地べたに這いつくばり、必死に生を掴み取ろうとする人間の姿は酷く滑稽で、浅ましく見えた。だからこそ、俺は侮蔑の表情しか作ることが出来なかったのだ。
酷く虚しい気分の中、俺と武蔵は一人の犯罪者を暗殺していた。いや、これは暗殺なんてものじゃない。ただただ甚振っているだけ。正義なんて生易しいものでは断じてない。だが、それがこの男がやってきたことの償いになる。楽には死なせるな、それが雇い主の了見だった。
「ゆ、許してくれ……死にたくない……」
「なあ、おまえがばら撒いた薬で何人の人間が廃人になったと思ってる? 確かに薬は快楽を生じさせる便利な道具だ。でも使えば破滅の道を辿る。現に、おまえの腕には注射針が刺された形跡が見受けられない。なあ、薬の危険性を理解してたんだろ? だからこそ薬を使わなかった。破滅したくなかったから、だが、巨万の富を手に入れたかったから。ハイリスク・ハイリターンは俺も大好きだ。でもよぉ……見つかったら最後なんだぜ?」
「く、クソ! 手下はどうしたんだ……」
「おーい、輝夫、全部片付けてきたぜぇ〜」
「だってさ」
下衆野郎の顔面を思い切り蹴り飛ばす。そして襟首を掴んで拳が鮮血で染まるまで何度も、何度も殴り続ける。前歯は完全に消失し、鼻もへし折れて人間とは思えない顔に変化している。だが、殴ることをやめない。やめられるはずがない。
「……うぁぁぁ」
「おまえが一年にミッドチルダに持ち込む麻薬の総重量は端数を抜きにしても二百トンだ。その二百トンを毎年、特定されていない場所から入手している」
「……わ、わかった。生産地を教えるから……殺さないでくれ……」
「残念だが生産地はもう特定している。管理局の頭の足りない奴らが向かってるさ」
バルに元の姿に戻してやる。財布も返してやる。だから麻薬の生産地を探してこいと言ったら三時間で探し当ててきやがった。それも今現在、俺が始末している下衆野郎のケツ持ちの精製工場で間違えない。
真面目に働いてくれたら超絶高性能なのにな……。
「さて、おまえの罪を一つ一つ声に出して言ってやろう。未成年の売春の斡旋、管理局魔導師の殺害、テロリストへの資金提供、暗殺稼業、違法な質量兵器の製造と販売、誘拐、違法な臓器売買、そして麻薬の製造と販売。それ以外もある程度は手を出しているようだが、まあ、おまえ程ドス黒い犯罪者ははじめて見る。誇れよ? 俺もある程度の悪だと自覚しているが、おまえには一億年、いや、一兆年かかっても勝てないよ」
懐からS&W・M500を取り出し下衆野郎の額にピタリと銃口を付ける。
「こいつはスミス&ウェッソン社っていう銃火器メーカーが製造している.50口径の.500S&W弾という弾丸を発射する現状、俺が住んでいる世界の世界最強のハンドガンなんだ。もし、こいつが頭に炸裂したらどうなると思う?」
「うぅぅ……うぁぁぁ……」
「俺も生身の額にこいつをブッパするのははじめてなんだ。嬉しいだろ? 最強のハンドガンで殺されるなんて……」
「や、やめろ……死にたくない!! 死にたく――」
鮮血が辺りを真っ赤に染める。
漂うのは血生臭さ。
「はぁー、女の子二人の願いを叶えるために人殺しになるのは嫌だね、本当に……これじゃあ、ただの暗殺者じゃないか……」
「でも、これでこの組織は完全に崩壊する。少しはミッドチルダが綺麗になるんじゃないか?」
「こういう組織は一つだけじゃない。大体、十数個は存在している。この組織が最大手ってだけだ。最大手が消えたら二番目がラインを広げて最大手に成長する。悪循環ってやつだ」
「正義の味方が沢山必要だな……」
「その正義の味方が美少女達とイチャイチャしてるんだ、どうすることも出来ないだろ」
余った四発の.500S&W弾を四脚に向けて発砲して達磨にする。すこしだけ、気分が良くなった。
「あー疲れた……何やってんだろうな、俺達……」
「正義の味方じゃないのか?」
「馬鹿を言うなよ、この世界の正義の味方は修一郎様であって俺達じゃない。俺達が出来ることと言ったら――『正義の味方ごっこ』なんだよ……」
「……偽物には汚れ仕事がお似合いってやつか?」
「そういうことだ……腹が空いた。何か食って帰るか?」
「いいねぇ〜今日はお寿司な気分だ!」
「回るやつでお願いするぞ」
2
「なあプレシア。フェイトとアリシアは本当に母親思いの良い子ちゃんだよな」
「……ええ、真っ直ぐに成長したわ」
「ギクシャクした会話、思い返してもニヤニヤが止まらないぜ」
「……そらそうよ。もう、何年も母親をやってないんですもの」
プレシアは確実に母親の風格を手に入れていた。最初の頃とは違い、とても優しく、そして、とても強い意思を持っているように思えた。それが汚れてしまった、穢れてしまった両手を少しだけ浄化してくれるような気がした。まあ、所詮は気がしたの領域だが。
「金欠だから何も買ってこれなかった。すまないな、俺達の生活もカツカツなんだ」
「結構裕福してる筈でしょ、輝夫」
「まあ、金持ちでも手持ちが無くなることはあるものさ。その代わり、売れ残ったクリスマスケーキ程度の品物は用意したつもりだぜ。欲しいか?」
「……ええ、貰えるものなら、なんでも」
「よろしい! なら――アンタは死ぬまでフェイトの保護観察を受ける。まあ、簡単な話し、シャバに出られる」
「――!?」
「結構苦労したんだぜ? 管理局の汚れ仕事を引き受けて、そのすべてを終わらせた。そして、ようやくアンタ、アンタ達を家族にすることが出来た」
「……ッ!」
プレシアは信じられないという顔になる。そして涙を流すのだ。そらそうだ、もう何年も母親をやっていない自分がようやく、二人の娘の母親になれると思えば涙腺崩壊ものだろう。
「どうして、私達にここまでしてくれるの……?」
「一つは女の悲しむ涙が大嫌いだってこと、もう一つは――母親が娘の隣に居てやらないとどうするよ? アンタが犯罪を犯した人間だとしても、親だ。二人の娘をこの世界に産み落とした親だ。その産み落とした娘が、アンタと一緒に笑顔で話したり、買い物をしたり、食事をしたいと言ってる。俺と武蔵はお節介な性格でね。自分がどんなに汚れようが、命を狙われようが、美しく咲き誇る花を汚したくないんだ……」
「……輝夫、武蔵」
「面会が終わったらフェイトが来るはずだ。その後は手続きをするだけ、そしたらアンタは親に戻れる。今度は……母親をやめるなよ?」
静かに立ち上がり何も言わないで面会室を立ち去る。
「よぉ、どうだった?」
「やっぱり熟女は最高だぜ、おまえも目覚めてみないか」
「目、笑ってないぞ」
「おう、流石に親友には性癖がモロバレだったか……」
「おまえの趣味はロリ巨乳だからな!」
あーあ、こういう湿っぽい雰囲気は大嫌いなんだよね……。
でも、これで三人が笑って過ごせるなら、俺は人を殺してもいいと思ってしまった。これじゃあ、小さい頃と同じじゃないか。自分の利益の為だけに行動し他者の生死を問わない。
フッ、所詮は俺は踏み台だもんな……自分勝手な方が踏み台らしい……。
【下衆野郎】
ミッドチルダの犯罪の七割に加担していると言われている極悪人。犯罪と呼べる行為はすべて行っており、正真正銘の極悪人である。慎重な性格で、二十年近く逮捕されることはなかったが、輝夫と武蔵、あと、おまけ程度のバルの活躍によって発見され、脳みそを撒き散らし、四脚が切断された状態で発見された。彼が間接的に殺した人間は、数十万人と言われている。
【管理局】
プレシアを保護観察処分にしたいなら、下衆野郎を殺し、組織を崩壊させろ。(大きなチャイニーズマフィアを崩壊させるくらい難しい)普通にやってのけて、脱糞状態。
【作者から】
文字量の起伏が大きくて申し訳ありません。
投稿ペース
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一秒でも早く書いて♡
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ネタの品質を重視してじっくり!
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冨樫先生みたいでええよ~
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絵上手いから挿絵積極的に