やばい、さっき投稿するとこ間違いました……一生の不覚
私一人ならば勝てた。
AICで捉えさえすれば、あとは一方的な展開になる。
あのISの射撃武器は、拳銃もどきしかないのだから。
メインウェポンが近接武器のISにとってAICとは天敵だ。
一方的に狩られる存在となるだろう。
あの時は少し動揺してしまったが、足手まといさえいなければ、ゼロ教官など、恐れるに足りない。
訓練が終わり、皆が隊舎に戻る中、私はその旨を教官に報告した。
「つまり、自分が負けたのは、誤射の動揺とその足手まといの仕業だと?」
「はい」
何ということだ。と千冬は心の中で悪態を付く。
当初の千冬は、ゼロの圧倒的な強さを見せ付けることで、ラウラの伸びきった鼻っ柱をへし折り、なおかつ仲間との連携の大切さを学ばせようとしていたのだ。
結果は、真逆。
ラウラは、個人戦なら勝てる。あいつらは足手まといだといった。
ゼロのあの超人的な戦闘技巧を見て、ラウラ個人の一体どこに勝算があるというのか。
百歩譲ってAICが勝算だというのなら、あまりにも浅慮が過ぎるというものだ。
「……わかった。それだけ言うのであれば、ゼロと個人戦が出来るよう手配しよう」
「ありがとうございます!! 教官」
ゼロには申し訳ないが、もう一度完膚なきまでに叩きのめしてもらおう。
花が咲いたような笑顔で礼を言ってくるラウラを適当にあしらい、千冬は部屋へと戻った。
・
次の日の早朝、千冬はいそいそと起きだして久々に朝の自主鍛錬に行こうとしていた。
「チフユ、こんな早くにどこへ行くつもりだ?」
ゼロが突然ベッドから起き上がった。ゼロはレプリロイド故、明確な睡眠という概念は存在しない。
「起こしてしまったか、すまない。……少し、走りに行こうと思ってな」
「オレも同行しよう」
千冬は、そういえばこいつ(ゼロ)は私の護衛でここに来ているんだったな、と思い出して、二つ返事で了承した。
・・・
千冬は規則的なペースで(といっても、かなりの速さで)軍施設の敷地内を走り、少し開けたところで木刀を使った素振りを始めた。
「……(じーっ)」
彼女と寸分違わぬ速さで追従していたゼロは、その場で千冬を見ながら手持ち無沙汰気味に佇む。
千冬は思った。
……気まずい。と
そして、千冬は、この状況を打開するべく行動を開始し、以前より気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、お前のISは剣も使っていただろう」
ゼロの流れるような三連撃、千冬が見たどの流派にも属していなかった。
木刀を一本しか持ってきていないため、手合わせが出来ないことを、千冬は悔やんだ。
「……それがどうした?」
「その……素振りをしてみないか? お前の剣が見たい」
「あぁ、わかった」
ゼロは千冬から木刀を受け取り、片手で握った。
踏み込み、姿勢を低くしながらの切り下ろし。
そこから、三段斬りををし、飛び上がりながらの切り上げ、落下の力を利用した唐竹割り
素振り、というより、剣術の演舞のようだった。
だが少し、違和感を覚える。
三段斬りの二から三段目、三段目から切り上げへの連携が心なしか鈍いように思えた。
千冬は、覚えた違和感を素直にゼロに尋ねた。
前者の違和感は、木刀の光剣とは異なる重心によるもの。
後者は、本来繋がらない技を無理矢理組み合わせたことによるものであった。
流派を尋ねると、ゼロは我流だと答える。
「我流といっても……敵を叩き斬るためだけの、正真正銘の殺しの剣だが」
木刀を千冬に返しながら、付け加えてそういった。
「敵? お前は戦争の経験があるのか」
「……チフユの言っている『戦争』がヘイワでない状態のことをいうのなら、そうなんだろう、確かにオレは戦っていたからな……結局ヘイワが訪れたのかは、わからずじまいだが」
「どうして」
「オレを庇って死んだ戦友には、『平和を知れ』と言われたが……」
――オレには、「ヘイワ」が、わからない。
無感情な声で言った言葉に、千冬は絶句した。
恐ろしいまでの戦闘技能、
常に隙の無い所作、
食事等の過度な秘匿
そして、この言動
ゼロが生まれてからほとんどの時間を戦い続けているという証明でもあった。
「……オレがここに来た日のことは覚えているな?」
千冬は声を出さずに首肯する。
「あの日、クラリッサに『敗北を糧に強くなる』とか、そんなことを言われたが、理解できなかった。オレのいたところでは、敗北は死にしかならなかった。勝ち続けなければ生き残れなかった」
弱者は蹂躙され、強者の掲げる歪んだセイギや理想が当然の物とされていた世界。
千冬がふとゼロのほうを見る。
ゼロの精悍な印象の横顔は、かつて抱きかかえられながら見たときよりも数段もろく、危ういものに感じられた。
――こいつ(ゼロ)をこのまま放っておいてはいけない。
「……? チフユ、何故そんな顔をする」
千冬の、哀れむような、今にも泣き出しそうな悲しみを湛える瞳に気付いたゼロは途中で話をやめた。
「っ! な、なんでもない、ばかもの!!」
千冬は、情けない顔を見られた恥ずかしさに思わず顔をそむけ、その行動に怪訝そうな表情を向けてくるゼロに、そっぽを向いたまま続けた。
「わ、私で良ければ……」
「?」
「……お前に『平和』を教える手伝いをさせてもらえないだろうか? ゼロには……その、教導や家事で世話になっている。恩返し、というわけではないが、私も、ゼロが困っていることに対して協力したいと思っているんだ」
千冬は顔が赤くなるのを感じた。
かつて、何かを言うのにここまで緊張したことはあっただろうか。
そして、ゼロの「……よろしく頼む」という言葉に、ここまで胸が暖かくなったことがあろうか。
この気持ちの正体を、千冬は、まだ知らない。
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翌日・訓練終了後
他の隊員たちに、自主訓練の中止を告げ、先に宿舎に戻し、訓練場にはラウラとゼロ、審判の千冬しかいなかった。
開始と同時に、ラウラは六本のワイヤーブレードを伸ばして、ゼロを囲い込むように攻撃する。
「……」
対するゼロは、接近したブレードをリコイルロッドで弾き飛ばしながら、ブレードが来ない前方に進み、ラウラとの距離を一気に詰める。
「かかったな! 食らえ!!」
そのままリコイルロッドを叩きつけようとしたゼロの手が止まる。
AICに捕まったのだ。
だが、ゼロは、AICによる拘束が全身に及ぶ前に、反対の手にチャージ済みのバスターショットを持ち替えていた。
「……遅い」
――発砲
「ぐあッ!!」
特大サイズのエネルギー弾がヒットし、ラウラは溜まらず吹っ飛ばされる。
「……クロウラーシールド」
追い討ちとばかりに、ゼロはシールドブーメランを投げた。
「なめるなぁ!!」
飛ばされた際に外れた眼帯から、虹彩異常の左目が覗く。
『越界の瞳』
ISと対応した擬似ハイパーセンサーによって、AICの精度が飛躍的に上昇し、高速で地を這うシールドブーメランを固定する。
「……」
ゼロは持っていたバスターショットを四連射。
エネルギー兵器は、AICでは捉えられないため、ラウラは回避を選択、シールドにかかったAICが解けてゼロの手元に戻った。
平然とたたずむゼロに対して、『越界の瞳』と無理矢理な回避で疲労の見えるラウラ。
既に、勝敗は決していた。
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数分後
ラウラのシールドエネルギーが尽きた。
ゼロがISを解除し、ラウラに背を向けて宿舎に戻ろうと歩き出す。
「お前は……何故そんなに強い!! 教官のように何か実績があるわけでもなく、私よりもISに乗っていないお前が!!」
ラウラは地べたに這い蹲るようにして上体を起こし、ゼロの背中にに問いかけた。
ゼロは、迷い無く答える。
「……オレは、自分の信じるモノのために戦ってきた。
目の前に敵が現れたなら……叩き斬る。戦う理由があれば『強い』か否かは関係が無い」
戦闘用レプリロイドとして作られたゼロにとっては『強い』理由など、それこそどうでも良かった。
だが、それがラウラの逆鱗に触れた。
何のために強くなったのか。
何故、強くなることが出来たのか。
『強い』とは何なのか。
ずっと悩んでいたことを、ゼロは瑣末なこととして切り捨てたようにラウラは感じた。
まるで、そんなことは知らん。といわんばかりに
当たり前である。なぜなら彼(ゼロ)は悩まないのだから。
「私は、お前を認めない!! その『信じるモノ』とやらの言いなりになって戦っているお前なぞ、機械となんら変わらない!! 機械の『強さ』など、私は絶対に認めない!!」
「………………好きにしろ」
千冬から見ればとんでもない暴言だったが、ゼロは眉一つ動かさずに返答した。
――――ドゴォオォン!!
直後、遠方で爆発が起こった。
シールドブーメラン→チャージバスター→シールドブーメラン→チャージバスター
というハメでラウラを撃破。
AICは陽動に弱いぜ。的なことを間接的に伝えようとしたゼロであった
今回の話で、この「ドイツ編」は終わる予定だったのにどうしてこうなった。
次回:「巻紙さん。襲来」
では、じわまで気長にお待ちください。