BL:2
ボウリングに来るのは久々だった。ボウリング場にはちょくちょく来てたけど、それはあくまでゲーセン目当てで、ボウリングをするので来たのは久しぶりだった。ボウリング場を象徴するピンのオブジェが誇らしげに立っているのを俺は見た。
隣からルンルン気分が漂ってくるけど、そっちには目をやれなかった。正直ハズかった。今、悟り妖怪が出て来たら勝てる気がしない。
まぁ、ルンルンなのもわからない訳じゃない。学校サボってボウリングなんて、なんとワクワクすることか。こどもの俺が目を覚ましていた。
「そう言えば、秘密基地とかつくったよな」
「あぁ、放置されたログハウスのっとってね」
「いや、アレはもう使ってくださいって言うようなもんでしょ」
「初めて案内された時はホントびっくりしたよ」
そう言って二人して笑った。どのくらい笑ってたかは知らんが、視線を感じて二人して止めた。受付の人が怪しみを持って見てる。そりゃそうだ、何しに来たのコイツらって感じだろう。
とりあえず、三ゲームくらいを予定して受付する。自前のシューズはもちろん無いので、自販機(?)で借りて、一旦席へと行く。
「はぁ…」
ここまで勢いでなんとかした感じだけど大丈夫ですかね。体の最重要機関が普段のダイヤを守っていないようなんですが。落ち着け、落ち着け、落ち着けたら乱れるかぁ!クッソ、ピンの野郎覚悟しとけよ…
ピンに八つ当たりすることを決めた時、左からぬっと手と玉が現れた。
「前来た時、コレ使ってたんじゃない?」
「ん?そうだっけか」
「そうだと思うよ?」
持ってみる。重くもなく軽くもなく、投げやすい感じだ。
「しっかし、よく覚えてたな」
「キミのことだもん」
動くことを許されたのは感情だけだった。
(ナニコレ?何こいつ?ハァ?今の何?クッソカワイ…じゃなくて何?殺す気?萌え殺す気?もう抱きしめていいか…いや良くない!負けるな!ここで負けたら廃るぞ!え、何が?男だよ!いやあいつも男だよ!?ハァ???)
世界の観測では一秒かもしれない。だがこの一秒は彼にとって人生で一番濃い一秒だった。その結果として、彼は、彼の頭は、オーバーヒートを起こし、システムダウンを避けられなかった。
ゴンと鈍い音がした。
「ちょっ大丈夫!?あれ!?熱でもあるの!?」
病気的な意味での熱はない。犯人には自覚がないのだ。
「おーい、おーい、戻ってこーい」
内心ではせっかくのデートがこれじゃ台無しだと犯人は慌てつつ蘇生を試みる。
「ボウリングしようよー何のためにここまで来たのさー」
犯人が涙目で揺さぶりをかけていく、ソレを見たら見たでダメだと犯人にはわからないのだ。
「あれ?ここどこ?」
古典的な目覚めの被害者。どうやら寝ぼけていたのか、まだ熱が引いていないのか。どちらかは定かではないが、次にこう言った。
「ん?て、天使?おれ死んだのん?」
犯人と被害者が入れ替わった。あーして、そーして、あんなことや、こんなことをする内にボウリングは終わって、そのやり取りを見ていただろう太陽も、名残惜しそうに帰る時刻になった。
「今日、楽しかったね」
「まぁな」
「また、二人でどっか行こうね」
「そうだな」
「で、なんでコッチ向かないの?」
「もう心臓が持ちそうにない」
「ふーん、正直だね」
「嘘ついても意味無いだろ」
「バレるし」「バレるからね」
「じゃあ、また明日。学校とかで」
「おう」
今までで一番文字数が多いという事件。