「 敵襲!!」
「葬儀社だ!!」
陽動部隊は警備の真っ只中に飛び込み、撹乱を続けていた。
「……そうだよ!これだよこれ!!」
ダリルは突っ込んで来た葬儀社のトラックを蹴り飛ばし破壊させ、銃でタイヤを撃ち抜き横転させた。
体の引きさかれた葬儀社の一員を横目にダリルは高らかに笑う。が。
「……ぐあっ!くそ!なんなんだよ!!これは!!」
エンドレイヴを動かし、葬儀社を潰しながら移動していたダリルは人を殺す度に自分の体験したことのない記憶がフラッシュバックしていた。
───君が言う戦争は学校の先生が口にするのとは違う。重いんだ。怖いことなんだってわかるんだ。
「……黙れ」
ダリルは銃口を葬儀社に向ける。
───何も知らされないで、決められるわけないだろ。そんな話し方で人を従わせようとするのは、ずるいよ。
「……黙れ、よ」
引金を引き、葬儀社に銃を放つ。飛び散る鮮血。聴こえてくる断末魔。
いつもならこの光景は楽しんで見ていられる。
だと言うのに。
───どんな理由があっても、一方的に人の命を奪うのはよくない。そんな権利は誰にもないんだ!
「うるさい!黙れよ!!お前は誰なんだ!!」
ダリルはそう叫ぶも誰も答えない。
「くそっ!どこまでも邪魔をするか!お前は!!」
頭の中で徐々に近づいてくる一角獣。
自分が自分でなくなるような感覚。
思わず意識が離れそうになる。
「来るな……こっちに来るなぁぁぁ!!」
次の瞬間、ダリルは意識を手放した。
「うおっ!?」
ルーカサイトコントロールルームに到着すると、尋常ではないほどの冷気が溢れ出した。毒ガスかと懸念したが、もう浴びてしまったためこれから対処しても意味が無いし、どう考えても人が入るところに毒ガスなど散布しないかと考えを改めると、中に入っていく。
中に入るなり、いのりが肩を抱いて震えた。
「……寒い」
「……そんな格好でいるからでしょ」
最もな発言をすると、いのりは集の方をジトッとした瞳で睨み、指さす。
「集にも同じ苦しみを味わってもらいたい。そして集。あなたは次に『丁重にお断りする』と、言う」
「丁重にお断りする……はっ!」
もはやいのりのお得意の十八番である。しかし、なぜだろう。心を読まれた気がしてならない。気を改めて軽く頬を張ると、いのりの装いを見下ろした。
どう考えても潜入用ではない。
「……なんでそんな服装で来たの?」
「この服にはステレス迷彩があるから」
そんな露出の多い服でどうやって、と小さく呟くといのりは胸の前で手を交差する。
「……変態」
「今のは不可抗力だッ」
雰囲気ぶち壊しの光景に涯は目頭を抑える。そして、集の横まで移動すると思いっきり集の頭を殴った。涯を見上げると、絶対零度の視線で集を睨みつけるながらルーカサイトの方に指さした。
「集。お前はあれに集中しろ」
「……なあ、今のって俺のせいなのか?」
困惑している集に、いのりは涯の背後に移動するとボソッと一言呟く。
「集だけに」
「てめぇらぁぁ!!」
城戸の重力銃の銃口をルーカサイトの方に定めながら叫ぶ。
集は慟哭した。初めて邂逅した時のいのりはこんなキャラクターではなかったと言うのに。すると、いのりは小首を傾げて
「集が勝手に思ってただけ」
なんて言い出す。集は髪をガシガシと掻くと、やけくそになりながら叫ぶ。
「あーわかったよ!俺が悪かった!これでいいんだろ!?」
本当はすべて楪いのりという利己主義者のヴォーカルだと言うのに。
「ミジンコ以下が抜けてる」
「あんたは木更さんか!?」
自分の初恋の相手の名前を叫ぶと、目に見えていのりの機嫌が悪くなる。
集は思わず顔を背けて、事なきを得た。瞬間、いのりの手が電光石火の如く伸び、集の脇腹を掴んだ。
「いっ!?」
視界があまりの激痛に目の前に眩いほどのスパークが散る。前言撤回、まったく事なきを得ていなかった。
「集。その木更って誰?」
「あ、あー!今日は天気がいいよな、いのりさん!」
「今日は曇り」
集はいのりの方に目線を向けず、ルーカサイトの動きを止めた。こうでもしていないと、いのりの視線に耐えられなかったのである。
そこから涯がデータを書き換える作業が始めるということで、集はその体勢のまま待機していた。いのりの悪魔のような囁きを右耳に受けながら。
「……ねえ、集。木更って誰?」
「……木更津のこと、です」
「……集は木更さんと呼んでいた。よって木更は人であり、女性であると判断する」
───いのりさん!あんた、こえーよ!
という嘆き声を漏らさなかったのは奇跡にも近かった。もし、そんな声を上げていたら───その先はあまり考えたくない。
「集、どうなの?」
早く涯が終わらないかと願っていると、後ろの扉から破砕音が聞こえた。
緩んでいた緊張感が一気に引き締まる。
『葬儀社ァァ!!』
エンドレイヴがバルカン砲をぶっぱなしたのか、巨大な銃を構えた状態で雄叫び上げていた。
しかし、見覚えのない機体である。体の至る所から水晶のような刺が生えていた。
いのりは集からエンドレイヴに視線を移すと、こてん、と首を傾げた。
「……ニュータイプ?」
「なるほど、あんなニュータイプがいたら俺たちは一瞬で肉塊だな」
一瞬で肉塊にしてくれるのならまだいいが、あの男の性格からして拷問紛いのことをしながら人間だったものにはなるのは目に見えている。
どうしようかと首を傾げていると、コントロールを終えたのか涯がこちらの方まで走ってきた。
「逃げるぞ!集!!」
「珍しく弱気だな、お前」
地面に転がっている城戸の襟を掴むと、引き摺りながら走り出す。
瞬間、背後で破砕音。
「シュタイナーがやられた!」
「あのデカブツが!?」
涯の言葉に戦慄する。義眼によるオーバーアシストで何とか勝利を勝ち取ったが、普通に戦えばまず勝てるはずのないパワーとスピードと反射速度を兼ね備えたシュタイナーがやられるとは考えられなかった。
「綾瀬曰く、急にユニコーンがどうのこうだの、この機体がどこまで持つかだの、急に冷静沈着になったら暴れだしたそうだ!おい集!シュタイナーを倒したんだろ!?足止めしろ!」
「んな無茶言うんじゃねえッ!あの時は条件が揃っていたからたまたま勝てただけだ!今戦ったらボロ負けするぞ!?」
「使えない
「誰が
走りながらギャーギャーと幼稚園児並みの口論を繰り広げていると、横で走っていたはずのいのりが急に足を止めた。
「いのりさん!何足止めてんだッ!?」
「───」
瞬間、いのりがエンドレイヴ向けて駆け出した。正気の沙汰とは思えないその光景に集は思わず叫んだ。
「いのりさんッ!いのりさ───いのりッ!!」
ふといのりがこちらを見たような気がした。
口角を上げていて、いのりがまず見せないような微笑みを浮かべていて───その目は、青く染っていた。
───やっと、呼んでくれた。
いのりが向こう側でそういった気がした。
刹那、いのりがエンドレイヴ向けて跳躍。常人の数倍を超える速度でエンドレイヴ頭部に急接近すると、いのりは唐突にヤクザキックを叩き込んだ。
あまりの光景に絶句する集。いのりさんが壊れた、と呟いたその直後、凄まじいほどの爆発音が鳴り響いた。
エンドレイヴの頭部が吹き飛んだのである。その頭部は遠くの部屋まで吹き飛び、何かを壊したような音がしたが、今はそれじゃない。いのりの安全である。
「いのりさんッ!」
「……集?」
いつもの涼しい顔でいのりは集の方を振り向いた。目は青くなっていない。幻覚だったのだろうか。
それでも、集はそれどころではなかった。集はいのりの元まで駆けると、思いっきり抱きしめた。
「集ッ!?」
突然の集の行動に目を白黒とさせるいのり。集の服を引っ張って何とか引き剥がそうとするも、集の力が強く、上手く引き剥がせない。
「よかった、本当によかった……ッ!」
「……集?」
「……もう二度と、あんな無茶しないでくれ。二度も俺は失うなんて耐えれない───」
うわ言のように言う集にいのりは怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐにその表情を弛めた。そして、集の背中に手を回すと、抱き返した。
「……わかった。もう、無理しない」
「……ありがとう」
そう言って、いのりを強く抱き締めた。
「……お楽しみのところ悪いが」
その光景の一部始終を見ていた涯は咳払いをして言う。
慌てて集はいのりから距離をとる。いのりは不満そうな顔を浮かべていたが、雰囲気を感じ取ってかすぐにいつものポーカーフェイスに戻る。
「非常にまずい事態に陥った」
「……なんだよ?」
「ルーカサイトが破壊された」
涯のそう言い放つと同時に、凄まじいほどのアラームが鳴り響いた。
救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)
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必要
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不必要