千年王国は偏執狂   作:蝿声

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当然ながらこの話はリプレイとかそんなんじゃないです


第2話

「それでは不肖ながらこの円治、此度のチームのリーダーとして場を仕切らせていただきます」

 

 天使ヴァ―チャーが去ったブリーフィングルームで四人は幾つかの問答を交わし、その末にリーダーとなった円治が慇懃な挨拶を述べる。残りの三人は一つ頷き、リーダーの号令を待った。

 

「それでは早速ファクトリーセクターへと向かいましょうか。……ターミナルで」

 

 しかし、三人は今度はすぐには答えず曇った表情を作る。それは提案した円治当人も同じだった。むしろ、己の提案を覆してほしいような雰囲気すら醸し出している。

 

 ターミナルとは、この千年王国の各地に散在する様々な機能を含んだ転移装置の名称である。ターミナルはプログラムを使って転移魔術を描き出し、異なる二点間を瞬時に移動できる。

これは無知で無垢であることを望まれる一般市民には使用を許可されていないが、迅速な行動を要求される――今回のような――デビルバスターズや上層部は使用が推奨されており、円治の提案もリーダーとして当然のものである。

 ではなぜ、四人が暗い顔をしているのか? それはターミナルがあまりにも事故を起こすからだ。目的地に無事に着けば奇跡、目的地と異なるターミナルに着けば御の字。ほとんどの場合が魔界のような場所に落ちたり、体の一部だけが転移先に現れたりと、致命的なミスが起きたという報告が絶えない……なんて事実は一切ない。

 なぜならこの千年王国は全知全能である唯一神の加護を受ける世界であり、管理するのはその意思を代弁する天使である。故にここにある全てのものは完全完璧であり、エラーなど起きうるはずもなく、前述の世迷言は蔓延る反逆者どもの流言であると切って捨てるべきである。――反逆者の存在が完璧でないことの証左、などと言ってはいけない。

 だからこそ彼らデビルバスターズは迅速に現場に向かうためにターミナルを使用するべきであり、正当な理由なくしてその使用を拒むことは出来ない。……そう、正当な理由をなくしては、である。

 

「俺は反対だな」

「私も同じく、反対です」

 

 場を包んでいた奇妙な沈黙を破ったのは、蔵人と御堂だった。円治と良也の視線が二人に向けられ、言葉の続きを促す。

 

「喰奴は強い。天使様に悪魔を与えられたとはいえ、無策で挑めば泣きを見ることもあるだろ。道中で目撃者でも探して情報を得るべきだ」

「道理だな」

 

 蔵人の提案に飛びつく様に良也が同意する。しかしリーダーである円治が水を差した。

 

「事前に情報を得るべきという点は素晴らしいですが、我々は喰奴がどこから現れ、どういったルートでファクトリーセクターに辿りついたのかを知りません。これが無くては目撃者の探しようもありませんし、現状ほとんどの市民は避難所へ退避しています。そもそも、ターミナルを使ってファクトリーセクターへ行ったとしてもすぐに目標と接敵するわけではなく、情報を集めるのなら現地の人に聞くのが一番だと思いますが」

 

 円治の反論に蔵人は言葉を詰まらせるが、横から良也が援護に入った。

 

「いや、ファクトリーセクターに直接行ってからではせっかく集めた情報から対策を立てようにも、現地での準備がままならずとんぼ返りする可能性もある。こちらで情報を集め対策を立て、それに必要な準備をし、向かうべきだろう。市民が避難所に集まっているというのなら好都合だ。避難所の数も多くはない。各地から避難所に集まっているのだから、ファクトリーセクターに近い場所にあるいくつかの避難所を巡るだけで情報は十分だろう。何より、喰奴についての情報を集めるのも与えられた任務の一つだ」

 

 良也の捕捉に今度は円治が口を噤む。反論しようと思えば、まだ穴はある。市民程度から得られる情報の有用性の如何、それは迅速な対応が求められる現状に合った行動なのか、そもそも完璧であることを望まれる……いや、であると目されている自分たちが天使の助力を得てなお不足と考えるのは、信仰心が足りないのではないか……などだ。

 とはいえ、ターミナルをできるだけ使用したくないというのは円治も同じ。ならばここで折れるべきだろうと判断した円治は、頷くことで提案を受理する意思を示す。

 そこで、ターミナルの使用に反対したきり喋っていなかった御堂が口を出す。

 

「では、お互い与えられた悪魔を確認しあいませんか? 準備をするにもそれを知らなくては」

「ええ、その通りです。……ですが、その前に御堂。あなたがなぜターミナルの使用に反対したのか、その理由を述べてください」

 

 スマホを掲げながら話していた御堂に、円治がやや強い口調で詰問する。問われた御堂はスマホを下ろし苦笑いしながら答える。

 

「いえ、なに……相手が喰奴だというのならリターナーを探せば、と思ったのですよ」

「リターナー?」

 

 良也が疑問の声を上げるが、円治も分からないのか続きを目で問うている。それを受けて御堂答えることには、リターナーとは悪魔に変身した喰奴を強制的に人の姿に戻す機械であり、これはカルマ協会が力に溺れ暴れ出した喰奴を鎮圧するために生み出した技術だそうだ。

 そんな説明を聞き終えた三人はやや腰を落とし支給品のレーザー銃に手をかけ、鋭い眼光とともに御堂に殺気をぶつけた。

 

「なるほど、確かにそのようなものがあれば、事態を非常に有利に運べるでしょう。で、そのような異教の技術を、敬虔な信徒であるはずの貴方が、なぜ知っているのですか」

 

 しかしその問いにも、御堂は笑みを崩さず答える。

 

「それはもちろん、私がかつて受けた任務でその機械を持つカルマ協会の人間を捕縛したからですよ。彼が持っていたそのリターナーは技術開発局に送られ解析されています。確実ではありませんが、解析が終わり試作品が作られているかもと思いましてね。技術開発局に寄ってみるのもいいのでは、と思ったのです」

 

 そう締めくくる御堂に対して、鋭い視線を向けていた三人はレーザー銃から手を放し体勢を整えるとリーダーである円治の方に顔を向けた。

 

「では今後の行動を決めましょう。二人の提案を受けて目的地は二つ……技術開発局と避難所です。まあ避難所は複数か所ありますが……これを全員固まって回るのはさすがに非効率的。そのため手分けして各場所を回り、各人で準備を整え、然る後にファクトリーセクター……そこのターミナルで集合としましょうか」




書いたはいいけどなんだか冗長だあ。いや文字数が多いわけじゃないだけど

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