ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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クリスマス師弟。

そこはかとなく腐の匂いがするが、そんな事はない。たぶん。
(自分はセーフだと思っている)

もう来年は弟子も大人だよね?という話。





ラストクリスマス

 

「サイタマ氏はクリスマスどうするの?」

 屋台のおでんをつまみながらキングが聞いてきた。

 …クリスマス…クリスマスねぇ。

 俺、彼女いない歴ウン年だし、大学ん時と違ってゼミもねぇーし… 正直、俺には関係ねぇイベントだな。

 熱燗を錫チロリから注ぎながら、俺は虚しくなってそれ以上考えるのを止めた。

「クリスマス? あ~、なんだっけ? おでん食べる日だっけか?」

「またまた~サイタマ氏ったら~! フブキ氏からクリスマスのお誘い来たんでしょ?」

 あ~、フブキね。確かに来たな。偉そうに“誘ってやってるのよ”って感じで。

「来たって、あれフブキ組のクリスマスパーティーだぞ?チケット制の。金払ってまで行きたくねーし、タダでもフブキ組入れって言われるに決まってるから行きたくねーよ」

 行かんでも判る。

 喰い終わった後に、ただ飯食ったんだからフブキ組に入れって言われるに決まってる。

 プレゼント目当てだったリ、勧誘目的だったリ、ほんと俺の周りの女はロクなのいねぇなぁ。

 まぁ、いてもそんな女が俺みたいなハゲを相手にするとは思えねーけど。

「なんだそうなんだ。俺はね~ 彼女とデート」

 え? キング、彼女いたのか?!

「むふ~っ、23日がドキシスの発売日なんだよね~。前評判(レビュー)も上々だし楽しみなんだ~」

 なんだ二次元の彼女か。ちょっとビックリしたじゃねーか。何か? もしかしてこれノロケのつもりだったのか? キングも俺しかゲームの話し出来る奴いないもんなぁ。

 しかしクリスマスかぁ~。

 バングも弟子と食事会だって言ってたし、無免もクリスマスにあわせて特別警戒パトロールだって言ってたし… こういうイベント、結構みんな乗るもんなんだな。

「だから~。イブとクリスマスは遊べないからね」

 三本傷の入った強面の顔で、ニッコリ笑ってキングが言った。

 あ、ノロケじゃなくて、邪魔すんなって事だったか。新作のゲームやらせてもらおうと思ってたのバレてたな。

 俺は取り敢えず、手元のお猪口を空にした。

 

 酔っ払ったキングを送って家に着くと、もう日付が変わる頃だってのにジェノスはまだ起きて待っていた。

「先寝てて良かったのに」

「いえ、先生のお世話をするのは弟子の務めですから」

 俺は師匠らしい事なんて何もしてやれないのに、ここまでいたれりつくせりだと心が痛むよなぁ。と思いながらジェノスが用意してくれていた茶漬けを掻き込む。

 いつも思うが絶妙な温度加減だ。

 ジェノスにはサーモグラフィー機能がついていて、温度は見るだけで分かるらしい。

 焼却砲で皿を乾かしてみたり、手にピューラー仕込んでみたり、こいつが俺に師事してから上がったスキルは家事能力だけなんじゃないだろうか?

 なんかすまん、ジェノス。

 

 入れて貰ったこれまた絶妙な加減のお茶を(すす)りながら、そういやぁこいつはクリスマスどうなんだろう? と思って聞いてみた。

「お前、年末どうすんの?」

「どうするのとは、どういう意味でしょう?」

「ほら、クリスマスに正月だろ? 研究所帰ったりすんの?」

「いぇ、今までも狂サイボーグを追って放浪していたので、盆暮れ正月と別段どうのという事はありませんでした。ですが先生が帰省なさるのでしたら、俺も出ますが…」

 あん?

「何で俺がいなかったらお前が家出る事になんの?」

「家主を差し置いて、店子(たなこ)がのさばるわけにはいかないでしょう」

「いやいや、ここお前の家だろ? 家賃払ってるんだし」

「 …… 」

 ジェノスは何に感動したのか、ノートを取り出して勢い良く書きなぐり始めた。

 しかし――― そうか~15歳から今まで、ジェノスにはクリスマスも正月もなかってことか。

 大人からのプレゼントもお年玉も、もう今年で子供が優遇されるイベントは終わりだってのに。

 

「…だったら俺達だけでクリスマスするか?」

 俺の言葉に、ジェノスの目が少しだけ大きくなった。

「し、しかし、今月はお金がないのでは?」

 どもんなよ… ホント毎度思うけど、俺、こいつにどんだけ貧乏だと思われてるんだろ?

「正月用にセーブしてたんだよ。そのぐらいはあるって」

「でも… 俺のいたところではここと違い、クリスマスは社会奉仕活動をして教会に行く日でして、狂サイボーグに襲われたあの日から、この世に神も仏もあるもんかと思って生きていましたから、ぶちゃけ盛り上がれないかと―――――― 」

 おいおい、随分ヘビーなとこ付いてきたな。

「いいんじゃね?信じてなくても。俺もクリスマスに一人じゃないってのが久しぶりだからいいかなぁなんて思っただけだし。こういう時しかケーキなんて食わねぇだろ?」

「はぁ」

「ケーキ用意して、チキン食って、ちょっとご馳走用意して――――二人だから色々食べれるな」

 誰かと一緒にまったりと家で過ごすクリスマスも、以外といいかも知れない。

「 …いいですね。ご馳走は何を作りましょうか?」

「鍋――――じゃ何時もと同じだから、おでんでもすっか」

「はい!!」

 どうせだからミニツリーも買うか。出費は痛いけどまぁいいや。緊急時用のコブタの貯金箱はこう言う時に使う為にあったんだろう。

 俺がこいつにしてやれる事なんてホント何もないしな。

 

 

 クリスマスの朝、俺からのプレゼントを開けてみたジェノスは、速攻、キャッシュディスペンサーに駆けつけ、炬燵(こたつ)の上に大量の札束を積み上げてこう言った。

「このチケット、いくら出せば追加購入出来ますか?!」

「ジェノス、ごめん、本当にゴメン!」

 師弟なら当たり前な筈の事なのに、なんかすげぇー居たたまれない!

 この札束の量、引き出し限度額、絶対超えてんだろ! 朝から銀行梯子したんか?!

 

 中身は手合わせ回数券。

 

 小学生の肩叩き券じゃねーけど、これなら確実と思ったんだが――――

 こいつ、俺の予想の斜め上いきやがった。

 

 これからはもうちょっとちゃんと手合わせしてやろう。うんたぶん。

 あ~ぁ 正月は違う手考えなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジェノスが成人する前に子ども扱いしてやりたいなと思って。

元ネタは去年のセブンイレブン限定カバー(単行本)です。
カバーの師弟はケーキもチキンもおでんもセブンイレブンのでしょうね多分。
でも、うちの師弟はケーキ(前回で懲りたので)以外は手作りかと。

時事ネタだったので先に入れました。

・・・これ、腐じゃないですよね?





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