∞→0・ストラトス   作:さんばがらす

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作者:「じわの時系列が死んだ!!」
じわ(今話):「この人でなし!!」


つまり番外編です。
レヴィアタンのお話です。
ミランのお話もくっついていますが、おまけです。


200℃の戦い/形見の男

無敵の生徒会長、更識楯無。

 

「生徒会長は誰の挑戦でも受ける」という彼女の言葉が表しているように、生徒会長とは全学年でもっとも強いものが就任する。

彼女を下すことが出来れば、生徒会長になることが出来るのだ。

 

――では、彼女は今まで一度も黒星を付けられたことがないのか?

答えは否である。

 

 

「生徒会長権限で、あなたと戦えるようにお膳立てをしたの。私と戦いなさい、レヴィ」

 

「嫌よ。生徒会長なんかになりたくないし、私の不戦敗でいいわよ……サラシキさん?」

 

 

イギリス代表候補生、レヴィア・オルコット

 

数年前、イギリスで起こった爆破テロで両親をなくし、自身も瀕死の重傷を負う。そして偶然、名門オルコット家の当主(セシリアパパ&ママ)の目に留まり養女となり、以来オルコット姓を名乗る。

 

IS学園の二年生の中で、更識楯無と人気を二分する群青色の髪を持つ美少女である。

楯無が、男女問わず、周りの人の好感度を上げて行き味方に取り込む『秀吉型』の人気者に対し、彼女は馴れ合うことをせず、信賞必罰を徹底、彼女の生き様そのものに惚れる人間を作る『信長型』の人気者であった。

 

それはさておき、

彼女こそ、このIS学園で唯一、現無敵の生徒会長更識楯無に黒星をつけた人間なのだ。

 

――それは、彼女達が一年生の三学期のクラス対抗戦決勝でのこと。

 

 

「知っているとは思うけど、一組のクラス代表、更識楯無よ。よろしくね」

 

「えーと、三組のクラス代表代理、レヴィア・オルコット。こちらこそよろしく」

 

お互いにISを纏い、アリーナへと進み、挨拶を交わす。

彼女達は試合開始直前に、互いのことを知り合った。

 

楯無は慢心していた……わけではないが、今まですべてのクラス対抗戦で優勝している彼女にとって、もはや作業でしかなかった。

いかにも、戦いを楽しんでいるかのように見せ、接戦に見せかけつつ相手を倒す。

接待となんら変わらなかった。

 

「フフ……その目、彼と出会う前の私にそっくり……」

 

「……?

何か言った?」

 

自己紹介を終え、楯無を見た彼女がぼそりと呟く。ISで強化された聴覚でも聞き取れないほどの声だった。

 

「気が変わったの……本気で行くわ。気をつけてねサラシキさん?」

 

言い終わると同時に、開始のブザーがなった。

 

――ガギィン!!

 

十メートルは離れていた距離が一瞬で詰まり、レヴィアの槍と楯無のランスがぶつかった。

そのまま柄同士の鍔迫り合いに持ち込む。

 

「瞬時加速(イグニッションブースト)……やるわね。オルコットさん」

 

「あら、まだまだこれからなのに」

 

鍔迫り合いから、突き、払いを駆使して数合打ち合う。

楯無のランスは、騎士槍(ランス)の名のとおり、突くことに特化した円錐形の形だが、レヴィアの槍は、切る、突く両方の出来る形状をしたエネルギー刃を持っていた。

 

楯無のIS『霧纒の淑女 (ミステリアス・レイディ)』には、水を使った装甲がある。

ナノマシンを混ぜ込んだ水を、『アクアクリスタル』と呼ばれる武装で操っている。

 

楯無は疲れてきた振りをして、その身にエネルギー刃を受け始めた。

エネルギー刃に触れられた水装甲は、じゅうと音を立てて蒸発してゆくが、すぐに補給されるため、見かけではダメージはない。

空気中に拡散する水分、これが楯無の狙いだった。

 

「ねぇ……なんか暑くないかしら?」

 

この不快感こそが、必殺技の準備が整った証。

打ち合いをやめて、距離をとりレヴィアに話しかけた。

 

「そりゃ、あなた発の水分が、湿度を底上げしてるからじゃないの……それとも、何かの作戦?」

 

「鋭いわね……でも、もう遅いわ」

 

一瞬でレヴィアに濃霧が纏わりつき、爆発した。

『清き情熱(クリア・パッション)』と呼ばれる水蒸気爆発を利用した必殺技。

 

もうもうと立ち込める湯気が楯無の視界を覆い、彼女は落胆したように肩を落とした。

 

「もう少し楽しませてもらえる物だと思ってたけど……拍子抜けね」

 

「……それはどうかしら?」

 

湯気がトンネル状に晴れ、そこを通ってレヴィアが槍を構えて一直線に突き進んだ。

 

「くうっ!?」

 

楯無はとっさにランスで防げず直撃、シールドエネルギーに大ダメージを負う。

追撃を防ぐためにランスでなぎ払うようにして牽制し、最初の距離に戻った。

 

……何かがおかしい

 

楯無はあることに気付いた。

本来、ミステリアス・レイディは、水による装甲で守られていて、仮に直撃を受けたとしても、水が蒸発するだけで、特にダメージはないはずなのだ。

 

なのに、直撃。

 

答えは、貫かれた水の盾と、レヴィアのISが雄弁に語っていた。

 

「……凍、ってる?」

 

「そう、水を使えるのは、あなただけじゃないの……といっても私は氷限定だけれど」

 

レヴィアの纏うISに、氷の意匠が追加されて、ドレスのようになっていた。

彼女のISデータには、こんな能力はなかったはずだ。

 

「私のIS『蒼海の海神(リヴァイアサン)』は、ドイツとイギリスの共同開発でね。AICが積んであるのよ」

 

知っていた。それに彼女のAIC適正があまり高くないことも

 

「そして、私がAICで止めることが出来たのが、熱運動だったの」

 

でも、固体の熱運動はさすがに無理だから絶対零度は作れないんだけどね。とレヴィアは苦笑交じりに言った。

 

・・・・・

熱運動とは

物質を構成する分子や原子の乱雑な運動のことであり、熱の正体である。

・・・・・

 

この単一能力(ワンオフアビリティ)っぽいものの名前は『近似零度(ニア・アブソリュート・ゼロ)』と名付けられ、両国の間で秘匿されていたのだという。

 

「『清き情熱(クリアパッション)』も、それで無力化したのね」

 

「そうよ。私に水は通用しないわ、たとえナノマシン入りでも、凍ってしまったら水は動かないもの。それに……」

 

――ねぇ、なんか寒くないかしら?

 

レヴィアはそういって妖艶な笑みを浮かべた。

 

「!?」

 

楯無は驚愕する。なにせ、自分のISに霜が降りていたからだ。そして、霜を振り落とそうと足を動かしたが、凍り付いていて動かない。

 

「さっきの攻撃のときに液体窒素を使ってあなたのISと周囲の気温を下げたの」

 

窒素は空気中にいくらでも存在する。

レヴィアはそれらの熱運動を抑制、液化し-196℃の液体窒素として使用したのだった。

 

「……まったく、でたらめね。秘匿されるのも納得だわ。完全に私のメタISじゃない、それ」

 

文字通り、少し頭が冷えた楯無は、アクアクリスタルの中の水を限界まで温めて流すことで氷の拘束を解いた。

 

「でも、負けない」

 

更識楯無は、負けるわけには行かないのだから

 

「やっと本気の目になったわね。少しは楽しませてくれるといいんだけど……タイクツ、させないでね?」

 

「言われなくても!!」

 

――そこから先は、激闘と呼ぶにふさわしい戦いだった。

 

決着がついた。

 

楯無が体制を崩したところに、レヴィアが槍を突きつけた。

 

だが、彼女のシールドエネルギーはゼロになっていた。

 

「……私の負け、ね。サラシキさん……だったかしら。また戦いましょう」

 

驚くほどあっさりと敗北を認めたレヴィア、ISを解除し、アリーナから去ろうとしている。

 

「手加減したって言うの!?」

 

楯無は、レヴィアが槍を突きつける瞬間、能力を無駄に発動してシールドエネルギーを空にしたのを見ていた。

それをプライベートチャンネルで追求した。

 

「何のことかしらね? そんなに不満なら、もっと強くなって私を楽しませて欲しいわ」

 

優勝おめでとう。とだけ告げて、レヴィアは振り返らずにアリーナの奥に消えた。

 

 

――アリーナ、控え室

 

「ねぇ……ファントム、いるんでしょ? あの子が負けかけたところの映像、削除しといてもらえる? 次期生徒会長さまと互角に戦うと、私も候補にされそうだから」

 

――私は、彼(・)が来るまでに、出来るだけ強くなっておく必要があるの。

 

誰もいない空間に向かって語りかけるレヴィア。

だが、数日後、映像は修正されていたので、意志は伝わっていたようであった。

 

 

話しは現在に戻る。

 

「あなたが負けると、必然的に生徒会メンバーに組み込まれることになるんだけど、それでもいいのかしら?」

 

「……私は、生徒会なんかにははいらない。それに、サラシキさんに勝っても、どのみち生徒会長にされちゃうじゃない。『また戦いましょう』とはいったけど、面倒ごとは好きじゃないの」

 

「あら残念」

 

楯無は『無念』と書かれた扇子を開いて微笑む。目は笑っていなかったが。

 

「それに今は、ちょっと気になる人がいるのよ」

 

「織斑一夏くんのこt……」

 

「ちがうわ。私が興味のある男は、彼(・)一人」

 

「『氷の女王』も恋をするのね」

 

レヴィアのあだ名でからかいながら、楯無は扇子を裏返し『青春?』と書かれた面を見せる。

 

「さぁ、どうかしらね?」

 

少なくとも、皆が織斑一夏に抱いているような爽やかなものではない。

――もっと、どす黒くて、こびりつくような歪んだ愛。

 

レヴィアは、自らの内面の感情を悟られぬように、妖艶に微笑んだ。

 

 

 

…………彼女の待ち人が、彼女の前に現れるのは、もう少し先の話である。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

~形見の男~

 

IS学園には現在、生徒を含めて四人の男性が所属している。

 

織斑 一夏(おりむらいちか)

世界で唯一、ISを動かせる男子。イケメン。難聴気味。

 

轡木 十三(くつわぎじゅうぞう)

学園長の夫。齢70にして、未だ現役、用務員長をしている。僕の上司だ。

 

更矢識 玄影(さらやしきげんえい)

同じくIS学園の用務員。僕とは一度も顔を合わせたことがない。上司曰く、まじめに働いているらしい。僕の先輩だ。

 

そして、最後が僕、

 

ミラン・レジスタン

 

詳しい説明は省くけど、前世は文字通り『雑兵A』ってのをやってた。

雑兵らしく生き、雑兵らしく死んだ。

 

まぁ、今僕は生きているわけだけど……

それはさておき

この世界に生まれ変わって、紆余曲折あって、いざ就職!! ってなったときに、面接会場を間違えて、ここの面接を受けてしまったんだ。

そしてなぜか轡木さんに気に入られて(別に変な意味ではない)、今に至る。

 

 

「ここは生徒相談室じゃないんだけどなぁ……」

 

「そんなこと言わないで聞いてくださいよミランさん」

 

僕の目の前にいるイケメンは、言わずと知れた織斑くん。

最近、用務員室に来て、いろいろなことを相談してくるんだ。

 

曰く、幼馴染に無視された。

曰く、女友達から謂れのない暴力を受ける。

曰く、姉の愛が痛い。

 

等(エトセトラ)々(エトセトラ)

 

初めのうちは、最近流行のいじめかとも思ったけど、詳しく聞けばほとんどの問題が『痴情のもつれ』で片付いた。

 

彼の周りにいる女子は七人。

大和さん

イギリスさん

中国さん

フランスさん

ドイツさん

ロシアさん

日本さん

 

生徒の個人情報なので、彼は偽名を使って話した。

すべてに共通して言えることは……

 

「うん。リア充爆ぜろ」

 

「なんで弾とおんなじこと言うんですか!? ミランさんだって、既婚者じゃないですか」

 

「かわいい女子に囲まれるのと、結婚していることはまったく違う」

 

前者が砂糖菓子なら、後者は酢昆布だ。それくらいの隔たりがある。

 

「いいじゃないですか酢昆布。俺は好きですよ」

 

「確かに、酢昆布はうまいけどさ……そういう話じゃないでしょ」

 

僕が「あの子達は君に好意をもっているんだよ」というのは簡単だ。だが、大人の横槍ほど、ろくな結果を生まない、と思っているので、言わないことにする。

 

「ですよねー。そういえば、ミランさんって、この学園の女子に告白とかされたことあります?」

 

あるよ。そりゃ何回も

 

 

「レジスタンさん。私と付き合ってください!」

 

「いや、僕既婚者だから、娘もいるから」

 

「不倫関係でいいです!」

 

「いや、ダメだから。離婚とか親権とかややこしいことになるから」

 

「私があなたを養います! 良いママになります。家事は得意です! ……さぁ、さぁさぁさぁ!!!」

 

「ひいっ!? た、助けてぇ! 犯される!!」

 

――アッー!!!

 

 

「ないね。悲しいことに」

 

言える訳がない。こんな恥ずかしい思い出。

結局、僕の悲鳴に駆けつけてくれた織斑先生のおかげで事なきを得たんだけどね。

 

「ですよね!! そう簡単にもてるわけがないですよね!! いやぁ、仲間がいて助かりました。共に彼女が出来るようがんばりましょう!!」

 

僕、もう結婚してるんだけどなぁ……。という返事も聞かずに去っていった織斑君、罪深い男だよ。

 

いつか刺されないか心配になってきた……ヤンデレにはお気をつけて

 

 

ミラン・レジスタン

IS学園用務員。既婚者、パッシィという娘がいる。

愚直に仕事に励む姿は女生徒に好感を待たせるには十分な物がある。

特にイケメンではないが、それゆえに「私でも勇気を出せば……(寝取れるかも)」と思わせてしまう罪作りな外見だが、彼は妻一筋なため、ナイスボートには至っていない。




やっちまった……

あと、先延ばしになってたエトヴァス少尉詳細

エトヴァス・イェーマント
「etwas」はドイツ語で「何か」
「jemand」はドイツ語で「誰か」
なんと、生粋のモブさんだったのです。
わかった人は少なそうだったので書きました。後悔はしていない。

あと、今日から数日、リアルの都合で感想の返信ができないかもです。あしからず

では、じわまで気長にお待ちください。

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