ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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フブキ組、三節棍のリリー目線。
リリー&オリジナル怪人登場。捏造モリモリです。




運命の人

『サイタマ先生は御不在中だ。接見を賜りたければ出直してこい!』

 最近売り出し中のS級ヒーロー、“鬼サイボーグ”の人を見下すような対応を思い出して、思わず(ほほ)が引きつる。

 あんな奴がヒーロー人気ランキングでフブキ様より上だなんて絶対ありえない!

 しかも私は鬼サイボーグに会う為に、こんな怪人エンカウント率の異常に高い無人街にまで一人でノコノコやって来た訳じゃない!

 全てはあの男が―――――― "ハゲマント"が悪いんだ!

 

 

 

『サバンナの王者はライオンじゃないんだ! キリンが一番強いんだ~!』

 なんて叫ぶ、自称、怪人“キリン男”の"首アタック"を避けながら、私は足場のいい場所を探し求めて走った。

 逃げ切れるなら走り続けた方がいいのだろうけど… 相手は背の高いキリンの怪物なだけあって一歩がやたらと大きい。ハイヒールなんて()いている私では逃れようがなかった。

 

 確かに、某テレビ番組『ダーウ〇ンが来た!』で言ってた通り、キリンの攻撃力は半端ない!

 (はた)から見たら、お菓子の“じゃがりこ”キャラクターみたいな怪人なのに、キリン男の繰り出す首アタックは易々(やすやす)とブロック塀に大きな穴を開けていた。

 しかも、当てた本人は全くダメージを負ってない。そんなに頭振り回してるんだから脳震盪(のうしんとう)くらい起こせばいいのに!

 

『サバンナの王者はキリンだぜ~ 人間なんて目じゃねぇよ~』

 あぁ、もうしつっこい!!

 道も悪いし、身を潜めるほどの間も取れない。もう、こうなったら直接対決しかない!

 私は覚悟を決めると… 腰から三節棍(さんせつこん)を取り出し、水平に構えた。

 

「フブキ組、“三節棍のリリー” 征きます!!」

 フブキ組には緊急連絡済み、後はGPSを見て皆が来てくれるまで粘れれば―――――――

 

 粘れれば―――― なんて、ハナから勝てる気がなかった私が上手く事を運べる筈もない。

 渾身(こんしん)の三節棍での攻撃は(ことごと)(はじ)かれ、苦し紛れに放った回し蹴りは足を掴まれる。逃れようと慌てて身を(よじ)れば、足首からぐぐもった音がした。

 痛みをこらて三節棍を振り上げる―――――― と、足を掴んでぶら提げられていたせいで、それは上手いこと怪人の鼻面にヒットした!

 牛の様な悲鳴を上げたキリン男は、反射的に私を空高く放り出す!!

 

 うそぉ! まずい! 死んじゃうかも?!

 

 どうしてこうなったんだろう? いっつもフブキ様の勧誘を(ないがし)ろにして、バレンタインのお返しもしないあの男に、文句を言いたかっただけなのに!

 凄い勢いで地面が近付いてくる。

 その先には買い物袋を下げた、そのハゲた男がいた。

 

「どいてどいて~~~!!」

 男と目が合ったと思った次の瞬間、私はB級ヒーロー、ハゲマントに抱きかかえられていた。

 

 えっ? 助けてくれたの??

 

「どっから降ってきた? まぁいいや、ケガねぇか? 」

 "ケガねぇか?" のところで、肌色の頭がキランと光る。

 笑っちゃいけないわよね? 仮にも助けてもらったんだから。

 私は空から降ってきて―――――― 絶体絶命のピンチを救ってもらい、その上お姫様だっこ。

 バッチリ、少女マンガの胸きゅんシーンなのに、その相手はこのハゲマント…

 …なんか心中フクザツなんですけど。

 

「お前、フブキんとこの娘か。アイツもいるのか?」

「私一人です!」

 牛の鳴き声と破壊音とが近付いて来ている。えぇっ? キリン男がもう追いついちゃったの!?

 どうしよう、フブキ様が強さを認めた人と言っても、たった二人じゃどうにもなんない!

「逃げて! 逃げて! どうでもいいから超~逃げて!!」

 キリン男の拳がブロック塀を叩き割る。その場所は先刻まで私達がいた場所だ!

 

 えっ? 避けた? あの攻撃を避けたの?? 私を抱えたままで?

 

「なんだこいつ? カ〇ビーのマスコットか?」

「敵です敵! 怪人!!」

 私もそう思いましたけどね!

「なんだ敵か」

 やる気のない顔のまま、ハゲマントは首アタックを避けて宙に舞った。まさしく宙! 背が高い筈のキリン男の頭は遥か下にある。勿論、私を抱いたまま!!

 白いマントが(ひるがえ)る、そしてそのままで――――――― 踵落(かかとお)とし!

 

 うえぇぇぇぇえっ!

 

 ウソ! これは夢よ! 絶対に夢!! こんな軽い動きで、あんな強かった怪人が水風船みたいに弾け飛んじゃうハズないわ!!

 

「やれやれ、クソつまんねぇ戦いだったな」

 クソつまんねぇって、あれ、どうみても災害レベル鬼クラスの怪人だったんですけど!?

 どうしてこんな奴に熱心な勧誘なんて… と思ってたけど、フブキ様の言う通り、この人は本当にB級で一番強いのかもしれない!

 

 

「立てるか?」

 そっと地面に降ろされ、痛めた方の足を地面に着くと、鈍い痛みに思わず声が漏れる。

「見せてみ。あ~、けっこう腫れてるな」

 瓦礫の上に座らされ、足首を確認される。あ~、またストッキング伝線しちゃったなぁなんて考えていたら、ハゲマントは(おもむろ)に自分の白いマントの(はし)を裂き始めた。

「固定するから、ちょっと足出せ」

「えっ? マント破っちゃうんですか?!」

「おう、便利だろーこれ? 包帯にも担架(タンカ)にもなんだぞ。ま、空は飛べないけどな」

 いやいやいや、あの滞空時間、飛んでると言ってもいいくらいだと思うんですけど?! 

 言いながらもハゲマントは手際よく足首を固定していく――――――

 …なんかこんなシュチュエーションも見たことある気がする。あれだ。夏祭りで浴衣デート、鼻緒が切れて彼氏に直してもらう的な。

 あ~っ でも相手はハゲマントなんだよね~。

 黄色いツナギに白いマント、その上、長ネギが差してあるスーパーの買い物袋を持った。

 この人、買い物行くのもこのヒーロースーツなんだ。フブキ組チームカラーの黒服ならまだハゲててもイケるのに。まぁマフィアみたいになっちゃうかもしれませんけど。

 

「お前、三節棍使いか~ 近接攻撃系ならこんな靴やめとけ。それともフブキにヒール履けって言われてんの?」

「違います! 私がフブキ様みたいにしたかっただけです!」

 フブキ様は私の憧れ、私の正義! 私はフブキ様みたいなカッコイイ大人の女性になりたかった。だからせめて格好だけでも大人っぽくしようと思って履いてたのに。

「ならもっと動きやすいのにしとけ。フブキの足引っ張るのやだろ?」

 確かに… フブキ組は基本、集団戦闘。

 市街戦が主だからやっていけてたけど、こんなんじゃフブキ様のお役に立てないかも。正論だけど… 悪名高いハゲマントに言われたくなかったかなぁ。

 

「よし終わり、立ってみ」

「・・アリガトウゴザイマス」

 そろそろと立ち上がると… マズいな~ 相当キてる。ヒビいってないといいけど。

 一歩足を出そうとして、あまりの痛みに膝から力が抜け落ちる。

 

 あ、ヤバ!!

 バランスを崩した私を止めようとして、ハゲマントの手がフォローしようと飛び出した。

 その手は軽く壁を突く。それも私の顔のすぐ横の壁を!!

 

「やべっ」

 ハゲマントの声と共に吹き飛ぶコンクリートの壁! 

 なんで? なんで今、壁が爆砕したの?! あれよ、きっと怪人のせいで弱くなってたのよ! うん、きっとそうよ!!

 支えてくれようとしたその腕にとっさにつかまり、ハッとする。

 ナニコレ?? 壁ドン?! 物理的威力の超~高い壁ドンだったの??

 

「あ~、よかった。腕つかんでたらとれてたかも」

「なにサラッと怖いこと言ってるんですか!!」

 本気? 本気なの?! 何なのこの人!?

 

「歩けそうもねぇなぁ。フブキに連絡取れるか? ゲートまで連れてってやるから」

「・・オネガイシマス」

 私は子供の様に抱き上げられたまま、無人街の外れまで連れて行ってもらう事になった。

 

 

 

「リリー!」

 ゲートの前で待つこと(しば)し。駆けつけたフブキ様は、私を見ると慌てて車から駆け降りた。

「フブキ様、申し訳ありませんでした」

 立ち上がった私の足を見て、フブキ様は眉間に皺を寄せる。あぁ本当に、こんな顔しててもフブキ様は素敵だなぁ。

「なんでこんなところに一人で来たの?! 来るならせめて誰かに同伴を頼みなさい!」

「すいません。住人もいるので大丈夫かと―――― 」

「あいつ等を人間扱いしちゃダメ!! ハゲとポンコツは規格外なんだからね?!」

「おい、さり気なく俺を(おとし)めるな」

 ハゲマントは兎も角、鬼サイボーグもフブキ様にとってそんな扱いなんだ。うん、玄関でのあの対応は確かにポンコツだった。

 

「大体、こんなところに何の用事があったの?!」

「それは――――――― 」

 言えない! フブキ様のために、ハゲマント文句を言いに行こうと家まで押しかけてたなんて言える筈がないじゃない!!

「おい、フブキ」

「私にも言えない事なの?!」

「えぇっとぉ・・・」

 ヤバいヤバい、どうしよう?! 知ったらフブキ様、怒ると思ったから黙って出たのに!

 

「おいフブキ!」

 突然、何処からか目の前にアメの袋が投げ入れられる。

「これでも喰って、取り敢えず落ち着け」

 ハゲマントだ。

「こんな無人街に、女の子が用もなく一人で来るわけねーだろ。何だか知らねぇが察してやれ」

 あー、察してくださってアリガトウゴザイマス。理由はアナタなんですけどね?

 

 サイコキネシスでアメを受け止めたフブキ様は、まじまじとその袋を見つめた。

「・・・サイタマ。私、バレンタインのお返しは前後6カ月間、随時受付中って言ったわよね? これはそういう事でいいのかしら?」

「はぁ? それノド飴だぞ?」

「貴方みたいな貧乏人に、3倍返しなんてハナから望んじゃいないわよ」

 アレ? 何だかフブキ様のご様子がおかしくないですか??

 ツンデレ? 格好いい大人の女性がツンデレですか??

 いいんですか? 高級チョコにそんなノドアメのお返しで?! 高級品(ブランド)はフブキ様のステータスじゃなかったんですか??

 

「ふ~ん、まぁお前がいいならいいけど。週末、俺んちでキングやバングと鍋すっけど、お前も来るんだったら何か材料持って来いよ?」

 えっ? 食事、しかもパーソナルスペースの狭くなる鍋にご招待?! ハゲマントさん、それ、深い意味ありますか??

 しかも、S級のキングとバングって、アナタの友人関係、どうなってるんですか?! もしかして、S級鬼サイボーグの師匠ってのも本当なんですか??

 

「ケチ臭いわねぇ 一度くらい(おご)るって言えないの?」

「俺は貧乏人だからな。んじゃな」

 あ~。この人、絶対にホワイトデーのお返しでアメあげる意味知らないわ~

 お座なりに手を振ると―――― 振り返りもしないで、ハゲマントは無人街に消えて行った。

 

 

「で・・・リリー。結局なにがあったの?」

 このまま終わるかと思ったのに―――― 追及はなかった事にならなかったみたい。

 どうしよう?

 

「えぇ~と・・怪人との闘いで絶体絶命。空から降って来たところを抱き止めてもらい、お姫様だっこのまま敵を倒してもらって、裂いたマントでケガの手当てをしてもらい、不可抗力で壁ドンされて、抱えられたままここまで運んでもらいました」

 

 少女漫画的、“運命の人”フラグ乱立オンパレード。

 これで遅刻しそうになって走ってたら、曲がり角でパンくわえたままぶつかったり、バラの花束抱えて告白されたりしたら鼻血出して死ねますよ、私。

 

「・・・・・・帰るわよ」

 事態を思い浮かべてみたのだろう。遠い目をした後――――――― それだけ言うと、フブキ様は踵を返した。

 あ~、これ想像したら、頭痛くなりますよね? 他の事がどうでもよくなるくらい。

 でもあんな場面に遭遇しても、ドキドキしたっていうよりは、規格外すぎてびっくりしたって方が強いかなぁ。これがA級ヒーローの"アマイマスク"とかだったら違うかもしれないけど。

 うん、見た目って本当に大事。

 

 フブキ様に続いて車に乗り込む―――― 運転席にいるB級2位のマツゲさんに病院に向かうよう指示を出すと、フブキ様はさり気なくこう付け加えた。

 

「・・週末使うから、すき焼き用牛肉を5人分用意してちょうだい。最高級のをね?」

 

 えぇっ!? 最高級の牛肉って――――――

 餌付けですかフブキ様!! 勧誘は建前で、あのハゲに本気なんですか?!

 まさか、フブキ様もフラグ建設され済みですか?

 

 ノドアメの袋を見つめるフブキ様の目は…… 何だか少し嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




三節棍のリリーを書いてみたかったんだけど、思っていた以上に難しかった~

リリーはフブキ様にとって、サイタマのジェノスみたいな感じかなぁと、
考えてみたら、彼女、セリフまるでないよね。

あと、漫画でフブキ様は、サイタマ先生と敵対してたのに、身を挺してソニックとジェノスのとばっちり攻撃から庇ってもらうと言うフラグ建設済み。

タツマキちゃんとも気になるし、果たしてフラグは回収されるのか??
サイタマ先生、スルーしちゃいそうだよなぁ・・・

※バレンタインのお返しの意味:アメ=「あなたが好きです」
 こんなの男で知ってるやつはまずいないと思うけどね。



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