千年王国は偏執狂   作:蝿声

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今回は冒頭に少しですが残酷な表現があります。おかしいなあ、当初はもっとほのぼの()とした話になるはずだったのになあ
それもこれも全部喰奴が悪いんだ! ということでご注意ください
あと話が飛び過ぎィ! と思われるかもしれませんが許してください。間の話を書けなかったんです。
相変わらず少ない文量ですが、よろしければどうぞ


第3話

 その日のデミナンディ牧場は普段の労働環境とはかけ離れた様相を呈していた。いたるところに血の痕が残っているのだ。その量や飛び散り方を見ると、そこで起きた出来事の凄絶さをいやでも想像せずにはいられないほどだった。一方で、その血の元となったものが肉片の一つも残っていないのは、まるで几帳面な掃除人が通った後かのようで、放置されている黒ずんだ血痕と合わさり異様な雰囲気を醸し出している。

その中を御堂が一人、足音を消しながら歩いている。周りの凄惨な光景にも眉を顰める程度で、警戒はしつつも怯えた様子もなく黙々と進んでいく。

 やがて辿りついた区画は、デミナンディが収容されていた畜舎だった。そこは他のところと違い、まるでつい先ほどついたかのような鮮血で濡れている。

 

(ここだけ血が新しい……何故?)

 

 疑問に思いながら辺りを見渡すと、存外早くヒントとなるものを見つけることができた。それはデミナンディを繋いでいた鎖や器具の周辺に落ちている衣服の切れ端だった。御堂がそれを摘まみ上げてみると、引っかかっていた固まっていない肉片が血と共にドロリと零れ落ちた。そんな切れ端がいくつも床に散らばっている。

 

(一人分や二人分の衣服ではない。おそらく、件の喰奴はここで従業員らを拘束して生かしたまま保存していたのでしょう。ただ食い荒らすだけでなく後のことを考えた行動をとっていることから、まだ暴走はしていないようですね。しかし今はこうして全て喰われている。血が固まっていないことからつい先ほど、しかも道中にあったものと違い肉片が残っていることからひどく焦っていた様子。デビルバスターが来たのに気づいて、急いで食べて逃げたということか……)

 

 御堂は頭の中で推理を並べ立てる。

 

(しかし解せない。デビルバスターが来たことに気付いたとして、私が一人で来たことには気づかなかったのか? 一人なら向こうから襲い掛かってくると期待していたのですが……伏兵を警戒した? それとももっと別の理由が……)

 

 御堂は単独でデミナンディ牧場に来ていた。彼は自らが提案したリターナーの回収に名乗り出て技術開発局に行くと言って別行動を取っていたのだが、そこへは本当に申し訳程度に顔を出しただけで何もせずに退出し、すぐにデミナンディ牧場へと赴いていた。彼が邪教の館から受けた任務の性質上、他のデビルバスターズと一緒にここに来ることは好ましくなかったのだ。

 一人で強力な喰奴に立ち向かうための秘策は、彼の懐の中にあるリターナーだ。これは技術開発局で再現された物ではない。そもそも本当に開発が試みられているかなど彼は知らない。ならばこれは何かと言えば、彼が元々持っていたものに他ならない。これによる喰奴の無力化と天使から与えられた悪魔によって、彼は件の喰奴を捕らえようと考えていた。

 

(だというのに、肝心の喰奴が現れないとは……)

 

 若干の苛立ちを滲ませながら部屋を出て、施設をさらに探索する。そしてそろそろ最後の部屋へ到達するかという頃、先の方から何かを殴り、壊し、引き千切るような暴力的な音が響いてきた。

 御堂は息を潜め足音を消して音の聞こえてきたほうに歩みを進める。目の前のドアは荒々しく抉じ開けられたのか蝶番が壊れ傾いており、中の様子が徐々に見えてきた。

 そこに居たのは二体の悪魔――喰奴だ。一瞬、目標は二体居たのかと驚愕する御堂だが、それは直ぐに解かれた。二体の喰奴は互いに苛烈な喰らい合いを繰り広げていたことから協力関係ではないことが窺えたからだ。片や濁流のような体を持つ竜王――イルルヤンカシュ――が相手に巻きつき頭蓋を喰らわんとすれば、対する三面六臂の破壊神――アスラ――がその多腕を以て竜の体を引き離し爪と牙を立てる。

 

 喰奴たちは互いに目の前の敵に集中し、陰に潜む御堂に気づいた様子はない。御堂はこれ幸いと気配を消し、リターナーを構え機を待った。貴重な喰奴のサンプルを二体同時に得るチャンスを前に舌なめずりする御堂だったが、その喜色を凍りつかせる意表をついて電子音が鳴り響いた。

 御堂が咄嗟に懐に入っていたスマホを取り出せば、液晶には良也からの着信を知らせる画面が呼び出し音とともに現れていた。焦燥とともに顔を上げた御堂の視界には、興奮のためかわき目もふらずに破壊神に襲い掛かる竜王と、そんな竜王を抑えながら腰辺りから御堂と同じく電子音を鳴らし、御堂を見つめ硬直している破壊神がいた。

 

 御堂と破壊神の視線が数瞬の間交錯し固まったが、その硬直を先に破ったのは破壊神の方だった。破壊神は腕の一本で腰から鳴っていないスマホを取り出し何か操作をすると、それを御堂の方に投げて捨てて鳴り続ける電子音と共に部屋の窓から飛び出して去って行った。竜王がその後を追い御堂のみが残されると、破壊神が投げたスマホの液晶から光があふれだし、新たに二体の悪魔が現れた。

 御堂はいつの間に呼び出しが切れているスマホの悪魔召喚アプリを操作しながら武器を構え、未だ混乱の残る頭で今すべきことを実行する。即ち目の前の悪魔の排除である。

 

「まあ……一先ずはこの悪魔どもを滅し、あのスマホを回収させてもらいましょうかね。考えるのは後です」

 

 

- Citizen, Happiness is mandatory - Are you happy? - Trust no one - Keep your sma-pho -

 

 

 デビルバスターズが集合場所と決めていたファクトリーセクターのターミナル前で良也がスマホを耳に当てて話す傍らで、円治が何をするでもなくその会話が終わるのを待っていた。二人は取り決め通り避難所を巡って情報を得たのちに集合場所で待機していたのだが、いつまでたっても姿を現さない蔵人と御堂にしびれを切らし、それぞれスマホで連絡を取ろうとしたのだ。

 御堂に連絡を入れた良也は二度目で通話が繋がったが、蔵人と繋がらなかった円治はスマホを懐に入れ、良也の方を窺っていた。その良也の通話が終わるのを見計らって円治が声をかける。

 

「どうでした? まあ、漏れ聞こえていた内容でおおよそ予想は尽きますがね」

「ああ……どうやら御堂はリターナーを受け取ると単身、牧場へ向かったらしい。理由は、情報は俺たちに任せて、逃げ遅れた人がいないか確かめるため……だそうだ」

 

 そう言うと良也は一つ、大きなため息をついた。反対に円治は朗らかともいえる表情をしている。この絵だけを見れば人命救助に向かった御堂に対して円治が喜び、良也が苛立っているように見えるが、真実は全くの逆である。

 

「なるほど……つまり御堂、そしていまだに姿を見せない蔵人はリーダーの命令に反し勝手な行動をとる反逆者ということ。主と天使様の敬虔なる信徒として、反逆者は処刑しなければなりません。ねえ? 良也」

「はあ……」

 

 喜々として語る円治に対し良也はやはりこうなったか、と渋い顔で大きなため息をついた。今回与えられた任務は喰奴の討伐と情報の収集であり、人命救助は含まれていない。含まれていない以上、人命救助の優先度ははるかに低く、それを理由にした勝手な行動など処刑されて当然なのだ。ましてや理由もない行動はなおさらである。それが千年王国のデビルバスターズなのだ。

 そして反逆者の速やかな処刑もまたデビルバスターズの責務である。つまり良也と円治は御堂と蔵人を処刑しなければならず、これに異を唱えることもまた反逆者として処刑される。

 

「おや……どうしました良也、そのような溜め息を吐いて。幸福は市民の義務です。溜め息を吐いては幸せが逃げると言いますが、あなたは市民の義務を怠る反逆者なのですか? それとも、まさか、反逆者の処刑に気が乗らないとでも言うつもりですか。どうなのです、市民良也」

 

 喜色満面の笑顔で剣呑な雰囲気を醸し出すという器用な真似をする円治に対し、良也は渋面を止めて真剣な顔で見返す。どんな言い訳をしようと処刑するという意思が見える円治を見て、良也は決意と共に口を開いた。




遅くなりました。言い訳としてはTRPGのような主人公が複数いるいわゆる群像劇において、各自の行動を一人で考えるというのが予想外に難しくて投げてました
しかも行動を隠匿しながらの対立型の物語って普通に難しいと思うんです。何で俺はこれを題材にした

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