ワンパンマン ~日常ショートショート~ 作:Jack_amano
ジェノスが掃除に勤しむ理由。もちろん捏造。
なんとなく恒例になってしまった、俺んちでのみんなで具材持ち寄り鍋の会も終わり… キングとフブキを送って帰ってくると、もう夜中近くだった。
俺んちはZ市―――――― ゲートで隔離された無人街の一角にある。
無人街と言うくらいだから、基本、人なんて住んでない。
長いこと趣味でヒーロー活動をしていた俺は、収入が不安定だった事と、身元保証人が立てられなかった事から不動産屋に相手にされず… ライフラインが生きているのに、怪人の発生率が異常に高くて遺棄された、この街に勝手に住み着いたのだ。
これだけ聞けば、建造物侵入罪でしょっ引かれそうな感じだが… 宿主の方にもメリットがあると俺は思っている。
だってパトロールは欠かさないし、使っている部屋のメンテナンスもちゃんとしている。俺の住んでる周辺は小まめに怪人退治をしてるから、かえって外より安全なくらいだ。
だが――――― 夜になって灯りが付いているのは… 俺とジェノスが住んでるあの部屋だけ。
街燈だって、切れたら切れっぱなし。道端にある自動販売機の電源すら入っていない。
目の良い俺とジェノスだから夜でも歩けるが、普通の人間だったら戸惑うだろう。
高速道路は通っているが通行止め。バイクの音も、車の音も、生活音のせの字もしない。まさに陸の孤島の様な場所に俺は住んでいた。
ジェノスがムリヤリ俺んち居候するようになってから―――――― 俺んちは変わった。
今まで寝ても一人、起きても一人だったのに… ジェノスが来てからという物、バングが酒持ってやって来たり、キングがゲーム持って遊びに来たり、フブキが差し入れと言う名の勧誘に来たり… 残念忍者が襲撃を掛けてきたり―――― と、いつの間にか人がやって来るようになった。
人がやって来ると、煩いとは思うがそれなりに楽しい。
だけど皆が帰った後―――――― 何だかやたらに静けさが身に染みる。ジェノスまでメンテでいないと特に。 …今までそんなふうに思った事なかったんだけどなぁ。
俺の住むマンションに続く角を曲がる――――― と本当はエントランスの蛍光灯が明るく光っている筈だった。だったんだが―――――
でも―――――――― 今は真っ暗だ。
? 電灯切れたか? 出る時は点いてたと思ったんだけどな。
階段は墨を流した様に真っ暗。ご近所の生活灯がないとこうも暗くなるのかと驚くほどだ。俺は目がいいから大丈夫だけど、こりゃあキングだったら確実にコケてるな。
ジェノスが小まめに掃除している共同階段を上る―――― 電気は二階も三階も点いていない。
これは蛍光灯のせいじゃないな。配線か? それとも暗くなると自動で点くタイプだったから、センサーがイカれたのか? どっちにしろ見るのは明日だな。
玄関のドアノブに手を掛ける。
ジェノスが部屋にいる筈だったから、俺は
パキン!
予想外の金属が弾ける様な音に、俺は慌ててドアを見直した。何か壊したか? いま鍵掛かってなかったよな??
よくよく見ると、チェーンが切れている。ジェノスの奴、ドアチェーン掛けてたんだな。珍しい事もあるもんだ。しかしまぁドアの方が壊れなくてよかった。
「なんだよなぁ~ジェノス、ドアチェ-ンするんだったら鍵もしとけよ~」
部屋の中も真っ暗。
バスルームの扉のスリットから漏れる光だけが、微かに廊下を照らしている。
ザーザー流れるシャワーの音から、ジェノスは風呂を洗っているのか、シャワーを浴びているのか… 返事もないところをみると、よっぽど集中しているんだろう。そうでなければ、もしかしたら少し怒っているのかもしれない。キング達が来ると、ジェノスの機嫌は目に見えて悪くなる。
もっとも、そう感じるのは俺だけで、他の奴等には不機嫌なジェノスの方がデフォルトらしい。
あいつ、結構抜けてるとこがあるし、天然かましてて面白いんだけどなぁ。まぁ… 人の話を聞かないとこが難点だけど。
部屋の電気をつける。
薄ぼんやりしたライトに照らされた部屋はきれいさっぱり片付き、使っていた卓上型カセットコンロもしまわれて、さっきまで皆でこの部屋でだべっていたのがウソみたいだ。
拭き掃除までしたのかな? 廊下も玄関も塵一つない。
なんつーか… もっときれいに靴を脱げばよかったかも。
なんにもない
まったく… ここまでキレイにしなくてもいいのになぁ。
いっつもそうだ。俺は汚れたら掃除する派だけど、ジェノスは汚れる前に掃除する派だから、掃除は大抵ジェノスがする事になる。トイレなんて俺しか使わないんだからほっときゃぁいいのに。
あれだな、ジェノスはきっと夏休みの宿題は最初に終わらせる子供だったに違いない。俺は最後にまとめてやる子供だったけど。
まだシャワーは止まる気配がない。
一体、何処をそんなに掃除してるんだ? 何時もお前がキレイにしてるだろうに。
やれやれ。
俺は部屋の隅に畳んであった布団に背中を預け、目をつぶった。
なんかうっすらと肌寒い。鍋やった後だし、人が5人もいた後なんだから、もっと部屋が温まっててもいいと思うんだけど――――――――
扉の開く音がした。
水の音も止まったらしい。
床鳴りがして… 廊下をゆっくりと歩いて来るのが判る。
気配が俺の近くで止まった。
視線が痛い。
目を閉じてるから寝てるとでも思ってるのか? 俺、今、めっちゃ見られてる。
あれだ! 同居当初、どこに強さの秘密が隠れてるか分からないからって一晩中ずっと凝視されてたあの時みたいだ。おいやめろよ! あん時だって散々怒られただろうに!!
瞼の裏が暗くなっていく―――――― 影がゆっくりと覆いかぶさって来るのが判った。
気配が俺のすぐ顔の上にいる。何だか近い! 近い! 近すぎる!!
ぶわっと背筋に氷を押し付けられたような寒さを覚え、身の毛がよだつ。と言っても、俺には頭に毛がないけどな!!
相手がどんな顔で俺を見ているのかと思うと、怖くて目が明けられない。振り払おうにも、手も動かない。やべぇ!? 寒さで腕がつったのか?!
俺の顔に… ぽたぽたと水滴が垂れた――――――――――――――――
「 先生!! 只今帰りました! 」
勢い良く玄関のドアが開く音とともに、部屋の灯りが強くなる。
深く息を吐くと… もう目も腕も、自由に動く事に気が付いた。
「お前・・・風呂場にいたんじゃなかったのか?」
「いませんよ? 明日の朝、鍋の
ジェノスは履いていたコンバットブーツを脱ぎ、風呂場に入って洗面台で手を洗うと… 何事もなく、何時ものように買ってきた物を冷蔵庫に移し始めた。
何事もなく――――――― 何事もなくってなんだよ。
いつもと変わらないその様子にほっとしながら、今更ながらの事に気付く。そう言えば… 俺が帰った時、玄関にジェノスの靴はなかった。
「 ? どうされましたか? 」
「いや、床でうたた寝したら躰が冷えたみたいで・・・妙な夢見た」
やべぇ… 久しぶりに心臓バクバクしたぞ、キングエンジン全開だ。
しかし、夢で良かった。
あの時、目を開けていたら… 一体、何が見えてたんだろう? とか考えると、起こしてくれたジェノス様々だ。
ジェノスは台所に入り、
そのまま
俺は… ただ、黙ってそれを見ていた。
「ところで――――――― 先生」
四つん這いになっていた状態から身を起こし――――――― ぐしょぐしょに水分を吸った布巾を畳み直しながらジェノスは俺に向き直った。
「先生は・・・ 幽霊は存在すると思いますか?」
「 ・・・・・・・・ 」
ここは無人街。
いやぁ~やっぱり無人街ですから。
サイタマ年生のSAN値削れるのは物理で対抗できないモノじゃないかなぁと思って。
すいません、たまにこういうのが書きたくなるんです。
初めて太字とか大文字使ってみました。漫画みたいでおもしろいですね。
ガラ携帯でみたらどうなるんでしょう? ちょっと心配です。
でも使ってみたかったんだもん!