Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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【episode23】

 空気が震える。

 木更が神速の刀を振るい、それを紙一重で何とか躱す。しかし、超高温の熱波が集の肌を炙り、裂傷を生み出していく。

 状況で言えば、圧倒的に不利。

 バックステップを取りながら、たまらず叫ぶ。

 

「雪影はどうしたんだよッ!」

 

 木更が愛用していた雪影がこんな妖刀に変わるなど前代未聞だ。きっと何かあったに違いない。しかし、その予想は大きく外れることになる。

 

「さあね。こっちに来た時になくなっちゃった」

「なくなっちゃったじゃねえよ!」

 

 そんな玩具を失くしたみたいに言うんじゃねえよッ!

 殺人刀・雪影。一見黒いただの刀だが天童家代々から伝わる刀なのだ。そんなもの、簡単に失くしたなどよく言えたものだ。

 

「あの子も捨て難かったかったけど……この子も中々いいわよ」

 

 木更の言葉に呼応したのか、熱を放つ妖刀は一瞬、炎が迸る。

 

「この世界には妖刀なんてあんのか!?」

 

 木更さんの攻撃を避けつつ、兵士たちが使っていたであろうサブマシンガンを拾い、撃ちこむ。

 しかし、哀しきかな。音速をも超える斬撃で弾かれた。

 集の問いに、木更は淡々と答える。

 

「無いわよ」

「じゃあなんで刀から熱なんて出てんだよ!?」

「これ、司馬重工が作り出した『超高温電導ブレード』よ?」

 

 妖刀などではなく科学の力だった。

 

「誰だよこんな危ねぇもん作り出したのは!」

「私を倒したら教えてあげる。“迸れ、焔光(えんこう)”ッ!」

 

 その言葉に呼応して、刀身が紅蓮に輝く。何千度をも超える刃が襲いかかる。

 目に見えぬ灼熱の斬撃が集のサブマシンガンを斬り飛ばす。

 

「終わりよ」

 

 木更が刀を振りかざす。

 

「死になさい」

 

 俺に刀を振りかざそうとして───焔光(えんこう)と呼ばれた刀の刀身が天高く飛んでいった。

 一瞬呆気に取られたが、その隙を逃すことなく、集は木更さんの鳩尾に焔火扇を叩き込んだ。急所に叩き込む本気の拳。

 

「かっ……!?」

 

 上体が崩れたところに、足を振り上げ、踵落としを叩き込んだ。

 木更が体を起こしたところで、集のXD拳銃の銃口が木更に照準を定めていた。

 

「───形勢逆転、だな」

 

 こちらも大分傷だらけだが、致命的な攻撃はなんとか防いでいたので今の攻撃を仕掛けられた。

 もし、あの斬撃を一撃でも食らっていたら───あまり考えたくもない。

 

「木更さん。あんたの、負けだ」

「まだよ!まだ終わってなんか……!!」

「もうやめてくれ。こんなあんた、見たくない」

 

 木更の溝尾に一発、蹴りを放つ。体がくの字に曲がり、集を一瞬睨みつけてから気絶した。

 同時に、粘ついた汗が吹き出してくる。膝をついて、息を荒く吐く。忘れていた痛みが襲い掛かり、歯を噛み締めた。

 そんな時だった。

 

『こらー、木更ーダメやろ』

 

 木更の持つ焔光(えんこう)から聞き覚えのある声が響いた。

 

『おろ?どうしたんや木更。木更ー?』

「……なんとなく察してはいたがお前も来てたんだな。美織」

 

 その言葉に息を呑む声が聞こえた。

 

「黙るなよ」

『……いやー、まさか木更が負けるなんてなー』

「馬鹿言うな。これも全部お前の仕業だろ」

『里見ちゃんと戦うことは知ってたけどな?いやー、まさかセーフティー外さずに戦うとは思わんかったわー』

 

 ほわんほわん笑いながら言う美織。

 

「あの刀剣……明らかに異常だぞお前。なんてもん開発しやがった」

『一応、セーフ機能はついてるんやで?木更が使っていたのは活人剣モードや』

 

 活人剣。不義・不正・迷いなどを切り捨て、人を生かす正しい剣。対となるは殺人剣。禅宗で、師が弟子の自主的な研究にゆだねることを言う。

 仏教の禅宗でいう修行者の指導方法の一つで剣法の真剣に例えたものであり、相手を受け入れて進ませるのを活人剣。逆に厳しく突き飛ばすのを殺人剣という。

 

 ───だが、木更の剣は殺人剣だ。

 

「木更さんに……なにがあった?」

『さあな。私は知らんわー』

「はぐらかすんじゃねえ!」

『もう時間が無いからほんじゃ、またな。早いところそこから立ち去った方がええで』

「待て!」

 

 焔光(えんこう)の柄を木更から奪い取り、声を荒げるが向こうからの返答はもう帰ってこなかった。

 

「木更さん……あんた、なにがあったんだよ……ッ!!」

 

 当然気絶している木更からは返答など返ってこなかった。

 

 

 

 

 しばらくして、涯といのりが戻ってきた。いのりは集を見るなり、急いで駆け寄り、治療を始める。

 浮かない顔をしているので、なにがあったかを訊ねると、涯はゆっくり話し始める。そして、集は眉を顰めた。

 

「俺が足止めしてるにも関わらず目的のものは既に取られていたと?」

「ああ……」

「こんなボロボロになったのに取られちゃうなんて葬儀社のリーダーも大した事ねえなって……痛えッ!? 」

「ごめん」

 

 火傷、切り傷。数え上げたらキリがないほどの重症を負った集だが、いのりの謎の治療によって治療されていく。そのほとんどが激痛を伴うものだったが。

 

「……無茶しやがって」

「うるせえッ」

 

 ふと、腰のホルスターに挿し込んだ焔光(えんこう)の柄を見やる。

 美織が言っていたあの言葉───早いところそこから立ち去った方がいい。という言葉が集の頭に引っ掛っていた。

 もうあの神社内にはいないから安心だとは思うが、一体どういう意味だったのだろうか。

 

「木更さん……」

「……」

「だから普通に治療してくれよッ!?」

 

 集の声にもならない絶叫が響き渡った。

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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