Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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【episode10】

「かっ飛ばせー!!集!!」

「見せもんじゃねえぞ」

 

 可笑しいだろ月島、と叫ぶ集に聞こえねえよと答えるアルゴ。集は溜息を吐くとシュタイナーを睨み上げた。

 

『集、私の銃とアンタのはペイント弾だけれど当たりどころが悪ければ死ぬわよ』

「どんだけ威力強いんだよ」

 

 骨折くらいは覚悟していた。しかし、死ぬとは聞いていない。

 

『死ぬ気でやれってことよ』

「ならそういいやがれコノヤロウッ」

 

 集は額に青筋を浮かべた。ハイハイと呟きながらシュタイナーは集を見下ろした。

 

『覚えているわね、試験の内容』

「覚えてねえよ」

『紙渡したわよね!?』

 

 集は思わず眉間に皺を寄せた。

 

「あのなあ……試験内容違うじゃねえか。俺は対人戦だって聞いてたんだぞ」

『え?……ああ、間違って渡しちゃったのね。それ訂正前の紙だから』

 

 ───落ち度はお前にあるじゃねえか!

 

 堪らずそう叫ぶとシュタイナーはやれやれと首を振る。

 

『……私のシュタイナーを抜いて後ろにある車両に駆け込めたらアンタの勝ち、いいわね?』

 

 集はアサルトライフルを構えると、横にいる四分儀に合図を出すように促す。四分儀は頷くと銃を天井に向けて発砲した。

 乾いた発砲音が響くと同時に、集は動いた。シュタイナーが引き金を引くと同時に弾道を予測。横に転がり込み、柱に隠れる。

 ズガン!と地面を抉る音。そちらを見やると、ペイント弾がコンクリの床を抉っていた。実弾じゃなくても即死レベル。集は頭が痛くなるのを感じた。

 

『隠れていちゃ何も出来ないわよ!』

 

 集はふざけんじゃねえよ、と一人愚痴る。

 あの威力のペイント弾が当たったら王の力を発動していても深手を負うだろう。顔から脂汗が吹き出してくる。

 

 集中力が切れたら愉快な肉塊になる。集は自分にそう言い聞かせると、柱から飛び出した。シュタイナーが再び発砲、集に襲いかかるも、走った勢いをそのままに耐性を僅かに崩して、地面を上滑りする。その際、ズボンが摩擦で焼き切れたが集は無視をした。

 シュタイナーの背後取った集は、地面を蹴り上げ膝裏にタイキック。しかし、ジュモウより頑丈に作られているのかシュナイターは僅かに揺れるだけで、特に目立った変化はなかった。

 

「……理不尽すぎんだろ」

 

 シュタイナーは集の方向を振り向くと、容赦なく腕を振り下ろした。直撃する寸前で右へ転がり込み、何とか今の攻撃を防いだもの、ここから先は持久戦になるのは間違いないだろう。

 

「ッ!!」

 

 銃弾よりも遅いこれを、避けるのにはさほど苦労はないが、意思を持った巨大な鉄の塊が落ちてくるほど恐怖なことは無い。

 

『やるじゃない!』

「やりすぎなんだよ!」

 

 拷問かよッ!と叫びながら大地を駆け抜ける。

 

『あら、一応戦いのセオリーは理解出来ているのね。だけど、それじゃ生きていけないわよ!!』

「うるせえ!そんな事わかってる!!」

 

 集は地面を蹴り上げ、シュタイナーを睨んだ。

 

「……なら!」

『はっ!?』

 

 柱を蹴り上げ、シュタイナーに接近した集は、拳を力一杯に握りしめた。

 

「天童式戦闘術一の型八番!焔火扇!!」

 

 渾身のストレートをシュナイターの頭に叩き込もうとして、避けられる。

 

『遅いわ!!』

 

 人間よりも反応速度がいいのかよ、これは。と毒づきながら集は地面に着地するなり、再び空中へ飛び上がった。この攻撃が通らなかった場合、集は隙だらけになる。だからこの一撃に賭けた。

 天童式戦闘術二の型十一番。オーバーヘッドキックの要領で相手の頭部に大きな一撃を叩き込むことが出来る技の1つ。

 

「隠禅・哭汀!」

 

 シュタイナーの動きが僅かに止まったが、気休め程度で、着地した集を真横に吹き飛ばした。

 

「がっ!?」

 

 直撃はまぬがれたものの、吹っ飛んでいく速度は凄まじく、勢いを殺そうとして床に左手を当てた際には、左手が見るも無残な姿になっていた。

 ズタズタになった左手から血が床に滴る。

 それと同時に、即座に左手の治癒が始まる。ズタズタになった左手が徐々に再生していき、普段と変わらぬ姿になった。

 

『あんた……それ……』

「───さあな。だが、今は感謝しかねえよ」

 

 集は静かに腰を落として、百載無窮の構えを取る。攻防一体。集の身体を二回りも三回りも上回るシュタイナーの図体から見ても、どこも隙が見当たらなかった。

 

 ───どんな攻撃を仕掛けてくる。蹴りか、それとも突進か。

 

 綾瀬の脳裏に様々な思考が過ぎる。

 しかし、集がとった行動は予想とは反しているものだった。

 集は途端に口の片端を上げると、走り始めた。咄嗟のことに対応が遅れたシュタイナーの股の下を集は潜り抜ける。

 

「よし、このまま辿り着け……」

『るわけないでしょうが!!』

「……ないよな」

 

 某機動兵器の戦いを思い出す。旧型と新型じゃ格が違う。シュナイターは集の目論見通り、凄まじい速度で旋回した。

 しかし、これが集の作戦だった。

 

「……ようやく隙を見せたな」

 

 シュナイターは現在片足に重心が傾いている。そのため、少し圧力を加えることで簡単に体勢を崩すことが出来る。

 

「『轆轤鹿伏鬼』ッ!!」

 

 カートリッジによる加速がなければ破壊力もない。が、義眼による計算は可能だ。集はシュタイナーの体勢が崩れる体勢を予め計算し、技を繰り出した。

 轟音を鳴り響かせながら地面に倒れるシュタイナーを横目に、集は目的地である車両に辿り着いた。

 

「……これで、いいんだよな?」

 

 しばらくして、集の周りに拍手が巻き起こった。

 様々な言葉が投げかけられたが、集は疲れ果ててそれどころではなかった。左手の傷は無くなったものの、失った血までは元に戻っていないらしい。

 集は疲れと失血からか、意識が暗転するのを感じた。

 

「───集!?」

 

 意識を失う際に、いのりの顔が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 ✧

 

「涯さーん!」

 

 乗ってきた車を降りた涯は自分を呼び掛ける声の方向を見る。

 涯は自分を呼び掛ける梟に歩み寄る。

 

「見張りの結果!問題ありません!!」

 

 梟は涯に力強い敬礼をする。

 

「そうか。ご苦労だった」

 

 涯の言葉に梟は嬉しそうに笑う。

 

「…………」

 

 涯は額に脂汗を浮かべ少しふらつく。

 

「涯さんお体の具合でも?」

「……いいや、お前の声で目が覚めた。四分儀の通信で起こされるよりずっとよさそうだ。今後はお前にモーニングコールを頼もうかな……」

「僕はもっと皆さんのためになる仕事がしたいんですよー!」

 

 梟はむっとなって言う。

 

「そろそろか……」

 

 涯は空を見上げて呟く。

 

 ───瞬間、二人の上空で太陽光さえ塗りつぶす強力な光が襲った。

 

 光は上空の輸送機を焼き潰し、二人に降りそそいだ。

 

 ✧

 

 

「……知らない、天井、だ」

 

 目が覚めると、知らない場所で寝かされていた。

 億劫がる身体を無視して体を持ち上げると、何十万円もするであろう機材が置かれ、その奥の方にスタジオらしきものが見えた。

 

「……ここは」

「私が曲を考える場所」

 

 集が声の主の方に振り向くと、いのりが座っていた。

 何故だろうか、とても不服そうな顔をしていた。

 集は苦笑いを浮かべながら僅かに距離をとる。

 

「どうして逃げるの?」

「なんとなく、です」

「逃げたら締め落とす。逃げないで」

 

 いのりの恐喝に集は慌てて首を縦に振る。いのりは小さく息を吐くと、集の真横に座り直した。

 

「……集」

「はい、なんでしょう」

 

 冷や汗が背中を伝う。激しくなる鼓動を聞かれないように集は必死で答えた。

 いのりは集の左肩に頭を乗せると小さく言った。

 

「お疲れ様」

「……どうもありがとう」

 

 そして沈黙。何故こうも話が続かないのだろう。

 それにしても、なぜいのりは思考を読むことが出来るのだろうか。疑問だらけである。

 もしかしたらいのりは相手の思考を読み取る力が───

 

「───そんな力、持ってない。それと集。あなたは次に『思考を読むのをやめてくれませんかね……』と言う」

「思考を読むのをやめてくれませんかね……はっ!」

 

 なんてこった、と頭を抱える。

 いのりの読心術がどんどんと鍛えられていっている。早く手を打たなくては。と密かに決意した集であった。実は、集本人がわかりやすいというのも一つの理由ではあるのだが。

 そんな集の思考を読み取ってかいのりは集の脇腹を抓った。

 いってぇ!?という集の叫びを無視して、いのりは顔を上げた。

 

「……ここに運んだのは私」

「そ、そうなんですか……」

 

 いのりは小首を傾げた。

 

「どうしてそこで畏まるの?」

「い、いや……なんだか緊張して……」

「そういう時は深呼吸。吸って吐いて吸って吐いて、だよ?」

「あ、そ、そうだすね」

「そうだす?」

「い、いや……」

 

 集は深呼吸をして、心を落ち着かせる。そして、疑問に思ったことをいのりにぶつけた。

 

「……それでなんで俺をここに?」

「……えっと……なんだっけ?」

「おいいのりさん?」

 

 集は思わずよろけそうになった。

 いのりはふるふると首を振ると、呟く。

 

「違うの。内容は覚えているの。だけど、どうやって始めればいいのかがわからなくて」

「よし、順を追って話してくれないか?」

 

 集はいのりに向き直って目を見て言った。

 

「えっ……」

「いのりさんは俺に話したいことがある。そうだよな?」

「えっ、まあ、うん」

「その内容は?」

「えっ……」

 

 振り出しに戻った。集は堪らず泣きそうになった。

 

「……何を伝えたかったんだ?」

「えっと……」

 

 何も答えてくれない。集は昨夜のことを思い出しながら疑問を投げかける。

 

「俺がいのりさんを普通に呼ばないことか?」

「それはもう解決した」

 

 どうやら答えることは出来るらしい。集はどんどん質問を投げかける。

 

「あまり育たないとか?」

「任務する時に邪魔。集の変態」

「身長の事なんだけが」

「っ!?」

 

 顔を赤くしてあたふたする。

 何を考えたんだろうか。脳裏をツインテールの明朗快活の幼女が通り過ぎたが、まさかそんな考えをした訳ではあるまい───と、集はその考えを捨てた。

 

「じゃあなんですか……」

「……え、えっと……そ、その……」

「俺は逃げも隠れもしない。ゆっくり話してくれよ」

「……わかった。それじゃあ言うね」

 

 いのりさんは立ち上がって集の目をしっかりと見る。

 

「───私は、集のことが……」

「いのり!大変!!」

 

 集は現実から逃避した。ああ、もう知らねえぞ。天井を仰いで、集は態とらしいため息を吐いた。

 

「……あ、もしかして入らない方がいい感じだった?」

 

 ツグミの顔がだんだん青ざめていく。そして、いのりの負のオーラがどんどん増殖していく。

 集は心の中で般若心経を唱え始めた。

 

「……ツグミ」

「はいっ!」

 

 涯の時には絶対に見せないであろう敬礼と返事。集はもう見てられなかった。

 

「前、ノックしてって言ったよね……?」

「え、言ったっけ……?」

「言ったよね……?」

「は、はいっ!」

 

 ───反論は、許されない。

 

「しゅ、集……」

 

 ツグミが目をウルウルさせながらこちらを見る。集は親指を立てながら、満面の笑みを浮かべた。

 

「諦めろ」

 

 こう言うしかなかった。

 この後に何が起きたかは集は知らない。知りたくもなかった。

 

 

 ✧

 

 

「涯が死にかけた?死にかけるくらいならいっその事死ねよ」

「その死ねと言っている相手はあんたのリーダーよ」

 

 ツグミが急いでここに来たのは涯が死にかけていたことが原因だったらしい。

 死ねよと言った集はない半分冗談、半分本音である。

 

「……何があったんだよ」

「ポイントデルタにルーカサイトが発射されたんです」

 

 四分儀が俺集に歩み寄りながら言う。

 

「ルーカサイト?」

「対地攻撃衛星の事です。ルーカサイトは三機の準天頂衛星で構成される衛星コンステーションです。完成すれば24時間死角なしで常に日本上空から任意の目標を撃てるようになる」

 

 記憶に甦るはステージVである『スコーピオン』を倒した時に使用した天の梯子。集は大きなため息を履いた。

 

「どうかしましたか?」

「いや、別に」

 

 このルーカサイトは大量殺人兵器になるだろう。戦争に使用されれば、大量の人間を一発で吹き飛ばすことは容易なはずだ。

 

『『日本を抹殺する兵器』……まさか、ここまでとはな……』

「涯!!」

 

 中央モニターに涯が映し出される。頭からは血が流れ、息も荒い。

 集を除く葬儀社の一員は中央モニターに群がる。

 

「涯!その怪我は大丈夫なの!?」

『……かすり傷だ。だが増援は全滅、補給物資も回収不能だ…………もう一刻の猶予も無い……俺が帰り次第、作戦を開始する』

 

 集は目を細めた。

 

「……こんなクズについていけるのか。この葬儀社は」

 

 増援部隊の全滅、という涯の言葉になんの感情を感じられなかった集は静かにそう呟いた。

 

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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  • 不必要

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