ことりのモノ   作:kielly

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 五回目の更新です。
 たくさんの方に読んでもらえているようで非常に嬉しいです、ありがとうございます。
 これからも可愛いヤンデレことりちゃんを書いていけるよう頑張りますので、どうぞこれからも変わらぬお付き合いお願いいたします。
 これからの執筆意欲の向上のために、なんて厚かましいかとは思いますが、感想・お気に入り・評価の方もよかったらぜひお願いします! 

 calm : 落ち着く



*5 変化 calm

 

 爽やかな風が吹き抜ける朝、俺はいつものように学校に行く準備をして、家を出る。向かう場所は学校ではない。小走り気味に足を速め、いつもの待ち合わせ場所に向かう。

 歩き始めてからおよそ5分、いつもの場所にはいつものように一人、立っている女の子が。

 

 

「おはよう、一哉くんっ」

 

 

 南ことりは、俺の彼女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 変化 calm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようことり、待たせちゃったかい?」

 

 

 学校に向かう前に、俺は毎朝ことりの家の前まで迎えに行っている。今日もことりはいつものように家の前で待っていた。それにしても毎朝毎朝思うのだが、ことりはいつでも俺が来る前から待っている。今日くらいは俺が先に着いてことりが出てくるのを待っていようかと思って急いで集合10分前に着くように家を出たはずだったのにも関わらず、ことりは今日もすでに待っていた。

 俺はそれを不思議に思い、どれくらい前から待っていたのかを探るのも兼ねて、いつもとは違った言葉でことりに声をかけた。いつもなら待たせてごめんと言うのだが。するとことりからはいつものように柔らかい声で返事が返ってきた。

 

 

「待ってないよぉ。それに一哉くん、まだ時間まで10分もあるよ?」

 

「とか言ってることりは、10分早く来た俺より早く外で待ってたじゃん」

 

「それはその、少しでも早く、あ、会いたかったから、です」

 

「ははっ、照れてるのか?」

 

「っ! うぅ、今日の一哉くん意地悪ですっ」

 

 

 俺の欲しい答えとは違ったものの、俺の求めていた可愛さがあったため、しつこく聞くのはやめておいた。照れていることりに少し意地悪な言葉をかけてみるが、本当は俺のほうが照れてるくらいだ。照れ隠しであることを悟られないために、俺はことりに謝罪する。

 

 

「ごめんごめん、あまりにことりが可愛かったからつい」

 

「も、もうっ! 意地悪な一哉くんにはもうしてあげませんっ!」

 

「えぇっ!? そ、それは嫌だなぁ」

 

「……嘘ですっ♡」

 

「なっ!? この小悪魔め」

 

「えへへっ、一哉くんが意地悪するのがいけないんですっ♡ そ、それで、その……いつもの(・・・・)、欲しいな」

 

「ったく…………これでどう?」

 

「ん……えへへっ、満足ですっ」

 

 

 ことりに反撃されてしまったが、俺たちは毎朝のようにしているキス(いつもの)を交わす。この前ことりの家に行ったときにことりと愛し合って以来、毎朝毎夕、キスを交わすようになった。幸いこの周りは人気(ひとけ)が少なく、誰かに見られてしまうといった心配はない。ことりはスクールアイドル、もしファンの人に見られようものならことりに何かあってもおかしくはない。警戒するに越したことはない。まぁ、男と一緒にいるというだけでもまずいのだろうが、そこはことりが離れることを許してくれないため、止むなしだ。

 キスに満足してくれたらしいことりは上機嫌で俺の腕に抱きつく。

 

 

「ことり、今日も頑張れちゃいそうっ」

 

「俺も、ことりのおかげで頑張れそうだよ」

 

「今日も一緒に頑張ろうねっ! あ、そうそう、昨日のテレビ見た?」

 

「あぁ、あれでしょ? あの芸能人が出てた――――――――」

 

 

 とりとめのない話をしながら俺たちは、人気(ひとけ)のない道をべったりくっつきながら歩き、学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ねえ一哉くんっ、今日も一緒にお弁当食べよっ? 作ってきたのぉ」

 

「おぉ、ことりの手作り弁当美味いんだよなぁ。ありがとうな」

 

「うんっ!」

 

 

 学校の中でも俺たちはずっとくっついている。流石にことりも学校の中では腕に抱きついてきたりはしないが、手は繋いでいる。手を繋いで歩いている俺たちを周りの生徒たちはやはりというべきか、驚きの表情で見てくる。その驚きは学校内ですら手を繋いでいるということに対してなのか、学校全体でも評判の良いことりと手を繋いでいる俺に対してなのかは、わからない。

 クラスの中ではもう見慣れた光景らしく、特に何か言われたり、驚きの目で見られたりはしていない。

 

 こいつら(・・・・)以外には。

 

 

「うわぁことりちゃん! それって恋人繋ぎってやつだよね!? いいないいな~! 穂乃果も彼氏さんとそんなことしたーいっ!!」

 

「なっななっ!? またあなたたちはそんなことをしているのですか!? 破廉恥ですっ!」

 

「えぇ~? 破廉恥じゃないよぉ?」

 

 

 高坂と園田、未だにこの二人からはずっとこういうことを言われ続けている。これでもうかれこれ何回目だろうか、正直聞き飽きた感すらある。しかしことりは毎回、それらに対して嬉しそうな笑顔を浮かべながら二人に答える。しかしここでもことりの小悪魔的思想というのが働いているのか、わーわー言ってくる二人に笑顔で対応しては、その度に、まるで見せびらかすかのように繋いでいる手を二人に見える位置に持ってくる。

 

 

「きゃーっ! 穂乃果憧れちゃうぅっ」

 

「な、な、ああっ……!」

 

 

 それを見て、高坂は羨ましげな表情で俺たち二人を見てくるし、園田は顔を真っ赤にして言葉を失う。このやりとりは一体何度目なんだろうかと思うほどに全く同じリアクションを見せてくる二人を見て、ことりは嬉しそうに笑う。

 そして俺はこの光景を見てはいつも思い出す、この二人に俺たちが付き合うことを報告して、二人を見て笑ったとき、ことりが見せた感情のない目。あの恐怖を思い出してしまうから、いつもこの二人の前で笑うことができないでいた。今日も今日とて、二人に何かしら声をかけてしまったら、またあの目で見られるのではという恐怖に駆られてしまう。

 

 そんな俺の気持ちをよそに、高坂は俺の空いている方の手を取ってきて、こう言った。

 

 

「ねえねえことりちゃん! ちょっとだけ、ちょーっとだけ、皆月くんと手繋いでみてもいいかな!?」

 

「ひぃっ……!?」

 

 

 高坂のそんな発言に俺は思わず上擦った声で小さな悲鳴をあげる。心なしか、ことりの手を繋ぐ力が強くなった気がしたため、恐る恐ることりの様子を伺う。

 

 

「…………」

 

 

 何も言わず、たださっきまで浮かべていた笑みはそのままに、高坂を見つめ続けている。高坂は変わらず期待の眼差しをことりに向け続けているが、俺にはわかる。これはまずい、と。そんな雰囲気を感じたのか、園田が口を開いた。

 

 

「あ、あの穂乃果、さすがにそれはことりにも皆月くんにも悪いですし……」

 

「え~? いいじゃんいいじゃん! ことりちゃんばっかりずるいよぉ!!」

 

「し、しかし……」

 

 

 俺たちを気遣って園田が高坂を説得しようと試みるも、高坂は気にもしないで駄々をこねる。ことりのただならぬ雰囲気に気づいているらしい園田はそんな穂乃果をどうにか収めようとしているのがわかる。俺もどうにかことりを抑えようとは思っているのだが、繋がれている手、ただただ笑みを浮かべているだけのことりからのプレッシャーに、口を開くことができない。

 

 だが、意外にもそのプレッシャーはあっさりと消えてしまった。

 

 

 他でもない、ことり自身(・・・・・)の発言によって。

 

 

「うん、いいよっ」

 

 

 笑みはそのままに、俺の手から離れることりの手。温もりがなくなることに少しだけ寂しさを覚えたが、それ以上にことりからそんな言葉が出るとは思っていなかったという予想外の展開に驚く。園田も驚いているようで、言葉を失っている。

 

 

「やったっ、よーしっ! それじゃ皆月くん、失礼しますっ!」

 

「うぉっ!? ちょ、ちょっとまて」

 

「うわ~、皆月くんの手、おっきくてあったかいね~!!」

 

「あ、あはは……」

 

 

 ことりの言葉を聞き、待ってましたと言わんばかりの勢いで俺の手を掴んできては、俺の横に立って手を繋いできた。いつもはそこにことりがいるはずなのに、と思いながらも高坂の言葉にとりあえず笑って返す。高坂は目をキラキラさせながら話してくるが、俺はいつことりに恐怖を味わわせられるかの恐怖に怯えているのだ、とてもじゃないがリアクションなんてとっていられない。

 

 

「ねえねえことりちゃん! 穂乃果たちどう? お似合いかなぁ?」

 

「なぁっ!?」

 

「ちょっ、穂乃果ぁ!?」

 

「…………」

 

 

 またしても高坂が爆弾を投げつける。俺と園田は驚き怯え、ことりはさっきまでと変わらぬ笑みを浮かべ続ける。

 何秒たったのかすらもわからないプレッシャーの中、またしてもそのプレッシャーを破ったのはことりだった。

 

 

「うーん、悔しいけどお似合いかもっ。でも穂乃果ちゃん、一哉くんはことりのなんだから、とっちゃダメっ!」

 

 

 ……何が起こっているのだろうか。ことりは、高坂から何を言われてもあの感情のない目を出すことなく、いつものような雰囲気で高坂に返事をしている。ことりは至って冷静だ。そんなことりに驚きつつも、俺はことりの言葉に慌てて言葉を続ける。

 

 

「そ、そうだぞ高坂、俺はことりと付き合ってるんだから。俺はことりのものなの」

 

「ちぇっ、ことりちゃんと皆月くんのけちんぼ!」

 

「あ、あはは」

 

「ごめんね穂乃果ちゃん、でも一哉くんはことりのだからいくら穂乃果ちゃんでもあげませんっ!」

 

 

 高坂は俺の発言に頬を膨らませ、俺から手を離した。その瞬間を見計らっていたのか、ことりがすぐさま俺の手を取り、指を絡めてきた。高坂もそれを見てか、渋々といった感じで少し俺と距離をとった。園田はその様子を見てホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

「海未ちゃんにも、もちろんあげませんっ」

 

 

 しかし、そんな園田にも流れ弾が。園田はそれに慌てたように返事をする。

 

 

「へっ? ……わっ私にはいりませんそんな人っ!!」

 

「そ、そんな人って」

 

「海未ちゃんひどい! 一哉くんはことりの彼氏さんなんだよっ、そんな人なんかじゃないもんっ」

 

「えぇっ!? あ、いやそういうことではなくて!」

 

 

 慌てて答えたせいなのか、それとも本心なのか、俺のことをそんな人(・・・・)とまで呼んできたことに俺は少しだけ胸を痛めた。ことりが必死にフォローしてくれるが、園田が慌てるのを見て何とも言えない気持ちになってしまった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「はい、あーん」

 

「あーん……美味い!」

 

「えへへぇ、もっと食べて食べて~っ」

 

「おう、いただくよ」

 

 

 さっきまでの騒動を終え、俺たちは屋上でことり手作り弁当を味わっていた。さっきまでの騒がしさ、プレッシャーから一転、俺たち二人以外誰もいないこの静かで開放的な空間でことりと二人きり。ここ最近はいつもこうやって、学校でも二人きりの時間を楽しんでいる。

 

 

「それじゃあね……卵焼き! はい、あーん♡」

 

「あーん……」

 

「あむっ、もぐもぐ」

 

「えっ? こ、ことりぃ! 俺にくれるんじゃないのかよぉ!」

 

 

 ことりがあーんしてくれている卵焼き、それを口に入れようとしたとき、ことりは持っていた箸を俺の口にではなく、ことりの口に持っていき、そして食べた。ことりが作る卵焼きはすごく美味しいから楽しみにしていたのだが……でも仕方ない、何せことりが作ってくれた、二人分の弁当なのだから。ことりが食べてもまったく不思議ではない。

 卵焼きをもらえなかったことに少し無念を感じていると、ことりは口を動かすのをやめ、こちらに目をつぶりつつ顔を近づけてくる。

 

 

「ん……んはぁ、ん」

 

「んっ!? ん、んんぁ」

 

「はぁ、はぁ……えへへ、口移し、ですっ!」

 

「ゴクッ……ははっ、びっくりしたよ。でも、いつも以上に甘くて美味しかったよ」

 

「それならよかった、また次もしてあげるね!」

 

「楽しみにしてるよ、ことり」

 

「うんっ! じゃあ、次はこれ! はい、あーん♡」

 

「あーん――――――――」

 

 

 

 このあとも時間の許す限り、俺たちは二人きりの屋上で二人きりの時間を過ごした。最近、というよりことりの家に行って以来、ことりは俺が高坂や園田と話していても何も言わず、ただただ笑ってくれるようになったというのは気のせいだろうか。心に余裕でもできたのだろうか。

 何にせよ、こんな風に何事もなくことりと二人きりで一緒にいられるこの時間がずっと続けばいいのに。

 

 吹き抜ける爽やかな風を浴びながら、そんなことを思った。

 

 




 今回は割と病み要素は少なめでしたかね?
 でもことりちゃんはどんなことりちゃんでも可愛いので問題ないでしょう←
 穂乃果ちゃん推しの私ですが、ことりちゃんも悪くないと最近思えてきました(゚∀゚)

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