アンジュ・ヴィエルジュ *Skyblue Elements*   作:トライブ

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 今回、みなさんの反応がすごく気になる回です。もし良ければ感想をください。



第3話「会長殿は仕方ないなー」

 約束の日。第一コロシアムについた時には、既に1人の女性がフィールドの中で佇んでいた。

「おひさ、春樹くん!」

「朝子先輩! ご無沙汰してます」

「ご無沙汰って……春樹くん、成長したねー。この前のバトルみてびっくりしちゃったよ」

「先輩、なんだか親戚のおばちゃんみたいになってますよ……にしても、練習相手って、朝子先輩のことだったんですね」

「ま、半分アタリかな」

 背の高い女性は、陽光を浴びて煌く髪を大雑把にポニーテールに結い上げていた。

 名前は、成瀬(なるせ)朝子(あさこ)という。すらりと背が高く、声は落ち着いたアルト声。まだ5月だというのに、着ているものは半袖のTシャツと膝丈の短パン。さらに流麗な足をソックスとスポーツシューズで飾る彼女は、一見で《ボーイッシュ》だと理解できる。実際に彼女は気さくで姉御肌な性格であり、始めて見た美海も、なんとなく憧れてしまうような魅力に若干呑まれている。

「ども、成瀬朝子です。この前のブルーミングバトル見て、ちょっと興奮しちゃって雄馬くんに頼み込んじゃった。ゴメンネ、付き合わせちゃって。3人のことはバトル見たから知ってるけど、そっちの子は……」

 と視線の先には、兎莉子。確かにチームの一員でありながらバトルに参加しない彼女の存在は、知られていなくてもおかしくない。

「あっ! あの、私、生嶋兎莉子といいます! バトルはできないけど、一応チームに……」

「ああ、サポートメンバーね。そういう子がいるチームって強いよね。よろしく、兎莉子ちゃん。他の3人も――えっと、君が美海ちゃんで、君が琉花ちゃん、で、貴女が忍ちゃんね。よろしく」

 ひとりひとり握手して回る朝子に、率先して美海が、

「あの、春樹くんと成瀬さん? って、一体どういう関係なんですか?」

「あー、朝子でいいよ。苗字呼びってあんま好きじゃないし。で、春樹くんとの関係っていうのはね……初めての……」

「え!?」

「そんな思わせぶりなこと言わないでくださいよ。俺がここに入学したとき、生徒会で副会長やってた人だよ。それで、いろいろお世話になったんだ」

「あ、じゃあ、卒業生なんですか?」

「そゆこと。今は20歳で、青蘭大学に通ってるわ」

 そう言うと、彼女は親しみを込めてパチンとウィンクしてみせた。タイプ的には、琉花に似ている人だ。その琉花は、何やら親近感的な物を感じているのか、心が踊っているように見える。

「で、さっきの『半分アタリ』ってどういう意味ですか?」

 春樹が疑問を投げかけると、朝子は「あー」と頭を掻いた。

「いやさ、我らが会長殿も来てるんだけど、なんか用事があるとか言って剣道場の方に行っちゃって。確かにこの時間には来るって言ってたんだけど……あ、やっと来たっぽいね」

 朝子がコロシアムの入口に視線を投げた。釣られて全員がそちらを向く。すると、1人の長髪の女性が駆けてきていた。

「ごめんなさい~! ちょっと遅れちゃった!」

「こら、時間を守れないとカッコ悪いよ」

「だって、すごく見込みのある子がいたものだから、つい熱が入っちゃって」

 女性は袖をまくった薄い水色のワイシャツにスラックスという、男性のような格好をしている。朝子ほどではないが、清らかな水が流れるような体躯だ。走ってきたのだろうか、肩で息をしているが、その瞳には強い意志の光が宿っている。

「半分って、会長だったんですね。お久しぶりです」

「あ、あら。お久しぶりね春樹くん。こないだのバトル見させてもらったわ。とっても素晴らしいバトルでした。で、半分ってなあに?」

「いや、朝子先輩が……」

「ああ、そういうこと。遅れてごめんなさいね。あ、あともう私は会長じゃないのよ?」

 女性は腰から、木刀をぶら下げていた。それもただの木刀ではない。春樹たちは知らないが、その木刀はある特殊な神木からできている。唯一その危険性を見極めていたのは――やはり忍だった。目を細めて木刀を見ている。

 そして、反対側の腰には、縦長のケースのようなものが吊るされている。

「あ、あの~、あなたは……?」

 (美海たち4人にしてみれば)謎の美女の登場に困惑する中、やはり最初に口を開いた美海が控えめに問いかけると、女性は、「あ、ごめんなさい!」と4人に向き直った。

 

「私、3年前にこの青蘭学園で生徒会長をやってました、蒼月(そうげつ)紗夜(さや)っていいます。よろしくね」

 

 

…………

 

 フィールドに立つ、美海、琉花、忍。そして、向こうには紗夜と朝子が立っている。こちらは3人、向こうは2人。人数的なアドバンテージはこちらにある。

 現在、バトルフィールドは特殊な状態にある。春樹は3人とリンクしているのだが、紗夜と朝子は『トークン』と呼ばれる擬似脳波とリンクしている。これは、リンク率測定テストで使う「αドライバーの平均的なフレーム脳波」とほぼ同じものだ。リンクしやすいのだが、相性の良いαドライバーに勝るということはまずない。つまるところ、リンクやエクシードの開放に制限が掛かっているようなものだ。

 加えて、春樹はオペレータールームにいる雄馬の手配によって、痛覚フィードバック率が0%になっている。曰く、ブルーミングバトル・オペレーティングシステム――通称『BBOS』の機能の内に『痛覚変換器(ダメージ・コンデンサー)』というものがあり、通常のブルーミングバトルはそれによって痛覚フィードバック率を上げたり下げたりしているのだが、今はそれを0%にしているのだ。その代わりに『ダメージカウンター』――ある一定量のダメージをプログレスが受けるとカウントが1上昇して、それが上限に達すると敗北するシステム――を設置。向こうの上限は4で、こちらは8である。単純に向こうはこちらの半分しかダメージを受けられない(ちなみにこのシステムは、春樹たちが参加しようとしているブルーミングバトル大会でも採用されている)。

 最後に、こちらのリンクレベル上限が無いのに対し、向こうは3。強いて言うなら、向こうはαドライバーのような、αデータパッドを操作する人物がいないため、セカンドリンクとαリンクが不可。即ち、レベル上昇速度を上げることも、更なるエクシードの開放もできない。

 端的に言えば――ハンデというハンデを貰い尽くしている状態だ。とはいえ、これはトレーニングなので、これらの要素全てが活きるとは限らない。

 しかし、

「まあトレーニングってことだし、あんまり堅苦しくなくていいよね。気軽に行きましょう」

 紗夜は気さくにそう言うと、「誰からやろうか?」などと言ってきた。美海たちが悩んでいると……

「じゃあ……個人的に気になる子、からでいいかな。君」

 そう言って紗夜が指さしたのは、忍だった。

「拙者でゴザルか?」

「うん。バトル見てても、動きが良かったし、何より――」

 紗夜は僅かに口の端を釣り上げると、腰の木刀を叩いてみせた。

「気付いてるでしょう? 素晴らしいわ」

「お見通しというわけでゴザルな。承ったでゴザル」

 紗夜の申し出を了解した忍は、数歩前に歩み出て苦無(くない)(じゅ)()を構えてみせた。

 対する紗夜は前に歩み出ただけで、何もしない。それを訝しんだ忍が尋ねる。

「それは、使わないのでゴザルか?」

「それは、君たち次第かな」

 その返答に、忍は不敵な笑みを浮かべた。それを見た紗夜は、肩をすくめるだけ。

「そうだ。美海ちゃんと琉花ちゃんは、好きなタイミングで入ってきていいからね」

 その発言に、美海と琉花は驚愕する。ただでさえ不利な状態――人数的にも力量的にも――なのに、この上『タイミング』というイニシアチブまで譲るのか。はっきり言って、正気を疑った。

「私は?」

「まあ、タイミングを見て。できれば入ってこないで」

「それじゃ、私何のために来たのさ」

「じゃあこうしましょう。私がこれを抜いたら入ってきて」

「会長殿は仕方ないなー」

 朝子が紗夜に文句を垂れているのを見ながら、忍は緊張感を高めていく。元生徒会長のこの女性は、一体どれほど()()()のか……。

「さあ、始めましょう。かかっておいで」

 にこやかな笑顔を伴った紗夜の言葉により、試合、もといトレーニング開始。

 忍はまず、自信満々なその鼻面をへし折るために、

「早速行くでゴザルよ! 春樹殿、セカンドリンクを頼むでゴザル!」

「了解!」

 火遁の術で炎を起こし、エクシードでそれを操作。火炎の玉にして紗夜にぶつける。最初はエクシードレベルが低いため小手調べ程度だが、火遁の術の威力そのものはエクシードに左右されない。火炎の玉にしきれない分は、忍術で制御。残らず紗夜へと放つ。

 それに対峙する紗夜は――なんと、動かない。相変わらず、木刀も抜かない。どころか、手を掛けることすらない。どうするつもりだ、と訝しむ。

 

 一瞬、蜃気楼が立ち昇るかのように、空間が歪んだ。

 

(シャ)

 

 一言。しかし、その一言で紗夜の体から澄んだ霊力が迸り、炎を消し飛ばした。

 紗夜が使用したのは、仏教における種子(しゅじ)真言。静を尊び厄災を払う、(がっ)(こう)菩薩(ぼさつ)の種子真言だ。

 炎が消し飛ばされる光景に、忍自身はもちろん、美海と琉花、そして春樹も驚愕する。なぜ言葉ひとつでこうなったか、その理由が分からない。だが、驚いてばかりではいられない。

「なら、次は!」

 時間経過で忍のレベルが上昇。先ほどよりも、より多くの炎を操れるようになる。再び火炎の玉を、今度は2倍ほどの大きさで放つ。

 だが、『知らない』ということは、不利であることに他ならないのだ。

 

(シャ)

 

 種子を唱える紗夜。先ほどと全く変わらないあっけなさで火炎は消し飛ばされた。

 単騎で攻め入るという手段はもちろんあるのだが、今の高圧の霊力を見る限り、果たして近づかせてもらえるかどうか分からない。なによりも、自分の磨き上げたエクシードと忍術が通じない。その事実にらしくなく慌てた忍は、たまらず背後に控える2人にアイコンタクトを送る。

 参戦しろ、と。

 2人はそれを理解し、また春樹もその動きを鋭敏に感じ取った。レベルが上昇しきった忍とのセカンドリンクを切り、美海と琉花に分配。戦力を平均的に上げにかかる。なによりも、向こうから攻めて来なさそうなのが救いだった。

 レベルが最大まで上がった忍は、いよいよ(なり)()り構っていられない。苦無で左の手の平を薄く裂き、苦無をその左手に持ち替えて投擲。当然避けられてしまうが、その隙に滲んだ血液を呪符に塗りつける。ここまでは、先日、ユーフィリア相手に行った戦法のままだ。

 ――しかし、紗夜殿は我々のバトルを見ておられる。となれば、この時点で先日の作戦は通じないと思って良いでゴザろう。さて……。

 しかし、今回はまだ美海と琉花がいる。今回選んだ呪符は、忍と相性の良い火行符だけではなく、琉花と相性の良い水行符、そして美海と相性が良い金行符(忍の扱う忍術は陰陽五行説に基づいており、それによれば、風は金気を帯びると云われている)もある。

 密かに話し合い、練習していた連携技。あとはこれらを組み立てるだけだ。

 美海のブレスレットが彼女の意志に応じて細身のレイピアに変化する。同時に、彼女が空気を集めて風を纏った。その横で、忍は水遁の術で水の塊を生成し、琉花に制御を渡す。これで、全員が万全に戦える状態が揃った。

 先手を取るのは、やはり忍。彼女の忍法『炎星流河(フレアー・シャワー)』で攻撃と(かく)(らん)を同時に行い、それの対処に追われている隙に美海と琉花がさらに攻撃を加える。

 

(せい)(れき)(つど)いて大河と成せ! 忍法・炎星流河(フレアー・シャワー)!」

 

 忍の放った呪符が白熱した幾つもの小さな球体へと変化し、それが彗星の如く紗夜の元へ殺到する。攻撃力があるだけでなく、視覚的な派手さから攪乱性能もあるこの術で、まずは流れを掴む。

 その作戦は、相手が同じ高校生だったならば、非常に効果的に働いただろう。

 そして、紗夜は――

 ふ、と鋭く息を吐くと、胸の前で両手の指を絡ませ、手印を結んだ。両手の指を丸めて互い違いに組み合わせ、中指だけを立てる。

 

Namah(ノウマク) samanta(サマンダ)-buddhanam(ボダナン) varunaya(ヴァルナヤ) svaha(ソワカ)

 

 流れるように唱えられたのは、インド神話における水神ヴァルナの真言(マントラ)。その言と共に紗夜の体から発せられた霊気が水に転化される。たちまち水は渦巻く水流の盾となって忍の術を打ち消した。陰陽五行における、五行相克(そうこく)。水気は火気を(こく)する。

 それどころか、彼女が結んだ手印を解き、両手の平を前へ突き出すと、水流は荒波となって美海たち3人の方へと押し流されていった。

 それだけなら、まだなんとかなった。美海は風を操って上空へと逃げた。忍は結界を張ってやり過ごした。琉花は水を操れるので、上手く逸らしてくれるだろう。しかし、予想外だったのは――

「っ! 琉花殿!?」

 琉花が反応してしまっていた。襲いかかってきたのが、自分の操ることのできる水だったからだ。逸らすだけでは足りない、とその目が物語っている。

「なんの、これくらい!」

 そして、なんと琉花は、その大質量の水を操ってみせた。荒波は勢いを失い、押し止められ、琉花の支配下に置かれる。

 しかし、足並みが崩れた。作戦通りに動くことよりも目先の攻撃を優先してしまった、その隙を逃すような紗夜ではない。その作戦を完璧に崩すために、更なる一手を打つ。

 木刀の反対側に吊るされた、縦長のケースの蓋を指で弾いて開けると、そこには忍のものと同じような呪符が入っている。その中から見ることもなく1枚抜き出した。忍だけが理解できた。木行符。

 ――マズイ!

 と忍が思ったのとほぼ同時に、紗夜は木行符を地面に叩きつけ、霊力を注ぎ込んだ。

「『地を這い巡り、天へ枝葉伸ばし捕えよ』」

 琉花が操っている大量の水は、彼女の支配下に置かれているとは言え元を正せば紗夜の霊気。つまり、

「な、何!?」

 人工芝であるはずの地面から、大量の水を吸い上げ一瞬で樹木が生える。その枝が、まるで意思を持つかのように琉花を縛り上げた。今度は五行相生(そうしょう)。水気は木気へと(しょう)ずる。

 1人捕らえられた。となると、作戦を放棄せざるを得ない。

「美海殿! 琉花殿を!」

「任せて!」

 忍の指示を受けて空中でターンした美海は、刺突剣(レイピア)を構えて琉花の元へ向かった。その選択肢は正しい。五行説においては、金克木――金気は木気を相克する。なので、風、即ち金気は、現在琉花が捕らわれている木気を祓いやすい。忍も、恐らくそれを読んで美海に任せたのだろう。

 そして、その金気を克するのは火気。火気は忍のエクシードで操ることが出来るので、もし美海の行動を阻害されそうになっても、火気での攻撃なら忍が抑えることが出来る。咄嗟の判断だが、定石に則った良い盤面構築だと言えるだろう。

(さて……どうしようかな)

 紗夜は考える。木刀を抜けば、正直どうとでもなる場面だが、逆に、木刀を抜かなければならないような場面だとも言える。

(悪手だったかな? 複雑な盤面だったのを、私が一手指したことで、結果的に明確な答えを出してしまった)

 しかし、それは、こちらの対応策もより明確になったことでもあった。当然ながら、3人を相手にするよりかは1人の方がいいに決まっている。

 それに……これはあくまで()()。ならば、答えは難しすぎない方が良い。

 まずは忍を止める。そのために、ようやく紗夜は足を踏み出した。同時に、両腕を伸ばして両手の指を組み合わせ、術式を念じる。すると、組み合わされた手を覆うように、球形の魔法陣が発生した。紗夜が手を離すと、球は真っ二つに割れてそれぞれの手の動きに付き添う形になる。両手に小さな盾を持っているかのようだ。見方を変えれば、ボクシンググローブを付けているようにも。

「それは……?」

「ちょっとした魔術よ」

「拙者と近接でやり合うつもりでゴザルか?」

「大丈夫。多分、退屈しないから」

 至近距離まで接近してきた紗夜に対抗する忍。まず拳を一発放ったが、それは紗夜の右手の魔術の半球にブロックされた。途端に、忍の突き出した拳が、予想よりもはるかに大きく弾き返された。あの球には、攻撃を大きく跳ね返す力があるらしい。忍は反射によって崩された体勢を元に戻しながら、注意して攻撃せねば、と自分に言い聞かせる。

 驚いたことに、それ以降は攻撃が当たらなくなった。紗夜の素早い身のこなしもそうだが、何よりも攻撃を先読みされている。いや、先読みというより、誘導されている、と言ったほうが正しい。彼女の両手にある魔術の半球の存在のせいで、そこを迂闊に攻撃できない。攻撃できる部分が限定されてしまうのだ。そして、彼女からしてみれば、攻撃の飛んでくる位置を限定したため、どこに攻撃が来るか予想しやすい。

 最初の一撃を防いだことにより、忍の思考を制御し、この戦闘のイニシアチブを握る。それは単なる戦闘のセンスだけではなく、彼女の頭が良いということを示していた。

 何よりも恐ろしいのは、紗夜がまだ()()()()()()()ことだ。

「そろそろ反撃するね」

「クッ!?」

 紗夜の両手の動きに付き添う魔術の半球が、その様相を少し変えた。半球の裾、つまり切断面が伸び広がり、それこそ丸盾のような形になる。

 そして、その拳が突き出された。

(速い――!?)

 素早い攻撃の数々に、忍は避けるだけで精一杯だ。ガードしたら、あの魔術のせいで大きく吹き飛ばされてしまうため、反撃の考えを頭に残しながらも、避ける。本能的に理解できたことは、まだ彼女はこれでも手加減している、ということだった。木刀も使っていないし、やろうと思えば反撃できそうな隙がある。しかし、彼女は必ず片方の手をフリーな状態にしている。そこに罠があると考えられるだけの知識は忍も持っていた。だからこそ、余計に反撃できない。反撃したいが、していいのか分からない。反撃しなければならないが、防がれた時のデメリットが大きい。

 だが、反撃の手段が無いわけではない。忍にはエクシードがある。こちらも手印を結んで両手に炎を発生させ、腕の動きとは異なる動きをさせて反撃を行う。紗夜がコントロールしているのはあくまで忍自身の攻撃だけ。これなら防ぎにくいはずだ――が、

 

()

 

 その一言で、紗夜の体から霊気が噴出し、忍の炎が吹き消されてしまった。またもや種子真言。今度は動なる光にて闇を祓う(にっ)(こう)菩薩(ぼさつ)の種子だ。先ほどの月光菩薩とは対を成す存在である。

 エクシードがまるで通用しない。これはあまりにもやりにくい相手だ。

 だが、こちらには()()()()()()。先ほど投げた苦無が。

 

(せん)()()()()()じよ! 忍法・炎鎖戒牢(ブレイズ・プリズン)!」

 

 紗夜の背後、地面に突き刺さった苦無から赤い鎖が伸び、彼女を拘束せんと殺到する。鎖の対処を優先すれば忍が、忍に気を取られたままでは鎖が、それぞれ紗夜を襲う。

 ――どうだ!?

 答えは、簡単だった。

 

「『伸びよ』」

 

 唱えたのは、たった一言。しかし、その一言に反応するものがあった。

 先ほど紗夜が地面に叩きつけた()()()だ。放ったらかしになっていたそれが、紗夜の言葉を受けて再び術式を発動させる。木行符の置かれた場所から、瞬く間に樹木が生えた。その場所は、苦無と紗夜を結ぶ直線上――つまり、鎖が飛んでくるルートの真上。

 絶妙なタイミングで現れた障害物(樹木)にぶち当たった鎖は、もちろんそれを(がん)()(がら)めに縛り上げた。その木気を吸い上げた火気を纏う鎖は、瞬く間に呪符ごと樹木を炎上させたが、それだけ。当然、紗夜には届いていない。

「いいタイミングだったね。ちょっと焦っちゃった」

 その言葉とは裏腹に、紗夜に慌てた様子は微塵も無い。忍が苦無を紗夜の背後に配置した瞬間から、この展開を読まれていたのだ。

 しかし――やるべきことはやった。なぜなら、忍が紗夜の攻撃を避け続ける事によって――

「よし、やっと切れた!」

 背後から美海の声。琉花を樹木の束縛から解放できたようだ。そのための時間を稼げたと考えれば、悪い交換ではなかったはずだ。未だダメージというダメージは貰っていないし、何より、体術で自分を圧倒してのける相手と闘えたのは大きな経験だ。

 忍は、その最中でも飛んできた攻撃の一つを、()えて交差した両腕で受ける。やはり魔術によって体全体が大きく吹き飛ばされたが、逆にその勢いを利用して一気に後退、美海と琉花の元まで戻った。

「……一筋縄ではいかないでゴザルな」

「どうしよう……」

「真正面から突っかかっても、ダメだろうね……」

 突破口が見えない。3人で同時に、という作戦も、もはや通用するのかどうか分からない。

 そこに、紗夜が声を掛けた。

「忍ちゃんの大体の実力は分かったわ。鍛え甲斐があるけど、それはちょっと後にしましょう。だから、次は美海ちゃんと琉花ちゃんで掛かっておいで」

 そう、これはあくまでも練習、トレーニング。勝ち負けというより、美海たちの実力を伸ばす方が先決だ。そして、紗夜が「2人で掛かってこい」と言った以上、"スカイブルー・エレメンツ"の作戦は失敗に終わってしまったのだ。

「さ、2人の出番でゴザルよ。拙者、少し疲れたでゴザル」

 未だ血の滲む左手の平に簡単な治癒術をかけながら忍は後ろへ退いた。結局、用意した呪符もほとんど役に立たなかった。これからは、2人にも術を扱えるようになってもらうべきか、と思案する。

 忍と入れ替わるように前へ出た美海と琉花は、今の戦闘を見ていたため、正直相手になるかどうか不安だった。特に琉花は、その絡め手を直接食らっているため、余計に出方が分からない。

 そこで紗夜が、

「どうせなら、1人ずつやる? そっちの方が簡単でしょう」

 との提案。確かにそちらの方が、(てら)いなくエクシードを使えるため(美海のエクシードは特に仲間まで巻き込む可能性が高い)、その提案を飲むことにした。

「どっちから行こうか」

「私からでいいかな?」

「うん、分かった」

 少ない言葉で相談して、琉花が前に出た。まずは春樹に頼んでαリンクを繋げてもらう。もう一度忍に頼んで水を用意してもらい、それを操ってヴェールのように体の周りに纏わせた。同時に、腰のホルスターからリボルバー銃(みずでっぽう)を抜き、纏った水の一部をそこに入れる。これで装填完了だ。

 一方の紗夜は、

「1人ずつって事になったから、朝子は忍ちゃんにアドバイスしてあげてて」

「なんか、こーなる予感はしてたんだけどねー。りょーかいりょーかいっと」

 フィールドに座っていた朝子は、よいしょと立ち上がると、忍の方へ歩いて行った。

「さて、こちらは準備完了。いいかしら?」

「はい。お願いします!」

「元気がいいのは武器ね。さ、始めましょう。おいで」

 紗夜の掛け声と同時に琉花は纏っていた水のヴェールを地面へと流し、自分もその水流に乗る。バトル中、対セニア戦で見せた戦法。ウォータースライダーに乗っているかのように高速且つ不規則な軌道で動き回り、水の弾丸を浴びせる戦い方だ。

 その戦い方も、紗夜は既に見ている。だから、はっきり言って1発目が来る()()()()()止めることはできた。先ほどと同じように、木行符を放って水気を木気へ相生してやれば良いのだ。そして、紗夜にはそれを可能にするだけの実力がある。

 だが、流石にそれでは彼女の実力の底を見ることはできない。なので、それは後回しにして、別の方法を取る。

 降り注ぐ水の弾丸を軽々と避けながら、

「大丈夫? それ、()()は悪そうだよ?」

「う……」

 図星だった。この戦い方は、多くの水を大きく動かし続けるため、体力の消耗が非常に激しいのだ。だが、まるで攻撃が当たらないからといって、諦めるわけにもいかない。

 『点』で駄目なら、『面』で制圧する。

「なら、これは!」

 琉花は攻撃の最中、位置が地面に近くなった時、突然地面に転がって着地した。それを合図に、今まで不規則な形を描いていた水の動きが変化し、彼女の前に防壁を築くような形を取った。

「さっきのお返しだよ!」

 そして、それをそのまま紗夜に向かって勢いよく流す。荒々しく暴れさせつつも辛うじて制御は離さず、避けようとする紗夜を追尾させながら、水の防壁は大波と化して襲いかかる。

 それに対して、紗夜は。

「うん、『揺らぎ』は大事。同じことをし続けて相手が優勢なら、それは相手にとって有利な状況であるということ。だから無理にでも行動を変えなければならない――そこは、抑えているみたいね」

 そう評価しながら、不思議な姿勢を取った。両手の指を曲げて、まるで子供がライオンの真似をする時のような手をする。そのまま右手を左に、左手を上に、それぞれ持っていった。紗夜の顔が一部、腕で隠れる。

(何をする気――?)

 紗夜は体の左側に構えた右手を一気に右側へ振り抜き、次いで上に構えた左手を下へと振る。これまた子供が『引っかき攻撃』でもするかのように。

 だが、それは攻撃ではなかった。右手の五本指と、左手の親指を除く4本指が光の跡を残し、紗夜の前に(こう)()状の軌跡を描いた。

 そして、波がぶつかるその瞬間、光の格子がより一層強く輝き、水の侵攻を防いだ。波は岩肌にぶつかって砕ける時と同じく、派手に飛沫(しぶき)を上げて弾き返された。

 (はや)()()()(しん)(ほう)。本来はこの格子を、刀印――人差し指と中指を伸ばし、残りの三指を閉じる――を結び、呪文を唱えながら1本ずつ切らねばならないのだが、その過程を大きくスキップすることによって、出力の高さを放棄して即席での発動に特化した、紗夜なりのアレンジを加えた術である。

 それを見ていた琉花はもちろん、この場で一番驚いたのは忍だろう。

「結局、ダメージカウンターとか意味なくなっちゃったね」

「あの術は……」

「ハハ、あれすごいよね。修得しきったのは最近なんだけどさ、あれが攻撃を弾くのなんのって」

「一体どれだけ幅広い呪術を学んでいるのでゴザルか」

「あれ、本人は使えるものを学んで使ってるだけみたいだよ? ま、忍ちゃんの言うとおり幅広くやってるから、対処しづらいんだけどね」

 隣で忍の背中を撫でている朝子が笑いながら言った。忍にとっては笑い事ではないのだが。

 忍も早九字は知っているが、ここまで簡略化させたものは見たことがない。格子を描く過程を短縮しているだけではなく、呪文の詠唱すらない。これでまともに術が発動し、あの攻撃が防げるのなら、まず琉花に勝ち目はないだろう。当たり前だが、あれを忍が見よう見まねで再現してみようとしたところで、全く使えないのは目に見えている。

 ――我ながら、とんでもないのと相手をしてるでゴザルな……これが生徒会長の実力でゴザルか……。

 生徒会長など、ただの学生の長である、という考え方は捨てたほうがいいのかもしれない。実力があるから支持される、というのは、ある意味当たり前なのだから。

 ――でも、純粋に選挙で決まってるなら、とんだ脳筋生徒たちもいたもんでゴザルな。

「……紗夜殿は、学生時代も強かったのでゴザルか?」

「え? うーん……どうだろ。少なくとも、あんなに余裕(しゃく)(しゃく)で構えてられるようなキャラじゃなかったなぁ。あーでも、紗夜自身は弱かった気がするわ。呪術を学び始めたのも高ニか高三の頃だったし。それに、紗夜のエクシードって直接は()()()()()()()()んだよね」

「え!?」

「でも、どんなバトルでも、必死で闘ってたよ。まあ、それは今もなんだけど。多分、内側に隠すのが上手くなっただけなんじゃない?」

 朝子は特に気にした様子もなく言っているが、忍はそのことを全く失念していた。紗夜は、()()()()()()()()使()()()()()()。そして、戦闘向きではないエクシードを持ちながら、彼女は生徒会長になったのだとすれば、それはやはり彼女自身の人望に他ならないと言える。

 ――今の生徒会長は、どうなんでゴザろうな?

 と忍は、入学式挨拶の時に見た現生徒会長の優しげな笑みを思い出しながら、そんなことを思った。その眼前では、力を使いすぎた琉花がへたりこんでいる。そこに駆け寄る美海。

「琉花ちゃん! 大丈夫?」

「ん? あ、あははー……ちょっとやりすぎちったかも」

 軽い口調でそう言ってはみるが、その「やりすぎ」た結果、全く話にならなかったのだから、我ながら度し難いと琉花は思う。さっき樹木に捕らえられた時、脱出のために大きく消耗していなければ、もう少し闘えたかもしれないのが悔やまれた。

 そして、最後。美海の番だ。

「じゃあ最後は美海ちゃんね」

「よ、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくね」

 にこやかな笑顔に一瞬ドキッとしながらも、エクシードを操作して風を纏う美海。練習する機会はあまりなかったが、この刺突剣(レイピア)型エクシード制御装置の使い方も、少しずつものにし始めていた。剣を包むように風を集め、その範囲を広げて自分も包みこむ。いつものように体を浮かせると、紗夜は感心したような表情を浮かべた。

「それ、地味ながら素晴らしいよね。自前のエクシードで空中戦できるなんて、朝子といい勝負」

「朝子先輩も飛べるんですか?」

「うーん、「飛べる」っていうか「跳ぶ」んだけど……まあいいや。あとで見せてもらいましょう。おいで」

 美海はニュアンスの違いを上手く読み取れなかったが、自分のものとは違うらしいということは分かった。

 それよりも今は紗夜に一撃入れることを考えなければ。

「行きます!」

 掛け声と共に剣を突き出し、紗夜に向かって暴風を起こす。前回のバトルの最初に行った、相手を吹き飛ばす作戦。その制御も、剣がなかった頃に比べれば簡単だ。

「これは……出し惜しみとかしていられないわね」

 紗夜はそう呟くと、遂に腰の木刀を抜いて、地面に突き刺した。それを支柱に暴風に耐えるつもりだ。こうなってしまうとどうしようもない、というのは前回のバトルで学習した。

 結局のところ、美海のバトルにおけるアドバンテージは、高い機動力にある。こういう戦法はあくまで「できるだけ」であり、それだけにするのは勿体無い、と前回のバトルの後に話し合ったのだ。

 だから美海は、不意に風を()ませる。直後、紗夜へと突進するように風を吹かせ、その勢いで剣を振るう。当然攻撃は木刀の一閃に防がれたが、美海はその勢いのまま一気に紗夜の下から離脱した。

 風の勢いを利用したヒットアンドアウェイ。高所から落下する際のエネルギーまで攻撃に利用するため、一撃一撃が重くなる、ここ数日で考え出した戦法だ。

 対する紗夜は、少し表情をしかめた。美海の攻撃が重かったから――ではなく、別のところに注目しているようだ。

(エクシードを操りきれてない……?)

 実際に今の攻撃は見事だった。空中という、こちらの手が届きにくい場所から一発当ててまた空中へ逃げる。琉花のものと同じく持ちは悪そうだし、まだまだ攻撃に関してまだ甘い点も多いが、よく考えられていると思う。突き詰めれば、強力な戦法のひとつになるのは間違いない。

 だが、それはそれとして、美海のエクシードの不安定さが紗夜の目を引いた。まるで、暴れ馬に重い足枷を付けて無理やり走らせているかのようだ。剣がエクシードを制御するものだと分かったものの、()()()()尚安定しているとは言い難い。

 ――どういうこと?

 紗夜が疑問を抱いていることなど知りもせずに、美海が第2擊を放つ。それも木刀で受け流しながら、言い知れぬマズさのようなものを感じた。

 美海は、自分の戦法が上手く行っていることを知りながら、それでも後一歩、届かぬもどかしさを胸に抱えている。

(もっと速ければ、あのガードを崩せるかも)

 しかし、その一歩が遠い。制御装置に意識を向けるが、レベル4ではここが限界なのだろうか。

 ――いや、そんなはずない! バトルの時は、もっと速かった!

 しかし、攻撃を繰り返す度に、そのもどかしさは(つの)っていくばかりだ。もっと速く。もっと強く。そうすれば、紗夜にようやく一撃入れることができるのに。

 5発目の攻撃が終わって再び空中に戻ってきた時、美海の息は切れ始めていた。持ってあと1発。それ以降は、体を浮かせていられる自信がない。

(最後の1発くらい、当ててやる!!)

 美海はそう強く念じた。

 

 不意に、風がざわり、と騒いだ。

 

 美海は気づかない。寧ろ、美海の戦意に風まで(たけ)ったのかと興奮して、今までよりも速く、紗夜へ突撃する。

 目の前で、紗夜の表情が「マズイ」とでも言うかのように歪んだ。

 ――これなら、当たる。あの防御を崩せる!

 しかし、違った。「マズイ」のは自分だったのだ。

 天から降り注ぐ矢のように紗夜へ突撃し、剣を振るう。紗夜も木刀を構え、振るった。2つの剣が6回目の衝突を――

「――!?」

 起こさない。木刀が、紗夜の体が、()()()

 同時に、自分がとんでもない状態に陥っていることに気付く。このまま進めば、地面に激突するのだ。

 もちろん、地面に激突するのは織り込み済みだ。風を操作して、上手いこと軟着陸すればよい。美海はその経験が数回あったため、同じように風を操って、

 

 「マズイ」のは自分だったのだ。

 

 地面へ激突した。

「ぐ、ぁあ」

 そのままゴロゴロと地面を転がり、バトルフィールドの端でようやく止まった。全身が痛いはずだが、リンクの影響で痛く感じないのが恐ろしかった。これがバトルなら、全部春樹のところへ行っているはずなのだから。

 と思ったら、リンクが切れたのか、美海の体に痛覚が戻ってきた。やっぱり、全身が痛かった。

 ()()()()()

 ――ど、どうして……!?

 風が、言うことを聞かなかった。確かに軟着陸できるように操ったはずなのに、勢いづいた風は美海をそのまま地面へぶつけたのだ。

「美海ちゃん、大丈夫!?」

 紗夜が駆け寄って来た。美海はなんとか体を起こしながら、「あはは、失敗しちゃいました……」と微笑んでみせた。

「でもなんで紗夜先輩、透けて……?」

 そこが疑問だったので聞いてみると、紗夜は微笑んで言った。

「私のエクシードは、光を操るエクシード。さっきのは、光で作り出した幻影よ」

「な、なるほど……」

「やろうと思えば、貴女の視界を歪めて墜落させることも、多分できるわ」

 紗夜は最後の最後でエクシードを使ったらしい。それにしても、恐ろしいことを聞いてしまった。

「美海! 大丈夫か!?」

「あ、春樹くん……うん、ちょっと痛いけど、大丈夫」

「そんな訳無いだろ! 凄い音してたぞ! 紗夜先輩、ちょっとコイツを(りゅう)()先生のとこまで連れて行くんで、琉花と忍をお願いします」

「分かったわ。行ってらっしゃい」

「美海、立てるか?」

「え? うー……痛っ!」

「ったく、言わんこっちゃない。ほら腕貸せ」

「お、おんぶして欲しいな……」

「……仕方ないなぁ、全く」

 急いで駆けてきた春樹は、1人で立ち上がれないらしい美海を背負うと、そのままコロシアムの出入り口の方へ歩いて行った。

「日向美海ちゃん、ね……」

 その後ろ姿を眺めながら、紗夜の目つきは鋭い。

 

…………

 

 無人の廊下に、春樹の足音だけが響いている。美海は怪我しているとは言え、静かだった。

「……強かったな」

「うん……攻撃、通らなかった」

「もっと、練習するか?」

「うん。もちろんだよ」

 言葉数が少ない、しおらしい美海を背に感じながら、春樹は廊下を歩き続けた。

 春樹は終始、何もしていなかった。何しろ紗夜の使う呪術は初めて見るものばかりで、指示の出しようがなかったし、終盤に至っては指示を出す必要性すらなかった。

 未熟なのは、春樹も一緒だ。

 

…………

 

 美海は春樹に背負われながら、その背中に手を当てた。

「ん……? どうした?」

「ううん。何でもないの。ただ」

「?」

「大きいな……って」

「そりゃ、俺は男だからな」

「そうだね……」

 美海は痛みに苛まれながらも、心は静かだった。エクシードを操りきれなかった、その事実が、彼女の心の中に、ずん、と沈んでいた。

 自分の感情が分からない。悲しいのか、悔しいのか。それとも……腹立たしいのか。

 分からなくなったから、美海は春樹の肩から両手を伸ばし、その背中に抱きついた。

「春樹くん……どうしよう、私」

「どうしたの?」

「エクシード、最後の最後で、操りきれなかったの」

「そっか……お互い頑張るしか、ないな」

「頑張るしか、ないのかな」

「多分な。頑張ろう、一緒に」

 春樹の背中は大きくて……だから美海は、自分を余計に小さく感じる。

 


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