ワンパンマン ~日常ショートショート~ 作:Jack_amano
納得できない。
ヒーロー協会の事務の女の態度に怒りを覚えながらも無理やり我慢して帰途に着く。
本当なら締め上げてやりたかったが、そんな事はサイタマ先生は喜ばないだろう。
いや、それどころか破門だと言い出すかもしれない。
それだけは嫌だった。
未成年だから保証人を立てろと言うので、わざわざサイタマ先生から承認をもらったのだ。
それなのに、保証人がB級のサイタマ先生で俺の師匠だと知った途端、鼻で笑いやがった。
大体、この前ヒーロー協会から出版された『ヒーロー大全』に載ってるサイタマ先生のデーターだってそうだ。
ヒーロー名が『ハゲマント』なのは見た目から仕方ない事として、体力・持久力・瞬発力が10/10なのはいい。
だが、知力・正義感・人気が1/10とは?
先生の素晴らしい格闘力が?/10とはどういう事だ!
俺から見れば先生のレベルは、知能と人気以外、10なぞとっくに振り切って15は付くぞ!
隕石を壊した件だって、絶対に人に出来る訳がないと、証人の俺やバングの意見も信じなかったし――― 深海族の時だってそうだ。
全く腹が立つ、勝手にC級S級だとか――― ランク付けなんて何の意味があるんだ。
お前達に先生の何が分かる!
「責任者に直訴して、先生のランクを見直してもらいます」
「ごめんやめて!俺が恥ずかしいから!」
「ですが納得いきません!やはりテストの時に直ちに直訴すべきでした。体力試験は50点満点だったんですよね? 漢字10点・数学10点・一般常識10点・作文20点の配分で一体何を間違えたんですか?」
「ほんっとにゴメン、勘弁して!もう終わった事だし!」
漢字は漢字検定5級のレベルだし、数学だって、算数のレベルだ。
一般常識だって、上座がどうだのと怒る先生が分からない筈はない。
俺は、一枚のプリント用紙を先生に差し出した。
「なにこれ?」
「俺達が受けた認定試験のテストです。ネットに過去問で載ってました。やってみて下さい」
「え~めんどくせえ~終わった事だしいいじゃん」
「俺が気になるんです」
「やだ」
まぁ 先生ならばそう言うと思っていました。でも、今日の俺には秘密兵器があります!
俺は、
コンビニ期間限定品、ハーゲンダッツ『ジャポネ<黒蜜きなこアズキ>』!
「俺の金で買ってきました。終わったらお茶にしましょう」
「…しょうがないなぁ」
ふ、チョロい。
先生は限定品や怪しい商品に弱いからな。
ブツブツ言いながらプリントを埋めていく先生。
さて、先生が書いている間に俺はお茶の用意でもしようか。
「終わった。アイスくれ」
「ご苦労様です。温かいお茶でよろしいですか?」
あれ? いくつか違ってはいるけど…
「以外に合ってますね」
「意外にとは何だ。漢字は小学校レベルだし、算数は%とか、日頃スーパーでやってる暗算と同じ事じゃねーか」
じゃぁ、何故マイナス29なんて数字に?
プリントを裏返してみて、俺は理由を知った。
この作文――― 俺的には先生らしくてOKだけど―――
作文のテーマは『ヒーローを志した理由』だった。200字詰め原稿用紙に先生は、
『なりたかったから。』と一言だけ書いていた。
先生、先生はいつも俺に、20字以内で簡潔にまとめろと仰いますけど―――
作文は規定量の半分まで埋めなければ点数がつかないんですよ? 高校受験の時習いませんでしたか??
もしかして、就職活動の志望動機もこうだったんじゃないでしょうね?
きっとサイタマ先生、作文は面倒くさかったんでしょう。苦手そうですよね。
そんな事、人に言ってなにになるんだと思ったかもしれません。
就職活動の志望動機は、きっと、例文そのまま写してると思います。
「御社の経営理念に――― 」とかそのまま書いて、面接官にそう言うのいいからとか言われてそうです。
したい仕事じゃなくて、取り敢えず会社員になろうと就職活動しているサイタマ先生はやる気のなさダダ漏れだったのでは?
ちなみに、ジェノス君はこの後、もし上手く志望動機が書けていて、先生が就職していたらヒーロー活動をしていなかった事に思い当って突っ込むのをやめました。