場違いな工芸品
僕は暑さにやられていた。クーラーの聞いた部屋、あたり付きのアイス、風鈴の鈴音、なんならセミの声でも良かった。夏を感じたかった。
このセカイは僕に優しくない。ことごとく優しい世界ってのも怖いけど。このセカイは特に僕に優しくない。暑さを和らげる物を知っているのに使えないところが。本当にね、よくキレずにいれるよな僕。
僕は今、冒険者ギルドのカウンター席でぐでーっとしている。正式名称は他にあるのだが、僕はギルドと呼びたい。強く呼びたい。この施設の正式名称を知れば、同郷の者はみんなそう思うだろう。というか思え。
右にはジョッキがある。薄桃色かな?まぁ、そんな色をした、炭酸の飲み物があるわけだ。コレは美味い。コレのために働く人がいても可笑しくない。僕なら働ける。
そんな白昼に事件は起きた。
「おい、ナオキ。コイツを見てくれよ」
「ぅん?」
半ば眠りかけてた僕は眼を疑うことになった。
それは鉄で出来ていた。いや、鉄であった、と言うのが正しいか。古いものなのかとても錆びていて、今にも朽ち果てようとしていた。しかし、ソレはしっかりと己の形を保ちつつ現れた。
それは武器ではなく、防具ではなく、機械でもなかった。このセカイに存在すること自体がアンビリーバボーだった。
月の表面のように、クレーターがいくつもあった。されど、そのクレーターはきちんと整列し、底はきれいな球面となっている。
そう、たこ焼き器の鉄板だった。
「コレ…どこで?」
「ダンジョンの宝箱に入ってたらしい。ってか見たことあるってぇ顔だな。」
「え、えーーーっとアレだよ!うーんと…そう!古代人の調理器具かなんかだよ!」
「そうなのか?古代人スゲェなぁ〜こんなん何に使うんだよ」
「そ、そこまでは…知らないカナー」
「そうか、まぁなんか思い出したら教えろよー」
再びテーブルに沈んだ。一体どうなってんだよ…いや、一体じゃねぇ、二体も三体もある。これからも、きっとある。
「処理しきれねぇよ…」
独り言が思わず口から転がった。常識を殴られるのは精神に効く。アイデンティティに地震がやってくる。
今までの自分の人生が、時間が、ぐらりと倒れそうになる。異世界とは、そういうことだ。常識も、良識も、知識も、全てが覆される。手の震えが、足の震えが止まらなかった。
たぶん、こんなときに仲間が居たのなら、こんなにも揺さぶられることはないのかもしれない。だけど僕は一人だ。
自分の事情がバレたらアウトな僕には。仲間など、つくれなかった。
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