ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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8巻表紙裏のアレです。





価値

 今、俺の目の前には段ボールの壁のがある。

 配達担当になった可哀想な宅急便屋の兄ちゃんが、エレベーターもない4階の俺んちまで何往復もして運んで来たやつだ。

 どうするつもりなんだこれ?

 只でさえ狭い部屋が、大量の段ボールに圧迫されてまるで倉庫のようだ。

 一体、今日からどこで寝るつもりなんだ? 俺んちはワンルームなんだぞ。

 腕組みをしながら俺が思案にくれていると、玄関の扉が勢いよく開いた。

「先生、只今戻りました。ご所望の食パン、牛乳を見切り品で手に入れる事が出来ました。あとヒジキが特売になっていたので購入しました」

 ジェノスだ。

 パトロールの帰りに買い物行って来てって頼んだんだった。

 

「おかえり~ サンキュ。で、聞きたいんだけど、これ何?」

 段ボールの発注主は全てジェノスだ。

 こいつはたまによく解らない買い物をする。

 この前なんて、俺が飲んでみたそうだったからって理由だけで『あずきゼリーサイダー』ってジュースを一箱も買って来やがった。(しかも、飲んだら激マズだった。今もどう消費するか検討中だ)

 あぁいう際物(きわもの)は一本だけで十分なのに。キムチシェイクとか、ガリガリ君ナポリタンとか、ジンギスカンキャラメルとか、一つを誰かと分けて笑うのがいいの!

 まったく、一発の地雷で済むところをクラスター爆弾化しやがって。

 

「あぁ、届きましたか!」

 机に荷物を置き、段ボール箱を確認するジェノス。いつも通り表情は変わらないけど、声のトーンは少しばかり高くなっている。

 何を買ったんだか知らないけど、めっちゃ嬉しそうだな。

 

 中身は――― はぁ? 俺のキーホルダー??

 深海族の事件の後、何をとち狂ったかあるメーカーが売り出した俺のフィギアストラップ!

 一部の熱狂的なジェノスファンに藁人形として受けたが、大幅に売れ残って製造メーカーの経営を圧迫してるって言う―――――――

「これ、もしかしてお前がこの前、顔の印刷ずれ過ぎだってメーカーにクレーム入れてたあれ?」

「はい!」

 いや、だからなんでそんなに嬉しそうなんだよ。

「まさかとは思うけど―――もしやこの箱全部―――」

「はい! 在庫全部買いました!」

 だからなんでそんな嬉しそうなんだよ!! お前はメーカーの救世主(ヒーロー)だな!

 は~ 思わずため息が口をつく。

「だから~、なんでお前はそういう金の使い方する訳? 何でも箱買いしないの! そんなもん一つあればいいだろ!」

「いえ、最低でも使用用、予備用、永久保存用と3つはいります!」

 ドヤ顔やめろ。なら3つにしとけよ!! まったくお前は!

「定価500円が100円になってたんですよ? 1200個買っても120000円。お得です!」

「それってかなりの売れ残りって事で、全然嬉しくないから!!」

 お前の貨幣換算おかしいって!

「それに、このまま廃棄されるか、知らない奴の手に渡るかするぐらいだったら俺が大切に保管します。これから先、先生が認められてプレミアが付いても誰にも渡しません!」

 こいつマジか?マジなのか? すげ~嬉しそうなジェノス。うわ~っマジだ~!

 で、弟子の愛が重いんですけど。

 

「…じゃぁあれだな。俺は、俺達が広い家に引っ越すか、お前が出て行くまで、段ボールに囲まれて暮らす訳だな? 布団二枚引けなくなるからお前はクローゼットの中で眠るとして―――」

 ジェノスがはっとした顔になる。やっと事態に気付いたか。

 

「…わかりました。俺が家賃払うので引っ越しましょう。S級ですし簡単に審査通りますよ」

 俺、なに? どこのヒモなの?? もうやだコイツ。

「なんなら家を買ってもいいですよ? その位金はあります」

「一人で出てけ!!」

 そういう問題じゃないから! あ~もう疲れた~

 

「…あのね、俺、ここ気に入ってるから。家賃も安いし、襲撃受けたって文句言う奴はいない。騒いだって大丈夫。大体、他所で俺達が手合わせしたら死人が出るだろーが?」

「はぁ。確かに」

 もー引っ越しの話しはお終い! まさか家を買うとまで言い出すとは思わなかった。

 ずっと狭いと思ってたんだろうなぁ。でもそんな事されたら俺の師匠としての立場はどうなる?!

 まともに修行だってやってないのに、これじゃぁ本当にただのヒモじゃんか。

「では… 明日にでも博士のところに持って行きますので、今日はベランダに置かせてください。幸い、雨は降らなさそうですし」

「ん」

 やれやれ、博士も大変だな。部屋一つジェノスの倉庫になってんじゃないのか?

 ジェノスが段ボールを片付けはじめたので、俺は、ジェノスが買ってきて机に置いたままの荷物を片付ける事にした。

 

 頼んだのは朝食用の牛乳と食パン。牛乳を冷蔵庫に入れないと―――

 あれ?

 俺、確かにすぐ使うんだから味期限近くの値引き品でいいって言ったけど―――

 定価320円? わっ! こっちの食パン、定価400円!! 20%OFFになっても256円に320円!

 いつも買ってるのより断然高い!

 マジかよ――― しかも食パンは5枚切り。うちは二人だって言うのに分けられねぇじゃん。

 

 ……………………。

 やっぱり――― こいつとは分かり合えない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




彼の金銭感覚は、クセーノ博士でも直せない気がします。
めちっや高いパーツをバンバン惜しげもなく与えているクセーノ博士は、ジェノスと一緒できっと金銭感覚もぶっ飛んでいる事でしょう。

彼にお金を持たせてはいけません。

がんばれサイタマ先生!庶民はアナタの味方です!



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