ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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明けましておめでとうございます。
師弟の正月風景を書いてみました。

今年もよろしくお願いします。




謹賀新年

「明けましておめでとうございます。本年もご指導のほど宜しくお願い致します」

「おう」

 床に三つ指をつき、ネットで調べた新年の挨拶を完璧に再現する。と、先生は困ったように挨拶を返してくれた。

 

 掃除の行き届いた玄関ドアには正月飾り、テレビの前にはバングのところで手伝った餅つきで手に入れた鏡餅。コタツの上には重箱に詰まったお節料理、餅入りの雑煮は二人分、ミカンだって積んである。どこをどう見ても完璧な正月風景だ。

 先生がお節を用意すると言い出した時は驚いたが、夏祭りの時と言い、クリスマスの時と言い、先生は存外イベント事がお好きなのかもしれない。

 

「ご所望(しょもう)の通り雑煮は醤油ベースにしてみました。お餅は二つでいいですか?」

「サンキュー」

 紅白のかまぼこ、昆布のにしん巻、黒豆の煮物、田作りにエビの旨煮。この地域の正月料理はどれもこれも縁担ぎとダジャレで出来ている。

 俺達は顔を合わせると、いただきますの挨拶をして箸をとった。

 雑煮をすすってほっとしたような先生の顔を見る限り、味は及第点らしい。

 

「しかし、玄関の門松で年神をおびき寄せ、しめ縄飾りで家に引き込み、鏡餅で捕獲する。この地域の神とはまるで怪人のようですね」

「またネットで妙な知恵つけてきやがったな。お前、神様が聞いてたらぜってー怒るぞそれ」

 これまた出世魚という縁起物の(ぶり)の照り焼きに(かじ)り付きながら、先生はお神酒(みき)に手を付ける。

 口に含むと… 先生の眉が微妙に角度を変えた。やっぱり美味しくないらしい。

 それはそうだ。薬草を加えた味醂(みりん)なんてモノが美味しいはずはない。

「まぁ八百万(やおろず)の神なんて元は(たた)り神が主だし言いえて妙だな。でも正月に外で言うのはやめとけ」

「はぁ」

 神のように強い先生が、お金を掛けてまでして年神を(まつ)る意味もわからないし、ゲンを担ぐ意味も分からない。今日びは正月でも店は営業しているというのに、高いばかりのお節料理なんて保存食を作りたがる意味もまるで判らない。

 年の瀬が近くなってからの食品の高騰ぶりは、見ていて馬鹿々々しくなるほどだ。

 

「菊ナマスは良い話が聞けるように、勝栗は戦いで勝てるように、黒豆はマメ(けんこう)でいられますように。どれもお前に必要だからちゃんと食っとけよ」

 そう言いながら、先生が小皿に取ってくれる料理の意味を考えて、俺はこれが俺の為に作られた事に気が付いた。差し詰め、金がなく彼女もいない先生ならば、金運アップの栗きんとんに、子孫繫栄の数の子というところだろうか?

 …そう言えば数の子は重箱に入ってないな。俺が用意して差し上げるべきだった。

 

「…先生はいつもこの様に正月を過ごしてらっしゃるのですか?」

「いや全然?いつもは師走(しわす)にカップ麺喰って、正月番組ゴロ見して、あるモン喰って終わり。まぁ今年はお前もいるし、命かけた仕事してんだから縁起担いどくか?と思って」

 サイタマ先生と命のやり取りが出来るような敵などいない。いたらとっくの昔にこの世は滅んでいるだろう。

 …やっぱりこの料理は俺の為か。

 ゲンを担ぎたいぐらい俺の戦いぶりは目に余るという事だろうか?

 しかし、狂サイボーグの情報が聴けるように、闘いに勝てるように…は判るとして、俺はサイボーグなのだから病気もしないし、いくら壊れても替えがきくというのに… 健康と言われてもなぁ。

 そう思いながらお茶を差し出すと先生は小さく礼を言って受け取った。

 

 食事の片付けを終え、お茶を入れ直そうかと先生を伺う。と、俺と視線のあった先生が目を泳がせた。

 どうしたのだろう?何か至らぬ事があったのだろうか?一年の計は元旦にありというのに、こんな事では今年の精進にかかわるというものだ。

 

「どうかしましたか?」

「あ~、ジェノス君ちょっとこっち来て」

「はい、なんでしょう?」

 先生の前に正座すると、先生は小さなポチ袋を取り出した。

「お前、今度成人だろ?お年玉もらえるのも最後かと思って… 」

「つっ!いけません!貯金残高3ケタの先生から金品を受け取るなんて!そんな鬼畜な所業を俺にさせる気ですか?!」

「おい。事実だけどもっとオブラートに包め」

「大体この年始年末、幾ら使ったんですか?!本来ならば年始のご挨拶として百万ほどお渡ししたいくらいですから!給料だって俺の方が断然高いのに、お年玉なんていただけません!!」

 

「 …この俺にこんなにダメージ与えられんのお前くらいだよ」

 がっくりと肩を落とした先生は、気を取り直して、手に持っていた封筒を押し込んできた。

 

「お年玉だけどお年玉じゃねぇから。お前に小銭渡したってチリみたいなもんだし」

 開けてみ。

 先生の言葉に訝しみながらも封を開けると、中に入っていたのは――― 一枚の古銭?

 

「これは…?」

「五銭玉だよ。四銭(死線)を越えて五銭ってな。俺が免許取った時、爺さんがくれたんだ。戦地にお守りとして持ってってちゃんと帰ってこれたからお前にやるって。だから俺もお前にやる」

 

 先生―――――!(免許持ってたんですね?全く気づきませんでした)

 

「自爆癖治せ。自分が無事に生き残ってこそが勝者だかんな」

「 ………先生。ありがとうございます!コアにでも埋め込んで一生大事にします!!」

「いや、そういうのいいって。埋め込んでも弾丸止めたりとかぜってー出来ねぇから。さぁ、パトロールがてら初詣でも行こうぜ」

 

 縁担ぎのダジャレは好きではないが、人の思いのこもった物は存外悪くないかも知れない。

 先生からもらったならば尚更だ。

 晴れ渡る青空の下、俺達は連れ立って新年最初のパトロールに出かけた。

 

 

 

 

 

 




10代最後の正月で、弟子にお年玉をやりたかったサイタマと、季節イベントなるものをすっかり失念していたジェノス。

一万やそこいらやってもジェノスには響かないと思ったから付加価値の付いた玉をやってみた。
古銭価値としては100円くらい?(笑)

サイタマが本当に免許を持ってるかは不明。
でも、レンタルビデオの会員になっているから持っているのでは?
年金とか保険とか月々払えてるとは思えないし。

絶対走った方が早いから、持ってても乗らないと思う。


ちなみに、ジェノスが言っていた門松や鏡餅の使用方法は大まかな意味で実は真実。

今年もチマチマ書いていきますのでよろしくお願いします。
Jack_amano




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