踏み台だった野郎共の後日談。   作:蒼井魚

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01:友情

 俺が負けを認めたのは目の前でダラダラとゲームをプレイしている奴より早かった。

 今更、愛とか、恋心とかを高らかに語る気は一切しないが、まあ、悟るのが早かった。

 自意識過剰という言葉が似合う行動ばかりしていたからな、後ろを振り返れば顔が真っ赤になるような出来事ばかりだ。自分の行いなんだけどね?

 

「あ、指先が滑った……」

「PS3のコントローラーは滑るからな、先端にガムテープを貼り付けると若干マシになるけど」

「てか、ダクソムズすぎ、心が砕けそうなんですけど」

「初心者はAC3から入れって言ったろ」

 

 俺と武蔵の踏み台コンビは今日も一日ダラダラ過ごしている。

 中学一年生になって、聖祥大附属から普通の市立の中学に入った。理由? 私立の学校なんてかたっ苦しいだけじゃんか。

 そして、ほとんど引き籠もりのテストの日くらいしか顔を出さない生活を楽しんでいる。もっぱら、やっていることはテレビゲームか麻雀、昔みたいに原作ヒロイン達とは関わることはなく、一日一日を本当にダラダラと楽しんでいる。

 

「つか、このまま引き籠もり続けたら高校行けるのかね?」

「毎月三十万×2も金が入ってくるんだ、中卒でもいいだろ。死ぬまで振り込まれるわけだし」

「非課税だもんな」

「ああ、税金がかからないのはとても素晴らしい。税金なんて消え失せろってやつさ」

 

 冷蔵庫から三本のアイスを取り出して二人に投げる。すると二人ともに綺麗にキャッチし、袋を剥がしてペロペロとまだまだ糞寒い春先なのに冷たいアイスを食べ始める。

 そんな俺も変人に片足突っ込んでるから普通にペロペロですわ! ああ、暖房つけよっと……。

 

「つか、ヴィータ。おまえさぁ、八神と喧嘩したからって俺達の家に転がり込むなよ」

「いいだろ、美少女が隣りにいるだけで和むだろ」

「美少女は認めてやるけどさ、中学男子なんて性欲の塊だぞ? 女の子が転がり込んでるのはどうかと思うよー犯罪の香りがするから」

 

 エロ同人みたいに、エロ同人みたいに……これ、なんのネタだったっけ?

 まあ、年頃の男女が同じ家にいるとかエロ同人展開ワクテカってやつだな、こいつに興味は無いが!

 

「ああ、頭をかち割られるのが怖いんだな」

「一つ言うけどな、おまえなんて左腕一本で倒せるんだからな、男の子だから結構強いんだからな!」

「うっさい! 心が折れている人間の隣で喧嘩するなよ……頭が痛くなる……」

「そら、アイス食ってるからだろ」

 

 三人で黙ってアイスを食していると辛くも苦しい過去を思い出してしまう。

 愛、暴力、セックスを追い求めてこの世界に来た筈なのだが、手に入れたのは幼馴染のように馴れ馴れしい赤毛ロリとほんの数年前まで本気で殺し合っていたろくでなし。それ以外は霧になって消えてしまった。

 まあ、俺としても現状は結構好ましい状況だと思う。二度目の人生、一度目とは違う生き方ってのも悪くない。俺と相棒は前世では結構働き者だったからさ? 今回は自堕落の極みを目指している。

 

「輝夫は頭が硬いんだよ、もうすこし頭を柔らかくして生きようぜ」

「固くもなるさ、ろくでなしと性格の悪い赤毛のアンを抱えてるのに……あ! パチンコ大好きな『自称』超高性能ロボットも追加で」

「パチンコ大好き『自称』高性能ロボットはおまえが神様に頼んで入手したもんだろうが」

「それは言わない約束だろうが、武蔵」

 

 アイスの棒をゴミ箱に投げ捨て、ソファーに寝転がる。そして静かに精神を集中させる。

 魔法の世界って便利だわ。だって着信拒否できない念話とかいう魔法があるんだぜ? これでペットの躾もできるってもんだ。

 

「バル……早く帰ってこい……」

『スーパーラッキー! ヒャッハー今日もフィーバーでっせ!!』

「駄目だこりゃ」

「バルは今日もフィーバーさせてるのか? てか、あいつはよく勝てるよなー」

「中身が高性能だから、微妙な設定差だとか、釘の位置だとかを計算できるんだろ」

「パチンコってそんなに面白いのか?」

「ヴィータ、おまえはアイスだけを愛してくれ……あのバカロボットのようにならんでくれ……!」

 

 ゲームに集中する武蔵、アイスをチビチビと食べているヴィータ、ソファーで疲れを癒やす俺。

 なんか、物凄く充実しているような気がする。愛情だとか、恋愛だとかじゃなくて、友情みたいな……温かいなにかがあるような気がするんだ……。

 多分、疲れかな? 体じゃなくて心の疲れ、気を張ってたって自覚はある。

 

「あれ、なんで踏み台してたんだっけ?」

「輝夫、おまえは人間というものを重く考えすぎてるんだよ」

「重くって、どういう風に?」

 

 武蔵はキャラクターを篝火に休ませて、語り始める。

 その姿、まさしく古代ローマの哲学者!

 

「人間は二種類、男と女、亜種にオカマとオナベが存在する。だが、基本的には、まあ、男と女だ」

「ああ」

「そして、その二つを見分ける方法は単純だ」

「どんな?」

 

 武蔵は人差し指を見せつけて、

 

「指が入る穴が二つあったら男、三つあったら女。それが人間……それだけ……!」

「物凄く意味不明だが、物凄い説得力だ……」

「男と女は陰と陽、酸性とアルカリ性、水と油、対極であり磁石のように惹かれ合う存在。だからこそ、求め合う。俺達は求め合いすぎたんだ。だからこそ! こんな風にダラダラと失恋を引き摺って……ほとんどニートのような生活を楽しんでいる……! これが俺達が収まるべき鞘なんだ。鞘に入ったら安心しただろ?」

「物凄く意味不明だが、物凄い説得力だな……」

 

 ヴィータまで武蔵の言葉を聞いて頷き始める。

 まあ、確かに失恋を引きずってるのは確かだ。そして彼女達を傷つけた、そういう認識が頭の中にある。

 

「まあ、ルックスはそれなりなんだから、そのうち女が勝手に股を開いてくれるさ。まあ、金払えば開いてくれる女もいるけど」

「よし、デリヘル嬢を呼ぶか」

「二人呼ぼうか」

「おまえらさぁ、一応はわたしは女なんだが……」

「「……後日に我慢するか」」

 

 まあ、一度も呼んだこと無いんですけどね?




【輝夫】
 アーマードコアfaに登場する、史上最も多くの人命を奪った個人の人格の入ったネクストACを特典として貰っている。だが、ネクストACの中身が超絶パチンコ中毒者なため、ほとんど守ってもらった記憶がなく、魔力量A+程度だが、平然と原作組と互角に対当できるくらいの実力を持っている。器用貧乏で何でもできるが、運が悪い。

【武蔵】
 膨大な魔力と超高性能デバイスを特典として選んだ転生者。高い魔力量を活かして圧倒的な暴力で戦うタイプの魔導師だが、魔法の精度が初期型のAK47のように悪いため、たいして強くない。磨けば輝くタイプなのだが、自分の実力に満足している節があり、最近は輝夫との生暖かい生活を楽しんでいるからデバイスを質屋に売ろうかと悩んでいるくらいだ。

投稿ペース

  • 一秒でも早く書いて♡
  • ネタの品質を重視してじっくり!
  • 冨樫先生みたいでええよ~
  • 絵上手いから挿絵積極的に

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