ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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今回は、登場人物多めです。


手合わせ

「まさかこんな形で俺に真剣勝負を挑んでくるとはな」

 俺の目の前にいる先生からは、本気のオーラが立ち上っている。

「どんな形であろうと、先生に本気で手合わせをして頂きたい、俺の気持ちを察して頂きたい」

 負けじと身構える俺、だが俺は、先生の本気がこんなものじゃない事を知っている。

 ここはバングの道場、野外のバトルフィールドだ。

 

 昨日、俺は町中でバングに呼び止められた。

 さっくり無視して通り過ぎようとしたのだが――― 俺がメンテナンスに出ている間に、サイタマ先生と飲み明かしたと聞いて―――つい足を止めてしまった。

 バングの話では、どうやら、サイタマ先生は俺の事を心配して下さっているようだ。

 俺の前ではそんな様子など微塵(みじん)も見せていなかったので、内心驚いた。

 が、どう反応していいか分からなかったので―――

『そんな無駄な事をするくらいなら、手合わせの一つでもしてもらいたい』

 と、つい言ってしまった。

『ふむ、どんな形でも本気で相手をしてもらえればいいのかね?』

『?』

『じゃぁ、こんなのはどうかね? 舞台は提供しちゃる』

 (ささや)くように続けるバングの提案―――

 

 面白そうだ。俺はバングの計画に加担(かたん)する事にした。

 

 

 形式はバトルロイヤル、審判はバングの兄、ボンブ。旋風鉄斬拳(せんぷうてつざんけん)の達人だ。

 対戦メンバーは先生に俺、バングにバングの弟子チャランコ。

 もっとも、最後の奴は始めから相手になどしてないが―――

「ルールは三つ、一、審判の合図には必ず従う事。二、相手の体に危害は加えない事。三、敵陣地に入ったものはとらない事。以上」

 バングの声が空に響く。

 今日は月末、給料日前、我が家の食卓には(しばら)く動物性たんぱく質は並んでいない。

 このシュチュエーションは、先生の心をがっちり(つか)んだ筈だ。

 

 トングを持って、盤上(ばんじょう)の様子を眺めていたボンブの動きがピタリと止まった。

「ファイト!」

 すかさず、バングと先生の(はし)がのびる。

 今日の肉は、A5ランクの黒毛和牛。100g2500円の品物だ。

 俺だって負けていない、チャランコの箸を弾き飛ばし、いい具合に焼けたサーロインをつかみとる。

 が、(じんち)に運ぶ前に肉の姿がかき消えた?!

流水岩砕拳(りゅうすいがんさいけん)!」

 バングが流れるような動きで翻弄(ほんろう)し、横から肉をさらったのだ。そして、そのまま口へ―――!

 そっちがそう来るなら!

 

「マシンガンブロ―!」

 の、要領(ようりょう)で箸を繰り出し、先生の肉を奪いにかかる。

 盗った!

「ふっ、お前のとった肉は残像だ」

「なに?!」

 あぁっ! 捕った筈の肉がピーマンに変わっているだと?!

「好き嫌いはないと言ってるけど、お前が最後までピーマン食べないの知ってるんだからな~ 俺、師匠だし。野菜も食えよ~」

「くっ!」

 やられた! バレてないと思っていたのに!!

 

 肉は直ぐ様(すぐさま)瞬殺、野菜すら消えた鉄板を、チャランコはただ呆然と見ている。

「ヤバい…何も食えない…」

 当然だ、お前(ごと)きにやる肉はない。

 

 ボンブが次々に野菜を鉄板にのせていく。

 次の肉は――― カルビ! 絶対に取る!! 片面を焼き、ひっくり返して裏を―――

「ファイト!」

 号令と共に箸が飛ぶ! バング!年寄りの癖になんて速さだ!!

 とりあえずは、ノーマークの肉を皿にキープ。

 

 バングの方が攻略しやすい、だが俺は絶対に先生から肉を盗る!

 連続する箸の攻防戦、焼肉は列記(れっき)としたバトルだ!!

 そして――― やったか?!

 箸の先に肉の感触、俺はすぐさま皿にキープした。

 とった!今度こそ!!

 

 皿に置いた途端、先生がにやりと笑った。

「取ったんだから、ちゃんと食えよ」

 え?

 見ると―――肉で、デカいピーマンが巻いてある。

 何時の間に! あの取り合いの中、小細工してたのか?!

「別に! 俺、ピーマン喰えますし!!」

 くそぉおおっ! 俺は子ども扱いか!!

 

 肉は又もや直ちに瞬殺、野菜クズすら残らない鉄板を前に、チャランコは、ただただ立ちすくんでいる。

「見えない…何も見えない…」

「ま、これも修行じゃな」

 当然だ、弱者に食わす肉などない。

 

「ファイト!」

 ロース。

 

「ファイト!」

 牛タン。

 

「ファイト… 」

 

 ボンブが何度目かの肉を投入した時、先生は怪訝(けげん)そうに顔をしかめた。

「ヒウチ?」

 

 ? ヒウチって何ですか先生??

「希少部位じゃねーか! うわ~ダメダメ!! 火力落として! じっちゃん、色変わったのから速攻とる! 急げ、もったいねぇ!! これ、(あぶ)る程度でいいんだ!」

 ボンブが鉄板に乗せた先から、箸が見えないほどのはやさで、皆の皿に次々に肉をのせていく先生。

 

 …先生の、焼肉屋でのバイトスイッチが入ったな。

 バトルはもうお終いか。

 ま、いいか。

 面白かったし、久し振りに牛肉も食べれたしな。

 

 

 

 

 




肉を持ち込んだのは、ジェノスなのかボンブなのか?
どちらにしても高そうです。神戸和牛とかだったりして。
バングは、きっと食事に誘いたかっただけだと思います。
かなり悪乗りしましたが…
そして、冬は鍋バトルになります。


ところで―――
ヒウチは、モモ肉の一部で、牛1頭から約2kgほどしかとれない貴重な部位。
霜降りのサシが入っていて柔らかくて旨いです。
火打石の形、模様に似ているところからこう呼ばれているらしいですよ。

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