互いに種類の違う竿を出し、川に向かって仕掛けを投げる。俺の仕掛けは延べ竿に玉ウキにサルカン、道糸は三号、ハリスは一号、それと軽めのガン玉、針は小物も狙えるように少し小さめなものとなっている。武蔵の方は、バスロッドとホッパーと呼ばれる水面をポコポコさせて魚の食い気を上げるルアーを付けていた。
「なあ、スズキ目サンフィッシュ科オオクチバス属ノーザン・ラージマウスバスを釣りに来ているのに、おまえは何故、そんなにシンプルで、小学生でも簡単に作ることが出来るような簡単な仕掛けを選んでいるんだぁ~うぅん?」
「別に、この仕掛けにミミズを付けていたら鯉だろうが、ブルーギルだろうが、ブラックバスだろうが、雷魚だろうが、ティラピアだろうが、まあ、基本的に何でも釣れるからいいんだよ。まあ、ミミズを掘るのはめんどくさいが」
「えらく外来生物が多いな......だが、一応はバスを釣りに来たんだし、なあ、もう少しクールに釣りをしようぜ」
「なあ、俺は基本的に海釣りの人なんだぜ? 海釣りの人は餌で魚を釣るんだ。正直、バスフィッシングは微塵も興味が無い領域なんです。はい」
俺達は帽子を深くかぶって、俺は静かに、武蔵は動きながら釣りをはじめた。
「釣れるかね」
「まあ、ルアーだからわからんな」
「ルアーの方が釣れた時の嬉しさが倍なんだよ」
「釣れない確率も倍だがな」
互いに皮肉を言い合って、まあ、普通に釣りを繰り広げる。小さいアタリが連発しているのだが、春に生まれた何かしらの魚の稚魚だろうか、針が大き過ぎてかからない。まあ、それだけ小さければ釣れても意味ないだろうが。
武蔵の方はルアーフィッシングの少ない利点、エサ取りを気にしないでいいというところを利用して、果敢にバスか何かが潜んでいるであろう場所にルアーを飛ばす。
さて、今更だが、何故、我々がフィッシングに出掛けているかというと、まあ、うちの我儘プリンセスの御命令で魚、厳密には、特定外来生物を釣りに来ている。理由は、簡単に説明すると特定外来生物の行方、とかいう特番を見たヴィータが最後の方の特定外来生物を使用した料理枠を見てしまい、まあ、それに触発されて俺達は半ば強制的に釣りに来ている。
「つか、お姫様は何故にあんなゲテモノが食いたいのだろうか? まあ、普通に食えるけどさぁ、食ったことあるけどさぁ」
「俺は寿司屋でティラピア食ったけど、普通に美味かった。でも、何故にあんなゲテモノなんだろうな」
なんか、琵琶湖の近くの寿司屋が調理したバス料理だったか? それを食いたいだとか、バスって、どんな味するんだ? って、油汚れのようにしつこく聞いてくるから、海でシーバス釣ってくるって言ったんだが、わたしはブラックバスが食いたいんだ! 特定外来生物の味を知りたいんだ!! と叫ばれて、まあ、なんというか、うん、はい。釣って来ます。的な感じになった。
「ねえ、なんで巨悪の根源は来ないのかな?」
「あれだろ、魚は食えるが、魚を触れないタイプの人間なんだろう。まあ、生臭いからな、俺もサバを〆る時は血だらけになるから嫌いだ」
「俺は基本的に川の人だったから、その気持ちわからんわ。でも、リリース禁止の条例が出来てから、バスとギルを〆て殺す時に溢れる血液は心が痛かったわぁ」
「「ねえ、俺達の趣味って渋くない? てか、おまえ前世では何歳だったわけ? ああ? 二十六歳でアニメ、釣りと麻雀が好きで、あとは自動車と単車を乗り回してたナイスガイだよ......」」
互いに共通点の多さに恐怖が生まれる。
「......前世の苗字は何だった? 俺は平村だった」
「よかった~流石に同じ人格の持ち主というわけじゃないか、俺は野村だった」
互いに安堵の溜息を吐き出して、まあ、釣りを再開させる。
「お、大きいのが食った」
「まあ、餌だから妥当だな」
「うるせぇ......ほらアワセ!」
普通にアワセて針にかける。だが、引きが異様に重いので、多分、バスではなく鯉が釣れた。
「鯉ですね、ハリス大丈夫かな? 見抜かれないように一号にしたわけだけど」
「鯉ってお乳の出をよくするらしいぜ? プレシアに鯉こくを作って食わせようぜ」
「あれは羊水腐ってるだろ」
「いや、まだ現役だろ」
竿の柔らかさを利用してゆっくりと釣れた鯉をゆっくりと陸に引き寄せる。するとよく肥えた八十センチくらいの鯉だった。たもを使って魚影を確実に陸に引き上げて、二人でどうするかを検討する。
「なあ、マジでプレシアに鯉こく食わせようぜ、もしかしたらお乳が出るかもしれん」
「いや、アリシアかフェイトの乳を大きくするために鯉こく作るならわかるけどさぁ、ねえ、何故にプレシア? 最近目覚めた?」
「いや、全然。でも、授乳プレイはそこはかとなく好き」
「はい、アウトー」
武蔵が熟女に軽く目覚めた。まあ、鯉こくは作れるからこいつは〆ておかずにしますか。
鯉のエラの部分にナイフを入れて、脳の方向に向けて突き刺す。すると鯉は死亡する。もう片方も同じように刺して、尻尾の部分に切り込みを入れて血抜きと神経締めが完了する。その後は携帯まな板を使って鯉の内臓を苦玉を傷つけないように取り出して、食材にする。その後は氷水の入ったクーラーの中にダイブさせて、まあ、食材になりました。
「さて、メインのブラックバスを釣るぞ」
「ああ、あ、釣れた」
武蔵の竿にアタリが出た。静かにたもを用意して魚が上がってくるのを待つ。
「ウグイだ」
「ああ、あの美味いやつか」
「スプーンに変えたから釣れたんだろうな」
「三十センチちょっと、これは良い塩焼きサイズだな」
早速、血抜き、このサイズなら神経締めはいらないだろう。後は内臓を取り出して、クーラーボックスにシュート。
「なんというか、在来生物ばっかり釣れるな」
「ああ、まあ、バスはいるだろうから普通に釣ろうぜ」
「うん、何か、若干このまま在来生物しか釣れないような気がしただけさ」
「それは無いだろ、外来生物の方が頭が悪いわけだし」
鯉のパワーで草臥れたハリスと針を交換して、ミミズを付けて川に仕掛けを投げる。
「お、何か釣れた......あ、ナマズだ」
「また在来生物だな」
「こいつはウナギに味が近いらしいから蒲焼きにしてみるか」
ヌルヌルとして〆にくいが、まあ、〆て内臓を取り出さないでそのままクーラーに投げる。
「唐突だが、おっぱいの話をしよう」
「ああ、別にいいが」
好きだし、おっぱい。
「おまえはデカイのが好きか?」
「大は小に無いものを持ち合わせています。はい、論破」
「だが、小には感度があるぞ」
「えらく貧乳を肯定するな? まさか、貴様はヒンヌー教か!?」
「いや、聖巨乳教団に魂を預けている。だが、俺は思うのだ、ヒンヌーもアリだと」
「まあ、小さいのはステータスらしいからな、何も言わんが」
「でも、やっぱり巨乳が一番」
「だろ、やっぱり大きいのが一番です」
結局は男の子ですから、巨乳が好きです。はい。
「だが、やはり、男は女を平等に愛する必要があると思うのさ」
「いや、それは無いだろ。不細工な女とか、百歳の婆さんとか、伊勢物語じゃないんだぜ?」
「まあ、それは、そうだな......」
おっぱいの話が終息したと同時に二人の針に何か引っかかった。
「なんじゃろな......鮒だ......」
「この川、結構綺麗だからニジマスも生息してるんだな......」
そんなこんなで五時間の釣りの末、釣果はこんなものになった。
「えっと、ウグイ二匹、ナマズ一匹、ニジマス二匹、鯉一匹、鮒二匹、オイカワ十五匹......見事に在来生物です。はい」
「お姫様がキレるな、これ......」
「三人じゃあ、食いきれない量だし、まあ、誰か呼ぶか」
「そうしよう」
テスタロッサ一家と八神一家を家を誘ってパーティーをすることにしたが、まあ、それは見事にお姫様は怒っていた。
【おまけ】
「さて、むさ苦料理のお時間がやってきました。まあ、中身は普通の料理枠なんですけどね」
「で、今日の料理はなんですか?」
「ああ、今日はテスタロッサ一家と八神一家と我々輝夫と愉快な仲間達の宴会の席ですので、発泡酒を大量購入して、まあ、パーチ―の席を用意しました。メインの料理は川魚のフルコース。今日、釣りに出かけた川の水質を考えると、まあ、そこはかとなく生食は厳しい、でも、種類が豊富なので結構なレパートリーに期待できます」
重たいクーラーボックスの中を見てみると今日釣り上げた在来生物の姿が見られた。
「じゃあ、一番面倒な鯉を捌きます。最初は普通に鱗を取り、調理の障害になるヒレをそぎ落とします」
「鯉は泥抜きをしないと食えないと聞くが、その点どうよ?」
「血抜きとその場で内臓取り出してるから大丈夫だと思う。それに、鱗が取れたら帰りに毟ってきたヨモギを腹に仕込んで、ある程度の臭み抜きをするから、大丈夫だとは思う。味は保証できないが」
「へ~、流石は我が家の料理人」
「おまえとお姫様はレトルトしか作れないからな」
内容物はあらかじめ取り除いているので、流水で洗い流し、これも臭みを取るために塩を全体に塗って、捌いた腹の部分に綺麗に洗って、切り刻んだヨモギを入れて他の料理に取りかかる。
「さて、次は比較的捌きやすい鮒ですね」
「コイ科の生物ばかりですね」
「それを言ってしまえば、マスとナマズ以外は全部コイ科だぞ?」
鮒も鯉と同じように内臓を取られているため、鯉と同じ手順を踏んで下準備は完成。
「三匹は若干疲れる。それに、鯉と鮒は鱗が大きいからな」
「鮒って、どんな料理が美味いの?」
「生姜をたっぷり使った煮つけが一番だな。時間が無いから圧力鍋を駆使して素早く作るよ」
「というか、海釣り専門の輝夫さんは何故、川魚の調理に詳しくて?」
「前世の実家が佐賀だったんだ。佐賀は結構、川魚を食うからな。まあ、俺の実家の周辺だけかもしれないが。それなりに料理のやりかたは知ってる」
「なるへそ」
圧力鍋の中に水と醤油、みりんと調理酒、チューブ生姜と刻み生姜、砂糖を少し多めに、長ネギも入れて、最後に二匹の鮒を投入、これで火を通すだけだ。
「何故にチューブ生姜と刻み生姜を?」
「チューブは味を付ける為、刻み生姜は盛り付けのためだ」
「なるほど、味だけではなく、見た目も重視する。これは料理人の鑑ですね」
煮つけが出来上がるまでにニジマスの下ごしらえをする。
「ニジマスは鱗が小さくて詰まってるから、まあ、塩で擦る程度で十分だ。一匹は小さいから天ぷら、もう一匹は大きいから、ムニエル。マスは癖が無くて美味いからな」
「まさか、ニジマスが釣れるとは思わなかった。ニジマス釣れるのに、あの川は人気少なかったよな?」
「これだけ都会だと、フィッシングする意欲もわかんのだろう。若者の釣り離れってやつ?」
下準備を終わらせて、二匹は来客がくるまで冷蔵庫で寝かせる。
「残りはナマズとウグイ、オイカワだけだな」
「こいつらはどう料理する?」
「ナマズは蒲焼き、外で七輪で一回焼いて、みんなが来たらもう一回タレを付けて焼くわ」
「ほうほう」
「ウグイは若干癖があるから、臭みを取る香草をまぶして香草焼きにする」
「それは美味しそうだ」
「オイカワは一口サイズが大量だから天ぷらだな、小さいからぺティーで捌くわ」
ナマズに大量の塩を塗り、ヌメリを完全に取り除いて背開きで内臓を取り出して、下準備を終わらせる。
その後はオイカワも同じように背開きでキッチリと捌いて塩を少しだけ振る。
ウグイは三枚に下ろして、肋骨をすき取り、小骨をピンセットで抜いて香草をまぶして冷蔵庫で少し寝かせる。
「はい、一連の作業が終わりました、流石に川魚は捌くと臭いわ。お、煮つけは出来上がったようだ」
「おおー、結構良い香りするな」
「まあ、作り方は普通に煮つけですから。まあ、鮒なんかより、あらかぶかメバルの方が煮つけにすると美味いんだが」
煮つけを他の鍋に移して、ラップをして冷蔵庫にシュート、味を染み込ませるためだ。
「次は鯉こくだな、作れる?」
「普通に作れるぞ」
「流石は佐賀県民!」
「おまえは佐賀県民を何だと思ってるんですかね?」
それなりに臭みが取れた鯉のカシラを切り落とし、胴体の部分を適度な大きさにぶつ切りにして、鍋に水、砂糖、大量の日本酒を投入して、煮立ったら鯉を投入する。
「そして、身に少し火が通ったら濃ゆい赤味噌を投入、じっくり弱火で煮込んだら鯉こくの完成だ」
「なんか、普通に美味そうだから困るわ」
「そうか? 俺は嫌いだったな」
蓋をかぶせて小一時間程煮る。
「さて、久方ぶりの七輪さんの登場ですね」
「七輪に練炭自殺以外の使い道があるとは思いませんでした」
「ありますよ、普通に」
ナマズを鉄の串に刺して、二回の土用の丑の日で使用できなかったタレをボウルに用意。
「さて、外に出て調理しましょう」
「熱いけど我慢するか」
七輪を用いてナマズの蒲焼きの完成、みんなが来たらもう一度タレを付けて焼いてうな丼ならぬ、ナマズ丼を提供しよう。ひつまぶし風に食べるもオツかもしれないな。
「さて、後は皆が来てから、だな」
インターフォンの音が鳴り響いた。武蔵に出迎えに行かせるとテスタロッサ一家と八神一家、それに付き添ってだろうか、バニングスと月村も着いてきている。
「よお、どうしてバニングスと月村も来てるんだ?」
「はやてちゃんの家に遊びに行ってたんだけど、パーティーをするって聞いて」
「わたし、お祭り事は大好きなのよねぇ~」
「料理足りるか?」
「まあ、足りなくなったらどうにかするさ」
To be continued
【鯉こく】
質の良い母乳を提供します!
【作者から】
釣りの話は絶対にほのぼのするという暗黙の了解があると思う。
投稿ペース
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一秒でも早く書いて♡
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ネタの品質を重視してじっくり!
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冨樫先生みたいでええよ~
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絵上手いから挿絵積極的に