ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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グリズニャーの後ぐらいの話と思ってください。





報復

「只今パトロールから戻りました」

 いつも通り玄関を開ける――――と、いつもの『お帰り』以外の声がかかる。

 

「ジェノス、ちょっとそこ座りなさい」

 めずらしい、先生の声がマジトーンだ。

 意外に思ったが、俺は先生に言われるがまま、先生の前に正座した。

 いつも穏和な―――と言えば聞こえはいいが、平熱系で表情の動かない先生が、何処となくイラついているようにみえる。

 その証拠に、先生の隣にあったスーパーのチラシが、グチャッと(しわ)になっていた。いつもはポケットに入れやすいよう、ちゃんと二つに折ってあるのに。

「どうなさいましたか?」

 先生は俺ですらなかなか見ない真剣な顔でじっと俺の目を見つめ… (おもむろ)に口を開いた。

「お前――― タンクトップ兄弟を半殺しにしたって?」

 ?

 なぜ知ってるんですか先生? 黙っていればわからないと思ったのに。

「流れ弾です。奴等が怪人の(そば)にいたので」

 俺は自分が表情の出辛いサイボーグである事に感謝しながら、なるべくフラットな声で答えた。

 つい最近、ヒーロー協会から秘密裏に駆除依頼を受けた、災害レベル:鬼"グリズニャー"と戦った時の事だ。

 なんでこんな強いレベル相手に、C級のタンクトップ兄弟(ごと)きが係っているのかと思ったら、奴らは一般市民が闘いに巻き込まれないように、バイトで道路を封鎖していたそうだ。

 

 しかし… 半殺しとは。

 くそっ、死ななかったか。俺も甘くなったものだな。

 

「ごまかしてもダメ! ヒーロー協会から保険の手続きで連絡きました。俺、一応師匠(ほごしゃ)だし」

「ちっ!」

 思わず心の声が外に出る。協会の奴らめ、余計な事を―――

 先生のお宅には固定電話はないし、携帯電話もないから連絡はないだろうと油断した!

 

「狙ったんだろ?」

「いえいえ、たまたまです。たまたま」

「…お前って本当に判りやすいよな」

 『クール』『鉄の無表情』なんて市民にコメントを書かれてる俺の心の内をこうも簡単に見破るとは――― 先生には本当に嘘が付けない。

 

 グリズニャーに『マシンガンブロー』を撃ち込んだとき、都合がいいことに二人が(そば)にいた。

 勿論、俺は奴らを合法的に抹殺出来るこのチャンスを見逃さなかった。

 確実にヒットさせたと思ったが―――

 奴らも、腐ってもヒーロー。一般市民よりは丈夫だったと言う事か。

 ゴキブリ並みのしぶとさだな。

 

「お見舞い行け」

 感慨(かんがい)にふける俺に投げかけられた、思ってもみなかった先生の言葉は、俺の神経を目茶苦茶逆なでした。

 

「はぁ?!」

 何言ってるんですか先生! 奴らは『隕石事件』の時に、アナタを吊し上げて社会的に抹殺しようとした、あの"タンクトップ兄弟"なんですよ?!

 あんな奴らを野放しにしている"タンクトップマスター"にも、師匠である先生を、俺の手柄を横取りする腰巾着扱いするヒーロー協会にも納得いきません!!

「嫌です! 奴等が先生にした事は万死に値します!」

「やっぱりわざとじゃねーかよ」

「すびばぜん」

 サイタマ先生、お願いですから俺の鼻が高いからって摘まむのはやめてください。顔に(ひび)が入りそうです。

 

「あのさー、あんな奴らの事なんかほっとけよ。師匠の俺が気にしてないんだから、弟子のお前が気にするなってぇの。協会の奴らにも、もうちょっと愛想良くしろとは言わねぇけど、せめて身内に敵は作るな」

 俺の鼻から手を放し、軽いため息をつくと、先生は先を続けた。

 

「確かに修行のため、S級10位内目指せって言ったのは俺だけどさ。お前、いっつも後先考えず特攻かけてボロボロになんだろ? あの状態だったら子供にだって簡単にお前を殺れるぜ? もし俺が近くにいなかったら、助けてくれるのは奴等なんだ」

 

 結局は――― 俺の為ですか?

 いつもそうだ。

 自分の地位よりも名誉よりも、いつもアナタは当然のように、自分を傷つけてでも人を傷つけない道を選ぶ。

 それが先生の目指すヒーローなんですか? それとも、それがアナタにとって当たり前の事なんですか?

 それが先生の進む道だというのなら、俺は口を出しません。 でも、後ろで見ているだけなんて俺には辛すぎます。

 もっとみんなに、俺の師匠は素晴らしい方だと知ってもらいたいのに――― それすらもアナタには『そういうのどうでもいい』事なんでしょうね。

 

「ま、そもそもお前がもっと油断癖直せばいいだけの話なんだけどな」

 …そう来ましたか。その通りなので何も言えません。

 先生は、話は終わったとばかりに膝をたたき、立ち上がった。

「行くぞ、ほら」

「自重します」

 

 結局、俺は先生に引き摺られて無理やりタンクトップ兄弟の見舞いに行かされた。

 どうしても納得のいかない俺は、奴等への見舞いの品に、思いを込めてサイネリア(別名シネ(死ね)ラリア)の花の鉢植え(根(寝)つくように)を選んだ。

 

 先生は勿論、その意味に気付いていない。

 

 

 

 

 




ジェノスはこのくらいの事、平気でやってそうだなと思って。

報復手段を、焼却砲じゃなくてマシンガンブロウにした辺りが彼の言うところの自分が甘くなった理由でしょうか?
あんまり変わらない気もしますが―――
しかしこのオチ、外国では通用しませんね。向こうじゃ植木の花を見まいに送るのは普通ですから。


次は誰を出そうかな~考え中です。



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