踏み台だった野郎共の後日談。   作:蒼井魚

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23:馬鹿

 俺は神様から多くのもの、大切なものを貰った。

 最初の頃はそれが自分という存在を高みに到達させるだけの道具としか見れなかった。

 でも、歳を重ねるごとに自分という存在は所詮は人間という小さい者から抜け出せないということを悟った。どんなに足掻こうが自分という存在は人間でしかない。人間という器から抜け出すことはできない。求めていたのは神様と呼ばれるような存在だったのだろう。

 自分を人間として認識してからは周りが俺のことを認めてくれた。

 だからこそ、人間という存在であることを人一倍、いや二倍、俺は認めた。

 人は喜怒哀楽という豊かな感情を持っていて、それを括って人間性と呼ぶ。人間性があるからこそ、友が出来、絆が生まれる。その絆は絶対に断ち切ってはならない。絆は――人生なのだから。

 

 

 二人と一機は重々しい足取りで次元航行艦アースラの中を歩く。

 そして、知り合いの執務官クロノ・ハラオウンが鋭い瞳で二人と一機を見た。

 彼は言葉一つ発することなく歩きだした。二人と一機はそれに追従し、医務室と書かれた場所の中に入る。すると包帯が大量に巻かれている八神はやての守護騎士達が寝かされている。

 

「……守護騎士がここまで」

「…………」

 

 静かに眠っているヴィータの頬を撫でた。

 人一倍わがままで、人一倍感情豊かで、人一倍……優しい奴だからな……。

 涙が流れ落ちる冷たい感覚が冷たい殺意を膨らませる。

 

「……傷が残らないといいが」

 

 ヴィータの額に巻かれた包帯を見てそう呟いた。

 おまえは俺のことを救ってくれた一人だ。荒んでいた俺のことを救ってくれたんだ。武蔵とヴィータ、おまえ達が居なかったら……今の自分は存在していない。だからこそ、俺は大切な人を傷つけた奴を絶対に許さない。生かさない。

 

「ヴィータ……人を殺しても俺のことを嫌わないでくれ……」

 

 返事なんていらない。

 扉の前で張り詰めている武蔵の表情は人間と表現するには悍ましすぎて、化け物と表現するには冷たすぎる。多分、俺もこれに等しい表情をしているだろう。

 医務室から出るとクロノが俺達のことを見つめた。

 

「敵はロストロギア所持者」

「手下の数は」

「使い魔だと思しき存在が四名」

 

 クロノはそれ以上の言葉は語らずに転送装置が設置されている場所へ案内した。

 呪われた曲刀を展開し、溢れ出る瘴気を纏わせる。

 

「……生死は問わない。君達が好きなようにしてくれ」

「ああ、殺すなと言われても絶対に殺す」

 

 武蔵も久しぶりにデバイスを展開させる。久しぶりに見るメカニカルな剣は幼い頃を思い出させる。

 互いにバリアジャケットなんてものは無く、体に魔力を纏わせるだけ。お洒落をするような年齢でもない。得物さえあれば十分だ。

 

「……三人を頼む」

「わかってるよ」

 

 転送装置に乗り込んで身を任せる。

 一秒でも早く……助ける……。

 

 

 言うならば地獄、多数の魔導師の亡骸が散乱し血液が乾いた生臭さが事の大きさを示す。見慣れた景色だが、いつもより人間味のある殺し方をしているようにも見えた。暴走した兵器などなら亡骸はグチャグチャになって散らばるものだが、魔導師のほぼ全てが首を切り裂かれ出血多量で死亡している。

 とりあえず、修一郎がこの場所で戦闘を行っている筈、そして、そこには最初の一匹がいる。まず最初の獲物を探さなくてはならない。

 

「バル、サーチ」

「了解」

 

 バルが周辺をサーチして生体反応を確認する。

 曲刀が強い瘴気を漂わせる。血肉を求める呪いの性質だろうか、こうも人の亡骸が多ければ高ぶるのが呪いと言ったところだろうか?

 

「一キロ先で戦闘を確認。優男はんが殺されかけてますわ」

「了解――武蔵……?」

 

 一キロという言葉を聞いた瞬間に武蔵は駆け出した。

 出来ればボスの場所を吐かせてから殺したいところだったのだが、仕事モードの武蔵は一秒でも迅速に殺したいタイプだからな、ボスはもう一度バルに頼むしかなさそうだ。

 俺達も駆け抜けた。

 

「少しは骨があると思ったけど疲れが出てきたかい?」

「はぁはぁ……まだ、戦える……」

「へぇ、根性は人一倍あるみたいだ。じゃあ、苦しんで死のう――」

 

 俺とバルが到着した時には最初の敵は武蔵のデバイスによって首を跳ね飛ばされていた。

 武蔵は無表情で転がり落ちた生首を踏み潰した。

 

「修一郎……後は俺達に任せて寝てろ……」

「……まだ」

「邪魔だって言ってるんだ! 生き物殺す度胸もない奴が、人形の生き物を殺せるわけないだろ……」

 

 修一郎は武蔵の狂気を含んだ瞳に屈服した。当たり前だ。生易しい戦いを何度も行っても心が壊れるような戦いを重ねた奴の言葉の重みに耐えられない。綺麗事を並べて優越感に浸れる程、戦いというのは綺麗じゃない。綺麗な戦い、騎士道みたいなものはこういう――無差別殺人の場所では命を差し出すようなものだ。

 

「バル、もう一回サーチ」

「了解」

 

 バルがサーチしてくれている間に倒れ込んでいる修一郎の傷の具合を確認する。体中に切り傷が大量発生していてこのまま放置していたら出血多量で死んでしまうかもしれない。とりあえず下手くそだが回復魔法が使えるのは俺だけ、対処が出来るのも俺だけだ。

 

「武蔵、魔力貸してくれ」

「ああ、その傷だと出血多量になるからな」

 

 武蔵が俺の背中に手を当てた。そして流れてくる大量の魔力、下手くそな回復魔法でもこれだけの量があれば完全回復とまではいかないが、これ以上の出血は食い止められるだろう。

 淡い光に包まれて傷口が塞がっていく。

 修一郎は静かに立ち上がった。

 

「……まだ、戦える」

 

 立ち上がった修一郎は同行する強い意志を見せるが、肩を押した瞬間に受け身も取れずに倒れた。

 しゃがんで修一郎の手を握る。

 

「おまえはよく戦った。それだけで十分だ」

「…………」

「こういう時の場数は俺達の方が上だ。信じろ……」

 

 修一郎は呼吸を整えて目を閉じた。

 結局のところ、おまえも俺の大切な友達の一人なんだよ。おまえに死なれたら歯止めが効かなくなる。だから、ゆっくり眠っていてくれ。起きた頃には確実に終わってるからさ……。

 空を見上げると太陽が眩しく輝いている。

 

「生体反応確認、少し先の遺跡のようですわ」

「行きましょうか」

 

 友達が多いと本当に辛い。一人として失いたくないと思ってしまう。

 

 

「四号がやられたか。君達以上の魔導師が管理局にいるんだね」

 

 身長の高い痩せた男が三人の少女のことを眺める。その瞳には狂気を漂わせていて、既に人間として大切な何かを捨てているようにも見えた。

 はやては落ち着いた表情でやっと来てくれた。そう小さく呟いた。フェイトも静かに頷く。

 

「君達の知り合いかい? だが、君達の知り合いの魔導師の情報は出来る限り集めた筈なのだが……?」

「そうやな、未来の旦那様……ってところかな……」

「未来の旦那様? 笑わせる。いかに現れた魔導師が強くても僕に勝てるはずがない。賢者の石を手に入れた僕にね……」

 

 男の右手の中で輝く赤い宝石、それはこの世界の魔導師達が探し求める最強の知識、手に入れた者は世界を手に入れるとまで言われる一品だ。それを手にした彼は自分が世界の王になると確信している。

 付け加えて、管理局で五本の指に入る魔導師である彼女達を無傷で倒したのだ。この世界のどんな魔導師が現れようと負けるはずがない。

 

「では、君達の大切なお友達が死ぬ姿を見せてあげないとね……」

 

 投影ディスプレイに映し出される二人と一機。

 男は狂喜する。この少女達の絶望する姿を見ることが出来ると……。

 

 

 遺跡の前に到着すると大剣を持った大男が待ち構えていた。

 武蔵は無表情で男の前に歩み寄り、大ぶりな一太刀をくわえた。

 武蔵の一撃は男が持った大剣によって阻まれてカウンター攻撃が発生する。筈だった。

 男の肘から突き出る二本の骨、それは武蔵の一太刀の威力によって腕が耐えきれなかった証拠だ。

 

「もう少し腕を鍛えろよ……」

 

 デバイスは大男の胸に突き刺さる。

 武蔵の表情は薄ら笑い。昔からそうだ。武蔵は許されることがあると何でもする。本当なら人間を殺すことは過度なストレスが生じるものだ、それなのに事戦闘に関しては相手を人間だと思わない。サイコパスとまでは言えないが、スッパリと割り切って戦っているのだろう。俺には無理だね……。

 

「武蔵……歯止めの準備はしておけよ……」

「あと二匹……」

「これは駄目なパターンですね」

 

 押さえつけられたバトルジャンキーって感じだろうか? こいつは本当は管理局みたいな場所で日々を戦いに捧げていた方がよかったのかもしれない。俺が押さえつけている……そう感じてしまう。

 でも、人間は人間を殺さない方がいいんだ。一部を除いて話せばわかる筈なのだから。

 

「――俺も言えないか」

 

 握りしめた曲刀が瘴気を溢れさせる。

 遺跡の扉を蹴破ると中は広い。中央に移動するとギリシアを感じさせるコロシアムのような場所があり、そこに仮面をかぶった小柄な男二人が双剣を構えて待っている。

 ――刹那、武蔵は男二人が待つコロシアムに飛び込んだ。

 

「……バル、一匹担当してやれ」

「了解です。あ、そこの扉の先に生体反応が四つあるんで片付けてきてください」

「ありがとよ」

 

 バルはスラスターを吹かしてコロシアムに降りていく。

 俺はボスを軽くいなしてお姫様を助けに行きますか。

 

 

 男は使い魔達を鼻で笑った。自分が得た強大な力で大幅に強化した傀儡達は所詮は傀儡、真打ちは自分自身だと思い込んで少女達が拘束されている部屋から出た。自分が世界の王になるために。

 

 

「にしても、この場所は埃が俟っているから鼻がムズムズするぜ」

 

 曲刀を肩に担いでダラダラと移動していると白衣を着込んだ細身の男が薄ら笑いを見せながら現れた。こいつがボスで間違えないだろう。

 さて、一瞬でぶち殺すのも悪くはないが、言い分と命乞いを聞く時間も無くはない。

 

「命乞いを三十秒やるよ、言い分によっては殺さないでやる」

「何を言っているのだか……理解に苦しむね……」

 

 目の前に男の顔が現れてキスを求めているのかと勘違いしてしまった。

 腹部に刺さるような打撃の痛みが響く。

 曲刀を地面に刺してブレーキをかけて体制を立て直す。

 

「所詮は君も人間の域を出ていないようだね……」

「それ、左腕を見てから言えよ」

 

 男は何を言っているのだろうという顔で自分の左腕を確認する。きっぱりと肘の部分から切り落とされている。どうして切り落とされたか、それは血の滴る曲刀を見ればわかる話だ。

 男は尻もちをついて失くなった左腕を眺めている。

 

「命乞いの必要性を感じただろ……早くしろ……」

「……へへっ、この程度、想定の範囲内だ!」

 

 左腕から伸びるドス黒い触手、魔法少女と触手はワンセットと言うが空白期に触手使う相手を出しても駄目だろ、小学生の状態でやってくれや……おかずにならないでしょうが……。

 とりあえず警戒して曲刀ではなく拳銃で牽制を入れてみるが触手を盾にしてガードしてくる。拳銃の球を無効にするとか格ゲーの世界じゃあるまいし……。

 

「こちらから行くよ!!」

「ノリノリだねぇ」

 

 迫りくる触手を曲刀で切り裂いて断面を確認する。

 .357マグナム弾を打ち込んで貫通約30センチ程度、大型の肉食動物の筋肉と同等の強度と言ったところだろうか? 体内から触手が湧き出てくるということは肉体の強度もこれと同じくらいと考えるに鉄砲は基本的に無効、対物ライフルを使ったら余裕で貫通かね。長距離狙撃も考慮してバレットM82持ってくればよかったわ……。

 

「……君、普通とは違うね」

「触手を生やしてる奴が普通というお言葉をお使いにならないでいただけますか?」

「違うんだよ、君は顔じゃなくて首を狙ってる。普通の人間なら目線を見るんだ」

「ああ、わかります? とりあえず切りやすそうな首を狙ってるんですよ」

 

 首狙いは悟られてますね……。

 心臓、肺、食道辺りも付け加えたバリエーションで攻めないと悟られてパターン読まれそうだな、長期戦は若干の不利……いや、武蔵とバルが来たらいけるか?

 

『バル、そっちの戦況はどうだよ?』

『武蔵はんが砂かけで命中力低下中ですわ』

『ポケモンかよ……十五分以内にどうにかできる?』

『うーん、三十分ください。スピードが速すぎて対処に手こずってますわ』

『マジか……』

 

 援護は期待できず。一人で対処するしか方法はないようです。

 さて、こうなると相手の弱点を一撃で刈り取るより戦意喪失まで持っていく方が簡単なのではないかと思い始めてくる。相手は化け物みたいな見た目をしているが感情は残っている。そうなると圧倒的な実力差を見せつけて戦意喪失までのシナリオは通りやすい。

 よし、ズタズタに引き裂いてギブアップ路線で!

 迫りくる触手を連撃でズタズタに切り裂いて左足を狙ってみる。すると普通に攻撃を受けて体勢を崩す。

 

「インファイト苦手? 左の手足全部切られてるけど」

「はは、痛みは賢者の石がカットしてくれているんだ……」

「てか、さっきから賢者の石とか言ってるけどそれなに? 等価交換と言いながら弟の体を奪う石??」

「簡単に説明すると神が僕に与えた祝福さ……」

「ポエミーな人は嫌いじゃないけど、ヒリついてる時にポエム言う人は嫌いなんだよね」

 

 よくわからないけど触手を伸ばしてるのは賢者の石とかいうロストロギアで、体のどこかに仕込んでいると言ったところだろうか? 左足からも触手を伸ばしているということは手足に仕込んでいる可能性は低い。顔面に異物は見られない。つまりは心臓の周辺がビンゴ。

 

「痛みシャットダウンなら戦意喪失は六時間くらいかかりそうだからやーめた」

 

 伸ばされた触手の上に乗って駆け抜ける。

 器用に左足からも触手を伸ばして攻撃してくるが武蔵との死闘を何年も繰り広げてきた俺には遅すぎる。敵としても味方にしても強すぎる奴は切磋琢磨できて最高ですわ。

 

「心臓はどうでしょう?」

 

 曲刀で左肩から心臓に向けて思い切り刺してみる。人体を貫く表現しにくいグニャリとした感覚は確かに感じるが確実性は無かった。心臓だと思っていたがハズレだったらしい。

 

「君の負けだ!!」

「あっぶえ!?」

 

 触手がUターンしてきて顔面に向かって飛んでくる。曲刀を手放して回避する。

 

「はは! 君の武器は僕のものだ……」

「ねえ、それどうやるの?」

 

 曲刀は吸収されて右手を貫いて装備される。使える武器は拳銃一丁とナイフが二本、武蔵とバルの合流を待つのも悪くないわけだが……触手を防ぐ手段が無いのは流石に無理だわ。いや? よく考えると使える武器は縛られてるお姫様達が持ってるんじゃ……!

 

「よっし、味方が来るまで休戦結ばね? 俺も結構無理ゲー……」

「命乞いをする立場になったかい……でも、僕は君に左の手足を切られたんだ!」

 

 触手が思い切り腹部にぶつかり壁が破壊されるくらいの衝撃……計画通り……!

 

「はーい……元気……?」

 

 口からダラダラと血液を流している俺のことを見て顔を歪めている三人娘、直感が当たって人質の部屋へ侵入成功と言ったところだろう。この部屋に到達できたらやることは一つ、それは室内での戦闘がそこはかとなくやりやすいバルディッシュを借りることだ。

 触手を腕力で引き剥がして一番近くにいた高町のロープを切り裂く。

 

「二人はおまえが頼む……フェイト、バルディッシュ借りるぜ」

「え?」

「武器の量を完璧に間違えた。秘蔵を持ってきたつもりだったが……単純すぎて負けそう……」

 

 曲刀は見た目と切れ味以外の取り柄無かった。アビーって凄いね。

 木のテーブルに置かれているバルディッシュを拾い上げて展開してみる。するとフェイトがいつも持っているバルディッシュくんが素直に展開されてくれたので準備は完璧! サーチ・アンド・デストロイタイムだぜ……あれ?

 

「どうしたんだよ? 解いてやれよ高町」

「……手足が」

「……麻酔を注射されたか」

 

 思いの外、用意周到な性格らしい。

 そうなると戦力の増加は期待できない。バルディッシュと高町、八神の援護射撃で撃破を考えていたのだが、それが出来ないなら二本と一冊を借りたほうが確実だよな。

 

「レイジングハートと夜天の書借りていい?」

「わたしはええよ、でも室内で使える魔法すくないよ」

「回復魔法をスパッと使うためだから大丈夫」

「……いいよ」

「壊さないでね、輝夫」

「よっし、三個のデバイス確保! いってきまーす」

 

 夜天の書は浮遊させ、右手にバルディッシュ、左手にレイジングハートという原作最強武装が揃い踏みでチート主人公も真っ青な状態です。これで負けたら末代までの恥になるね、子孫残してないけど!

 壊された壁から飛び出してレイジングハートで牽制を入れてみる。普通に触手で防がれるが。

 

「あら、まだ生きていたのかい……」

「うっわ、両手両足切断とか度胸あるね……」

 

 奪った曲刀で切断したのか四脚は地面に転がっており、両手両足からは触手がウネウネで魔法少女の敵という完璧な姿になっている。俺が美少女だったら確実に処女膜ぶち破られてるね!

 さーて、三つの最強装備を使ってスパッと倒してしまいましょうか……。

 

「バルディッシュ……行こうか……」

 

 流暢な英語? ドイツ語? どっちでもいいけど受け答えしてくれたのでザンバーフォームに移行する。すると緑色の大剣が出来上がった。スタンダードに黄色だと思ったら使用者の魔力の色に変化するんだね、コジマ粒子の大剣みたいで格好いいじゃねぇか……。

 

「よーし、レイジングハートちゃんは現状のアクセルモードを維持」

 

 こっちも返答してアクセルモードで待機。

 

「夜天の書は回復魔法のページ開いて……準備完了!」

 

 手探りにディバインシューターだったか? 高町の射撃魔法で牽制射撃を行う、が、触手は魔法攻撃に耐性があるのかダメージは見られない。射撃は目くらまし程度に考えた方が得策だろう。

 

「よーし、バルディッシュ……おまえが頼りだぜ……」

『OK』

 

 迫りくる触手をレイジングハートでいなしてザンバーフォームのバルディッシュで切り裂いて人間の部分が残っている場所に直射魔法を連射する。ダメージは少しだけ通ったのか服が焼け焦げて穴が空いている。

 やっぱり原作武器はいいね、でも……相手が相手だし殺す気でいかないとな。

 

「……おまえ達、殺傷モードねぇの?」

『『…………』』

「取っ払ってるのあいつら!?」

 

 うっわ、使えない武器を借りちゃったパターン? 相手は確実に俺の命持っていこうとしてるのにこっちは温情で殺さない設定とか笑い話じゃないんだからさ……ロック解除できねぇかな? でも、フェイトに壊すなって言われたからなぁ……。

 うーん、こうなると武蔵とバルが来るまでの持久戦が楽かな。

 

「バルディッシュ……ザンバーフォーム解除、普通の長斧になれ……」

 

 格好良くザンバーフォームで殺してやろうと考えていた俺だが、殺すことが出来ないのなら疲れるだけだし使える棒になった方がいい。

 

「援護が来るまでの二十分くらいを楽しみましょうか……」

「今度こそ殺してあげるよ!」

 

 迫りくる触手達に突っ込んでバルディッシュで切り裂く。そして気分転換にしかならないがレイジングハートで奴の顔面に直射魔法、すると顔を歪ませて触手で顔を隠す。

 ……あの表情、顔? 頭? そこにロストロギアを仕込んでるのだろうか。

 

「うーん、こいつらは殺せねぇし……」

 

 ズーンと重い雰囲気を漂わせるレイジングハートとバルディッシュ、夜天の書は古いデバイスだから殺せる魔法を仕込んでいるかもしれないが、砲撃魔法とかを室内でブッパするのは落石とかで面倒くさいよな……。

 

「むさしきゅん! 早く来いや……」

 

 武蔵の救援までダラダラと倒せないボスと戦闘とか心が折れるぜ……。

 

「よっしゃ……来いや……」

 

 だるい……。

 

 

「ヤバい!? ご主人はん!!」

 

 三十分もダラダラと戦闘してたからご主人はんの生体反応が弱くなってしまっとる。これは一撃重たいのを喰らいましたな、早く片付けないと……ワイも死んでパチンコが打てんくなる!? 【使い魔は飼い主が死ぬと死ぬ】

 

「EXAMシステムスタンバイ……」

「おい、おまえはACなのにどうしてEXAM搭載してんだよ……」

「すいまへん……邪魔なんで退いててもらえますか……」

「うっわ、おまえもマジギレ出来るんだ……」

 

 武蔵はんは一歩引いてくれて本気で二匹を殺すことが出来ますわ。

 オーバードブーストで一瞬で距離を詰めて一匹目の首を吹き飛ばす。その後はクイックブースト連打で二匹目も撃破。

 ご主人はんならボスは30秒だと思っとったワイがバカやったわ……。

 

「……まあいいや、輝夫の援護に行こう」

 

 ご主人はん……死なんといてくださいよ……。

 

 

「輝夫ーボスまだ倒せて……ッ!?」

 

 輝夫が適当にぶっ殺してると思っていたボス部屋には血だらけで倒れている輝夫と触手人間がいた。

 ――自分の理性が切れた音がする。

 

「……ガァアアアア」

「これは、人間というよりは獣ですね」

 

 昔から思ってた。自分より強い奴は誰よりも優しくて、誰よりも死なない奴だって……。

 それなのに、触手人間程度に負けるんじゃねぇよダボ……。

 おまえに死なれたら俺は死ぬようなバカに連敗してたゴミじゃねぇか……! 

 

「ッ!?」

「ウァアアアア!!」

「この男の子よりやるようですね……」

 

 いつもいつも……俺のことを兄弟だとか親友って言って笑ってたおまえは最強じゃないのか? この世界で最強の踏み台じゃねぇのか? 死んだら絶対に許さねぇ……おまえの背中を守れるのは俺で、俺の背中を守れるのはおまえなんだよ――!!

 

「ッ!?」

「ヤガアアアアアアアア!!」

 

 ほら、触手人間の首を取ったぞ……目を開けろよ……。

 

「……てるを――ッ!?」

「フフッ、賢者の石がある僕は最強なんだ」

 

 残った体から飛び出る無数の触手、回避が間に合わない……。

 

「させまへんよ……」

 

 バルの牽制で攻撃はすべてへし折られる。だが、この触手人間はどこを攻撃したら死ぬんだよ。

 

「みーえた……」

 

 血だらけの輝夫が立ち上がる。

 両手に握りしめていたレイジングハートとバルディッシュを手放して懐から拳銃を取り出して切り取った生首に向けて放った。

 触手は粒子となって消えていく。

 

「輝夫!?」

「ああ、珍しく敵に怪我させられちまった……」

「よかった……おまえが生きてて……」

「すまんすまん。弱点が奥歯に隠されてるなんて誰にもわからんだろうて」

 

 輝夫が生きていることに胸をなでおろす。

 

「武蔵……ありがとよ……」

「言われ慣れてるよ……」

「「輝夫! 武蔵!!」」

 

 生まれたての子鹿のように力なく歩みを進める管理局三人娘、事態は収拾と言ったところだろうか?

 

「あーあ、血だらけの俺とか見られたくないんですけどー」

「おまえが攻撃されるから悪いんだろうが」

「言うなよ――ッ!?」

「てる……を……?」

 

 輝夫の腹部に突き刺さる曲刀、それを握りしめていたのは首を刈り取った筈の触手人間だった。

 

「賢者の石は壊されたが……僕は世界の王になるんだ……」

「言い残すのはそれだけか……」

 

 輝夫は曲刀を抜き取り振り返る。その瞬間にすべては終わった。

 もがき苦しむ男の首の骨が折れる音がした。

 崩れ落ちる。

 

「……やべぇ、これは死ぬわ」

「「「輝夫!?」」」

「あーあ、もう少し長生きしたかったわ……」

 

 輝夫の両目から流れ落ちる涙。

 

「バル……すまねぇ……」

「……いいですよ」

 

 輝夫の両目が閉じる。

 バルの方を見ると機能停止。

 死んだ。

 死んでしまった。

 俺の相棒は、兄弟は……死んだ……。

 

「輝夫! 死ぬんやない……お願いやから……」

「あ、ああ……」

 

 俺は輝夫の亡骸に縋り付く二人を引き剥がして抱き上げた。

 

「武蔵! 輝夫をどうするんや!?」

「……おまえ達のせいで死んだんだ」

「……てるを」

「おまえ達が殺したんだよ! おまえ達がこいつを殺せてたら生きてたんだよ!!」

 

 両目から溢れる涙は血だらけの輝夫に落ちていく。

 

「もう、俺と輝夫に関わるな……」

 

 

 とある王国に王子様がいました。

 王子様は自由奔放で民達に慕われ人望に厚い好青年でした。

 王子様は恋をしました。隣国のお姫様に恋をしました。

 彼はお姫様の心を射止めようと多くの財宝や手紙を送って自分と結婚しようと何度もお願いをしました。

 ですが、お姫様は彼のヘラヘラとした表情が嫌いと言って求婚を断りました。

 王子様は落ち込みました。

 ですが、王子様の周りには多くの友がいて、王子様は元の優しい性格に戻っていきます。

 王子様はまた、恋をしました。

 その恋の相手は村娘、偉くもなんともない村娘、父である王はそれをダメだと言いました。

 王子様は父親に言いました。

 

「自分は嘘が大嫌いで、自分自身につく嘘も大嫌いなんだ」

 

 王子様は村娘と結婚する為に王族であることをやめました。

 元王子様は村娘に結婚してくれとお願いしました。

 村娘は元王子様の求婚を断りました。自分には将来を誓いあった存在がいると。

 彼は落ち込みました。そして自分はこれからどう生きていこうかと考えます。

 元王子様は居酒屋で働くことを決めました。

 彼は明るい性格から男女問わずに好かれ、城では作れない多くの友ができました。

 

「もっと自分が好きになれる人を探さないといけないな」

 

 元王子様は休みの日に散歩に出かけました。

 すると気の弱そうな少女が木陰で本を読んでいました。

 彼は少女に声をかけて彼女の本を読ませてもらいました。

 彼は少女に惹かれていき、彼女も彼のことを好きになっていきました。

 そして、一年後に少女に結婚してくれと言いました。

 ですが、少女は無理だと言いました。

 元王子様はどうしてか、そう尋ねると少女は貴族の娘で許嫁がいると説明しました。

 彼は家と俺、どちらが大切か? 聞いてみると自分の家より大きい貴族の家、どんなに自分を愛しても未来の家の為に好きな人とは結婚できないと泣きました。

 

「じゃあ、俺は王子様になるよ」

 

 元王子様は城に向かいました。三年ぶりの城の前には仲良くしていた衛兵達が待っていました。

 元王子様は挨拶をして城の中に入っていきます。

 誰も彼のことを止めません。

 彼の姿を見て笑みを溢す人しかいません。

 

「ただいま、もう一度、もう一度だけ息子にしてください」

 

 王は彼を王子に戻しました。

 そして、彼は王子に戻り貴族の少女と結婚しました。

 

【優しい恋多き王子様の物語】

 

10

 

 フェイト・テスタロッサは自分の部屋で泣いています。最愛の人が死んで一日、学校にも職場にも行かないで部屋で泣くだけの生活。自分の無力さで最愛の人を殺した自分は生きていてはいけないという感情が駆け巡り、そして、涙だけが溢れる。

 

「フェイト? どうして泣いているの」

「姉さん……輝夫が……」

「輝夫がどうしたの?」

「輝夫が……死んだ……」

 

 姉であるアリシア・テスタロッサはキョトンとした表情でフェイトのことを見つめる。フェイトはそんな表情をしている姉を現実を理解していないだけだと思いました。

 でも、アリシアはどうして輝夫が死んでいるのと語りかけます。

 

「だって、輝夫はあの任務で殺されて……バルも……」

「え、バルなら今朝パチンコ屋さんに並んでたよ」

「へ?」

「アリサちゃんと一緒に見たから絶対だと思うけど」

 

 鳴り響く携帯電話を取って耳に当てると八神はやての冷静で冷たい声が聞こえる。

 

『ちょっと、人殺しにいかん?』

「……うん!」

「え? えぇ……」

 

11

 

「にしても、おまえの迫真の演技すごかったわぁ」

「馬鹿野郎! 俺は本当におまえが死んだと思って……」

 

 眉間にシワを寄せている武蔵を笑い飛ばしてやる。

 俺くらいの魔導師があの程度の雑魚に殺されるわけないじゃん! 後ろから殺意がムンムン感じてたし、いっそのこと死んだふりして原作ヒロイン達を絶望させ、優男に心を許す展開を用意しただけさ。体中は打撲と切り傷で消毒液臭いが日常生活になんの影響もない!

 

「でも、なんで刺されたのに傷が無いんだよ……」

「脇腹に血糊袋入れてたんだー!」

 

 血糊と書かれた袋を見せると武蔵は溜息を吐き出した。

 でも、これで俺のことを殴る蹴るしていたヒロイン達は死んだものだと思ってこの家には近寄らないだろう。そして、俺と武蔵だけになればデリヘルが呼び放題……! ああ、天国!!

 

「デリヘル奢ってやるから機嫌治せよぉ~」

「……わーったよ! 早く呼ぼうぜ!!」

「ノリノリぃ!」

 

 ガラスが割れる炸裂音、そして土足で踏み入ってくるフェイトと八神。

 あれ? なんでこの子達がいるの……。

 

「武蔵、俺が幽霊だってことを適当に風聴してくれねぇか? 今度こそ絶対に殺される……」

「わ、わかった……」

「武蔵、輝夫を置いて行ってくれたら消えていいよ……」

「じゃあな、親友」

「まてーい!?」

 

 武蔵は何食わぬ顔で玄関に向かって歩みを進めている。

 どうしてだろうなぁ……なんで生きてるってバレたんだろうなぁ……。

 バルには念話で死んだふりした時は機能停止してくれって頼んだんだけど……。

 まて? アイツ……今日もパチンコ行ってたよな……。

 

「ああ、バルが見つかったんだ……」

「「死のうか」」

 

 優しい恋多き王子様の物語には続きがあって、王子様は浮気をして奥さんに殺されたんだ。因果応報だよな! この世界!!




 いい最終回だった。

 次回はバルバロイがパチンコを打つ『24:遊技』を投稿します。

投稿ペース

  • 一秒でも早く書いて♡
  • ネタの品質を重視してじっくり!
  • 冨樫先生みたいでええよ~
  • 絵上手いから挿絵積極的に

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