ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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サイタマsideも書いてます。
近々上げる予定です。




銭湯―――ジェノスside

 買い物行こうと町まで出かけたら、裸足(はだし)で、駆けてく、先生に出会った。

「いや、サザエさんじゃねーから」

「そこ突っ込んでません」

 よく見ると、先生の足元は怪人の血であろう、緑色の液体でぐっしょり濡れている。手に持った鼻緒の切れたサンダルも右に同じだ。

 夕刻のセールに合わせて先生と待ち合わせをしてはいたが、集合場所はこの付近ではなかったし、約束の時間よりもまだ早い。

「ブラブラしてたら怪人と出くわして、蹴り入れたらサンダルぶっ壊れた。シャワー浴びて出直したらもう夕得市のセール間に合わないかなぁ」

 今日は、お一人様一点の卵と、なかなか安くならない紙製品の特売日だ。おまけに夕刻セール時間帯なら肉も安い。このタイミングを逃すのは、先生にとって断腸の思いだろう。

 少しの遅れでも百戦錬磨・レベル神なみな主婦達相手では、流石の先生にも勝ち目はない。

 …そうだ。

「俺、丁度服とベランダ用のサンダルを買って来たんです。お貸ししますからそこの銭湯で着替えたらどうですか?」

 パンツはないですけどね。はきませんから。

「えーでもなぁ」

「いいじゃないですか、俺も久しぶりに行きたいです」

 意外そうな顔をして先生が振り向く。

「銭湯好きなの? どんなに汚れても入ってきたことないから外風呂嫌いなのかと思ってた」

「…好きとか嫌いとかじゃなくて、銭湯とかホテルとか、公共施設は一人では戦闘型サイボーグは断られる事が多いんです。信用がないんですよ。誰も兵器と同じ建物で日常生活送りたいなんて思いませんから」

「ふーん」

 壊れると、漏電する事もありますし―――そう言うと、先生は『油断癖直せよな~』と何処となくバツの悪そうな声で言った。

「じゃあ、ま、風呂行くか」

「ハイ、行きましょう!」

 

 番台の親父は、俺を見て何か言いたそうな顔をしたが、『悪いけど、任務後なんだ。風呂遣わせて』と言う先生の言葉に、ただ黙って金を受け取った。

 タオルを二本と小さい固形石鹸を一つ買う、そのまま行こうとしたら、先生に遮られた。

「あれ?シャンプーは?」

「固形石鹸でいいでしょう、家でもそうですし」

 俺は、汗もかかないし老廃物質もでない。水で流すだけで石鹸すら使わない事もある。

「イヤイヤイヤイヤ、ダメだろう!」

「いりませんよ、俺は機械ですし」

「そういう問題じゃないって!ハゲたらどうする!」

 …………………

 自虐ネタですか?

「イヤ、そんな生暖かい目すんなよ。おっちゃんシャンプーくれ、リンス入ってんの」

 先生のご厚意で、かなり割高なリンスインシャンプーを頂き、俺達は男湯の暖簾(のれん)をくぐった。

 

 外風呂は久しぶりだ。

 近頃は値段が上がり、週間ジャンプよりも100円高い値段になってしまい行く機会が余計に減ってしまった。

 よく考えれば、今日だってセール品の差額を吹き飛ばす出費だ。先生が、こう言うイベントなんだと割りきってくれるといいのだが…

 

 風呂に入るには早い時間帯のせいだか、客は俺達以外いない。

 先生は、とっとと体を洗い、つるりと頭も洗って風呂に向かった。

「ファ~っ気持ちいいぞ。ジェノスも早く来いよ」

 先生、前にも言いましたが、そのファの音はファの♯です。俺の絶対音感に間違いはありません。

 

 俺が体を真面目に洗うと、装甲のスリットやら外骨格の継ぎ目やらに手古摺って時間がかかる。先生と違って髪もあるので尚更だ。

 やっとの事で風呂に浸かると、もう先生は電気風呂に移っていた。

 ……これはやっぱり俺が浸かってはいけないやつだろう。この体はある程度耐電加工をしてあるとはいえ、危ない橋は渡りたくない。

 

「おまえさ~」

 大風呂に戻ってきた先生が、俺の隣で伸びをしながら言った。

「宿泊とかしづらいんだったら、もしあの時、俺が同居ヤダって言ってたらどうするつもりだったの?」

 あの時とは… 俺が金を積んで、先生に『ここに住んでもいいですか?』と聞いた時の事だろうか?

「そうですねぇ 俺は未成年ですし、部屋は一人では借りられません。雨風を避けるため無人街の何処かで野宿し、先生の(もと)に通ったと思います」

 正直、俺は外で寝る事に躊躇(ちゅうちょ)はなかった。

 先生と出会う前には、暴走サイボーグを追って野宿をしながらあちこちを渡り歩いたのだ。

 あの頃の俺はろくに風呂にも入らなかったし、ただがむしゃらに敵を追っていた。一般人から見れば、怪人と大差がない物だったに違いない。

 だが、Z市無人街の怪人エンカウント率は俺の予想を遥かに超えていた。

「うわ~、怖えぇ!無人街で野宿なんて、絶対ダメだろ。危なくておちおち寝てられねぇぞ」

「えぇ、先生が流されやすい方で本当に良かったです」

「…お前、ホントに俺の事尊敬してる?」

「勿論です」

 

 先生は、強い。

 先生は、負けない。

 先生は、俺が眠っている間にこの世からいなくなってしまうなんて事がない。

 

 俺はあの日、家族を失ってしまってから初めて朝まで安心して眠る事が出来た。

 あの薄い壁の安っぽいマンションの中ででも、です。

 

 だから、キリンのキーホルダーの付いた先生の部屋のスペアキーをくださった時、どんなに嬉しかった事か―――――

 先生には分からないですよね?

 

「そろそろ出るか、特売夕得市に間に合わなくなるからな」

「はい!」

 

正直、あの鍵には、あの札束以上の価値があると俺は思っています。

 

 

 

 

 

 




あれ?これはもしや(腐)の部類になるんだろうか?
自分的には違うつもりで書いてるのだが、なんかシリアスになると曖昧になるなぁ。

ジェノサイに持ち込む気は毛頭ないんだけど、家族愛にしてもらえませんかね?
ダメ?

次回、同じシュエ―ションでサイタマ目線、噛み合わない二人をお送りする予定です。

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