ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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今回、登場人物てんこ盛りです。




暴走サイボーグ

 

 

 新春顔合わせ、ヒーロー協会新年会。

 

 ヒーロー協会大宴会場で行われた飲み会は、毎年恒例の物らしい。

 ジェノスはS級、俺はB級と会場は別れてしまい、ジェノスは文句タラタラだったが

 “よかったじゃねーかビンゴの当たる確率上がって! 賞品取ってこいよ!”

 という俺の言葉にしぶしぶ自分の席に戻って行った。

 これを期に少しは他の連中と上手くやってほしい。狂サイボーグの行方を本当に掴みたかったら、奴はもっと人脈を拡げるべきだ。

 そんな事を思いながら、俺は俺で無面ライダーと酒を楽しんでいた。

 …今考えれば、少しばかり軽率だったかもしれない。

 俺はジェノスを含め、S級がくせ者揃いの事を知っていたし、形だけとはいい、師匠となったからにはもう少し奴に気を付けてやるべきだった。

 こうして――――― 取り返しのつかない悲劇は幕を開けたのだ。

 

 宴もたけなわ、皆ほどよく酔いも回り、潰れる奴も出始める。

 俺はと言えば、饒舌(じょうぜつ)になった無免ライダーに相槌を打ちながら、酔っぱらって(から)んでくるフブキに苦労しつつ、ここぞとばかりに酒を堪能(たんのう)していた。

 この会はヒーロー協会主催。ただ酒は正義だ。

 

「だから~フブキ組に入りなさいっていうのよ~ 今なら幹部待遇よぉ? それにバレンタインには私からチョコだってもらえるんだから~」

 なんだそれ、テレビの通販じゃねーんだから。

「だから入らねぇって。第一それ義理チョコだろ。おいフブキ組、この酔っぱらい何とかしろ!」

「はっはっ! サイタマ君はモテるんだねぇ♪」

「いや無免、違うから」

 どこをどうとったらそうなるんだ、明らかに組織勧誘だろこれ?

 もう帰っちまおうかな。腹も一杯になったし。

 面倒(めんどう)くさくなって酒を取りに行くフリをしながら立ち上がると、入口の所でキョロキョロ辺りを見回しているキングと目が合った。

「サイタマ氏!」

 あ、俺を探してたのか。

 同じヒーローでも、引きこもりのキングに出会うのは難しい。C級B級のヒーロー達にとっては(あこが)れの人の登場に会場が沸いた。そして同時に、キングが息を切らして駈け寄ってきた俺に非難の目が向けられる。

 俺、ジェノスを(だま)して手下にしてると思われてるし… キングも騙してるって思われてるのか。

 あぁめんどくせぇ。

「助けてサイタマ氏!!」

 キングに腕を掴まれるのと、会場に小さな振動が走るのはほぼ同時だった。

 

 ――――――――――爆音?!

 

 『なに?!爆発!?』『なんだ?!怪人か?!』『テロか?!』

 

 下位とは言え、酔っぱらってもヒーローだ。口々に現状を問いながら、爆音のした方に向かって走っていこうとする―――――― それをキングの一声が引き留めた。

(しず)まれ! もうS級が対処に当たっている!」

 流石(さすが)キング! こういう時の威圧感は半端ねぇな。ホントは超ビビりだけど。

「早くサイタマ氏!」

 キングは俺の手を掴んで走り出した。

「なんだよキング、怪人か?」

「違うよ!」

 

 何だか聞いたことのある連続した破壊音が聞こえる。S級に守られて避難してくる幹部達に逆行して先に進むと、被害が広がらないようにバリアを張る緑のチビっ()が浮いていた。

 え、こいつでも倒せないくらい強い奴なのか?

 手応えのある敵を期待して思わず薄く笑みが()れる。と、そんな俺の顔を見たチビっ娘が眉をひそめた。

「違うわよ! 殺せないから困ってるんじゃない!! あたしが怖いのは世論と賠償金よ!」

 なんだそりゃ?

「アンタも師匠だったらサッサと何とかしなさいよ!!」

 はぁ?

 そう言えば、さっきのどっかで聞いたことのある連続音 ――――――まさか!!

 

 ダッシュで現場に向かい、扉を開ける。反動で扉が抜けたが緊急だから関係ねぇ。

 

 

 

「コロス!」

 身体中から蒸気を上げ、眼をギラつかせているジェノスが、正拳突きを床から引き抜いた。

 足元にはジェノスのマシンガンブローから逃げ失せたであろう、全裸の(!)マッチョな・超濃いい・オネエの囚人が転がっている。

 すげぇな。こいつ生身でジェノスのマシンガンブロー受けて生きてるんだ。流石S級、何だっけ? プリプリ何とかってヒーローだったよな。

「コロス、コロス、コロス・コロス・コロス・コロスコロスコロス・・・ 」

 やべぇ、ジェノス、呪いの人形みたいになってやがる。

 焼却砲のスロットを上げ、一斉砲火(いっせいほうか)の構えを見せるジェノスに、俺は慌てて背後をとった。

「しっかりしろジェノス! ヒーローがいうセリフじゃねぇぞ」

 コアを光らせて、なおも暴れようとするジェノスを羽交(はが)()めにする。と、ジェノスの腕が嫌な音をたてて(きし)しみを上げた。

 やべぇ確実にヒビいった。あ、チビっ小娘の言ってた賠償金ってこれか。

「ジェノス、何があった?」

 

「せん…せい?」

 ジェノスの瞳から光量が落ち、身体から力が抜けていくのが分かった。が、それでも俺は押さえる力を緩めなかった。ジェノスは熱くなりやすいがバカじゃない。こんな事になった原因を突き止めないときちんと対処できない。

「なにがあった?」

「くっ!!」

 唇をかみ、(うつむ)くジェノスを見かねて、重役達の避難から戻ってきたバングが重い口を開いた。

 

「申し訳ないサイタマ君、ワシらも迂闊(うかつ)じゃった。あの男の危険性は重々承知しておったんじゃが、もう知っておるかと思って誰も注意をせなんだ」

 あん? あの男って床に転がってるそいつだよな。

「ぷりぷりプリズナーは酔うと所構わず脱ぐんじゃよ。その上――――――キス魔でな。毎回気に入った新人を襲うんじゃ。しかもチョー濃ゆいディープキスじゃ」

 げ~っ! こんな濃いいマッチョでオネエのオッサンがか?!

 えっ? じゃぁ何?? ジェノス、やられちゃったの?

 な、なんて言って慰めればいいんだ? しかも、ディープ!! 舌まで入れられちゃったの?!

 

「…味覚機能がアダになりました…」

 うん、ごめんジェノス。なんか生々しすぎる。まさかこんな事になろうとは…

「で、でも、ファーストキスって訳じゃないんでしょう?!」

 ナイスフォローだチビっ娘! 顔の良いこいつなら、きっと経験済みなはず!

 

『 これがファーストキスだったらなんだというんだ?! 』

「「「「「 えぇ~~~っ!!! 」」」」」

 

 はい、詰んだ~! 塩塗った~!!

 生身失って、その上ファーストキスがこれかよ?!

 どうすればいいんだ! 俺の少ない人生経験じゃもう太刀打ちできねぇ~よ!

 

 思わず床に手を付きたいほどの精神的ダメージを負った俺は、床に転がっているプリズナーが黙って俺を見つめている事に気が付いた。

 …おめぇのせいだぞ。この超くそ真面目な青少年の一生モノの心の傷、どうしてくれるんだ!!

 

「・・・起きろよオッサン――――――   」

 平熱モードかなぐり捨てて、地の底から上がるような声を掛ける。

 取り敢えずコイツは土下座(どげざ)確定だ。後はどうしてくれようか。

 

 起き上がったプリズナーは、ためらいもなく俺の上腕二頭筋に手を置き、あまつさえ揉みながらこう言った。

「相変わらずいい体だなサイタマちゃん♡ ヒーロー認定試験でのパンツ1ちょの映像をみて、スキンヘッドも悪くないと気付かされたぞ!」

 

 げっ! こいつマジかっ?!

 

 思わず、ジェノスを押える手を緩めてしまった俺は悪くない。 うん。 きっと。

 

「キ・サ・マ~! 俺だけでなく、先生にまで不埒(ふらち)な目を向けるとは! 許さん!!」

 ジェノスの肩・及び上腕・掌の装甲が一斉に砲門を開く―――――――――――――

 

 

 この日―――――ヒーロー協会大広間宴会場は壊滅的なダメージをおった。

 後日、ヒーロー協会は公式発表として、原因はガス爆発。被害はS級ヒーローの重傷者一名のみと公表した。

 

 本当の事は、俺とS級ヒーロー達だけが知っている。

 

 

 

 

 

 




突発的に書きなぐった。題名『Gの悲劇』と迷ったけど『暴走サイボーグ』に決定。
愛の狩人、ぷりぷりプリズナーさん登場です。
彼に命があったのはタツマキのおかげでしょう。
先生まで暴走しなくてよかった。最強(狂)セコムはイっちゃったけど。

ちょっと長くなってしまいましたが、色んな人を書けて楽しかったです。
無免との飲み会はまた書きたいなぁ。

さて、フブキはサイタマの事が好きなのか否か?
誰かジェノスの唇、上書きしてやってクダサイ。

誰がいいでしょうね~?





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