ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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今回、キング氏目線のお話です。





マイヒーロー

 俺には俺と違って、本当にヒーローな友人がいる。

 人類最強とか言われてる俺が、本当は弱くてどうしようもないって秘密を知っている唯一の人間だ。

 彼は、俺が手柄を横取りしてたのに、それを責めるわけでもなく、『弱いんなら、強くなればいいんじゃね?』といってくれた。

 命を救ってくれた事も何度もある、最強に強くて、最高にカッコいい、俺の本当のヒーローだ。

 

 でも、そんな彼も、俺にゲームで連敗すると切れる事がある。と、言うか、ゲームで彼が負けるのはしょっちゅうだけど。

 

「あ~ちくしょ~また負けた!」

 コントローラーを放り投げて、肩を落とすサイタマ氏。

 ここはZ市の無人街。サイタマ氏の住まい。

 今日は新作ゲームのデモンストレーションを兼ね、ゲーム機本体とソフトを何本か持参してサイタマ氏の家に遊びに来たのだ。

 

「サイタマ氏は動体視力と反射神経が良すぎて空回りしちゃってる感じだよね」

 負けて悔しいのはわかるけど、コントローラーは投げないでほしい。俺のゲーム機だから。

 それに、さっきから、サイタマ氏の鬼弟子が怖い。

 いつもなら、ちゃんとお茶を出してくれるのに、今日はものすごく不味い『あずきゼリーサイダー』なんてジュースを出してきた。

 俺も、勝ち続けて悪いと思うから何回かに一度か負けてあげるんだけど―――

 接待ゲームを続けるのにも限界がある。

 友達のいない、引きこもりの俺が、人とゲームをするのは新鮮で面白いけれど、なにぶんにも相手が弱い。

 例えば、モンハンで共同プレーをした場合、3オチしてクエスト失敗を招くのはいつもサイタマ氏だ。ゲーム大会で何度も優勝している俺と対等とは言わなくても、もうちょっと上手く戦えないものかなぁ。

 

 今、息抜きにやっているゲームは、横スクロール型のアクションシューティングだ。

 一昔前のゲームだが、以外に面白い。

 連打で結構いけるからサイタマ氏でも楽に進めると思ったんだが… サイタマ氏は連打に夢中になって、ボタンを全部押し潰した。

 もう何個目だろう?

 実は彼のために、俺の家にはいつもコントローラーの予備をストックしてある。

 サイタマ氏は身体能力は高い(いや高過ぎる)んだから、何か工夫すれば高スコアも夢じゃないと思うんだが―――

 

 目だけそっと動かして隣を見ると、彼はゲーム下手な人がよく掛かる病“自機に合わせて体が踊る病”にかかっていた。

 もうこの状態になると、コントローラーのボタンの命はかなりヤバい。

 なんとかならないものかな? こう、親指に集中しきっている力を、上手くそげれば―――

 

 そうだ。

「ねぇ、サイタマ氏? スーパーが2軒あるとします。片方は500円ごとに一枚抽選券がもらえ、クジが引けます。もう一軒は500円ごとに10%割引券がもらえます。どっちに行きますか?」

「え…?」

 不意に真剣な顔になるサイタマ氏。

 きっと彼の頭の中で電卓が弾かれているんだろう。

 だるっとしたイメージの強い彼だが、真面目な顔をすると実はかなりカッコいい事を俺は知っている。その二面性がまた彼の魅力の一つだ。

 だって、強いヒーローやヒロインに二段階変身は欠かせないじゃないか。

 

 サイタマ氏の指先から徐々に力が抜けて行く―――

 彼は自分の利益や名声なんかに囚われない。

 本当に困った人を助けるボランティアの様なヒーローだから、いつも生活はカツカツらしい。

 だから、タイムセールや赤札値引きには目がないんだ。彼のポケットには大概スーパーのチラシが入っているのを俺は知っている。

 

 いい感じだ、自機と一緒に動いていたサイタマ氏の体がぴたりと止まり、ボタンを連打する音に滑らかさが出ている。

 

 うまい!

 今の攻撃をノーダメで避けきるのはかなり難易度が高い!

 これならボス戦もイケるかも?!

 

「それって、クジの方、末等の商品は何?」

 突然掛けられるサイタマ氏の声

「はぁっ?」

 

 チュドーン!!

 派手な音を立てて、サイタマ機はボスに突っ込んだ。そして画面いっぱいにに広がる"ゲームオーバー"の文字。

 

「いや、だから末等の商品。ポケットティシュ? それとも50円引き券? 50円引き券ならくじの方がお得じゃん??」

 俺を振り替える顔はまだマジモードだ。

 予想外の喰いつき… サイタマ氏、ゲームより特売の方がプライオリティ高いんだね。

「えぇっと… 」

 どう切り返そうかと思っていると、突然、静かに目の前にアイスティーを入れたグラスが置かれる。

 えぇ? いつの間に近づいたの?

 涼しげに氷を鳴らし、グラスを置いた武骨な手の持ち主は、その手に似合わないクールビューティーな顔を俺の耳元に寄せて言った。

 

「先生をこうも容易く扱うとは。流石はキング、いいものを見せてもらった。参考にさせてもらおう」

 こわ!ジェノス氏怖い! ゴメン、サイタマ氏! 俺、また余計な事しちゃった??

 

 俺の鼓動(キングエンジン)は大きな音を立ててなり続けた。

 

 

 

 

 




キング氏、結構好きです。
戦歴はサイタマのおかげかも知れませんが、皆に尊敬されるにはやっぱり、人となりがいいのでは?と思っています。
縁があったらそこらへんも書いてみたいです。

キングと無免ライダーにはずっとサイタマのいい友達でいて欲しいなぁ。

しかし、うちのジェノスは無駄にスキルアップはかってます。
今回、サラサラ髪のジェノスで想像していただけると夏にピッタリだと思います。




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