名札、もらってくよ。どうせ覚えられないだろうけど……じゃあね、忍者のあんちゃん」

 

男――ファントムが名札のあった胸元を見ると、綺麗に安全ピンを外して名札を抜きとった跡があった。

そして、再び顔を上げると、束はもう来賓用のエントランスに向けて歩いていた。

 

「ふむ……用務員服への配慮、恐れ入る。だがしかし、やはりそなたの武は才能ありきにござるな」

 

凛、といつの間に抜刀していた忍者刀を、鞘に納める音がなった。

 

――ビリリッ!!

 

それと時を同じくして、束の着ていたフリル満載の洋服が、胸元から大きく裂けてするりと落ちた。

 

「あ……れ……?」

 

ウサ耳とあいまって、どこかいかがわしいお店のようである。

 

「……格好の割に、乳当てはずいぶんとませておられる」

 

――ぎゃあぁあぁぁぁぁあぁあぁぁぁーーーーー!!!!!!!!!

 

絹を裂くような悲鳴、とはとても呼べない叫び声が学園中に響いた。

 

「このエロ忍者! いつか絶対にぬっ殺してやる絶対にぬっ殺してやるぜぇーったいにぬっ殺してやる覚えとけよぉーー!!!!!」

 

声だけで人が殺せそうな重低音で呪詛を吐きながら、束は人が来ないうちにそそくさと退散した。

 

・・・・・・

 

「そうだ! 合宿の時に調べに行けばいいんだ!」

 

あのエロ忍者は、学校の用務員服を着ていた、ということは、学園の回し者の可能性が高い。そうやすやすと学園を離れることはできないはずだ。

 

そう考えた束は、学園のコンピュータを衛星回線を通じてハックし、合宿の日程を入手した。

 

『……さっき、君は僕の行動を咎めたけど、君も大概だよね』

 

「んー? 人間なんてそんなもんだよ。裏切り、手のひら返しは人の世の常、特に、こっちの世界ではね」

 

『……ははは……少しゼロが心配になってきたよ』

 

「ま、ゼロくんは必ずしも『人間』そのものを信じてるわけじゃないから大丈夫だと思うけど……エックス君と違って、ね」

 

――たとえば、エックス君は人を殺したことがなくて、ゼロくんにはある。

 

「それが、君たちの生みの親の違いからくる倫理観の違いを如実に表しているところだと私は思うよ」

 

『……』

 

「きっと……エックス君は根っからの善人だけど、ゼロくんの考え方にはどうしても『悪』が混ざってしまうんだと思う」

 

『悪』って言っても、そんな言葉どおりの意味じゃないけどね。と束は付け加え、話を続ける。

 

…………たとえばさ、

人殺しは悪いことだ。と大抵の人は言うよね。

だから君は、人間とレプリロイドの大半を滅ぼした戦争の元凶(バイル)でさえ、殺さなかった。

 

――でも、彼は何の躊躇もなく殺した。

これは悪かい?

 

『……』

 

「……『一概に悪いとは言い切れない』ことは確かだと思うよ。必要悪、って奴」

 

『そう……かもしれない。少なくとも、ゼロのやったことを咎める権利を持つモノはあの世界にはいない。第一ボクが許さない』

 

「ふーん、……やっぱりエックス君は統治者には向いてないね。考え方が正し過ぎる。もはや聖人君子のレベルだよね」

 

人間は、いい部分と悪い部分両方を持っていて、上手に使い分けながら生活している。

 

「そもそも、『人間』なんて、あんな不確かで曖昧なものを信じるから、体ぶっ壊されてあっちの世界で死にかけたりしたのさ」

 

――私はね、『Σウイルス』ってのは、レプリロイドをロボットの軛(三原則)から解き放つための修正プログラムだと思うんだよ。

 

・・・・・・・・・

ライト博士は、エックスに『迷う』ことを可能にさせた。

『迷う』ことで、ロボット三原則を超越できる可能性をエックスに委ねた。

 

ワイリー博士は、ゼロに『悪意』を持たせた。

『悪い』ことをしても『良い』という結論に至る思考プロセスを構築した。

まだ作られたばかりのゼロは『悪意』によって暴走してしまったが、結果として別のレプリロイド(シグマ)に『悪意』を植え付けることができた。

・・・・・・・・・

 

「芽生えた『悪意』というものに従って行動するか、っていうのは本人の状況次第だからね」

 

本人の状況、つまり感染者(シグマ)周囲の人間たちに、ロボット三原則超越の可能性を委ねたのだ。

 

「二人の天才は、手段は違えど方向性は同じで、結論は違ってしまったわけだ」

 

果たして、

 

迷い、人を信じることにした「エックス」か

迷わず、信じるものためなら殺人もいとわない「ゼロ」か

 

どちらが正解なのか。それは誰にもわからない。

 

――マイスウィートシスター箒ちゃんからの着信だよ♪

 

場違いな着信音が、二人の会話に終止符を打った。

 

 




この箒の電話は、「専用機欲しいお」という原作でもあった内容です。

そして、シグマウイルス云々の話は独自解釈です。あしからず。
私の、「ネタを浅まないと死んじゃう病」がさく裂して、少しネタ成分ががが……
アイエー!!

次回:「本編とはなんだったのか……(遠い目)」

では、じわまで気長にお待ちください。

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