腕に包帯を巻きながら集は隣で装備を整えてる涯に質問する。
「涯。その檻っていうのはいつごろ完成するんだ?」
「約四時間だな。それがどうかしたのか」
集はヘラヘラと笑う道化師のような青年を思い出す。天罰が云々、と言っていた言葉を思い出しながら首を傾げる。
「……いつ突入する予定だ」
「二時間後だ」
集は早く攻めてルーカサイトの主導権を奪うのか、と呟きながら涯に再び声をかける。
「涯。悪いことは言わない。一時間短縮した方がいい」
「……なぜだ」
「嘘界に読まれている可能性がある。あいつならやりかねない」
集は声を低くしながらXD拳銃を腰のホルスターに仕舞い込む。コンタクトがしっかり装着されていることを確認すると、周囲を見渡す。もう勝気になっているの気を抜いて雑談を混じえている兵士が数名。
集は息を吐きながら小石を蹴り上げ、手で掴むとそれを問答無用で投げつけた。ほぼノーモーションで投げたその小石は頭蓋に吸い込まれていき、鈍い音を撒き散らした。
「さて……どうするか」
「……戦力を減らしてどうする」
「ああいう奴は真っ先に死ぬ。ここから先はどうせ生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされるんだ。ならここで気絶させておいた方がいい」
白目を向いて倒れる一人を心配して駆け寄る彼らを集は睨めつけながら呟く。
「気絶したか……」
「お前が原因だけどな」
さあ、なんのことだか。記憶にないんだなこれが。
「人員足りなくなっちまったな」
「お前のせいでな」
「そこは俺が入って補う。ところで涯」
「なんだ」
集は某映画で見たワンシーンを思い出しながら人差し指を立てる。
「全方位からロケランぶっぱなすこと可能か?」
「戦争でも始める気か」
涯のその言葉にぐうの音も出ないが、ここで折れたら駄目だと足を踏ん張る。
「めんどくさいことは嫌いだ。そしたらもう答えは一つだろ?」
「……言ってみろ」
「相手の歩兵、飛車、角行、金将、銀将、桂馬、香車。そいつらが守っているのは人じゃない。兵器の心臓部だ。なら、先に兵士達を蹴散らして安心して通った方がいいと思う?」
「……そうなったら俺らはいつ潜入するんだ」
「わかってねえな……お前」
集は唇の片端を上げると、作業をしていたふゅーねるを拾い上げた。
「こいつだよ。こいつを大量量産して、エンドレイヴみたいにすればいい」
「なるほど、お前は正真正銘の馬鹿だ」
その言葉に集はノーモーションで拳を振りかざしたが、涯はその拳を両手をクロスすることで防いでみせた。
「ふゅーねるだけでも凄まじい予算なんだぞ。それに兵器をつけてみろ、葬儀社の財布が一気に空になる」
「……まじかよ」
集は自分の浅はかさを呪った。途方に暮れる集を見兼ねてか、涯はまあと言葉を続ける。
「一時間後に突入。それはいい案かもしれないな」
涯の言葉に、集は顔をゆっくりとあげて不敵な笑みを浮かべて見せた。
涯は自分が嵌められたのだと気づいた時にはもう既に遅かった。
光学迷彩が掛けられたテントに再び集まった集たちは作戦前最後のミーティングを行っていた。
涯は空中に浮かんだモニターを睨みながら口早に言う。
「もう一度作戦を説明する。陽動部隊が敵を引きつけている間に俺たち潜入部隊がコアルームに潜入。ルーカサイトを止める」
集は涯の言葉を聞きながらダムを見据える。
「言っておく。陽動部隊のお前たちはどんな状況に陥ろうとも決して引くことを許さない。そして死ぬこともだ」
涯は陽動部隊に、そして葬儀社全体に伝えた。
「この作戦は通過点にすぎない。葬儀社の真の勝利はさらに先にある。お前たちにはそれを見る資格がある」
一拍置いて。
「必ず生き残れ。 作戦開始っ!」
おおー!と、野太い声が響き渡った。
『少尉。2時間後に作戦開始だそうだ……って、少尉。聞いているのか』
「っ!なんだよ!聞いているに決まっているだろ!?」
エンドレイヴに搭乗したダリルにローワンはそう告げた。だが、いつものような毒舌は数秒の間を開けてから返ってきた。お腹でも痛いのだろうか。
「……なんだって言うんだ……この記憶は……!」
白い一角獣の機体に乗った誰かが宇宙で戦っている光景がダリルの頭の中で再生されていた。
そう、まるで自分が体験したかのように。
敵陣にはいるなり、集は義眼を解放。床を猛烈な勢いで駆け抜ける集の足元周辺に銃痕が刻まれるが、物陰に隠れるどころか敵のテリトリーまで突っ込んでいく。
走りながらXD拳銃で威嚇射撃。
壁に隠れてそこから射撃してくる兵士の銃弾をかいくぐりスライディングすると、相手の脚に発砲して、敵陣に飛び込んでいく。蹲る兵士を至近距離から銃殺。殺した兵士から閃光手榴弾を奪うと歯でピンを抜いて防御陣地の中に投擲。15mの範囲で100万カンデラ以上の閃光を放ち、突発的な目の眩み・難聴・耳鳴りを発生させる。その隙に集はジャンプをして防御陣地の中に飛び込むと、次々に銃殺していく。発砲音と敵の悲鳴が被さる。
光が止んだ時には、防御陣地内には火焔と硝煙のにおいがたちこめていた。
体中汗でびしょ濡れで、いつの間にかホルスターに入れていたコンバットナイフはどこかに行ってしまっている。
見たところ敵の姿はどこにもない。
もう終わりかと訝った時、肩口を何かが擦過。やられたと思った時には横に跳躍していた。掠っただけなのにこの痛さはこれがゲームではないことをよく実感させられる。
着地して周囲を睨む。
「……お前らも光学迷彩か!」
肉眼では敵が視認できない上に、どこから攻撃されるかもわからない。条件としては最悪。
ここは闇雲に行動せず、音で判断するのが定石だろう。
しかし集はそうせず、無闇矢鱈に走り出して拳を構えた。
『生きる為に戦え』
集は何も無い空間に掌底を放った。
捉えたという感覚はなく、横腹にザクりと嫌な音がした。
凄まじい激痛と熱に顔を顰める。息を吸い、震えながら吐く。
目を閉じ、腹に突き刺さったそれを掴む。
「……捕まえたぞ」
ホルスターから拳銃を引き抜き、ロックを解除して発砲。反動で腕が蹴り上げられ、真鍮色の空薬莢が回転しながら吐き出される。
弾丸は何も無い空間に吸い込まれていき、直ぐに姿を消す。直後、ドサリと重たい音が鳴り響いた。
集の腕の延長系と化した銃弾は、朱に余さず敵の死を伝えた。
『百載無窮の構え』を取りながら静かに残心。
『人銃一体の境地』に久しぶりに到達した集は、荒い息をどっと吐いた。
同時に、忘れていた痛みが一気に押し寄せてくる。穿たれた傷口を手で抑えながら膝を着く。ドクドクと流れる黒い血が床を汚していく。
そう言えば、昔もこんなことがあったなと集は小さく息を吐いた。遅れて涯たちが到着する。集の姿を見たいのりは集の元に駆けると、すぐに治療を開始した。しかし、麻酔の類を一切かけて貰えなかったために、治療は痛みを伴うものとなった。
「……小比奈の時よりひでぇぞ」
「その蛭子小比奈っていう女は誰……」
「傷口を触るな!痛てぇ!!」
いのりは能面のような表情を浮かべて、集の脇腹を触り続けていた。
無理もない。集は敵陣に駆け込む際、いのりに無理はしないと言ったのだ。
涯はそんな集の光景を鼻で笑い、城戸はざまあみろと呟く。
集が城戸に一睨み効かせると、城戸は口笛を吹きながらあらぬ方向を向いた。
集は痛む腹を抑えながらゆっくりと立ち上がり、ルーカサイトが保管されてある場所を急いだ。
救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)
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必要
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不必要