ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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銭湯―――ジェノスsideの同一場面。サイタマ目線。
同じ会話をしていても、サイタマの気になる部分はやはり違うと思って。
勿論、これ単発でも話は通じます。



銭湯―――サイタマside

 ジェノスとの待ち合わせ前に本屋で立ち読みしようと思ったら、デカい昆虫みたいな怪人に出会った。

「はーっはっは! 俺は地球温暖化によって生息範囲を広げた蟲の怪人、お前たち――― 」

「うるさい」

 あ、蹴り入れたら怪人爆砕して体液まみれになった。しかもビーサン鼻緒切れた。

 やべーなぁ、この足じゃ本屋入れねーじゃん。スーパーも入店拒否られるかも。

 今から帰ってシャワー入るのもかったるいけど、ジェノスと連絡付かないからなぁ。

 俺、携帯持ってねーし、家に電話もねぇ。第一、外から電話掛け様にもあいつのTEL番覚えてねぇ。

 しゃーねぇ、取り敢えず帰って、あいつに先買ってるようパソコンからメール入れとくか。

 そう決めると、俺はサンダルを脱いで家に向かって走り出した。

 ハダシで走っても鍛えた俺の足は怪我なんてしない。でもなんだか某国民的アニメみたいでこっぱずかしい。やっぱ、100円ショップのビーサンはダメだなぁ次はもうちょい高いヤツにしよう。

 ―――なんて事を考えながら走ってたら、なんだか向うから見た事のあるヤツが歩いてきた。

 ジェノスだ。

 ショップの名前が書いてある紙袋を小脇に抱え、残念な物を見るような目で俺を見ている。

「買い物行こうと町まで出かけたら―――」

 

 裸足で、駆けてく、先生に出会った。ってか?

「いや、サザエさんじゃねーから」

「そこ突っ込んでません」

 しょーがないので、俺はサンダルを地面に投げ置き、取り敢えず足を乗せて事情を説明した。

「ブラブラしてたら怪人と出くわして、蹴り入れたらサンダルぶっ壊れた。シャワー浴びて出直したらもう夕得市のセール間に合わないかなぁ」

 今日は、お一人様一点の卵特売日だ。なかなか安くならない紙類も安い。おまけに夕得市セールなら肉も安くなる。

 20%OFFの豚肉はGETしたいなぁ。俺はそろそろ鳥胸肉以外の肉が食いたいんだけど。

 

「俺、丁度服とベランダ用のサンダルを買って来たんです。お貸ししますからそこの銭湯で着替えたらどうですか?」

 俺の様子を見ていたジェノスが嬉しそうに言った。

 前々からこいつは俺の服を見立てたがってたんだ。俺のセンスはジェノスには受け入れられないらしい。

 ま、俺は値段(やすさ)とウケが取れるかが服を選ぶポイントになってるから、ビンテージ物のジーンズや限定品のX-MENのベルトをつけてるこいつとは合うはずがない。

「えーでもなぁ」

 そう、だからジェノスの服は値段がお高い。俺のムナゲヤ店頭ワゴンセール品とは桁が違う。もし借りて戦闘になったらと思うとドキドキもんだ。

 しっかし、こいつはよくもまぁ、そんな高い服を一発の戦闘で惜し気もなく捨てれるもんだ。俺だったら縫ってでも着てるね。

 全く、奴の金銭感覚は訳判らん。

 

「いいじゃないですか、俺も久しぶりに行きたいです」

 え?

「銭湯好きなの? どんなに汚れても入ってきたことないから外風呂嫌いなのかと思ってた」

「…好きとか嫌いとかじゃなくて、公共施設は一人では戦闘型サイボーグは断られる事が多いんです。信用がないんですよ。誰も兵器と同じ建物で日常生活送りたいなんて思いませんよから」

 適当に相槌を打ちながら、俺は今まで自分がそんなことを一度も考えた事がなかった事に気が付いた。

「壊れると、漏電(ろうでん)する事もありますし――」

 確かに。シビシビしながらも奴の漏電に耐えられるのは俺だからだ。

 ……………そうか。そうなのか。サイボーグってなんだか大変だったんだな。

「じゃあ、ま、風呂行くか」

「ハイ、行きましょう!」

 

 結局、風呂代、タオル代、石鹸代と、セールより高いもん付いたがまぁいいだろう。あんな事言われて無碍(むげ)に出来るほど俺は心まで貧乏な訳じゃない。

 タオルを渡そうと振り替えると、ジェノスのワシワシした金髪が目に入った。

 あ、シャンプー買うの忘れた。

 しばらく使ってなかったから忘れてたわ。…なんか自分で言ってて虚しいが。

「固形石鹸でいいでしょう、家でもそうですし」

 え? 家でも使ってないの? いや、用意してやんなかった俺も悪いけどさ

「イヤイヤイヤイヤ、ダメだろう!」

「いりませんよ、俺は機械ですし、先生もお使いになってない物を弟子の俺が使うなんて――― 」

 機械ですしなんて言い方すんな。お前のその考え方がお前の壊れ癖につながるんだぞ。

「イヤ、そんな生暖かい目すんなよ。おっちゃんシャンプーくれ、リンス入ってんの」

 使い捨てサイズのシャンプーを受け取り、俺達は久しぶりの銭湯を楽しむ事にした。 

 

「おまえさ~」

 大風呂にいるジェノスの隣に陣取り、伸びをしながら、さっきから気になっていた事を聞いてみる。

「宿泊とかしづらいんだったら、もしあの時、俺が同居ヤダって言ってたらどうするつもりだったの?」

 あの時とは… 大金をドン!と目の前に積まれて同居したいと言われた時だ。

 少し首をかしげてから、ジェノスは口を開いた。

「そうですねぇ 俺は未成年ですし、部屋は一人では借りられません。雨風を避けるため無人街の何処かで野宿し、先生の(もと)通ったと思います」

 え?!まじかよ!

「うわ~、怖えぇ!無人街で野宿なんて、絶対ダメだろ。危なくておちおち寝てられねぇぞ」

 瓦礫の中で膝を抱えて座るジェノスが目に浮かぶ。こいつの事だ、きっと飯も食わず、風呂にも入らず、暗闇の中でサーチアイを光らせて夜が明けるのをただじっと待つんだ。

 うん、同居は正解だった。昔の俺の英断に感謝だ。敬礼!

「えぇ、先生が流されやすい方で本当に良かったです」

「…お前、ホントに俺の事尊敬してる?」

「勿論です」

 なんか釈然(しゃくぜん)としない感があるが、ジェノスの言葉尻に一々突っ込むときりがないので、俺は何時もの様にスル―する事にした。

「そろそろ出るか、夕得市に間に合わなくなるからな」

「はい!」

 ジェノスが買った服は、カーゴパンツに黒いタンクトップ。こんなシャツ一枚でも俺が着ていた服を全部足した位の値段がする。

 しかもサンダルはクロックスだ、ベランダのサンダルなんてそれこそ100円ショップでいいだろうに。

 ズボンのタグをとって足を入れる――― あ~っ、くそ、屈辱だ! 俺とジェノス、身長は大して違わないのにズボンの足が余るなんて!

 大鏡に映る俺は、前にいちゃもん付けてきたタンクトップなんちゃらみたいで、なんだか俺じゃない感がスゴい。やっぱ、ハゲって着る服選ぶな。

 

「お似合いですよ先生。これを機に少し違うタイプのデザインに挑戦してもよろしいのでは?」

 髪を乾かし終わったジェノスが俺が思っているのと正反対の事を言いながら近づいて来る。

 これ、どう見てもチンピラだろうが。 お前の目は節穴か?

 そう言い返そうと振り向く――― と、

「えっ?」

 ジェノスの髪はサラッと流れるストレートの(つや)やかな金色。…さっきまでのワシワシのクセっ毛とはまるで別人じゃねぇか。

 でも、何で何で?

 ……………もしかして――― 今まで固形石鹸で洗ってたから髪が傷んでたのか?

 

「……なんかゴメン」

「?」

 

 すまん、今度からちゃんとシャンプーとリンス用意してやるからな。

 

 

 

 

 

 

 




弟子が急にサラ髪になった理由でした。
マンガ読んでない方すいません。

先生はジェノスがシリアスな事考えてるとは夢にも思ってないだろうと思って。
ちょっと長くなっちゃいましたね。



『書きたかったけど諦めた会話』
サイタマ「パンツは?」
ジェノス「ありません。はきませんから」
サイタマ(しょーがねぇ。表3日、裏3日、って言うしな)


サイタマ「なんかこれタンクトップなんちゃらみたいじゃねぇ?」
ジェノス「……焼却します」




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