じわ(今話)「……遅かったじゃないか(書くのが)」
作者「モルスァ!!」
――――ドゴォオォン!!
遠方で爆発が起こった。
『緊急事態発生、各員、第一種戦闘配備、基地内にて侵入者、繰り返す……』
侵入者、というあたりでいぶかしげな表情の千冬。
「おかしい、ここに戦略的価値など……」
「……ところがどっこい、あるんだよ。ISっつう核よりも割りのいい戦略兵器がな!!!」
演習場の入り口付近、思わぬところから返答があった。
そこにいたのは、IS(シュヴァルツェア・ツヴァイク)姿の妙齢の女。
「……何者だ」
ゼロがクロワールを展開しながら問うた。
「巻紙礼子、って偽名だ。所属と本名(コードネーム)は……素直に聞かれて教えるわけねぇだろ?」
女は荒々しい口調で返答、獰猛な笑みを浮かべる。
「ここは、虎の子部隊の訓練施設だけあって、数多くのISが配備されてる。そのくせにISに乗るのは素人に毛が生えたレベルのひよっこ共と来た。これは襲われても仕方ねーと私は思うんだが……」
「IS強奪……そうか、亡国企業の連中か」
「ほぉ。かの有名なブリュンヒルデ様に覚えられるたぁ、光栄だね」
千冬の推測は襲撃者本人によって肯定された。
「467機しかない兵器をぶんどるなどというイカれた発想を持つ輩はそういないからな」
「ははっ。違いねぇ」
巻紙礼子と名乗った女はにやりと笑った後、ゼロをまじまじと見る。
「一応、駐機状態で放置されてたこいつを持ち帰れば任務達成なんだが……気が変わった」
――その紅いIS、くれよ
「……断る」
問答無用、といわんばかりに斬りかかろうと殺気を強めたゼロ。
「いいのか? そんなこと言って、お前はともかく、そこの白いガキと生身のブリュンヒルデさまは、流れ弾にでも当たったらおっ死んじまうってのによぉ」
だが、巻紙礼子の一言と、千冬たちに向けられた武装を見て踏み止まらざるを得なくなった。
「それに、スナイパーに狙わせてっから、おかしな真似しやがったら……わかるだろ? 大人しくしろよ」
そう言いながら、彼女はゆっくりとゼロに近づき、40センチほどの装置を取り付けた。
「『剥離剤(リムーバー)』ってんだ。聞いたことぐらいあるだろ?」
「……知らんな」
「なら、身をもって知るといいぜ」
装置が展開し、四本の脚がゼロに取り付いた。
そして、そこから特殊な電流が流される。
「……?」
ただの人間だったのなら、自らの身を焼く電流に悶絶していただろう。
だが、ゼロは戦闘レプリロイド。この程度の電圧では、ゼロにそこまでの苦痛を与えることは出来なかった。
しかし、剥離剤(リムーバー)の目的はそこではない。
ゼロの真紅の装甲が消え失せたのである。
「な、ISが解けた!?」
一部始終を見ていたラウラが驚き、千冬は『存在しない兵器』の存在とゼロの窮地に顔をしかめた。
だが、驚いているのは、彼女達だけではなかった。
「おりょ? 本当ならコアだけになるはずなんだが……なんかミスったか?」
それもそのはず。
ゼロのISは、たとえ解除されていても待機形態をとらず、ゼロの左胸に格納されているため、外に出てくることはないのだった。
「ま、でもその指輪が待機形態ってんなら、それをもって返りゃ、あとはどうとでもならぁな」
そういって、巻紙はゼロの指からリングを抜き取る。
その間、ゼロは不気味なほどに沈黙を保っていた。
巻紙は、指輪をしまうと、ゼロに背を向けて歩き出し、こういって手を上げた。
――じゃあな、死ね!!
ゼロの左肩が吹き飛んだ。
「……?!」
オイルと金属の破片を撒き散らしながら宙を舞う自らの腕にはゼロは驚きで目を見開く。
「おいおい……冗談だろ!? 対戦車ライフルだぜ?」
だが、先に言葉を発したのは、巻紙。
スナイパーに心臓を狙って撃たせたのだ。普通の人間ならばミンチになってもおかしくはなかった。
たかが腕の一本で済む筈がないのだ。
「義手……?」
ラウラが、飛散する機械然とした破片を見て思わず呟いたが、別の角度から見ていた千冬は、もっと恐ろしいものを見ることとなった。
――ゼロの肩口からありえないモノが露出している
心臓の位置に覗く、手のひらサイズで球形のソレは世間一般に『ISコア』と呼ばれている代物に酷似していた。
スコープから覗いていたスナイパーも含め、誰もが一瞬呆ける中、ゼロが真っ先に我に帰って、行動を開始した。
「……」
ボディにくっついていたリムーバーを素手(ゼロナックル)で剥がし、
「……これは、返す」
巻紙に取り付けた。
「ぐあああぁぁおぉぁあぁぁああぁぁあぁあ!!!!!!!!」
これが本来の反応、電流が流れ、彼女の纏っていたISがコアとして出現した。
これこそが、本来の使用用途。
「……まだ続けるか?」
ゼロは片腕のまま、ハァハァと息の荒い巻紙に、いつでも掌底を放てる構えで問いかけた。
「……チッ。食えねぇ女だぜ」
対戦車ライフルを食らってもほとんど動揺しない胆力。出自不明のIS。巻紙、いやオータムにとってゼロの存在は謎だらけだった。
「結局、坊主(収穫がない)のまま撤退かよ。情けねぇぜ」
「逃げられるとでも思っているのか?」
悪態をつくオータムに、狙撃手の射線上から非難した千冬が問うた。
返答は、最初と同じ獰猛な笑み。
「ああ、俺たち亡国企業(ファントムタスク)の根は、お前らが思ってるよりずっと深い。あばよ」
そして、どこからともなく投げ込まれた催涙スモークグレネードが炸裂し、ラウラと千冬を襲った。
煙が晴れたとき、そこに彼女はいなかった。
そして、顔と目を覆うラウラと千冬に対し平然と佇むゼロが告げる。
「……手傷は負わせた。追跡は難しいが、しばらくはまともに動けないだろう。コアの奪取も阻止出来た」
防ぐのが遅れたラウラは、未だ目も開けられずに咳き込んでいるが、千冬はすぐに立ち直り、ゼロを見た。
「お前は……何だ?」
「オレは…………」
『人間と同じように考え、行動するロボット。レプリロイドだよ♪ ちーちゃん』
千冬の質問には、彼女の幼馴染であり、ゼロの雇い主である束が答えた。
更新遅れました。申し訳ございません。
終わり方の関係上おそらくじわはそれほど遅れることはないとは思いますが……
次回:「おや、チフユのようすが……」
……じわまで気長にお待ちください。