Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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【episode07】

 いのりがここに来ると分かってからの集の行動は早かった。

 外で待機していたGHQの兵士の顔面を掴み、壁に叩きつけるとその服を奪う。

 制服ならまだしも、こんな動きにくい格好で動くのは流石の集も遠慮しておきたかった。

 白い軍服を身にまとった集は地面に投げられた銃を拾い上げると、走り始めた。

 

「……いのりさん話聞いてくれよ。死なない程度って言ったよな」

 

 走りながら悪態をつく。慣れないアサルトライフルを持っているためか、走る速度がやや落ちる。

 数分ほど走り、角を曲がるとエンドレイヴ───ゴーチェと出くわす。

 

『そこの囚監者!!止まれ!!』

 

 ゴーチェの股を通り抜けてから脚に掴まると、脚関節部分まで移動。集は至近距離でアサルトライフルを発射した。連続で放たれる銃弾にゴーチェは苦悶の声を上げる。

 

「うるせえッ!邪魔なんだよッ!!」

 

 実は兵士の服を奪った時から義眼を解放していた集。本当ならば目と脳に凄まじい負荷がかかるために使用は控えているのだが、悠長にしていられないためそうも言っていられなかった。

 態勢の崩れたゴーチェの腹に飛び乗り、跳躍する。

 

「天童式戦闘術二の型十一番。隠禅・哭汀!」

 

 繰り出されるのはオーバーヘッドキックの一撃。

 改造された靴ではなく、しかも破壊力も義肢内部のカートリッジによる加速と火力がないために威力は落ちる勢いと高さによる攻撃。しかし、薄い装甲に加えた衝撃で破壊できる確信はあった。

 耳障りな断末魔と共に義眼を解除する集。数秒休んでから再び、義眼を解放した。眼球に凄まじい激痛が走る。目に直接電流を流し込んで、かつての演算能力を得ているのだ。

 左目を抑えながら、アサルトライフルを構える。

 そして、集に迫る新型のエンドレイヴ───シュタイナー。

 

 ───どこからでも来い。

 

 そう身構えたが、シュタイナーから返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

『……あんた、今何したの?』

「……なんだ葬儀社の女か」

 

 葬儀社の聞き覚えのある声に集はアサルトライフルを下ろした。

 そして、シュタイナーは集に近づくと指を向ける。

 

『……そうだ!あんたいのりになにしたの!!』

「あ?」

『いのりが涯の命令を無視するはずないでしょ!!おかげで作戦が滅茶苦茶よ!!』

「……んな俺が一番知りたいようなこと、知るわけねえだろ」

『ああ!もう、話は後々聞かせてもらうからね!!乗りなさい!!』

 

 その言葉に集は頷くと、シュタイナーの肩に飛び乗った。

 凄まじい速度を出しながら移動するシュタイナーの肩に捕まりながら集は言った。

 

「前方から敵影!数は二!!大きさ的にエンドレイヴだ!!」

『はあ!?そんなわけ───って嘘ォ!?』

「戦闘開始だ!これより対象を排除する!!」

 

 急接近するシュタイナーとゴーチェ。衝突する寸前に、集はゴーチェの頭部に飛び移った。弾切れしてないかと一瞬で確認すると、集はゴーチェの頭部に容赦なく引き金を引く。

 

『グ!?ギャァァァァ!!?』

 

 エンドレイヴ、正式名称を内骨格型遠隔操縦式装甲車両(Endoskeleton remote slave armor)といい、内骨格にいくつかのモーターや電動、バッテリーをマウントし、走行機能を持ったアームロボットのような設計となっている。

 アポカリプスウィルス研究の副産物として生まれた『ゲノムレゾナンス伝送技術』によってオペレータはほぼ無限でエンドレイヴに意志を伝えることが可能。だが、遠隔操作方式ではある物の機体に破損があった時、逆流信号が発生しオペレータにダメージを及ぼすという問題点もある。つまり、痛みを機械と共有しているのだ。

 頭部にアサルトライフルが乱射される痛みなど知らない集は心の中で南無、と呟きながらゴーチェから離れる。

 2体目に攻撃をしようとしたが、シュタイナーが既にもう片方のゴーチェを倒してしまっていた。

 再び、シュタイナーの肩に飛び乗り、行動を共にする集。しばらくすると開けた場所にやって来た。

 

 ───嫌な予感がする。

 

 集は冷や汗を垂らす。すると、罠にかかったらしく集とシュタイナーは大量のゴーチェに囲まれた。集はおもわずシュタイナーの頭部を殴りつけた。

 

『何!?』

「なんで俺を紛争地帯みたいな所に連れてきたッ?!」

『知らないわよ!ちっ、邪魔!』

「はッ!?あ、おいッ!!」

 

 ガストレアの群れよりかは幾分かマシな単眼が集を睨む。

 鉄のにおいが鼻を刺し、集は背筋に冷たいものを感じながらアサルトライフルを発砲する。

 地面を滑りながらゴーチェを誘導、発砲していく。しかし、途中で弾切れが起きたため、集はアサルトライフルを横に投げて地面に転がり込む。

 

 その時だった。爆発音とともに連絡橋が落ちてきた。

 

「馬鹿、殺す気かッ!?」

 

 その場を回避、斜め上を向くと涯がロケットランチャー片手にこちらを見下ろしていた。

 

「んー!んー!」

 

 噴水の所で瓦礫のようにボロボロになってもがいている人間がいた。

 集は涯の意図を理解すると、腕を捲り城戸の元に走り出した。

 

「貰うぞ───お前の魂!」

 

 城戸の胸元が光り、集はそれを一気に引き抜いた。

 現れるのはXDよりも一回り大きな拳銃。集はその銃口を睨むと、向かって来るゴーチェに向けて放った。

 

「───当たれ!」

 

 子気味のいい音を立てながら、シャボン玉が生まれ、音を立てながら上へ上昇していく。

 

「……重力操作、か?」

 

 集は静かに瞳を開いた。

 猛烈な勢いで駆け出した集の足元に銃弾による阻害攻撃がされるが、物陰に隠れることなくゴーチェに突っ込んでいく。

 走りながら城戸の銃で射撃。無力化を確認する。

 射撃してくるゴーチェの縦断をかいくぐり跳躍すると、飛び膝蹴りでゴーチェの顔貌を叩き潰してから、首元に取り付けられたコードを強引に引きちぎる。パイロットの悲鳴が耳を聾する。

 猛烈な駆動音と共に振り返った集は咄嗟に転がって避けると、たった今集がいた位置を轢殺せんと唸りを上げてゴーチェが通過。

 さらにそのゴーチェの肩には重機関銃が取り付けられていた。

 耳を聾する爆音と共に重機関銃が火を噴く。

 重機関銃が集を捉えるより速く、集はゴーチェの肩に着地。重機関銃を横に蹴飛ばし、ゴーチェの頭に大量の弾丸を叩き込んだ。

 コントロールを失ったゴーチェたちは鉄屑へと姿を変えていく。

 

 集は死屍累々になった敵陣地ど真ん中に立ち尽くしていた。

 辺りは肌を焙る火炎と硝煙の匂いがたちこめている。

 既に敵の姿はどこにもない。

 もう終わったのだろうかと訝った時、肩口を何かが通過。撃たれたと思った時には膝をつき傷口を押さえていた。

 

 集は角から新たにやって来たエンドレイヴを睨む。

 

「狙撃型か!」

 

 義眼に仕込まれた距離計が敵を捕捉。

 距離は───三百メートル。遠すぎて肉眼では敵が視認できない上に、炎のせいでゆらゆら視界が揺れる。射撃条件としては最悪。

 ここは身を潜めながら間を詰めるのが定石だろう。と、集が物陰に身を潜めようとしたその時だった。

 

「集───!!」

「……いのりさん!?」

 

 叫んだ時には遅かった。高高度から、いのりが落下していくのが見えた。

 重力法則に従い落下の起動を描くいのりの姿が徐々に近づいていくのを見て、集は悲鳴を上げそうになった。

 

「間に合えぇぇぇえ!!」

 

 銃口から先程までのものまでとは比べ物にならないほどの大きななシャボン玉が、集やシュタイナー、ゴーチェをも包み、広場の噴水の水も巨大な水滴となり、持ち上げた。

 集はその巨大な水滴に飛び乗り、階段を上がるようにいのりに近づいていった。

 いのりがシャボン玉の中に入る。その途端に重力操作を受けて減速し、ゆっくりと空中降下を始めた。

 

「集!」

 

 いのりは集が上がってきたのを見て、喜びの表情を浮かべた。

 そんないのりの頭を集は思いっきり叩く。

 

「……痛い」

「この……アホッ!ヴォイドの力があったからよかったものの死んだらどうするつもりだ!」

「……でも」

「でももクソもない!二度とこんな真似はしないでくれ!!」

 

 集はいのりの目を見つめる。そして、いのりの瞳を数秒見つめてから諦めたように息を吐いた。

 

「本来なら言いたい事は山ほどあるが、それはこの状況を切り抜けてからだ」

「うんいいよ、私を……使って……!」

「……借りるぞ。お前の魂!」

 

 腕を引き抜くと、巨大な剣が集の左手に収まっていた。

 集は残像を残しながら嘘界に接近、剣の刃先を嘘界の首筋に突きつけた。

 

「今何をしようとした」

「芸術の邪魔をしようとしていたので排除ですよ排除」

 

 嘘界は何も思っていないかのように、いのりの剣と、集の周りに浮いている銀色の輝きを見つめている。

 

「……なにが異国の地で死にたくないだろうに、だ。あんたが殺してんじゃねえか」

「そうですか」

「俺にはあんたらの考え方も葬儀社の考え方も合わないみたいだな。だから、俺は俺の正義を貫き通す。邪魔をするなら……殺すぞ」

 

 集の姿が再び掻き消える。

 その瞬間、ゴーチェたちの四肢が切断され阿鼻叫喚と化した。

 

「ああ!素晴らしい!なんて美しい光なんだ!素晴らしきかな人生!ハレルヤ!」

 

 嘘界の言葉が響いた。

 

 ✧

 

 気絶したいのりを抱きかかえ、城戸を引き摺る。一見、シュールな光景だが気にすることを放棄した。

 出口に到達すると、集に向けて一斉にライトが浴びせられた。あまりの眩しさに思わず目を細くする。

 

「……お前らの目的の城戸ならここにいるぞ」

 

 紐を近くに落ちていたガラスの破片で切断し、持ってけというように親指で指を指す。

 

「そうか。綾瀬、回収しろ」

『は、はい!』

 

 シュタイナーは城戸をつまみ上げると、葬儀社が乗ってきたであろう船の中に慎重に運び込んだ。

 

「さて、桜満集」

「なんだよ」

「お前はどうする」

 

 集は足のあたりがムズムズして、見下ろす涯を蹴り飛ばしたくなる衝動に駆られた。

 

「俺は普段の日常に戻りたいが……今回の件でそれは困難なことが分かった。やむを得ん。お前に着いていく。恙神涯」

「……そうか、ならこいつを持て」

 

 涯はそう言って集に紙袋に包まれた何かを投げ渡した。それを破って開くと、集のXD拳銃が入っていた。集は無言で懐に放り込むと、涯の後ろに続くのだった。

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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