踏み台だった野郎共の後日談。   作:蒼井魚

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05:家族

 アリシアから連絡が入った。内容は彼氏が出来たから紹介したいという内容だった。俺達はナイフや違法に入手した拳銃、おまけ程度のデバイスでドレスアップしてどの程度で彼氏を殺害するかを話し合う。

 ん? どうして殺さないといけないのかって……殺したいからに決まってるよね!

 

「どのラインから殺害する?」

「そらキスからだろ。手を繋ぐだとかは甘酸っぱい程度で妬ましくないし、というか俺達も会った時や送る時には手を繋いでるからな? 許してやらんことはない。でも、アリシアを傷物にしたなら――貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ。をします」

「妥当なラインだな。でも傷物にしていたのなら……そいつの家系を根絶やしにしてやる……!」

 

 正直、唯一の女友達であり、アイドルのような存在であるアリシアを手中に収めた男が妬ましい。殺してやりたい。いや、あまりにも突拍子のない奴だったら確実に殺す。だが、やんわりと彼女のことを大切にする男性だったら、考えないこともない。俺達二人も鬼ではない。鬼のように強いが!

 互いに表に出る殺気を出来る限り押し留め、深呼吸を繰り返す。そして互いに最悪の場合を語る。

 

「もし、突拍子のない奴だったら――上半身と下半身、どっちを傷めつける? 俺は下半身を潰したいんだが?」

「俺は上半身の苦しむ姿を楽しみながら痛めつけたいわ」

「流石は俺達、似た物同士だが趣味はあんまし合わないね」

「そうだよな、基本的に女の趣味も合わんし」

「「だが、互いにそれなりのドSだってことは確かだな……」」

 

 互いにチャラチャラとした格好にサングラス、髪型はオールバックとリーゼント、これでは昭和のヤンキーではないかと思ってしまうが舐められたら最後だ。舐められない格好をするしかない。

 チャラ男って本当に何処にでもいるのねぇ、ゴキブリみたい! 殺虫剤じゃ物足りないからもっと凄い殺し方しちゃうぞ~!

 

「流石に素材が良いと奇抜な格好でも様になってるな」

「どこかの優男さんとは格が違うな」

 

 最後に香りの強くない香水をつけて準備完了。歯も磨いた、顔も洗った、髪もキメた、服もバッチリ。あ、あと、殺害の方法も三百通りくらいは考えている。

 だってさ? あの純粋無垢なアリシアが彼氏だぜ! 絶対にヤカラだわ!!

 

「なんか今日の輝夫と武蔵は殺気立ってるな……」

「パチンコ……あー……今日はイベントなのにー……」

「バルの姿も変わって調子狂うな……」

「俺達のアイドルであるアリシアたんを誑かした野郎の顔を拝みに行くんだ! あたり前田のクラッカーだろうが」

「わたしに彼氏が出来たら?」

「少し早いがご祝儀を渡してやるよ」

「帰ってきたら殺す!」

「おうおう、帰ってきてからな、帰ってから」

 

 さて、最高にクールにキマった姿を鏡で確認して財布をポケットにねじ込んで待ち合わせのファミリーレストランに移動する。

 なんだろう? 今日は凄く調子が良いぞ! 殺意アシスト入ってるねぇ!!

 

「どう殺す? やっぱり海に沈めるのもアリだと思うんだよね〜」

「おれはフグ毒とかアリだと思うな〜」

「物凄くルンルンしてやがる。なんというか、生きているという実感を得ているような? そんな感じだな……アイス食べよ……」

「安西先生……バスケより、パチンコが打ちたいです……パチンコが……したい……」

 

 縋り付くバルの頭を思い切り蹴り上げてゴートゥーファミレス!

 

「「さて、彼氏さんが殺されない程度の関係じゃないことを祈ろうか〜」」

 

 本当は殺す気に満ち溢れている。

 

 

「流石に子供な舌だとコーヒーは苦げぇな」

「そら舌がまだまだ敏感だからだろ、俺はある程度劣化してきたら普通に飲めるけど」

「実を言うとな、前世は重度のカフェイン中毒だったんだぜ? こう見えて」

「俺は覚醒剤中毒だったぜ」

「おまえ、頭良い割にワルだったんだな……」

「頭が良いから節操を守って使ってたんだ」

 

 腕時計を確認してアリシアと生け贄が現れるのを静かに待つ。ああ、早く抹殺したい心を押さえつけ、まだか、まだかと殺意を押さえつける。

 

「輝夫! 武蔵!」

「アリシア、どの方が彼氏なんだい? そいつがメソメソと女々しく泣くまで殴るのを……あれ? フェイト?」

「おろろ、なんで彼氏連れてないわけ? 色々と拷問道具を持ってきたっつーのに……」

「輝夫、武蔵……その格好……」

「おう! 彼氏さんをオドオドさせようとキメてきたんだ! さあ、彼氏はどこだ!?」

「いないよ、そんなの」

「「ズッコケー!」」

 

 俺達は新喜劇もびっくりのズッコケ姿を二人に見せつける。

 

「だって、普通に誘っても絶対に断るじゃん。だから彼氏が出来たからって嘘を付いたの。そうしたら確実に小奇麗な格好をして殺しに来ると思って……」

「俺の家に住み着いている座敷童子のような赤毛のアンよりも性格悪いぞ、それ……」

「ヴィータ、相変わらず入り浸ってるんだね……」

 

 二人は俺と武蔵が座っている椅子の反対側の椅子に座りメニュー表を確認する。これではヤンキーに無理矢理連れてこられた美少女ではないか!? 髪を下ろしたいのだがジェルを塗りすぎて風呂に入らないと髪型を崩せない。ああ、人の目線が痛い。

 

「つか、俺達、真に受けてナイフ、投げナイフ、ヤドクガエルの毒、チャカを持参したんだが?」

「……マジ?」

「はい、ヤドクガエルの毒」

 

 鞄の中から小瓶を取り出してアリシアに見せつける。

 太古の昔から狩猟用に使われてきた古の毒だ……死ねるぜぇ……!

 

「飲むか? 確実に死ねるぞ」

「い、いいよ……痛いの嫌いだし……」

「どちらかというとグラグラして死ぬぞ」

「アリシアは注射とか嫌いだしなぁ〜」

「アレは人間がする行為じゃないよ!」

「マッドサイエンティストの母親を持つ人間の発言とは思えませんなぁ〜」

「もぉ〜ブ〜ブ〜」

 

 コーヒーを一口飲み、二人で五人くらいを同時に殺せるくらいの道具を持ってきたことを後悔する。あ、いや、十人くらいなら素手で殺せるんだが! 撲殺って脳内麻薬が出て痛みが和らぐらしいのよね! だから多少の出血もさせないとさ……。

 二人はさっそくパフェやらケーキやらの甘いスイーツを注文しはじめる。

 

「で、俺達を呼びつけた理由は何だよ? 生半可な理由だったら毎朝七時にスケベ電話をかけるぞ」

「平均起床時間が十時半なのによく言うわ」

「俺達を呼び出した理由なんなわけ? まあ、基本的に土日は平日以上に暇してるからいいけどさ」

「単刀直入に言っていい?」

「「どうぞどうぞ」」

「管理局に入ってくれない?」

「「はぁ?」」

 

 アリシアとフェイトは酷く真剣な顔になる。

 

「お母さんを出所させるには、二人の力が必要なの」

「嫌だよ、プレシアは自分の意志で務所に入ったんだ。その意思を尊重するするのは当たり前だろ?」

「でも! 二人が管理局に入ったらお母さんは……!」

「彼女はそれを望んでるのか? 俺達は一度チャンスを与えた。だが、それを断られた。チャンスは一度だけなんだ。それ以上のチャンスを与えたらいけない。わかるか? 救済の道は用意した。彼女はそれを捨てたんだ。どんなに願っても、もう、チャンスは与えない」

「ひ、酷い……!」

「酷くないしこれが現実。そして社会なんだ。最初が無料でそれ以降は金が必要になることと同じ。最初のチャンスは無料、それ以降は料金という名のアクションが必要なんだ。おまえ達に俺達を引き寄せる程度のアクションを見せられるか?」

「そうだ、俺達はプレシアの意見を尊重している。今現在の彼女の意見じゃなく、務所に入った時の意見を……」

 

 薄情なことを言っているように聞こえるがこれが真実なのだ。最初のチャンスを掴み取った人間だけが、お天道様の加護を受けて真っ直ぐと歩くことが出来る。だが、彼女はチャンスを捨てて懺悔の道を選んだ。檻の中で悔やみ続けることを選んだ。それから開放するためには鍵が必要になる。だが、その鍵は貪欲な商人が所有していて、対価と引き換えに購入することを許される。

 甘い言葉は一度だけ、その後は辛い現実を見せつける。これが人間の道だ。修羅道に近いな?

 

「まあ、おまえ達がお母さん大好き好き好きなのは知ってる。でも、俺達は所詮は友達の関係だ。家族でもなければ、仲間でもない。背中を守ってくれる訳でもなければ、俺達に安全なルートを示してくれるわけでもない。ただ、俺達に要求してくるだけの存在。非情に聞こえるかもしれないが、二人が俺達に何をしてきたかを考えてみろ? そしたらわかるさ、わかる筈さ」

「……何もしてない」

「……逆にいつも助けてもらった」

「そう、それが現実。おまえ達は俺と武蔵の与えたチャンスを一つ残らず掴み取って、甘い蜜を舐めてただけだ」

「プレシアは違った。わかるか? あいつはチャンスを捨てた。そして、もうチャンスを与えられない場所に連れて行かれた。だからチャンスを与えられない。与えたくても」

 

 二人は暗い表情になる。

 

「一ヶ月に二回は面会出来るからそれを楽しみに待つんだな」

「……アクションって、何をすればいいの」

 

 フェイトが静かにプレシアを救うアクションについて質問する。

 女って諦めが悪いよな、後ろ髪を引かれる気持ちはわからなくはないが……決断っての一瞬で決めないとタイムオーバーだ……。

 考える暇すら与えない、即決しないと大損ってね!

 

「無い。だが、本当に助けたいならプレシアを脱獄させる方法を一緒に考える程度はしてやるよ」

「わたし達を犯罪者にする気!?」

「そらそうだろ、二人の母親は犯罪者なんだから。犯罪者を助けるためには、自分も犯罪に身を染める必要がある。ノーリスク・ハイリターンを願ってはいけない」

「なあ、考えてくれ。俺達はもう燃え尽きた人間なんだ。すべてを手に入れてやろうと思っていた小さい頃とは違って、今は平穏な日常を謳歌する普通の一般人。そんな一般人が危険が伴う管理局という名の軍隊に喜んで入隊すると思っているのか?」

「「……ッ!?」」

「それに、管理局の奴らは味を覚えている。数週間前のテロ事件も怪我人一人出さないで解決した。管理局が管理している世界で古代兵器が暴走した時も、俺達は無理矢理連れてこられ、死傷者を一人も出さないで事件を終わらせた。なら、もっと使い勝手がよくなったらどうなると思う?」

「……管理局の犬になる」

「正解だ。アリシアお姉ちゃんは賢いね」

「五月蝿い!」

 

 アリシアはいきり立つ。これが普通だ。だが、俺達も普通の対応をしているだけ。もし、これを普通じゃないと思うのなら少し考えてみてくれ? 俺達は二人の少女の幸せの為に管理局の犬になる。そして数多くの汚れ仕事に手を染めて、汚れ、穢れ、恨まれる。下手をすると暗殺されるかもしれない。それは対価に似合わない。五百万円の車を五百円で購入しようとするようなことだ。それくらい俺達という存在は高価なのだ。それを一回だけ投げ売ったことがある。だが、それを買わなかった人もいる。それだけだ。

 

「……何をしたら、いいの」

「だから、脱獄の手伝いくらいしか出来ない」

「……輝夫と武蔵はわたし達のことが好きなんだよね」

「……まあ、嫌いじゃないぜ」

「……なら、わたしのことを好きにしていい。慰み者になってもいいよ。だから、母さ――」

 

 フェイトの頬を思い切り叩いた。

 一万円札を一枚テーブルに叩きつける。そして彼女を叩いた理由を告げる。

 本当に……俺達の気持ちってのを考えてくれないよな……!

 

「……女の子が好きでもない男の慰み者になっていいわけないだろ? たかが、たかが! 母親を救い出す手段にすぎない俺達に体を売ろうとするな! 所詮は俺達は手段でしかない。そんな手段に身を捧げる? 馬鹿を言うな! 俺達は薄情な奴にみえるかもしれない。だが、母親思いの女の子を慰み者にする程、下衆にはなれないんだ……。フェイト、おまえは……貴方を救う為に俺達の慰み者になりましたとプレシアに告げられるか? ようやく、ようやく――自分を娘だと認めてくれた母親に……」

「ッ!? ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 フェイトは泣き始める。そらそうだ、俺の言葉の意味を理解出来る年齢なのだから。

 

「でも、母さんと一緒に買い物に行ったり、一緒に美味しいごはんを食べたりしたいよ……」

「それは真意か?」

「そうに決まってるでしょ! 本当に……わたしだってお母さんと一緒に居たいよ……」

「どうする? 武蔵……」

「俺に聞くなよ、俺は馬鹿だから大体の決断をおまえにまかせてるわけだし」

「はぁ〜」

 

 少し考えて席に戻る。そして二人に尋ねる。

 

「それはお願いか、それとも命令か?」

「……お願い」

「よかった。それなら俺達は管理局に入る必要はない」

「――!?」

「でも、だが、そうさ、可愛らしい女の子の為に尽力はするさ、少なからず――母親が娘と一緒に買い物と外食が出来る程度の、な」

「輝夫、武蔵……」

「すこし野暮用が出来た。男だから勘定は出しておく」

「ああ、すこし時間のかかる野暮用が出来た」

 

 本当に、漢って生き物は苦労が絶えないものだ。

 世界が狭くて、窮屈で、それでいて……何にでも手助けしたいと思ってしまう……。




【輝夫:Part2】
 基本的に自堕落で自分勝手な人間で、元々は原作ヒロイン達を俺の嫁呼ばわりしていた馬鹿野郎なのだが、当初から自分を絶対に曲げることはない。今回のフェイトの慰み者になります宣言は心の底からブチ切れており、基本的に女性には暴力を振るわない彼でも、叩いてしまうものだった。これは、彼の漢としてのプライドと、自分のことを好きでもない女を抱く必要はないという男気でもあった。

【武蔵:Part2】
 軽い男だと思われがちだが、輝夫と関わるようになって、基本的に硬派な男になっている。昔は自分をしょっちゅう曲げていたが、今では見違える程、自分を曲げることがなく、高いプライドを持っている。最近は色恋沙汰よりも、輝夫とのダラダラとした生活の方が性に合っていると思っている。

投稿ペース

  • 一秒でも早く書いて♡
  • ネタの品質を重視してじっくり!
  • 冨樫先生みたいでええよ~
  • 絵上手いから挿絵積極的に

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