ぬっぺふほふ
『……子供連れの方はお足元に気をつけるようお願いします。本日は…』
エスカレーターに乗っていた。俺は上の階を目指してエスカレーターに乗っていた。…乗っていたでいいのか?エスカレーターって乗るって言い方であってるっけか。まぁそれは今度聞くとして、何階だったっけ。そもそも何を買いに来たんだろ俺。なんか頭がふわふわするんだけど。低気圧かな?…ぼーっとしてるわけにも行かない。ここは色々入ってるから、下手したら迷ってしまう。…実際、小さい時に迷った気がする。迷子センターで大泣きしてた、そんな気がする。
「このエスカレーター長くないか?」
見たところ、普通のエスカレーターの3倍とかありそうだ。…普通と言われても何メートルとかはわからんけど。高所恐怖症の人にはキツそう。そう思える程はある。加えてスピードが遅いので普通に怖い。視界に人が居ない、というのもある。
「久しぶり」
肩を叩かれ、振り返って見れば、知り合いだった。
「お、おう」
エスカレーターで前の人を知り合いと間違えたことのある俺としては、おいそれと真似できない行動だ。勇気あるなこいつ。
「あの時ぶりだね」
「そうだな」
「…せっかくだし、遊ぼうよ」
「…そう、だな」
今、何かが頭をよぎったけど、そんなことはどうでも良かった。女子と二人で遊ぶ。これはもうデートだろ?落ち着いてる場合じゃない。行くべき所は山ほどある。なんせここはデパートだ。
ゲームセンターでホッケーのゲームをした。力み過ぎてすかぶって、可笑しくて二人で笑った。
本屋でおすすめの本を教え合った。好みが被っててあんまり意味がなかった。嬉しかったけど。
アイスクリーム店に言った。アベック割をどうですか、と言われた。俺の顔も多分赤かった。
他にも色々行って、遊んで、笑って、楽しんで、時間が過ぎて、気付いたら夕方だった。「屋上に行こう」というのでついて行った。今日は休みなのにやけに人が少ないな、と思った。まぁ、そんな日もあるか。屋上に行く階段を登る。彼女は数段上を行っていた。
ドアを開けたら、大きな夕焼けが見えた。落下防止のフェンスの外はオレンジの世界だった。…なんとなく、世界が終わる光景はこんなものじゃないかと思えた。
「その通りだよ」
「え?」
「もう、お別れだ」
そう言った彼女はフェンスを握りしめ、夕焼けを睨んでいるように思う。
「なんでそんなこと言うんだよ」
「あなたがそう思ったから」
振り返った彼女に表情は、顔は…………
「なんか、変な夢を見た気がするんだよな」
「それだけだと話題にならねーよ?」
と天郷。平常通りのドライ営業である。
「ん〜なんか幸せな夢だった気がするんだけど」
「…ついに告白成功、とか?」
無闘くん、トンチンカンな予想はやめようね?
「いや、そもそも居ないから」
「とか言って、お前。バレバレだからな?」
「なっ、えっ、マジ?」
「…え、居たの?」
「いや、居ないけど」
やっぱりこのメンバーで話してるとズレるな。いや、ズラしてる犯人は一人で一人はおとなしく聞いてくれるんだけど。
「…お前の恋愛事情より、大事なことがある」
「おまえ、唐突に酷くなるよな」
「シャラップ。よく聞け。また、出たってさ」
「幽霊?」
「かもな」
かも、って情報が荒い…もう少し情報だせと目で訴える。通じたらしく得意げに話しだす。
「それがさ、ちっちゃなおじさんって流行っただろ」
「流行った、かな?」
「芸能人にもちょくちょく目撃者いるし、流行ってたんじゃねぇの?」
「そっか」
「話を戻すぞ。警備員によると昨日の夜、居たらしいんだよ」
「ちっちゃなおじさん?」
「そう。駆けていくのがチラッと見えたんだと」
「別に良くないか?妖精とかそんなんだろ?」
「良くない。タネの割れていないオカルトは許せないんだ」
「で、どうすんの?」
「捕獲してしかるべき機関に売り払う」
「そうか、一人で頑張れ」
「目指せ一攫千金」
「お、おう…」
そんな馬鹿みたいな話より、俺には夢のことが引っかかる。どうしてか分からないけど、忘れてはいけない、そんな気がする。
数日して後、夢の意味を知るのだが、その時の俺は首を傾げているだけだった。
ぬっぺふほふが気になる方はWikipediaを見るといい。なかなか面白いぞ。