アンジュ・ヴィエルジュ *Skyblue Elements*   作:トライブ

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 初めてのバトルが終わった春樹(はるき)達。1ヶ月間がむしゃらに走ってきた彼らは、ようやく一息つける、と思いきや。
「俺のチームと勝負しよう」
 講師・岸部(きしべ)雄馬(ゆうま)が突然そう言った。そして、あっという間に話に乗せられた結果、彼らのチーム"スカイブルー・エレメンツ"は青蘭島主催の外部イベントでバトルする事になってしまった!
 異能少女(プログレス)達を育成する青蘭学園。1年生はようやく学園生活に慣れ始めた。緊張してばかりの日々が過ぎ、少しずつ気を緩められるようになってきたものの、美海(みうみ)の周りで交友関係がもつれ始め……?
「私は、絶対に負けない」
 強く放たれた言葉。抗う美海に、重い苦難が降りかかる。一方で、チームメイトの琉花(るか)にも異変が――!?

 まだ小さな翼を広げたばかりの少年少女の物語、第2幕スタート。
 


2幕【Relations confusion】
第0話「孤独は人を強くする」


 遠く細波の音が聞こえる。

 

 海神(わだつみ)様が呼んでいる。

 

 だから私は前へ進むんだ。

 

 たとえ、この体が壊れても。

 

 でも、心は失いたくないな。

 

 大事な人が待ってるから。

 

 

…………

 

 

 幼いあの頃。なんでもできる親友が妬ましかった。

 

 私は頑張って練習してるのに、あの子はなんでも見ただけで真似てしまう。

 

 ズルい、と思った。

 

 きっと私には才能なんてなくて、だから頑張らなきゃいけないんだ。

 本当に天才なのは彼女なんだ。だから、私がしているような努力なんていらないんだ。

 

 ズルい、と思った。

 

 でも、口には出さない。

 

 私はあの子より賢いんだ。だから口には出さない。

 

 妬ましかった。

 

 正直、憎らしかった。

 

 あの子がくるりときれいに回る度に、殴りつけてやりたい衝動に駆られた。でも、しない。

 

 あの子がきれいに歌を歌う度に、喉を掻っ切ってやりたい思いが頭を駆けた。でも、しない。

 

 流石に今はそうでもなくなった。きっと歳をとったからだ。ちゃんと頭の中で処理できる。

 

 私は賢いから。

 

 でも、やっぱりズルい。

 

 ズルい。

 

 でも、言わない。

 

 私は賢いから。賢いんだ。

 

 「いつか目にもの見せてやる」

 

 その思いひとつで、私はあの子が絶対に真似できない力を手に入れた。

 

 その思いひとつで、私はこの舞台に立った。

 

 だから(・・・)、絶対に負けない。

 

 覚悟して。

 

 

…………

 

 

 必死に鍛錬に明け暮れる彼女を、俺はそばでずっと見てきた。

 彼女は何に対しても非常に熱心で、その努力は当然のことながら彼女という花を、ゆっくりと、しかし確実に開かせていった。

 感心すべきは、血を舐めるような努力、それを、彼女はおくびにも出さないところだ。普通だったら、辛い、やめたい、弱音を吐いて当然のはずだ。しかし、彼女は違う。誰にも言わなかった。両親にすら。

 だからだろうか。時々彼女は、俺に対して、そばに居ないで欲しい、と言うことがあった。俺は彼女の秘密の努力を言いふらすような真似は決してしなかったが、それでも彼女は、そばで誰かが見ている、というのが落ち着かないらしく。それ以上に。

 弱音を吐いてしまうかもしれない。

 俺は、それを拒否した。

 当たり前だが、彼女は怒って理由を聞いてきた。なるほど、孤独の中での努力はとても立派なものに思える。彼女の克己心ならば、隠れて怠ける、なんてことはないだろうということもわかっていた。

 しかし、俺はこう答えた。

「影での努力は立派だよ。でも、誰にも見せないのはいけないな」

「どうして?」

「誰かに見られてないと、人間は怠けちゃうからな」

「そんなことないもん!」

「俺もそう思うよ。それでも、そばにいさせて欲しい。あと、適度に弱音は吐くべきだぞ。溜め込み過ぎたらパンクしちゃうから」

 俺の真摯な思いが伝わったのか、はたまた彼女が素直だったからか、それ以来、彼女は俺を拒むことがなくなった。そして、ほんの時々、弱音を零すようになった。辛い、苦しい、と。その度に俺は彼女の頭を撫で、まだ頑張れるよ、俺が付いてるよ、と優しく慰めた。

 

 晴れ舞台に立つ彼女は、目が眩むほどに輝いている。

 

 その輝きの理由(わけ)。その一端に俺の存在があったなら。

 

 俺にとって、これ以上の喜びはないだろう。

 

 

…………

 

 

 孤独は人を強くする。

 だが、本当に独りきりだと、その成長の方向が曲がっていても、それに気づけない。

 そうした者が再び世界に戻った時、そいつはそこでようやく気づく。

 

 自分がとっくの昔に、人として歩むべき道を踏み外していたことを。

 

 


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